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270、悪魔は復讐を見守る

行方不明の息子のことが書ききれず、次回になりました。


前半主人公視点で途中から三人称視点になります。

翌日、俺たちは朝食をすませると宿屋を引き払った。


じいさんがアムブロと会って復讐を果たせば俺の移動魔法で別荘に帰ったらいいのでここエキスにもう来る予定はないからだ。

そして俺の移動魔法で早速アムブロの家の近くの山道に来た。

じいさんは周りをキョロキョロ見て前方に滝と家を見つけて緊張感をあらわにした。

その顔はなにを考えているのかわからないほどの無表情で、ちょっと威圧が漏れてきていた。

じいさんと行動を共にしてある程度の威圧なら耐えられるようになっていた俺たちは威圧を抑えるように言うのも控えて静かにじいさんを見守ることにした。

声をかけるのもはばかれるほどじいさんは真剣な表情だったからだ。


じいさんがゆっくりと家の方に歩いていくのを俺とマスティフは黙って後ろからついていった。

俺もマスティフもじいさんがどうするのか見守るつもりだったし、俺は鑑定魔法でアムブロのウィキを見てからアムブロの過去にも興味が湧いて話を聞いてみたいという気持ちになったからだ。


家に近づくと、アムブロは家の前の開けたところで薪を割っていた。

カーン、カーンと小気味良く薪を割っていく姿は少しやつれて痩せているように見えるものの力強くて恐ろしいほど隙がなかった。


そんなアムブロがふと、顔をあげてこちらを見た。


じいさんを見て少し訝しげな顔をしたが、すぐに目を見開いて固まった。

対してじいさんは後ろ姿でしか判断できないがさすがに笑顔を見せる余裕はないだろうが落ち着いているような雰囲気に思えた。


「・・・探したぞ、アムブロ。」


じいさんとアムブロはしばらく見つめ合い、じいさんの方が先に声をかけた。

「・・・まさか・・・マリルクロウ・・・?」

アムブロは信じられないようにそう呟いた。

「やっとみつけたぞ。お互い年老いたが雰囲気は変わっとらんな。」

「・・・あんたもな。よくここがわかったな。」

「色々あってのう。・・・ずっと探しておった。」

「そうか・・・。」

アムブロは持っていた斧を足元に置くとため息を吐いた。


「・・・探していたというのはどうしてだ?やはり復讐のためか?」

「それは・・・・・・」




「おーい!じいちゃん!!」


そんな声が家の裏手の方から聞こえてきて、2人の少年がひょっこり顔を出した。

「木の実いっぱい成ってたから採ってきたよ!・・・っあ!」

少年2人は顔が似ていて恐らく兄弟だと思われ、茶髪の兄が12歳くらいで焦げ茶髪の弟が7歳くらいだった。

2人とも両手いっぱいのかごを持っていて木の実が入っているのが見え、アムブロに声をかけてきたのは弟の方だった。

少年たちは俺たちの姿を見ると驚いて、だがすぐに兄の方がハッとして慌てて「こんにちわ!」と言って弟の頭を抑えて礼をしてきた。

アムブロは少年たちが現れてぎょっとした顔をしたが少年たちに悟られないようにすぐに愛想笑いを浮かべた。


「そうか、2人ともご苦労だったな、レント、ラック。疲れたところですまんがお使いを頼んでいいか?米を買ってきてくれ。」

「え?米ならまだちょっとあるよ。」

アムブロの言葉にキョトンとした弟ラックとは違って兄レントは慌ててラックの口を塞いで「わかった!」と頷いた。

「買ってくるね。さあ、ラック、村に行こう。」

レントは愛想笑いを浮かべて首を傾げるラックと家の中にかごを置きに一旦戻るとすぐにお金が入っていると思われる袋を持って出てきた。

そしてラックの手を繋いで俺たちの横を通り過ぎて村への道を下っていった。


チラッとじいさんが俺を見る気配がしたが俺は気づかないフリをした。

サーチで家を探した時にアムブロ以外の存在に気づいていたし、アムブロのウィキでチラッと彼らのことが書かれていたから知っていたがあえてマスティフとじいさんには教えなかった。

俺がサーチで家を探してアムブロに鑑定魔法をかけたのを知っているじいさんは俺が気づいてないわけないことに気づいて、おぬし知ってて黙ってたな?という視線を飛ばして来たのだろう。

だが俺はイタズラが成功したような心境で思わずにやけそうになったのを見られたら説教されそうだと思って気づかないフリをしたのだ。

まあ、後で説教か小言は言われそうな気がするが。

因みにマスティフは普通に「子供がいたのか!?」と驚いて呟くだけだった。


「・・・アレはおぬしの子供か孫か?」

じいさんは気を取り直してそう切り出した。

レントもラックも顔立ちが柔らかく、鋭い感じのアムブロとは明らかに似ていなかったがじいさんはとぼけてあえて血縁者かと聞いたのだ。

「いや・・・、2人とは血の繋がりはない。4年前に拾った孤児だ。」

「孤児か。この下の村の者ではないのか?」

「どうやらヴェネリーグから家族で越して来たようだが、国境近くの町の近くで盗賊に襲われて両親は2人を逃がして殺されたようだ。2人は数日間山や森をさ迷ってたまたまこの近くで行き倒れていて、それを見つけて保護した。ヴェネリーグに住んでいた時はとても貧乏だったようで心機一転のつもりでイルヴァルナスに越して来たようで、特にあてもなかったということで身寄りもないと聞いたから世話をしているだけだ。」

村はよそ者に厳しそうだったから引き取ってくれそうになく、かといって放り出すには幼いしで、アムブロは気の毒に思ったのだろう。

もしかしたら子供という点で、行方不明の自分の子供がちらついたかもしれないな。

だが、行方不明の子供は今年30歳のはずだからちらつくことはないか?

親心はよくわからん。


「・・・あの子らのことはいい。ここに来た用件を聞こう。」

アムブロは目を細めて鋭い視線をじいさんに向けた。

「わしの用件は・・・妻と息子の最後を聞きたい。そして仇を討たせてもらいたいということじゃ。」

「お前の妻と息子の最後か。・・・今さら知ってどうする?」

「・・・どうもせん。知ったところでわしの冥福を祈る気持ちは変わらんじゃろうし、ただの自己満足じゃ。」

それを聞いてアムブロははあっと息を吐いた。


「仇を討つというなら受けて立とう。・・・もとより、マリルクロウが俺を見つけたら全てを話すつもりだったからな。」




そうしてアムブロは語りだした。





*********




アムブロは悪魔教信者の父と母から生まれ、小さな頃から悪魔教に仕える暗殺者として育てられた。

元々才能があったようでメキメキ実力を発揮して、16歳の成人する時には毎日のように暗殺をして他の暗殺者からはエースと呼ばれて上司に信頼されるまでになっていた。

元々悪魔教の教えで育ってきたこともあって人を殺すことになにも思わず、殺す相手はいつも自分より弱かったこともあってむしろやる気になるのが難しいくらいだった。

それでも悪魔教の上司の指示で暗殺はしなければならず、面倒臭いと思いながら血まみれの肉塊を作って作って数年が経った頃。

アムブロが初めて殺せなかった者が現れた。


それが暗殺対象の護衛をしていたマリルクロウだった。


アムブロは自分より強いマリルクロウに戸惑い、初めて暗殺対象を逃がしてしまった。

そして逃がした暗殺対象をきっかけにマリルクロウは悪魔教の存在を知って邪魔してくるようになった。

上司はアムブロや他の暗殺者にマリルクロウを殺せと命じてきたが、マリルクロウは誰にも殺せなかった。

アムブロも何度も暗殺をしかけたが毎回返り討ちに合い、逆にいつも命からがら逃げていた。

他の暗殺者たちは次々とマリルクロウに返り討ちで殺されて、悪魔教の拠点もいくつも襲撃されて悪魔教は徐々に弱っていった。

信頼されていた上司はマリルクロウに苛立って、いつまで経ってもマリルクロウを殺せないアムブロに罵声を浴びせてばかりになった。

悔しい、情けない、不甲斐ない。

こうなったのもマリルクロウのせいだ。

アムブロはマリルクロウを憎いと思った。


そんな時、上司がマリルクロウの妻の居場所がわかったと言ってきて、拐えとアムブロに指示してきた。

アムブロはすぐさま妻の元に向かって拐い、昔拠点にしていた廃墟の地下に幽閉した。

石壁はジメジメしたカビが生えていて暗く松明の明かりがなければなにも見えないような檻に閉じ込め手枷をされたというのに、妻は気にする様子もなく檻の隅にあった朽ちかけたイスに座って微笑んでいた。

常に背筋もピンと立たせて意思の強そうな目でこちらを見てくるので、アムブロだけではなくアムブロに与えられた部下たちも戸惑うほどだった。


「あら、私は殺さないのね。」

そんなことを平然と言ってくる者などいなかったのでアムブロは内心戸惑いつつ、口を開いた。

「マリルクロウがここに来たら一緒に殺してやる。」

「旦那様が来るまで殺さないでくれるのね。あなた、優しいのね。」

「は?」

「でも旦那様は強いから殺せないわ。あ、でもここに来れたらの話だけどね。旦那様はああ見えて方向音痴だから心配だわ。」


この女、肝が座りすぎ。

そう思ってアムブロはちょっと引いた。


数人の部下に見張りと食事の世話を命じて数日後に妻の元に行くと、妻は相変わらず微笑んでいた。


「マリルクロウは来てないな。お前を見捨てたんだろう。」

「そんなわけないわ。旦那様は他の依頼者を助けていてちょっと遅れているだけよ。それに待つのも楽しいものよ。」

「待つのが楽しい?」

「ええ、この石壁をドカーンと突き破って登場するのか、地面を掘って登場するか、そう考えたらドキドキしない?きっとどんな登場でもとてもかっこいいわ。」

妻はそう言ってぽっと顔を赤らめた。


意味がわからない。

アムブロは引いて檻の前から去った。


それから数日後、また妻の様子を見に行くとやっぱり微笑んでいた。

「・・・なんでそんなに微笑んでいる?」

「笑顔って心が暖かくならない?私が笑ってたら私を見た人たちの心が暖かくならないかなって思って、いつも笑顔でいることにしているの。」

「意味がない。心が暖かくなったところでなにもないだろう。」

「あら、意味はあるわ。心の暖かさは優しさを生むの。そしてそれは考え方に出て行動に出るの。人に優しくなれるって、素敵なことなのよ。」

「人に優しく・・・?」

人に優しくしたところでどうするというのだろう。


「人に優しくしたところでなんの意味がある?」

「え?なに言ってるの。この世は意味のないものなんてないのよ。」


そう言うと妻はニコッと微笑んだ。





アムブロの過去は次回に続きます。

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