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282、悪魔は学ぶ

ちょっと長いです。

モンフェーラ王国に召喚されて1週間が経った。



「・・・ふーっ」


俺は15分間だけ1人にさせてもらった自分の部屋の中でソファにもたれかかりつつ盛大にため息を吐いた。

「ミャー」

俺の隣で毛繕いをするクロ助はお疲れと労るように鳴いて慰めてくれる。

「ありがとうございますクロ助。でもなかなか、実際にやってみると面倒臭いものだと今更ながら実感しました。」

「ミャミャー」

俺の自業自得な愚痴にクロ助は応援してるよ、という感じで鳴いて返事をして来て、猫に励まされる日が来るとは思わなかったなと俺は苦笑しながらここ数日のことを思い返した。




俺がモンフェーラ王国に来て深夜にアニタの歓迎を受けたあの翌日、これからの予定を話し合うということで宰相バルドロの補佐ラミロがやって来た。

バルドロは用事があるということだったので補佐が来たようだが、本人が来ないところを考えると多少なりと俺への興味が薄れてきたのかもしれない。

まあ、レベル1の一般人と同じ能力値の勇者だと思ってるから期待してないが、一応勇者召喚で召喚されてきたからほっとくわけにもいかず一応補佐をつけたんだろう。

ラミロは20代と若く、恐らく補佐の中でも若手でオタオタしながらも俺と話していた。

俺の予想としてはこれから勇者担当がこのラミロになって、俺がなにか要望があった場合はラミロに相談してバルドロに報告が上がるようになるだろうな。

ま、ラミロは鑑定魔法上でも俺にとっては「無害」なようだから俺としてはどうでもよくて、ラミロに対して俺は自分の見た目を存分に活かした優しそうな男になりきって戸惑いつつ素直に従う演技をした。

だから、ラミロも俺のことは「無害」に見えて勝手に心を開いて信頼してくれるようになってくれるだろう。

そうなれば後々役に立つだろうからな。


色々と探りったりもしたいし。



ラミロによるとバルドロは俺にこの世界の知識と剣術と魔法を教えてくれる手配はちゃんとしてくれたようで、剣術は騎士団長が指導してくれることとなり、知識と魔法は魔術士団長が指導してくれることとなった。


魔術士というのは魔法と知識を掛け合わせた魔術を使う者たち(錬金術師や魔道具師など)の総称が魔術士だ。

俺は東大陸では魔術士なんて聞いたことがなかったが、どうやら昔は魔術士という総称は全世界で普通にあったようでどこの国にも騎士団があれば魔術士団もあったらしい。

そして昔の魔術士たちは皆それなりの知識が得られる環境で育てられることによりなることもあって王族や貴族がなるもので一種のステータスのようなものとされていたようだ。

だが時代が経つにつれて文化や魔法が発展して、騎士たちも魔法を多用するようになりわざわざ魔術士団と別れていることが不自然となってきたと同時に錬金術師などが庶民にもなれるようになったこともあって魔術士という総称の意味やステータス扱い自体が問われることとなり、誰も魔術士と名乗らなくなり色んな国で魔術士団は騎士団に吸収されていき魔術士という総称が今ではすっかり過去のものとなった。


なのに、この国には今だに魔術士団がある。

これがなにを意味するのか。

俺は面倒臭い予感しかなかったので無視した。


因みにこれら魔術士のことは後日魔術士団長に直接聞いたり「神様監修:世界の歩き方」に載っていたので読んだりしてわかったことだ。



こうして俺の予想通り、しばらく数ヶ月は素人として学ぶことに専念することになり、騎士団長と魔術士団長が部屋に来てくれて挨拶をした。


「騎士団長をしておりますイグナシオ・オロスコと申します。」

騎士団長イグナシオは40代後半くらいの男性で短い深緑の髪に緑目のガタイのいい体で全身鎧を着ていた。

オロスコ侯爵でもあり、真面目で堅実で剣の腕は素晴らしいようだ。


「私は魔術士団長をしておりますモイセンス・アバスカルと申します。」

魔術士団長モイセンスは60代後半ぐらいの初老男性で薄紫の白髪混じりの長髪に青目のひょろ長い体に長いローブを着込んでいる。

アバスカル公爵でもあり、物腰が優しく知識が豊富であるらしい。


午前中は週に5回はモイセンスを部屋に招いてこの世界についての勉強をして、午後からは週に3回はイグナシオと訓練所で剣術を習い週に2回はモイセンスと別の訓練所で魔法を習うことになった。

イグナシオは忙しいようだが、モイセンスは暇なのか?

ラミロにそれとなく聞けば副団長が優秀すぎてモイセンスはやることがなかったそうだ。

そんなんで団長やっていいのか?



俺は午前中は無知で理解力もそこそこのフリをしてこの世界について勉強をして過ごして、午後からの剣術は剣も握ったことのない素人として振る舞い魔法は魔力を感じるところからつまずいたりして過ごした。

それでもイグナシオは真面目に教えてくれるし、モイセンスは優しく接してくれているし、ラミロはなぜか2日に1回は部屋に来て励ましてくる。

イグナシオらの指導はいいと思うがずっと演技をしてずっと手加減をするというのは疲れるもので、1日3回の1人の時間だけは息抜きができるので最初に1人の時間を確保できるように交渉してよかったなと思った。

そして今もこうして15分だけ息抜きをしている、というわけだ。

そりゃあ猫にも励まされるよな、と思わず自虐をしてしまうな。



「・・・ん?」


ふと、ポケットの通信の魔石に反応があった。

相手はどう考えてもあのアホしかいない。

俺は隠蔽魔法で部屋から声が漏れないようにして、通信の魔石を取り出した。

「・・・どうしましたマスティフ。」

『おうユウジン!元気かー?』

「数日ぶりで元気かもなにもないでしょう。相変わらず勇者やってます。」

マスティフは数日に1回は通信の魔石を使ってきて、それは昼だったり夜だったりする。

俺は応答できない時は無視して、深夜や今のような1人の時なら応答している。

本来ならアホと会話なんてしている場合ではないが、なにかあったりする可能性はないとは言えないので一応出れる時だけ出るようにしている。

だが今のところマスティフからの通信は大体は『暇すぎて通信しただけ』だ。

通信の魔石をじいさんに渡したほうがよかったと後悔ばかりだ。


『こっちはやっと船がアルバニカ王国の港に着いたところだぜ。地面に足がついてるのになんかフワフワすんだよな。』

「長時間乗ってたから慣れて逆に陸に酔ったんですよ。船乗りがよくなる状態と聞いたことがあります。」

『へえ!ユウジンよく知ってんな!』

「ラノベで読んだことがありますから。それより、港に着いたということはこれからモンフェーラに向かってくるということですか?」

『あ、そうそう。それについて話そうと思って通信したんだよ。それが用事ができてさあ。』

用事?

『親父・・・あ、"黒の一族"当主から急ぎの手紙が届いて、これからじいさんと本邸に向かうことになってさ。手紙にはとにかく急いで来てくれとしか書いてなくて、ただの緊急事態じゃじいさんを急ぎで呼ぶはずないからよっぽどのことがあったんだってなってよ。じいさんは馬の手配に行ってるとこで、馬が調達できたらすぐに向かう予定なんだよ。』


ふうん、急ぎの手紙ねえ。

まあ、"黒の一族"内のことだからわからないし、正直興味はない。

俺は勇者をやってる現在十分にていっぱいだから、そんなの気にしてる場合じゃない。

バケモノのじいさんが向かうなら問題ないだろう。

アホのマスティフだけなら不安だらけだが。


『ん!?・・・ユウジン、今俺に失礼なこと考えてなかったか!?』

お前の勘はどうなってんだよ。

だが・・・じいさんとマスティフがすぐにモンフェーラに来れないというのはありがたい。

ぜひぜひその急ぎの用事がめちゃくちゃ時間がかかる面倒なものであることを願うばかりだ。


こうして15分の1人の時間はあっという間に過ぎて、ごちゃごちゃ言っているマスティフからの通信を強制的に切って魔石をアイテムに放り込むとちょうどいいタイミングで紅茶のおかわりを持ってきたアニタとヘルマンが部屋に入ってきた。


アニタは普段、完璧な侍女に徹していて朝はいつ起きても寝室の前で控えているし、疲れる絶妙なタイミングで紅茶を淹れてくれるし簡単な要望はすぐに応えてくれる。

あれから何回か深夜に俺の部屋に来ようとしていたが結界に阻まれて入れないとわかると諦めて侍女の仕事に専念している。

また部屋に侵入しようとしていたのは恐らく、俺が知らないはずのアニタの妹を脅迫のネタに使ったためだろう。

俺の真意を確かめたいのか妹に危険がないか確かめたいのか。

どっちにしてもこれからもアニタを寝室に入れるつもりはない。

こんな疲れる演技をしているんだから寝る時くらいゆっくりと休みたい。


ヘルマンは第一印象と鑑定魔法のウィキで見た通りに真面目な男で、実はまだほとんどしゃべっていない。

真面目に朝から晩まで部屋の隅や部屋の出入り口にいて、ヘルマンがいない時は代わりの騎士がいることもあるが15分もかからず戻ってくる。

まったくしゃべらずかといって俺たちの会話をまったく聞いていないわけでもなく立っているのだ。

かといってこちらからいくほど俺はヘルマンに興味があるわけでもなく、今のところヘルマンの好きにやらせているような状況だ。

勇者の護衛といってもまだ公にされていないことや王城内の部屋か訓練所にしかいないのだから危険があるとは思わないのだが、俺を見張っておく監視の役割もあって側にいるのだろう。

ヘルマンが監視の役割をやっていると自覚しているのかはわからないがな。



そして1週間経った今日も俺は勇者としてもたついた勉強をして、午後から剣を鈍く振るって夜は疲れた体を休めることとなった。


「・・・お休みなさいませ。」

「お休みなさいませ。」

アニタは俺になにか言いたげな顔をしながらも諦めて挨拶をしてきて、まったく気づかないヘルマンはいつものように一礼をした。

「お休みなさい。」

俺はいつもの笑顔を張り付けてクロ助を腕に抱いて寝室に入った。

そしていつものように罠魔法と雷魔法を張って結界魔法を発動させて、今夜はそれから隠蔽魔法で部屋から音が漏れないようにした。


俺がベッドに腰かけるとクロ助は腕からベッドに飛び降りて寝る前の毛繕いを始めた。


すると、俺の足元の影がズルリと動いて人型となった。

人型の表面にはいくつもの顔が浮き出ては消えてを繰り返して、その表情は嘲笑うような楽しむような顔ばかりだ。


情報(・・)は集まりましたか?レギオン」

俺の問いにレギオンの表面の顔のひとつがニヤリと笑った。



「ここの王が勇者召喚をした理由がわかったぞ、我らが主。」




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