26、悪魔はさっと解決する
ギルドを出て、さっそく1つめの依頼人の元へ向かった。
今回受けた2つの依頼はこれだ。
・錬金術師からの採取してきてほしい植物があるという依頼
・貴族の子供が奪っていったおもちゃを取り返してほしいという依頼
錬金術師の依頼はあの、10年前から受けられていない依頼だ。
ちょっと思うところがあって、先に錬金術師のところに行くことにしたのだ。
依頼人がじいさんなので死んでないかちょっと心配になりながら、依頼書にあった依頼人の住所を頼りに家を探すと、東側で錬金術向けの小さな店をやっているようで、木造のものすごくボロい店がそこにはあった。
建付けの悪いドアを開けて入ると、なにかを調合しているような苦い薬の匂いがむあっとしてきた。
中はイメージ通りの、天井から葉っぱの束が吊られていて薬瓶がいくつも並んだ棚が壁中にあり、なにかの粉や石の欠片や骨とかがカウンターの上に並べられていた。
奥のレジカウンターにおじいさんが座っていて、訝しげにこちらを見てきた。
80歳くらいの腰の曲がったガリガリで古めかしいローブを着ていて、白髪にモジャモジャの口髭でシワが顔中に刻まれ鋭い目つきで人相が悪い感じのおじいさんだ。
「ん?おめえ見ない顔だなあ。肩に猫なんか乗せて。錬金術師か?」
「あ、いえ。依頼を受けて来た冒険者です。」
「な、なに!?本当か!?」
俺の言葉にものすごく驚いていた。
んまあ、10年前のだから依頼出した本人もびっくりだわね。
「ほ、本当に依頼やってくれんのか!?」
「はい。そのつもりで来ました、ユウジンといいます。」
「ありがてえ!俺は依頼したモメントだ。ここの店主もしてる。よろしくな。」
モメントは店の奥に招き入れてくれた。
「まあ、さっそくだが、依頼内容の確認だ。」
店の奥の薬を調合する部屋に通され、1枚の紙を差し出してきた。
それは錬金術のレシピを書いたものだった。
「これは俺が長年研究して編み出した、ホムンクルスのレシピだ。これをもとに作ろうと思ったが・・・、他の材料は集まったのだが、問題がこのハーブでな。これがないと作り始めることもできん。」
おお!ホムンクルス・・・。
ゲームやマンガで有名な奴じゃないか。
「このハーブを採ってくるというのが依頼なんですね。このハーブはどこに生えてどんな見た目なんですか?」
「この首都の北にある森の奥に生えている。見た目は説明が難しいから絵を描いた、ほら。」
「ありがとうございます。森の奥って、結構時間かかりますか?」
「片道数時間のところだ。だが、難しい問題があってな。」
「難しい問題、ですか?」
「そのハーブは採取したらすぐに枯れ始めるんだ。だいたい10分しかもたないと言われている。」
「それは・・・。」
依頼が10年間も受けられない理由が、おそらくこれだ。
10分しかもたないのに、片道数時間かかるという矛盾でしかないこの依頼。
「無茶苦茶なことを言っている自覚はある。だから10年も誰も受けなかったと諦めてたんだ・・・。おめえも無理だろう?」
モメントは沈んだ顔をして、うなだれた。
まあ、普通の冒険者なら無茶苦茶だな。
だが、俺ならその点、簡単に解決できる。
「俺なら大丈夫ですよ。俺はアイテム収納魔法持ちなんで。」
モメントはものすごく驚いて俺を見てきた。
「な、なんだと!?本当か!?本当に、アイテム収納魔法持ちか!?」
論より証拠で、実際にアイテムから剣を出し入れしたらぽかんとしながらも信じてくれた。
「俺のアイテム収納魔法は生物以外なら入りますし、出来立てのものはいつでも出来立てで出せますから、ハーブもアイテムにすぐ入れたら問題ありません。」
「ほおっ!素晴らしい!それなら安心だ!」
「今日の夕方に持ってこれるように考えてるんですが、それでいいですか?」
モメントは上機嫌にうんうんと頷いた。
「おうおう!いいぞ!これでホムンクルスをやっと作れる!頼んだぞ、ユウジン!」
お店を出て、まだ昼には早かったのでもう1つの依頼人のところに向かうことにした。
夕方、お店にハーブを持っていくことを考えると、往復4~6時間とすると昼に首都を出たら間に合うはずだ。
だから昼までに次の依頼は解決しなくてはいけない。
依頼内容からして、昼までには終わると見ているんだけどな。
次の依頼は、子供からの依頼で「貴族の子供が奪っていったおもちゃを取り返してほしい」というものだ。
依頼書の住所を頼りに向かうと、ごく普通の木造の一軒家に辿り着いた。
ノックすると、少年が「はーい」と顔を出した。
「依頼を受けて来たんですが、君が依頼人のクレイですか?」
少年は驚きつつ、こくこくと頷いた。
6~7歳くらいの茶髪で黒目の、ごく普通のかわいらしい男の子だ。
「依頼受けてくれてありがとう。」
クレイはペコリと頭を下げてくれた。
両親と3人暮らしで両親は仕事で出ているなか、1人で留守番をしていたようだ。
さすがに中に入れてくれと言うのも不味いかなと、玄関で話すことにした。
「俺は冒険者のユウジンといいます。こっちはクロ助です。よろしくお願いしますね。」
「ミャー!」
クロ助がよろしく!という感じで鳴くと、クレイははわわと萌えていた。
「うわあっ、かわいい!僕クレイ!よろしくね!」
クレイはニヘラと笑ってくれた。
「さっそくですが、依頼の内容の確認いいですか?」
「うん。僕の宝物の勇者の人形を、貴族の子供に取られちゃったんだ。お父さんがせっかく買ってくれたのに、"庶民のクセに勇者の人形なんて持つな"って言って・・・。」
クレイは悔しかったのか、笑顔を一変してうつむいてしまった。
めんどくさい人種としてラノベで有名な貴族。
どうやらこちらの世界の貴族もクソなようだな。
しかもそんなクソ貴族の子供なんて、さらに質が悪そうだもんなあ。
そんなのからおもちゃを取り返すという、なんともめんどくさいとしか思わない依頼。
しかも依頼人は街の子供だし、報酬も700インとたいしたことないときたら、誰も受けないわけだ。
「ごめんなさい、お金は僕のお小遣い全部だけど、少ないよね?」
「そんなことはないですよ。大事なお小遣い全部使った依頼なら、立派な依頼です。それくらい大事な人形なんでしょう?」
クレイはコクンと頷いた。
「その貴族の子供というのは誰か、名前とかわかりますか?」
「わかるよ。ステイツ・フェルミって言って、灰色の髪に青い目のデブなんだ。貴族の子供たちの中でも、ガキ大将ってやつで有名で、いつも子分を引き連れて街を偉そうに歩いてるんだ。」
「ふむ・・・、ステイツ・フェルミですね。わかりました、これから行ってきますが、その子の家はわかりますか?」
「い、今から行くの!?・・・えっと、家は他の家よりおっきくて、壁が白くて屋根が青いんだ。」
「・・・わかりました。では、ちょっと行ってきますね。」
俺はにこやかになんでもないように言うと、ぽかんとしているクレイを置いて家を出た。
そして貴族の家が立ち並ぶという、首都の北側の住宅街にきた。
おおー、見渡す限り、豪華な家ばかり。
きれいに刈られて花を咲かす生け垣やその奥に見える豪邸の数々に、驚きつつクレイの言っていた家を探した。
探すこと30分でようやくかなりでかい屋敷に辿り着いた。
白い壁に青い屋根、確かにここだと思われる。
鎧を着て槍を持った門番が立っていたので聞いてみたら、ものすごい不審な目で見られながらフェルミ家の屋敷だと教えてくれた。
愛想よくお礼を言って引き返して、建物の影に入るとすかさず隠蔽魔法を使った。
そう、俺が愛用している隠蔽魔法は存在を隠蔽できる。
なので家さえわかれば簡単には侵入・脱出が可能なのだ。
しかも俺はアイテム収納魔法持ちだから、その場でアイテムに入れていけば家中にのもんを簡単に盗める。
恐ろしや、隠蔽魔法とアイテム収納魔法。
・・・んまあ、今回は話を聞く限りいけすかない貴族のようだが、盗むのは人形だけだ。
俺がさっさと解決できると踏んでいたのは、最初から交渉して取り返そうと思ってなかったからだ。
テンプレ展開が満載のこの世界なら、絶対に貴族はクソばかりだろうと予想してたからな。
なんだかんだとごねて交渉にならないと思うんだよなあ。
俺は堂々と先ほどの門番の横を通ると、少し開いている門の隙間から中に入った。
広い庭が広がっていて、玄関に続く小道が目の前にのびていたので、道に沿って進むと大きな屋敷の玄関に辿り着いた。
一応周りを確認してドアノブを持って少し回してみると、ガチャリとあっさり開いた。
えっ、鍵かけてないのかよ。
いくら門番がいても物騒だなあと思いながら少し開けて中を確認して、さっと入って静かに閉めた。
俺自身は隠蔽してるけど、ドアとかは隠蔽してないから端から見たら勝手にドアが開いたことになるからな。
見た人がお化けだー!とか言って騒がれたら面倒だ。
中に入ったらそこは玄関ホールで、2階に続く大階段が目の前にあり、そこら中に調度品が並べられていた。
偉そうな奴は2階に部屋を持ちそうなイメージあるな。
そう思って2階に上がると、適当に手前の部屋から見ていくことにした。
廊下を世話しなく行き来したり掃除しているメイドを横目に、一応周りに注意しながらも一部屋一部屋確認していって、ようやく子供部屋に辿り着いた。
中は誰もいなくて、ありとあらゆるおもちゃが散乱していた。
「すごい量のおもちゃですねえ・・・。もしかして他の子供たちから奪ったおもちゃだったりして・・・。」
試しに近くのおもちゃを鑑定してみた。
『くまのぬいぐるみ』
ごく普通のくまの形のぬいぐるみ。
街の女の子から奪ったもの。
おいおいマジかよ。
・・・まあ、しょうがない、ついでだ。
俺はおもちゃを次々と鑑定していって、ガキ大将が奪ったものだけアイテムに入れていった。
15分くらいかかって全部鑑定を終えた。
クレイの人形も回収済みだ。
因みに勇者の人形は、黒髪で短髪のガタイのいい男の姿で、真っ白の全身鎧に身を包み真っ赤なマントを着けて剣を高く掲げている姿だった。
・・・テスターっぽいと言われたらそうかな?と思うくらいだった。
まあ、人形だから実際と違う可能性があるからなんとも言えないな。
さて、クレイに人形を返すとして、他のおもちゃはどうやって返そう?
まあ、クレイに聞いてみるか。
・・・ふむ、本来ならここで退散するつもりだったが、このままでは俺がまずいことになるか。
一気におもちゃがなくなったことでガキ大将が騒いで泥棒騒ぎになって、クレイの依頼がすぐ判明して俺が受けて解決したのがバレると俺に泥棒容疑がかかるか。
・・・だったら、それどころじゃなくしたらいいか。
俺はさっと子供部屋から出ると、また周りに注意しながら屋敷の奥へ進み、ガキ大将の父親の書斎を探した。
奥には案の定、書斎があってデスクに書類が積み上がっていた。
ここにも誰もいなかったのでデスクの上の書類を一枚一枚確認して、狙っていたのがなかったので引き出しを次々と開けて中の書類を見ていった。
「・・・おっ、ありました。」
デスクの1番下の不自然に浮いた底板をめくってみたら重要めいた書類があった。
「・・・ふうん。人身売買、ですか。」
内容は貴族向けに少年や少女を売った記録だった。
田舎の村から少年少女を安く買い上げておもちゃとして売っているようだ。
・・・ここの当主はクソだったか。
そこでピンときた。
本当は当主である父親の弱味を握って、もし俺に泥棒容疑をかけられても弱味をネタに脅してやろうと、デスクを荒らしていたのだが、予想以上の収穫だったというわけだが。
もし、自分の息子を売ることになったら、当主はどんな顔をするんだろう?
俺は明日売る予定の子供の書類と過去の人身売買の記録を1枚だけ抜き取ってアイテムに入れ、屋敷を後にした。




