274、悪魔は復讐を彩る2
前半主人公視点で後半は三人称視点です。
ちょっと長くなりました。
しばらくレオニダを見つめていたじいさん。
「・・・・・・はぁっ。」
じいさんは唐突に大きなため息を吐いた。
そして『黒焔』に触れていた手をそっと離した。
「本当に、ユウジンは意地が悪いのう。アムブロに復讐するためにレオニダを殺す訳がなかろうが。」
そうやれやれという感じで言って、俺をジロッと睨んできた。
「おや、では復讐はどうされるんです?やはりアムブロを殺しますか?」
「・・・それもせん。確かにずっと仇を討つために追っていて、最初見た時はそういうことも考えてはいた。じゃが、あの少年らがアムブロに懐いていて笑顔を見て・・・気が変わったのじゃ。」
ふむ、どうやらあの少年たちがアムブロに向ける笑顔を見て、アムブロがあの少年たちに優しく接していることを示していたと思えて復讐しようという気持ちが変わったんじゃないだろうか。
もし、あの少年たちが保護されてなかったらもしかしたら今頃じいさんは復讐でアムブロを殺していたかもしれないな。
それにアムブロに懐いておらず笑顔でもなかったらどうなっていたかもわからないな。
「おぬしは妻と長男の無念、と言ったがアムブロの話を聞くと2人が無念を抱いて死んだとは思えんようになった。妻は誰のことも悪く言うような性格ではなかったし、長男は自分で納得して犠牲になったようだしのう。そうなると、わしがアムブロに復讐することが無意味に思えてきての。復讐することに意味を見いだせんようになったら終わりじゃ。それでもここでわしがアムブロかレオニダを殺したら、それは単なる人殺しになるし完全なるわしの自己満足になってしまう。まあ、復讐なんてものは元々自己満足でしかないがの。」
そう言っていつものように微笑むじいさんは本当にそう思っているように見えた。
諦めたとは違う、吹っ切れたという感じで微笑む復讐者がそう納得しているなら完全部外者の俺がこれ以上とやかく言うことはないな。
俺はニコニコ笑いながら肩をすくめた。
「そうですか、実に残念です。」
「おいおい、残念て。」
マスティフは呆れたように俺を見てきたが無視した。
「じゃあもう鎖はいらないですね。」
鎖を解くとレオニダはまだ顔色は悪いが心底ホッとしたようで大きなため息を吐いた。
「なあユウジン。本当にレオニダはアムブロの行方不明になった息子なんのか?」
マスティフがそう言ってきたので俺は頷いた。
「鑑定魔法でそう書かれてますから。まあ、親子の対面にしてはだいぶインパクトのあった対面となってしまいましたが。」
「え、お前が言う?」
マスティフのツッコミはさておき。
「じいさんが復讐しないならじいさんはもう用はないですよね?とはいえこのままレオニダを帰すのもなんですし、この機会によかったら2人で話してみますか?」
「「え!?」」
俺の思わぬ提案にアムブロもレオニダも目を丸くした。
「・・・それをおぬしが言うのはどうかと思うが、確かにもうわしは用はなくなってしもうたからのう、レオニダ。こんな形になってしまったがせっかく会えた父親なら話してはどうじゃ?わしらがおれば余計に微妙な空気になってしまうじゃろうから2人っきりで話してみてもええと思うぞ?」
なぜじいさんまでも俺にツッコミを。
「え、で、でもよ・・・。」
「・・・。」
アムブロもレオニダもお互いに戸惑っていたがマスティフがレオニダをグイグイ押してアムブロに近づけて、アムブロはとても遠慮げに家の中に促した。
レオニダは戸惑いながら俺たちを見てきたがちょっと行ってくる、と言いたげに小さく頷いてからアムブロに続いて家の中に入っていった。
「・・・殺さないのは意外でした。」
俺はしんと静かになったのでなんとなくじいさんに話しかけた。
「じいさんの鑑定魔法でどれだけ探していたのかはチラッと見ましたが、30年追っていてやっと見つけた相手なんですよ?会う前までは殺してしまうかもとか言っていたのに。」
「そうじゃのう。・・・わしも己に驚いておる。」
じいさんはばつが悪そうに苦笑した。
「追っていた時はずっと憎くて、見つけたらすぐに殺そうと本当に思っておった。じゃが、本人を目の前にはしたらひどく冷静な自分がいたんじゃ。妻と長男の最後を尋ねて話しているのをじっと聞くほどのな。」
俺の考えとしては、きっとアムブロの出で立ちを見て冷静になれたんじゃないだろうかと思う。
アムブロは伸びた白髪に痩せた姿で、服装も山奥に住んでいるから質素なものを着ていて俺の世界で言う仙人か浮浪者に近い姿だった。
落ちぶれたともとれるその姿を見て、じいさんの気持ちがすっと落ち着いたんじゃないだろうか。
そして妻と長男の最後を聞いたことでもっと気持ちが落ち着いて、殺さないという選択を取れたのだろう。
「でしたら俺がレオニダを呼んだのは余計なお世話でしたね。」
「そうじゃ。余計なことをしたユウジンには説教じゃ。」
「は!?なぜ!?」
「わしをそそのかそうとしおっておいて、なぜ!?はないじゃろう。」
そして家から2人が出てくるまで俺は本当に説教されてしまった。
とはいえ俺としてはまったく後悔もしていないのでじいさんに「易々と殺せとそそのかすな」とかアレコレ言われたのをスルーした。
そうは言っても説教されてまったく反省してないとバレたらじいさんが怒りだして『黒焔』を持ち出してボコボコにされかねないかも、と本能で察知したので表面上は反省した演技はした。
ただでさえじいさんに模擬戦挑まれることもあるのに、これ以上じいさんの相手は疲れるからな。
アムブロとレオニダはある程度話せたようで2人ともどことなくスッキリしたような顔で、後に手紙でやり取りすることになったと聞かされた。
一緒に住まないのか?と思ったが、まあレオニダはエキスのマフィアでNo.2の側近だからそう易々とエキスから離れることはできないだろうし、アムブロはこの地で少年たちを育てていて一応生活が成り立っているようだからレオニダのいるエキスに今すぐ行くというのはできないだろう。
そうしていると少年2人が帰ってきたので俺たちは去ることにした。
レオニダを移動魔法でマフィアの屋敷に送って俺たちは首都レクシフォン近くの別荘へと移動した。
「よお、レオニダ。行ってきたか。」
和虎はレオニダが部屋に入ってくるとニヤリと笑って話しかけた。
「はい、行ってきやした。・・・父親と少し話をしやした。」
「そうかそうか。親父さんはどうだった?」
「うう~ん・・・、まだ、いまいち父親ってものがわからないのでさすがにすぐ打ち解けれる訳ではないので、当たり障りのないことをちょこちょこ話したくらいでさ。」
「まあ、そうだな。お前は孤児院育ちだから親という感覚がわからんだろうからな。そこはちょっとずつでも交流してったらわかってくるだろ。」
「そんなもんですかね。」
「・・・まあ、今回は優人に感謝しなけりゃな。優人のおかげで父親に会えたんだからよ。」
「なんかよくわかんねえすけど、確かにそうですね。俺としては最初からあの場にいて父親の話を聞けたんで、ありがたいとは思ってます。」
実は優人は途中からレオニダを移動魔法で呼び寄せた訳ではなかった。
優人たちがアムブロの家の近くに移動魔法で来た時からレオニダは側にいたのだ。
レオニダは朝、密かに優人らの宿屋を訪ねて優人のみに会い、隠蔽魔法で存在を隠蔽された状態でずっと着いてきていたのだ。
そして優人はタイミングを見て移動魔法を使ったように見せかけて隠蔽魔法を解いてレオニダ途中から呼ばれたように見せ、レオニダはさも突然呼ばれたように演技をしたのだ。
これらは前日に屋敷に来た優人によってもちかけられたもので、レオニダは前日の時点でアムブロが父親であることとその父親に会ってみないかともちかけられていた。
レオニダは突然もちかけられた内容にとても驚いたが、父親というものと自分が孤児院に来た経緯について興味を抱いたので優人の話に乗った。
そうしたら隠蔽魔法で存在を隠蔽することや途中から移動魔法で呼んだっぽく姿を現させるから突然来たような演技をするように言われ、レオニダはよくわからなかったがそれに従った。
「父親の過去を聞いて、俺が孤児院に来た経緯がわかったのはよかったです。でもなんでユウジンは最初から俺にわざわざ隠蔽魔法をかけてまで連れて行ったんでしょう?しかもマリルクロウ様やマスティフにまで言わずに。」
「それについては聞いてないのか?」
「「まあ、なんとなく」と言ってやした。マリルクロウ様とマスティフに言わずについては「説明するのが面倒臭い」と言ってやした。」
マリルクロウやマスティフに最初からレオニダがいることを話すとなぜレオニダが同行してくるのかという話になって行方不明の息子であるところから説明しなければならなくなるので「説明するのが面倒臭い」と思って黙ってたんだろう。
和虎はなんとなくそう思った。
レオニダを最初から隠蔽魔法までかけて連れて行ったのは「まあ、なんとなく」でさすがの和虎でも察せないのでわからないが。
「それにしても・・・、その後のマリルクロウ様に俺を殺させるようそそのかした時はめちゃくちゃビビりやした。もう生きた心地がしませんぜした。」
その時の恐怖を思い出したのかちょっと身震いしながらレオニダが言うと、和虎はくくくと笑った。
「優人が殺せとそそのかすことでお前がマリルクロウ様に殺される確率はガクンと減ったんだぞ。」
「そうなんすか!?」
和虎は未来でレオニダがマリルクロウに殺される確率があることを話していた。
それもあってレオニダは鎖で身動きがとれないようにされた時にマリルクロウに本当に殺されるかもと震えていたのだ。
「で、でもなんでユウジンがそそのかしたことで確率が減ったんすか?」
「マリルクロウ様に殺せと言った相手があの絶望をなにより好む悪魔だぞ。絶対になにか企んでると思えるだろう。そうなるとレオニダを殺すという選択肢に抵抗感が出て、殺さないという選択を選ぶ。だから確率が減ったんだ。」
「な、なるほど・・・。」
和虎はさらに、もしかして優人は殺さないと選択することを狙ってあえて殺せとそそのかしたのではないか?とチラッと思ったがまさかと考え直した。
「・・・今考えて恐ろしいのは、今回マリルクロウ様が殺さないと選択してくれたが、それ以外は優人が好む選択肢ばかりだったということだ。」
「どういうことです?」
「もし、お前を殺す選択をして殺した場合、父親のアムブロが絶望して俺たちマフィアも悲しむ。アムブロを殺す選択をして殺した場合、お前はそこまで悲しまないかもしれないが少年たちが絶望するだろう。そしてアムブロもお前も殺す選択をして殺した場合、少年たちは絶望してマフィアも悲しむ。」
レオニダはさっと顔色を悪くした。
「そうですか、実に残念です。」と優人が言った言葉がレオニダの脳裏によみがえった。
そういう意味で言ったのかどうかわからないが、本当にあの男は恐ろしいとレオニダは思った。
「・・・まあ、もうあの悪魔とはこれからしばらくは関わることはないだろうから、気を楽にしていこうぜ。」
「・・・え、しばらくって、また関わることがあるってことですか?」
「・・・・・・今は数%だがな。」
和虎は苦笑した。
 




