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268、悪魔は居場所に向かう

ちょっと長いです。

和虎からもらった紙に書かれていたアムブロの居場所は、イルヴァルナスとヴェネリーグの国境沿いにある村の近くのある山であった。



屋敷を出るといつの間にか夕方になっていていて、俺たちは宿屋に戻って話し合うこととなった。

「さて、早速ですが明日すぐに向かいますか?」

宿屋の食堂で夕食をすませてじいさんの部屋に集合したところで俺がそう切り出すと、じいさんはううむと考え込んだ。


イルヴァルナスから見て南東の位置となるヴェネリーグとの間は交易が盛んなこともあって国境沿いには町も村もある。

その村のひとつ、ビューテという村の側に山があり、どうやらそこにいるようだ。

地図で確認すると、ここエキスから直接ビューテに行ける道がないので、行くとなるとビューテのすぐ南に同じ国境沿いの町があってエキスとその町は道で繋がっているので一旦その町に行ってビューテに向かうことになり、馬車で1週間以上はかかるなかなかの距離だった。

だがそれが最短ルートで、船で行くルートや俺の移動魔法でヴェネリーグ側から向かうルートなど考えたが、それらではもっとかかってしまうことがわかった。


「なあ・・・。そもそもだけど、ホントにここにいるのかなあ?」

マスティフは地図の目的地を指でグリグリしながらそう言ってきた。

「居場所が山って、おかしくねえ?しかも国境沿いだけど村だぜ?言っちゃあなんだけど、村の位置的にあんまり栄えてるような感じがしねえんだけど。」

確かにビューテはすぐ南の方に同じ国境沿いの町があって、その町にいくつも道が通っているから思いっきり町がメイン、村がおこぼれのような感じになっている。

「村ってそもそも村人同士の結びつきというか、結束力が強いだろ?よそ者に厳しいだろうから、そういったところにアムブロが住んだところでよく思われてない気がしないんだよな。」

「だから山に住んでいる、ということになるんじゃないですか?村には住めなくて山の・・・例えば洞窟に住んでるとか、小屋を建てて住んでるとか。」

「でも魔物が出るのに山に住むか?例えば盗賊たちが集団で山の洞窟をねぐらにして・・・とかならわかるけど。」

「ですが、このじいさんと今まで何度か戦って、しかも何度も逃げおおせているのですよ。じいさん並みの実力ならば山に出る魔物くらいどうとでもなるのではないですか?」


そんなことをマスティフと話していると、ずっと考え込んでいたじいさんが口を開いた。

「・・・とりあえずは様子を見たい。」

そう言うと予想していた俺とは違ってマスティフは首を傾げた。

「様子を見るって?」

「居場所を聞いただけで、アムブロがどういう環境でどういう状況かわからんのに対面するのはどうかと思ってのう。それにそもそも、本当にここにアムブロがいるのか、というのもある。」

「アムブロがいるかなんて・・・、あのカズトラって奴が適当なことを言ってると思ってんのか?」

「あの男がわしらに嘘をついても意味がないし得もないだろうとは思うがのう、それでも初対面の男に言われて信じるほどわしは素直ではないからのう。」

まあ、千里眼でテスターで自らの事情を話してきた和虎が嘘を教えるとはあまり考えられないが、いかんせん初対面の男なのだからまだ信用できなくて当然だ。

じいさんが慎重になるのも頷ける。


「じゃが、もしアムブロが本当にここにいてわしが姿を見てしまったらどういう状況だと判断する前に我を忘れて殺そうとしてしまうかもしれん。それでは復讐とは言えん。だからわしはこの宿屋にいることにするから、ユウジンとマスティフで山に行ってアムブロの様子を見てきてくれんか?」

「え゛っ、マスティフとですか?」

「ちょ、なんでそんな嫌そうに言うんだよ!?」

「嫌だからです。」

「なんで!?」

「ユウジンは鑑定魔法でアムブロ本人かどうか見てきてほしいがおぬしを1人にするのはあまり得策ではない気がするからマスティフと一緒に行ってほしいんじゃ。マスティフ、そういう訳じゃからしっかり見張るんじゃぞ。」

じいさんは前半は俺に向かって話して後半はマスティフに向かって話した。

「そういうことならわかったぜじいさん!」

マスティフはニカッと笑って返事をしていた。

俺は張り切る監視役がついたことに苦い顔をした。


・・・まあ、俺としてもアムブロの様子を見てきてもいいとは思ってはいるが。

といっても、じいさんの復讐にはあまり興味がないが急に姿を消した訳は気になっただけだ。

俺がアムブロと思われる人物に会って鑑定魔法をかけてウィキを読めばそこら辺がわかるかもしれないので、じいさんより早くアムブロと思われる人物に会うことには賛成だった。


「まあ、問題はこの距離じゃな。1週間以上かかるというのは流石に遠いのう。」

じいさんは難しい顔をして地図を見た。

俺は一緒になって地図に目を移して、あっ、と思いついた。

「・・・じいさん、ビューテから戻ってくるのは俺の移動魔法を使えばすぐです。」

「それはそうじゃろうが、行きは1週間以上かかるのは面倒ではないか?」

「いえ、行きもそんなにかかりません。多分7~8時間くらいで着きます。」

「「は?」」

「俺にいい移動手段があります。・・・ね、クロ助。」

「ミャー?」

肩の上でクロ助は首を傾げた。





バサッバサッバサッバサッ


話し合いの翌日。

雨など滅多に降らない晴れ渡った大空を、黒いドラゴンが飛んでいる。


いや、正確には黒いもやでできたドラゴンが。


「なかなかいい景色ですね。クロ助、このまままっすぐお願いします。」

「ミャー!」

もやの頭の部分からクロ助の元気な返事が聞こえてきて、ドラゴンから猫の鳴き声がするというのはなかなか違和感があるなと思った。


「うへえええええええっ!!こえええええええー!!」

ドラゴンの背中に乗る俺の下の方、ドラゴンの足元からはそんな情けない声が聞こえてくる。

「ちょっとマスティフ、うるさいので静かにしてください。あなたの声で誰かに見られたらどうするんですか?」

「そうは言ってもこええもんはこええんだよー!うひゃあああ!たけえええー!!」


マスティフの体はドラゴンの足が掴んでいて、いつ離されてもおかしくないためにマスティフは必死に体を掴む足にしがみつきながら叫んでいたのだ。


クロ助のウェアドラゴン。

俺の思いついた移動手段がこれだった。


クロ助のドラゴンの早さはヴェネリーグからトリズデン、トリズデンからイルヴァルナスへの移動でわかっていたのでこれを使うことにしたのだ。

この移動手段なら馬車で1日かかる距離を1時間ですむので、1週間以上の距離なら7~8時間と見積もったのだ。

ただ、クロ助の体の小ささの関係からかドラゴンになり続けられるのは1時間で、その後30分のクールタイムが必要になる。

クールタイム後にまた1時間ドラゴンになれるのでドラゴンとクールタイムを繰り返したらビューテに着くのだが、まあクールタイム中は俺がクロ助を抱えて歩いたらいい話だからいいんだが。

幸い付与をかけ直した『回復の指輪』の効果で疲れは感じないから例え30分マラソンしても疲れないはずだしな。


そうと決まればクロ助に頼んでドラゴンになってもらったはいいが、ここで予想外のことが起きた。

クロ助はマスティフを背中に乗せたくないと拒否の態度をしたのだ。

どうやら飼い主の俺以外背中に乗せたくないというこだわりがあるようで、そうかといってじいさんの意向もあってマスティフを連れていかない訳にはいかず、説得したらクロ助はマスティフを足で掴むならと応じてくれたのだ。

ドラゴンの足って掴むような構造なのか?と思ったが、そもそもドラゴンは黒いもやでできているので構造など関係なくクロ助の意のままに曲げたり掴んだりできるようだ。


行きの道中、ドラゴンでの移動中には空を飛ぶ魔物に遭遇して歩いている時も幾度も魔物に遭遇したが、ドラゴンの時はクロ助のブレスでいずれも一発で炭になったし歩きの時はマスティフがはりきって倒していた。

なので出番のない俺はというともっぱらサーチで魔物の接近を知らせるかマスティフが倒した魔物をアイテムに入れていくか地図で進行方向があっているか確認するかくらいでちょっと暇だ。



「うりゃっ!・・・よし、これで全部倒したな。」

歩いている途中に茂みから飛び出して襲ってきた複数の蛇のような魔物をマスティフは倒し終えて大剣の血をはらった。

「お疲れ様です。」

俺はそう言いながらポンポンアイテムに倒された魔物を入れていく。

「結構魔物倒したよな?アイテムは容量大丈夫なのか?」

「容量はまだまだ大丈夫です。ですが、流石に全部一気に剥ぎ取り小屋に持っていけない量にはなってますがね。」

俺のアイテムの容量はレベルが上がってそれに比例する形で増え、今は110×110×110まで増えた。

エルフ領でもらった野菜25箱や食料など色々と入っているのにさらに倒した魔物をポンポン入れていってもまだまだ余裕だ。

因みに倒してアイテムに入った魔物は40体ほどだ。

俺の経験上、剥ぎ取り小屋にはいつも職員が1人しかいないので流石に1人で40体は無理だろう。

レクシフォンでオークを売った時でも手に負えなくなったら保存倉庫に20体入れてそれでも満杯になったらキレられていたくらいだったから、村にギルドや剥ぎ取り小屋があったとしてもレクシフォン以上の倉庫があるとは思えないからな。


「まあ・・・、そりゃそうだよな。ユウジンのアイテムがおかしいだけで、本来冒険者が剥ぎ取り小屋に持ち込むのって2~3体が普通だし、そもそもアイテム収納魔法自体持ってる奴がめちゃくちゃ珍しいもんな。」

マスティフは乾いた笑い声をあげた。


そんな会話をしつつアイテムに魔物を入れ終わって移動を再開すると、そういえばとマスティフは思い出したように俺に話しかけてきた。


「周りに誰もいないし、聞いていい?」

「なにをですか?」

「あのグラトニークラーケンなんだけどよ。ユウジンは気に入らないって絶望させたじゃねえか。ユウジンはグラトニークラーケンのなにを気に入らなかったんだ?」

それを聞いて俺はちょっと目を見張ってマスティフを見た。


「確かオーランド王子は皆を裏切っていたのが気に入らなかったんだよな?んで、クラウデンとかいう奴は死を無駄にするから気に入らないって言ってたよな。だったらグラトニークラーケンはどこが気に入らなかったんだ?って船で種明かしした時にふと思ったんだよ。でもこんな話題軽く話せないから周りに誰もいない時に聞こうと思ってたんだよ。」


確かに、オーランド王子は悪魔教幹部であることや使役魔法が使えることを隠して国全体で大量殺戮するための大芝居をして、反対勢力の旗頭であるにも関わらず一緒に戦っていた人たちを裏切っていたから気に入らなかった。

そしてクラウデンは自分の欲求を満たすためだけに女性に乱暴して殺していて、死をなんとも思わず無駄に殺し続けていたから気に入らなかった。

他にもグラエム王とヴェリゴも絶望させたが、2人についてはついでに絶望させただけで、マスティフはなんとなくそれがわかって名前を出さなかったのだろう。


その、なんとなくわかられているのがちょっと癪ではあるけど。


「・・・サハギンたちをゴミ呼ばわりしたからです。」

「ええっ!?そこ!?・・・恐怖を煽ってから食うとか言ってたからてっきりそっちかと思ってた・・・。」

「そこに関しては、言うなれば趣味嗜好みたいなところなんで人間の常識的なことを理由に否定するのはどうかと思いますよ。彼ら魔物の中では常識かもしれませんし。それよりもサハギンたちにゴミと称したり役立たずと言ったのが気になりました。」

「どうしてだ?」

「明らかに役に立っていたからです。サハギンたちが先に出てきてある程度戦い、油断したところにグラトニークラーケンが出る算段でしたでしょう?俺は対処できていましたが、1、2回目の冒険者たちは見事にその算段に引っ掛かってやられたんですからサハギンたちは十分役に立っていると言っていいのに、あのイカは罵倒していた。それが気に入らなかったんです。」

「えええー。・・・あ、もしかしてサハギンたちが攻撃したように見せたってのもその点があったから?」

「そうです。見下し馬鹿にしていた相手が自分に牙を向くなんて思ってなくて、しかもこっぴどくやられたりしたらプライドもズタズタでしょ?そうなると後は脆いんです。だから結構早く絶望したところが見れたでしょう?」

「うわあ・・・恐っそろしい。その評価していたサハギンたちも一気に集めて首吹っ飛ばしてたし。」

「それはそうでしょう。討伐対象でしたし。」

「冷めてて怖っ!ホント悪魔だな!」

「よく言われます。」



そんな会話をしつつ、俺たちはドラゴンで1時間移動して30分歩きを繰り返して8時間後の夕方近くに村に着くことができた。




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