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28、悪魔は書斎に潜む

首都に帰り着いた俺はさっさとモメントの店に向かった。


モメントはいまかいまかと待っていたようだった。


「おお!!採ってきてくれたか!?」

モメントは俺が店に入るや否や、走り寄ってきてものすごい勢いで聞いてきた。

「はい、採ってきましたよ。」

俺がにこやかにそう言うと喜んで、急いで奥へと通してくれた。


「この鍋にそのまま入れたらいいんですね?」

「ああ、頼む。」

調合部屋に通された俺は、かまどにかけられていた鍋の中にアイテムからハーブを3本出して素早く入れた。

鍋の中はなにかの白い液体がグツグツ煮えたぎり、ハーブはその白い液体にサッと溶けていった。

「うむ、これでいい。このまま6日間煮込む。」

「む、6日間!?」

「そうしたら人間の形になると言われている。それから蒸留器に移して3ヶ月すると、意思を持つと言われている。」

「さ、3ヶ月!?」

「おめえうるさいぞ。10年待ったんだ。今さら6日も3ヶ月もたいした時間じゃねえさ。・・・ありがとよ。」

モメントは照れ臭そうにそう言ってくれた。

「これからもたまにこちらに来ていいですか?ホムンクルスがどうなるか、興味が沸いたんで。」

「ああ、いいぜ。おめえは恩人だ!いつでも来な!」



店を出て、冒険者ギルドに向かい、依頼を終わらせてきたと言うと、受付の美女職員が驚いていた。

「えっ!?今日で、ほ、本当に終わらせてきたんですか!?」

「はい、これ確認してください。」

カードと依頼書を渡してしばらくすると確認がとれたようで、感心したような目で見てきた。

「あの依頼を解決できる方が現れるなんて、正直諦めてたんですが・・・。すごいですね!」

「それはどっちの依頼のことです?」

「それは・・・まあ。」

もしかして両方かい?

まあ、どっちも違う意味で面倒な依頼だったからなあ。


俺は報酬を受け取ってギルドを後にした。




朝。



食堂でローズさんの熱烈歓迎を受け(クロ助が)、今日は焼き鮭に卵焼き、ご飯に味噌汁に漬け物、お茶という和食な朝食セットを食べていると、アシュアとレフィの2人が来た。

そしてまた相席ということになった。


「私たちは昨日、エント討伐に行ってたの。エント2体も倒しちゃったの~!」

「へぇ、すごいですね。エントは強いですから、よく倒せましたね。」

「へっへーん!ユウジンはなんかいい依頼あった?」

「ハーブ探しとおもちゃ奪還の依頼をやりました。」

「え?なにそれ?ハーブ探し?おもちゃ奪還?」

「まあ、ちょっとしたおつかいみたいなもんですよ。昨日1日で両方終わりましたし。」

細かい内容を話したら面倒なことになりそうな気がして、なんでもない感じにした。

「ふーん、そうなんだ。今日は?」

「今日は用事がありますから、その用事の終わり次第ですねえ。アシュアとレフィは今日も討伐ですか?」

「連日討伐でさすがに疲れちゃって、今日は街で買い物しようかってなって。」

「それはいいですねぇ。・・・あ、そうだ。お昼に行くならオススメの食堂がありますよ。」

俺は昼になると西側の飲食店が混むことを話して、前に昼食を食べて美味しかったあのボロい食堂の場所を教えた。

「見た目は結構ボロいですが、お客はそこまでいないみたいでゆったり座れると思います。ものすごく美味しかったんで、行ってみて下さい。」

「ありがとう!行ってみるね!」

アシュアはすでにワクワクした様子だった。


俺とアシュアが話してる間、チラチラとレフィがこちらを見てきたが、あえて気付かないフリをした。

やっぱり昨日の森で俺が覗いてたのバレてそうだな。

視線が痛いが、あいにく俺は笑顔を張りつけるのが得意だ。



食堂から出た俺とクロ助は一旦部屋に戻って昨日とってきた今日売る予定の子供の書類の名前を書き換え、アイテムにしまって宿屋を出た。


南側の広場の近くに警備兵の詰所がある。

一昨日の街の観光の時に前を通りかかったので知っていたのでそこに隠蔽魔法で近づくと、罠魔法でアイテムの中の過去の人身売買の記録1枚をリンクさせ、詰所の中にはった。

これは後のための小細工だ。



それから東側に移動して、道具屋でロープを買った。

これも後のための用意だ。

そして貴族の屋敷の方へ移動して、昨日のフェルミ家の屋敷にまた侵入した。

入り口の門や玄関も開いていて、玄関ホールにはメイドや使用人や用心棒などが集められているようだった。

どうしたんだろう?と思っていると、今日は当主もガキ大将もいて、ガキ大将が玄関ホールでブチギレていた。


「誰かが俺のおもちゃを盗んだんだ!犯人を見つけ出して連れてこい!」

クレイから聞いた灰色髪の青目の丸々太った子供が怒鳴り散らしていた。

あれがステイツ・フェルミか。

その横に同じような体型で40代くらいで灰色オールバックに髭のメタボな当主がいた。

当主は息子同様に不機嫌な顔をしていた。

「し、しかしぼっちゃま。昨日は終始わたくしたちメイドが廊下や部屋を行き来しておりました。侵入者などいたとは・・・。」

「じゃあ、なんで庶民から集めたおもちゃがないんだよ!泥棒がいなかったと言うなら、お前らが盗ったのか!?」

「そ、そんな!?わたくしたちは決して・・・!」

意見していたメイドは青い顔をして頭をふった。

「ふん!だったら犯人をさっさと見つけて連れてこい!これは誇り高きフェルミ家に対する冒涜だ!」

メイドや使用人たちは逃げるように散って、用心棒たちは慌てて街へ向かっていった。


「うむ、ステイツ。よい采配だ。さすが我がフェルミ家の嫡男だ。これでほどなくすればよい知らせが来るだろう。」

当主はそう言ってステイツの頭を撫でていた。

え、あれが采配?と俺が思っていると、来客があった。


「これはこれはギーヌ殿!よくぞおいで下さいました!」

当主は来客が来た途端に明るい表情になり、客を出迎えた。

ギーヌと呼ばれた客は50代くらいの白髪のスーツ姿の痩せ型の男性だった。

「こんにちは、グランツ殿。なにやらお邪魔でしたかな?」

「いえいえ!ちょっとトラブルがありましたが、じきに解決するようなことです。それよりギーヌ殿の方が大事でございます。ささ、書斎へ。」

あの当主はどうやらグランツ・フェルミというらしいな。

グランツは揉み手でギーヌを案内していった。


おそらく、あいつが今日の売る相手か。

俺は親子2人とギーヌの後に続いた。



「いや~、今日もわざわざ来て頂いてすいません。」

書斎のソファにギーヌと対面する形で座ると、グランツはそう言った。

グランツの横にはステイツが当たり前のように座っている。

どうやらいつも同席しているらしい。


これは面白い場面が見られるかもなあ。


「なに、フェルミ家に頼めば早いと、我が主も喜んでおいでです。」

ギーヌはにこやかにしてそう言って、運ばれてきた紅茶を飲んだ。

どうやらギーヌは部下か。

考えられることとしては、貴族の従者ってところか?


「前に売りました子供らはどうですかな?」

「いい感じなようですよ。我が主の実験台にみごとになってくれました。」

「サミュエレ家の魔法開発には頭が下がりますからな。いくらでも魔法の的は準備いたします。・・・その代わり。」

「わかっていますよ。今回は前回より倍の値段で買いましょう。」

「ありがとうございます!サミュエレ家のおかけで我がフェルミ家があると言っても過言ではありません。」

「ふふ、我が主に伝えておきましょう。」


なかなかクソな内容だ。

だが売る先の情報は聞けた。

どうやらフェルミ家より格上のサミュエレ家に魔法開発の実験台として子供を売っているようだ。


「書類をお持ちしますのでしばしお待ちを。」

当主はそう言ってデスクに向かい、1番下の引き出しをまさぐり出した。

「・・・ん?おや?おかしいなあ。」

グランツはガサガサとめくり、見当たらないので書類を全部出してめくり出した。

「あれ?ここの1番上に置いといたはずなんですが・・・。ん?これじゃないか・・・。」

「大丈夫ですか?」

「父上、僕も手伝います。」

「ああ、すまんなステイツ。ギーヌ殿、すいません。しばしお待ち下され。」

グランツはまた引き出しを覗き込み、ステイツは他の引き出しを見ていて、それらを気にして眺めるギーヌの目線がそっちに向かっている隙に、俺はアイテムから今日の売る子供の書類を出すとギーヌの近くにサッと置いた。



「・・・おや?これじゃないですか?ここにありますよ。」

ギーヌは見つけると書類を確認しながら当主を呼んだ。

「あ、ありましたかな?わたくしとしたことが、そこに置いた覚えはないのですが、はて?」

「まあ、見たかったのならいいではないですか。」

ギーヌはある一点で目が釘付けとなった。


「こ、これは・・・!?本当によろしいので?」

「わたくしの用意できる子供の中で最高のものを用意したのですが、お気に召しませんですかな?」

「いいえいいえ。・・・フェルミ家の我が主の仕える心構えを見せていただき、うれしい限りです。我が主も喜ばれるでしょう。」

グランツはなにも気付かずニコニコ笑ってソファに座りステイツもそれに続いて座り、ギーヌは感心して笑った。

そしてギーヌは胸ポケットから別の書類を出してきた。

「いつもの領収書です。いつものように、我が主のサインもありますのでお確かめ下さい。」

グランツがギーヌからの書類に目を通して、金額ににんまり笑みを浮かべたのを確認すると、ギーヌはすっくと立ち上がった。


「では、さっそく子供たちをいただいておいとまさせていただきます。さあ、ステイツ・フェルミ来なさい。」

ギーヌのその言葉に親子はキョトンとした。

「は?え?ギーヌ殿?なにを言っておられるので?」

「なにをおっしゃる。あなたが今くださった書類に、息子さんの名前をのせていたではありませんか。」

そう言ってギーヌは先ほど受け取った書類をグランツに見せた。

そこには今日売る子供の欄にしっかりと、ステイツ・フェルミの名前があった。

「いや、素晴らしい。かわいがっていた嫡男を我が主のために差し出すなんて。」

「ち、父上・・・!?どういうことですか!?」

ステイツは真っ青になってグランツの服を掴んで揺すぶった。

グランツも真っ青な表情だ。

「い、いやいや!なにかの間違い・・・。」

「間違いなのですか?そんな間違いをするほど、サミュエレ家は軽く見ておられるんですか?」

「そ、そんなことはありません!!サミュエレ家は最高の地位におられる人類の宝でございます!!」

「では、よいですね。」

ギーヌはそう言うとステイツの腕を強引に掴んだ。

「痛い痛い!!父上!助けて!」

ステイツは涙を流して暴れるが、ギーヌは痩せ型なのに力があるようでびくともしない。

「ああ!ステイツ!待って下さい!ギーヌ殿!」

「ではグランツ殿。また、よい子供が見つかれば知らせて下さい。」

ギーヌはそう言ってステイツを引きずりながら立ち去った。

ステイツの泣き叫ぶ声が響きわたっていた。


俺は警備兵の詰所に仕掛けていた罠魔法を発動した。


そして呆然としているグランツに雷魔法をかけた。



バチバチッ



「ぐああぁっ!?」

オークにかけたように、筋肉を収縮させるような内部に届くようなイメージで軽めにしたら、軽めにも関わらずしばらく動けなくなったようだ。

驚きと痛みもあったんだろうな。

俺はさっさとアイテムからロープを取り出してグランツが動けないように縛った。


「な、なんだ!?ロープがひとりでに!?」

俺は隠蔽魔法を解いてないからロープがひとりでに動いてるように見えているようだ。

縛り終えると、隠蔽魔法で姿を隠したまま、話しかけた。




「もう、あんたは終わりだよ、グランツ・フェルミ。」



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