表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/350

265、悪魔は帰港する

おっといけない、といつもの笑顔を張り付けた。


「そ、そんなことやったのか・・・。発言でグラトニークラーケンの弱いところを的確に見抜いてそこを突いて絶望させるなんて、相変わらず悪魔みてーなことするなよ。」

「ふふ、よく言われます。」

マスティフが引きつつ呆れたように言ってきたのが誰にでもよく言われる「悪魔」という発言だったのでここは褒め言葉として受け取っといた。


「まあ、今回の絶望は俺が見たかったのもありましたが、実はもうひとつあるんですよ。」

「え?もうひとつ?」

「それはあなたに見せるためだったんですよ、レオニダ。」

「は?お、俺に?」

レオニダは戸惑ったような顔をしてきた。


「俺はもういい加減、試されるのは飽きてきたんですよ。」

「えっ」

「とっととNo.2に会わせてもらっていいです?じゃないと・・・サハギンみたいなこと、体験してみますか?」

俺がニコリと意味ありげに笑いかけるとレオニダはサッと顔色を変えた。


例えば・・・俺はマフィアの屋敷を見ているから罠魔法で今屋敷を爆破することが可能だ。

そして罠魔法と俺のアイテムをリンクさせて、爆破跡に怪文書を出すこともできる。

内容は「マフィアを潰されたくなかったらボスにしろ、レオニダ」というものだ。

そうすればダミアーノファミリーの面々はレオニダを捕まえようと殺到する。

そこで俺がレオニダに罠魔法でファミリーを攻撃したらどうなるだろう。

サハギンたちのことや俺のことをもちろん知らないファミリーの面々はレオニダが攻撃したと完全に思い込み、レオニダとの争いに発展するだろう。


レオニダはそこまで考えがいたってはないだろうが、少なくともサハギンたちのように自分の意思と関係なくファミリーの誰かを攻撃したことにされてしまうことを思いいたって顔色を変えたのだろう。


「ファミリーの内部分裂なんて生やさしいもので終わればいいですね。ま、俺はファミリーやあなたがどうなろうと全員抗争の末に死のうがまったく関係ないし興味もないんですけどね。あ、絶望してたら見てあげてもいいですかね。」

クスクスと笑いながら言うとレオニダはガタガタ震えていた。


俺がレオニダにグラトニークラーケンの絶望させるところを見せたのはわざとであり、その後にサハギンたちにやったことの種明かしをしたのもわざとだ。

全てはレオニダにわからせるためだ。

レオニダはサハギンたちと戦う際に俺の実力を見たいと言っていたからわざと絶望させているのを見せて、俺の実力と本性を1度にわからせた。

こんな試されることなど終わらせてNo.2にとっとと会いたかったからな。

そして脅すためにわざと種明かしをしたという訳だ。


「わ、わかった!帰港したら会わせてやる。・・・ちっ、アニキの言う通り気を付けてたつもりだったのに・・・こんなイカれた奴だったのかよ。」

後半はなにやらブツブツ言って聞こえなかったが、まあやっと会わせてくれるようだからいいか。




それから俺たちはエキスの港に無事帰港して、全員が船から降りたのを確認して俺は船にかけていた結界魔法を解いた。

船首近くが壊されただけだったので解いても沈むことはなく、修理も1週間もかからないだろうということで船長や船員に改めて感謝された。

ランクSのグラトニークラーケンに襲われてこの程度の被害ですんでいるのだから感謝されて当たり前くらいなんだそうだ。

そのため、グラトニークラーケンの解体したのをお裾分けしようとしたがもらっては申し訳ないとかたくなに受け取ってくれなかったので全部俺がもらうことになりアイテムに全部入っている。


これからしばらく野宿する際はイカ料理になりそうだ。


ギルドに移動して依頼の報告をしてグラトニークラーケンとサハギンたちの討伐証明部位を渡したら当然ながらめちゃくちゃ驚かれて少し疑われたが、同行したレオニダたちが証人となってくれて報酬をもらった。


ギルドを出ると見知らぬ男が近づいてきた。

どうやらレオニダの知り合いらしく「レオニダさん」と声をかけてなにやら耳うちした。

俺はいつもの癖で鑑定魔法をかけていたのでダミアーノファミリーの下っ端とわかったが、マスティフは首を傾げていた。

なにかを聞いたレオニダはちょっと真面目な顔をして頷いた。

「依頼を無事終えたからアニキが今から会ってくれるとさ。屋敷に来てくれだと。」

「ええっ!?い、今報告したところなのになんで知ってんだ!?」

「まあ・・・アニキはそんな人なんで。」

なんだか答えになってるような、なってないようなことをレオニダは言って苦笑した。



そして俺たちはそのままダミアーノファミリーの屋敷に移動した。


ふう、やっと会えるのか。

謎の手紙をもらってからここエキスに来てサハギンの群れ調査の依頼を受けることになってグラトニークラーケンに襲われて。

それからはまあ、俺がはりきっただけだが。


レオニダと最初に会った屋敷の中は貴族の屋敷のように調度品があるわけでもなく申し訳程度に様々な海の絵が飾られているだけの少し質素な印象の内装だった。

冒険者が多くいるというダミアーノファミリーらしくすれ違う者はがたいのいい者たちが多く、扉の開いた部屋の前を通った時に談笑している冒険者らしき団体がいたりした。

その団体も屋敷全体もなんだかエキスの町全体に流れるゆったりとした雰囲気に似ていた。

なんかマフィアというイメージから殺伐としてるのかと勝手に思っていたが想像と違うなと思いながら、肩に乗るクロ助と一緒になんとなく見回しているとレオニダが話しかけてきた。


「なんか俺の顔のせいでイメージ悪く見えてたかもしれないが、ダミアーノファミリーは犯罪は一切しないちゃんとしたマフィアだ。ボスのダミアーノが身寄りのない子供たちを数十年前から引き取り始めたのがうちのマフィアの最初らしいんだ。」

「身寄りのない子供たちをですか。」

「ああ。一応この町にも他の町同様に孤児院があるが、成人の16歳になると追い出される。まあ、これは他の町も同様だがな。16歳になるまでに貰い手が見つかればいいし、16歳で出るときに仕事先も見つけられたらいいほうだ。だが、16歳で追い出されても色んな問題で働きたくても働けねえ奴が出てくる。そういうのをボスは引き取って住むところだけじゃなく就労支援もしてんだよ。」

「色んな問題で働きたくても働けないとは?」

「例えば親に捨てられたトラウマを引きずって心を開けないとか、人を信じられず極度の人見知りだったりとか、暴力をふるって孤児院でも手に終えないのだったり、奇形や欠損、病気持ちもだな。」

なるほど。

そういった人たちは仕事が限られてくるし多少は差別もされるだろう。


「ボスも孤児院出身で生活や仕事で苦労した経験があったから他の孤児を助けたいってことで始めたらしい。で、細々そういう活動をしていくうちに支援者も出てきてボスは他の町の子供たちも引き取るようになって、その子供たちが育って冒険者などになってマフィアの一員になって少しずつマフィアとして大きくなってったんだ。そしてなにを隠そう俺も8年前に拾ってもらって就労支援してもらった1人だったりするんだ。」

「え、そうなんですか?」

「ああ。俺はこの通り両頬に傷はあるわ人相は悪いだろ?赤ん坊の時に孤児院に捨てられてた時点でこの人相で頬に傷もあったらしい。よくそんな赤ん坊を育てたと親代わりのシスターに今でも感謝してんだぜ。だが、この人相と傷のせいでシスター以外には怖がられて孤児院内にも友達はできずもちろん貰い手はまったく見つからず、16歳になったらとっとと追い出された。この顔だから当然仕事なんて見つからず、当時住んでた別の町を歩く度に絡まれてそいつらをボコボコにして憂さ晴らしすることしかやることがなかった。誰かれ構わず恐喝して巻き上げた金で生活して6年位経ったところでアニキに拾われて腐りきった性根を正してもらったんだ。だからボスの役に立ちたいと思って冒険者になってマフィアの一員になったんだ。」

まあ・・・確かにレオニダは人相は悪人顔で、マフィアのイメージにピッタリなんだが話してみるとちゃんとしてる奴だとわかる。

だが初対面の相手なら顔と傷で悪人と思われて仕方ないほどの顔だ。

苦労したんだろうな。

黙って聞いていたマスティフとじいさんもそう思ったのか少しいたわるような顔をしていた。

まあ、じいさんは俺とマスティフ以外には隠蔽魔法が聞いてるから顔がぼやけたままなのだが。


そういう話をしているうちに、ある部屋のドアの前でレオニダは立ち止まった。

「ここがアニキの部屋だ。・・・アニキ、失礼します。」

レオニダはトントンとノックしてドアを開けた。

部屋の中も質素で大きめなデスクが奥にあり、ソファセットが手前にあってそこに1人の男がどかりと座っていた。

「おお・・・来たか。」

男はこちらを見てニヤリと笑った。


男は30代中盤ほどの黒の短髪に左が黒目で右が金目のとんでもない極悪顔だ。

体もマスティフ並みにマッチョでラフな白いシャツに黒のズボン姿だ。

レオニダの悪人顔なんてまだマシなほどの顔で、鋭い目は視線だけで何人も殺してきたような鋭さで、マッチョな体がより増しているような気がする。

そのうえ極悪顔がニヤリと笑うと凶悪さが更に増してこれから殺されるんじゃないかと錯覚すらしてくる。

思わず俺の笑顔が崩れるほどで、同時に見たマスティフはひぇっと小さく悲鳴をあげてじいさんですら真顔になった。


だが、俺の笑顔が崩れたのは凶悪な顔を見ただけではなかった。




「よお・・・、初めましてだな。阿久来優人。」




いつもの癖で鑑定魔法をかけた俺はその内容もあって笑顔でいられずぽかんとしてしまった。




「俺は鬼澤(キザワ)和虎(カズトラ)だ。同郷(・・)に会えて嬉しいぜ。」



初めて自分以外のテスターに会った瞬間だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ