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272、悪魔は復讐を見守る3

三人称視点です。

区切りのいいところまでと書いてたら長くなってしまいました。

サカリアスは逃げ惑ったり睨んでくる信者たちを一瞥すると剣を足元に差して、ポケットからなにかを取り出した。


アムブロは赤子の父親ということで儀式中は祭壇の近くにいたので、サカリアスが取り出したものが見えた。

それは手のひらくらいの大きさの魔石で、色は透明だった。

サカリアスがその魔石を赤子の胸元に押し付けると、赤子はフッと消えた。

と同時に魔石がパキンと割れた。


「な!?息子は!?」

「移動魔法の魔石で適当な町に送った。」

「は!?」

「これからお前らを殺すのに、赤ん坊には刺激が強すぎるからな。」

サカリアスは差していた剣を取って構え、鋭く信者たちやアムブロや上司を睨み付けた。

「母さんの仇を討たせてもらうぞ。」


「こ、殺せ!殺せ!悪魔様の儀式を邪魔をしたこいつを早く殺せ!」

上司は慌てて信者やアムブロに言ってきて、サカリアスを睨んでいた信者は手に隠し持っていた武器を持ちアムブロも内心うろたえながら腰にさしていた剣を構えた。

正直、目の前のサカリアスより息子がどこに行ってしまったのか、その方が気がかりだった。

だが、そんなことを気にしている場合じゃない目の前の状況に一旦気持ちを圧し殺してサカリアスに向かっていった。


ガキンッガキンッとアムブロの攻撃は防がれ、武器を持って切りかかった信者たちは次々とサカリアスに殺されていく。

「ぐあぁぁっ!?」「いやああぁっ!?」

魔法もいくつもサカリアスに向かっていくが、サカリアスは避けて剣を振りかざしてきた信者を切り伏せ、空いた片手で魔法をうつ。

「きゃああぁぁっ!?」

アムブロの妻も隠し持っていたナイフを持って突っ込んでいったが切られて倒れた。

さすが"黒の一族"サカリアスとアムブロが思わず褒めたくなるほどの剣撃で信者を次々と凪ぎ払い、あまりの強さに怖じ気づいて逃げ出す信者も出てきた。


「はっ・・・はっ・・・」

しばらく数十人の信者を相手にしていたサカリアスもさすがに息が切れてきた。

足元には数多くの信者の骸が転がっていて、まともに立っているのはサカリアスとアムブロと、遠巻きに殺せ!と叫び続けていた上司くらいであった。

アムブロは体の数ヶ所は切られていたがまだまだ戦える状態で、サカリアスも体中傷だらけだったがいずれも傷は深くはないので戦える状態だった。


「・・・息子はどこにやった?」

アムブロが剣を構えながらそう問うた。

「・・・さあ。答える義理はない。ただ・・・」

サカリアスはニヤリと笑った。

「母さんが拐われた時の俺たちの気持ちをちょっとは思い知ったか?」


・・・ああ。思い知った。

アムブロは言葉に出さなかったが、心で重く答えた。




「ヒヒヒヒヒ・・・!」


カチッ


そんな不穏な声となにかの音が聞こえ、見ると祭壇の側の赤黒い悪魔の像に触れる司祭の姿があった。

司祭は片腕を切られてからずっと身を潜めていたようだ。


ヴゥゥゥゥゥゥ・・・ン


赤黒い悪魔の像の目がカッと光だし、アムブロとサカリアスを赤黒い結界が包んだ。

「な!?」

「なんだ!?」

アムブロは結界に切りつけるが結界は割れる気配もなく、サカリアスが風魔法で攻撃するも弾かれた。


「ヒヒヒヒヒ!やった!これでお前も終わりだ!・・・ヒヒヒ・・・ヒヒ・・・」

司祭はごふっと血を吐くとばたりと倒れ、歪んだ笑顔のまま死んだ。

「よくやった司祭!これで忌々しい"黒の一族"の1人を葬れるぞ!」

結界の外で上司ははははと笑った。

どういうことだ?とアムブロは困惑して上司を見た。


「これは・・・あの像、魔道具だったか。」

「なんだと?」

サカリアスは忌々しげに悪魔の像を睨みながらそう呟いて、それを聞いたアムブロは驚いた。

魔道具だったとは知らず、ただの偶像だと思っていたからだ。

「俺は鑑定魔法持ちだ。あの像を鑑定したが、アレはその名の通り『悪魔の像』で、起動させたら結界が出現して結界内にいる者のうち1人の心臓を捧げるか結界内にいる者が全員死なないと結界が解けないようになっていて、結界は物理攻撃も魔法攻撃も効かない構造のようだ。」

「な、なんだと!?」

「さらに、結界内には少しずつ正気を失わせる煙が撒かれるようになっているらしい。・・・赤黒いから趣味は悪いとは思ったが、こんなにも趣味が悪いとはな。」


ということはアムブロとサカリアスのどちらかが心臓を捧げるかもしくは2人とも死なないと結界は解けず、正気を失う煙のせいで長くいて対策を考える余裕もないということだ。


「ははは!そういうことだ。アムブロ、なにをしている?さっさとサカリアスを殺せばいいじゃないか。そうすればお前は助かるんだぞ?」

上司はニヤニヤしながらそう言ってくる。

「ま、待って下さい。息子の居場所を聞き出さないといけないし、第一なぜ俺も結界内に入れられてるんですか!?サカリアスだけ入れたらよかったのでは?」

「あ?息子?あの赤子などどうでもいいじゃないか。赤子がほしいならまた女をあてがってやるから生ませたらいい。お前が一緒に入ったのはまあ、サカリアスの近くにいたからついでに入ってしまったのだろう。」

「・・・・・・は?」

あっけらかんとのたまう上司にアムブロは呆気にとられた。

「近くにいたお前が悪い。まあ、私としては"黒の一族"の1人を始末できるならお前など巻き込まれたところでどうでもいいがな。」


上司のその言葉に目の前が真っ赤になるほど怒りがわいてきた。

「ふざけたこと言わないでください!俺がどれだけあなたの下で働いてきたか・・・。」

「だからなんだ?お前はたまたま死なずに私の下にいたに過ぎないのに期待されてはたまらんな。ここでお前が死んでも誰かが新しく部下にしたらいいだけのことだ。」

「どんな思いで息子を差し出したと・・・!」

「なぜいちいちお前の心情を察っせなければならない?嫌なら断ればよかったのだ。まあ、断れる度胸がお前にあるようには思えんがな。」

くくく、とそう言ってく上司は笑った。


確かに、差し出せと言われた時に断ればよかったかもしれない。

だが、俺はあまりに悪魔教に囚われていたせいで断れなかったのだ。

断れば悪魔様の恩恵が賜れず、他の悪魔教信者からどんな目で見られるか、最悪悪魔様の意思に背いた反逆者と思われるかもと思うとたまらなかった。

だから断らなかったのだ。断れなかったのだ。


「じゃあ、しばらくしたら見に来てやろう。私は儀式をやり直す場所を探さないといけないからね。」

上司はそう言うとこちらに背を向けて地下洞窟の出入り口に向けて歩き出した。

「ま、待ってください!・・・ま、待てよ!・・・ヴェリゴ!」

上司はこちらを振り返ることもなくさっさと見えなくなってしまった。

残されたのは結界内に2人だけで、地下洞窟内には他に生きている人間はいなかった。



「くくく、仲間割れか。」

サカリアスは呆れたように笑って話しかけてきた。

「惨めだな。あんなに父さんを何度も殺そうと来て、返り討ちにあっても生きて逃げられるくらいにはあんたは強いのに、それをあの偉そうな奴は気づいてない。それどころかどうでもいいだなんて、支える上司を間違えたな。」

アムブロは悔しくて惨めでぐっと唇を噛んだ。


サカリアスはそんなアムブロしばらくじっと見て、次に結界の外にある像を見てふむと考え込んだ。


「・・・・・・なあ、アムブロ。」

アムブロがちらりと目だけサカリアスに向けた。


「・・・俺はずっとずっと、母さんの仇のあんたを探していた。そしてこの儀式の情報を手に入れて、そこにあんたがいると知って乗り込んできた。ハッキリいって憎くて憎くてたまらないよ。正直、さっきからあんたを頭ん中で何回も切り刻んでることで落ち着かせてる。あんたを殺すことで母さんが生き返るわけじゃないし、復讐なんて所詮は俺の自己満足なのは十分わかってるけど、それでもあんたを殺したくてたまらない。」

「・・・。」

「煙のせいか、そうじゃなくてもいい。だからさ、殺されてくれないか?」

サカリアスはニヤリと笑うと剣を構えて攻撃してきた。


「!?」

アムブロは驚くがギリギリで避ける。

だが剣撃は続いてきてサカリアスは鋭い攻撃をいくつも放ってくる。

サカリアスは笑いながら確実に急所を狙い殺そうとしてきていて、アムブロは慌てて避けながら隙をついて攻撃する。

ザシュッザシュッとサカリアスは傷を受けるが笑ったままだ。


しばらく続けていてアムブロはおかしいと思った。

サカリアスの発言や不自然な笑顔、それにこちらを攻撃してくるのに逆に自身の防御は全くしていない。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

サカリアスの傷だらけだった体がさらに傷つき、いくつもの血が滴り落ちる。

剣を持つ利き手の右腕だけはほとんど傷ついてないが、左腕はだらんと垂れて腹部から血がドクドクと出て服を赤で濡らしている。

それでもサカリアスは笑ってアムブロを見ているのだ。


「・・・なぜ、笑っている?」

「・・・はぁ・・・母さんだったら「笑顔になったら見た人の心が暖かくなって人に優しくなれる」と言うだろうが、俺のは違う。あんたを嘲笑ってるんだ。」

「は?」

「なんでもない。」


サカリアスはなおも攻撃してきて、アムブロは避けて足を狙う。

ザシュッザシュッと音をたててサカリアスの両足の自由を奪う。

それから右手を切りつけて剣を落とさせて蹴って離れたところに飛ばした。

それらはサカリアスが全く抵抗も避けもしないのであっさりできてしまった。


「ぐぅぅっ、はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

サカリアスは苦痛の表情で仰向けにばたりと倒れた。

呼吸は乱れて顔色も悪い。

サカリアスは首だけを動かしてアムブロを見てきた。

「はぁ・・・、アムブロどうした?早く殺して心臓を捧げないとここから出られないぞ。」

サカリアスはニヤリと笑った。

「お前・・・もしかして、最初から・・・。」

こうなるつもりだったのか?と続きは言わなかったが、伝わったのかサカリアスはくくくと笑った。

「・・・しょうがないだろ。憎くて憎くてたまらなくて殺したかった奴は子供を愛する父親になっていたんだから。・・・そんな奴、殺せないじゃないか。」

悲しいような呆れたような顔でサカリアスはくしゃりと笑った。


「あの子供を抱き上げて信者たちを見た時に、皆が睨み付けてきたのにあんただけはちょっとほっとしたような顔をしてた。それに俺が言った言葉に顔を歪ませたのを見てわかったよ。あんたはあの子を愛してるんだって。はぁ・・・。殺すつもりで来たのにとんだことになった。」

「サカリアス・・・。」

「俺には優秀な弟が2人もいるから俺が死んだところで残された父さんを支えてくれるだろう。それに俺は結婚もしてなけりゃ恋人もいないからそういった意味でも身軽だ。だからここで犠牲になってもかまわない。だが、あんたはどうだ?あの子にはあんたしかいない。ここであんたが死んだらあの子は1人になる。それは可哀想だ。はぁ・・・、俺が心臓を捧げるのはあんたのためじゃない、これ以上親のいない子供を増やしたくない俺のエゴのためだ。」


サカリアスは覚悟をしたように満足げな顔をしていた。

アムブロはなんて奴と敵対していたんだろうと、この時初めて己が敵対している者をちゃんと見た気がした。

アムブロは今まで教育されるがままなにも思わず悪魔教のために生きてきたのだ。

上司ヴェリゴに言われるまま動いて殺して・・・。


悪魔教が意味のないものとしていた笑顔や優しい心。

アムブロは息子を見ていたら顔が緩み、自然と愛するということがなんなのかわかった。


『あら、この世に意味のないものなんてないのよ?』


アムブロの頭にいつかの声がよみがえった。

・・・本当にな。今ならわかる。

そして悪魔教がくそったれなのもな。




「・・・だけど、俺としては復讐もしたかったから、ちょっとした嫌がらせをしてやった。はぁ・・・、あの魔石で移動した場所は俺が今まで行ったことのある町を頭に浮かべながら使ったけど、いくつもの町を一気に思い浮かべたから本当にどこの町に移動したかはわからない。」

「・・・な、なんだと!?」

こいつの行動範囲なんて知るわけない。

もしかしたら近くの町に移動したかもしれないし、別大陸に移動した可能性もあるとあるということだ。

アムブロはそれを思うと途方もないことに思えて一瞬気が遠くなりそうだったが、それでも息子は生きているのだから探せばいいと奮起した。


「はぁ・・・はぁ・・・。もういいだろ、このまま出血多量でゆっくり死ぬつもりはない。さっさとかっさばいて心臓を捧げてくれ。はぁ・・・。」

「だ、だが・・・。」

「体中痛くてたまんないんだ。はぁ・・・、それを助けると思ってさっさと殺してくれ。」

サカリアスは顔色の悪い顔を無理矢理笑顔にしてアムブロを見てきた。


アムブロは剣を握り直してサカリアスに近づいてすぐ側に膝立ちになって剣を構えた。


アムブロはいつもはなにも思わず剣を振るっていたので、こういう時になんて顔をしてなんて声をかけたらいいかわからなかった。


サカリアスはアムブロの顔を見てくくっと笑った。



「ひでえ顔してるぞ。あの子を見つけてやれよ。」

「・・・・・・ああ。」



アムブロは苦しいような歪んだ顔をして剣を振るった。







アムブロが叫んでわかったと思いますが、上司は在りし日のヴェリゴでした。

彼は人事担当ということもあって暗殺者のアムブロと関わることも多かったという感じです。


次回は主人公視点に戻ります。

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