表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
268/350

261、悪魔はクラーケンと戦う

区切るところが難しくて長くなりました。

そしてマスティフ視点です。

巨大なクラーケンの登場にユウジン以外は驚愕した。


な、なんでサハギンと戦ってるのにクラーケンが出てくんだ!?


「ア、アレは・・・。」

レオニダは顔を真っ青にしてそう呟いたのが聞こえた。

「レオニダ、あのクラーケン知ってんのか!?」

レオニダは俺が声をかけると戸惑いつつ、頷いた。

「あいつはクラーケンの中でも亜種で、ここらで被害にあっている船はいくつもあって、あまりの悪食に悪食(グラトニー)クラーケンと言われている奴だ。」

「悪食?」

「その名の通りなんでも食うからだ。俺たち人間だけじゃなく、積み荷や船自体も食うからそう呼ばれているんだ。」

ふ、船も食うだって!?

「普通のクラーケンのランクはS寄りのAだが、グラトニークラーケンはランクSだ。俺たちのパーティーでも手に負えないぞ。」

レオニダたちのパーティーはランクAと言っていたから確かに手に負えないだろう。

そんな奴が出てきてどうすんだ!?




『・・・コレハどういうことだ、ヤクタタズども!』


混乱する人間たちをよそに、グラトニークラーケンから低く怒ったような声が聞こえた。

グラトニークラーケンのギョロリとした目はなぜかサハギンたちを睨んでいて、サハギンたちはビクビクと怯えたように震えていた。

『オレサマが出るまでにニンゲンどもをヨワラセておけと言ったはずだぞ!まったく、これだからゴミは使えない・・・。』

グラトニークラーケンがいくつもある触手を船に絡めると、船はバキバキと音を立て、パキンッ!と高い音がしてなにかが割れる音がした。

「!?船の結界が壊された音だ!」

レオニダがそう叫んだ。

すると船はますますバキバキとメキメキと壊れる音がして、触手が掴んでいた部分が割れた。

「ふ、船が!?」

グラグラと船が揺れ、バキバキバキバキ!と船の端をまるで簡単に千切った触手は割った欠片を触手の中心である口に持っていって、グシャグシャと食べ始めた。

ええええっ!?本当に船を食ってるぞ!?

いや、それどころじゃねえ!船が破壊されたら大変だ!?


「・・・。」

いつの間にかユウジンが甲板の床に手をついていた。

なにやってんだ?さっき揺れたから床に手をついているのか?

そう思っていたら、グラトニークラーケンの触手がまた船を掴んで来たが、その触手がピタリと止まった。

『・・・うん?』

なぜかグラトニークラーケンが不思議そうにしている。

と思ったら触手が勢いよく振りかぶってきて船に触手を叩きつけてきた。

バチンッ!!

『!?』

「「「!?」」」

結構な勢いで明らかに船を壊しにかかった一発だったのにもかかわらず、なぜか船はまったく傷ついておらず、木製の船を叩いたのにまるでガラスを叩いたようや音が響いた。

『どういうことだ?』

確かにさっきまで壊せたのに、と意味がわからないという感じでグラトニークラーケンは何度も触手を叩きつけたり掴もうとしているが、船はまったく壊れる様子がない。

「え?え?どういうことなんだ?」

「・・・結界の魔道具が直ったんじゃないですか?」

戸惑う俺たちに対してまったく驚かず適当なことを言う奴が1名。

絶対にお前の仕業だな、と俺がユウジンをジト目で見たが無視された。

さっき床に手をついていたのはなんかやった動作だな。

まあ、船が壊されたら俺たちは海に投げ出されてしまうから壊される心配がなくなるのはいいんだけど。


でもこれからどうすんだ?

サハギンはユウジンだけで対処するようになってたが、予想外のグラトニークラーケンが出てきたんなら俺やじいさんも参加していいよな?

「おい、レオニダ。クラーケン相手なら・・・」

「グラトニークラーケンと言いましたか。ちょっと質問いいですか?」

俺がレオニダに声をかけたらそれを遮るようにユウジンがグラトニークラーケンに声をかけた。

『うん?ニンゲンのブンザイでオレサマに声をかけるとは愚かな。』

「あなたはこのサハギンたちと関わりがあるような会話をしていましたが、なぜ彼らと関わっているのですか?」

『オレサマとこのゴミどもとの関わりだと?』

グラトニークラーケンははっ、とサハギンたちを嘲笑うように笑った。

『オレサマがニンゲンをフネごと食うためにハイカにしてやっているのだ。サキにこのゴミどもをニンゲンどもに向けるとニンゲンどもはコイツらをアイテにしてユダンしている。そこにオレサマが出ると、ニンゲンどもはオモシロいくらいにキョウフする。そのカオをオレサマは見ながら食うのがナニヨリ好きなのだ。』

グラトニークラーケンはそう言ってクククと顔を歪めて笑った。


『ニンゲンがキョウフしオビえてヒメイをあげるところをカジるのがナニヨリうまい。チやニクのついたモクザイもうまいから食うのだ。』

「そうですか・・・。」

ユウジンはそう言って口に手を当てて少し考えるような仕草をした。

そしてグラトニークラーケン、サハギンたちを見てからなぜかチラッとレオニダたちを見た。



「それは・・・実に、気に入らない(・・・・・・)ですね。」


そう呟かれた言葉に俺とじいさんは反応した。

気に入らない、とはユウジンのスイッチだ。

「気に入らないやつは徹底的に追い詰めてたくさんの絶望を見たい」とヴェネリーグで語っていたが、その気に入らないやつにグラトニークラーケンは入ってしまったのだと俺とじいさんはすぐにわかった。

手を口に当てていたのでグラトニークラーケンには見えなかっただろうし、レオニダたちも離れていたから見えなかっただろう。

だが、俺とじいさんは少し近くにいたので確かに見えた。

明らかに狂気を含んでいる口元が。


「ユ、ユウジン!?」

俺が慌てて声をかけるとすでにいつもの微笑みを浮かべた顔になっていた。

「マスティフとじいさんはそこにいて見ててください。俺だけで戦ってみます。」

出て来るな言われているのがすぐわかって、目を見ると有無を言わせないような強い目で見てきたので俺は動けなかった。

「ユウジンおぬし・・・。」

「じいさん、まさか止めませんよね?凶悪な魔物相手だというのに。」

「・・・。」

じいさんもユウジンがなにやらヤバいことを考えているのを察知したようだが、じいさんは結局なにも言わずにため息をついた。

クロ助はじいさんの腕の中からユウジンを心配そうに見ていた。


ユウジンは俺たちが止めないとわかったようで、いつもの微笑みを浮かべたままグラトニークラーケンに声をかけた。

「あなたが実に下らないのがわかりました。そんなに図体も態度もでかいわりに中身はないようですね。イカとは皆そうなんですか?」

『あ゛?』

「ああ、すいません。あなたをイカの代表みたいに言ってしまいました。他のイカに失礼ですね。俺としてはあなたの方がゴミという名にぴったりだと思うんですが?」

『なんだと!?ニンゲンがオレサマをグロウするか!?』

「愚弄?いえいえ、俺は本当のことを言っただけですが?勝手に愚弄ととらえるあなたの狭量に感服します。」

『グオオオオッ!!ニンゲンがあ!!』

グラトニークラーケンのギョロリとした目が血走ってきてユウジンを睨んできて、全部の触手を振り上げてゆらゆらとさせている。

どうやらグラトニークラーケンが怒っているのだろうが、表面上はそれぐらいしか変化がないのでちょっとわかりにくい。

俺がそんなことを考えているのをよそに、ユウジンはグラトニークラーケンが怒っているのがわからないわけないのにまったく気にせずクスクスと笑っている。

笑い方も表情も思いっきり嘲笑っているのが誰の目にも見ても明らかだ。


「お、おい!ユウジン、止めろ!殺されるぞ!?」

レオニダがいまだに顔を青くして慌ててユウジンを止めようと声をかけたが、ユウジンはレオニダにニコッと笑いかけた。

「ご心配ありがたいですが、俺は大丈夫です。レオニダたちは一応安全のためそこにいてください。」

「だ、だが、相手はグラトニークラーケンだぞ!?ランクSなんだぞ!?」

「まあまあ。見ててください。」

ユウジンは微笑むと腰の短杖2本をそれぞれ持って、杖の上下から魔法剣を出した。

レオニダたちは魔法剣を見たことがないようでぎょっとしていた。

まあ、剣魔法自体がとても珍しい魔法だから魔法剣なんて見たことなくて当たり前だ。

冒険者として色んなところをウロウロしてきた俺でさえユウジンの魔法剣で初めて見たくらいだからな。


「さて、グラトニークラーケン。あなたを倒さないと帰れないみたいですし、殺り合いましょうか。こっちはあなたを倒す準備はできてますよ?」

『ニンゲンブゼイがエラそうに!!コロシテやろうぞ!!』


触手が鞭のようにしなり、ヒュンッと風を切る音と共にユウジンの頭めがけて触手が向かってきた。

ランクSだけあってギリギリ目で追えるくらいの早さだが、ユウジンは冷静に1歩移動するだけで避けた。

すげえな!俺だったら慌てて大剣で防ぐとかしそうな攻撃だったのに。

・・・やっぱりユウジンはレベルが上がっているな。

今の動作でなんとなくそう思えたほど、ユウジンはランクSを相手にしているのにも関わらず冷静で余裕があるように見えた。

チェッ!レベルが上がったなら上がったで言ってくれたら模擬戦もっとお願いして本気でやってみるのになあ。

うーん、俺の勘ではそれだけじゃない気がするなあ。


グラトニークラーケンの触手が次々と向かってくる中、ユウジンは避けたり魔法剣で流したりしている。

だが触手は10本もあるから縦横無尽に飛んできて、明らかな死角からも向かってくる。

「ちっ!」

魔法剣で流したりしているが、力を流しきれなかった触手が腕や足をかすったりしてユウジンは珍しく苦い顔をした。


「オオオオオオオォォォォ!!」

さらに、グラトニークラーケンが吠えるようや声をあげるとグラトニークラーケンの周りに氷の槍アイススピアがいくつも出現してユウジンに向かっていく。

「ぐはっ!?」

魔法剣をクロスさせて防ごうとするが、向かってくる氷の槍の数が多いせいと触手の攻撃もあってユウジンは吹き飛ばされて甲板の木箱に突っ込んだ。


「お、おい!?ユウジン大丈夫か!?」

つうか、ユウジンがダメージ負ってるとこなんて初めて見たぞ!?

それほどグラトニークラーケンの攻撃はすごいということか。

慌てて木箱に突っ込んだユウジンの元に向かおうとするとじいさんに止められた。

え、なんでだ?

「ユウジンが相手するというなら手出しは逆に邪魔になるぞ。それにユウジンはアレくらいの攻撃でどうにかなるようにはわしには思えん。」

それはじいさんの勘なんだろうか。


『ハハハハハ!クチほどにもない!タオすなどエラソウに言ってきたクセに、アッケナイものだ!!』

グラトニークラーケンは上機嫌にそう言って触手をビュンビュン振り回した。

「・・・はっ、まだです。俺はヤられてはいませんよ。」

ユウジンは突っ込んだ木箱を押し退けて立ち上がり、フラフラとした。

両手は魔法剣を持ってはいたが、ダラリと下ろしていて見るからにダメージを負っていた。


『我が前の敵を射て、ファイアアロー×20』


ユウジンがそう唱えるとユウジンの頭上に火の矢が出現してグラトニークラーケンに向かっていった。

『ふん!こんなモノ!』

グラトニークラーケンは触手で次々と火の矢を叩き落としていった。

触手のうちのひとつがうねるように伸びて、ユウジンの元に向かっていった。

ユウジンは魔法剣を振るって流そうとしたが、触手は急に方向を変えてがら空きとなったユウジンの腹に絡み付いた。

「なっ!?」

ユウジンの体はあっという間に宙に浮き、グラトニークラーケンの目の前に引き寄せられた。

グラトニークラーケンはギョロリとした目をニタリと細めてユウジンを見ていた。

『エラソウにイッテいたくせに、大したことなかったな。オレサマがジキジキにカミクダイテやる。』

そして触手の間から牙の並んだ歯を見せてニヤリと笑った。


や、ヤバい!!ユウジンが食われちまうぞ!?

「じ、じいさん!」

助けに行こうとじいさんに声をかけたが、じいさんは難しい顔をして首を振った。

そ、そんな!?このままじゃあ、ユウジン本当に食われるんだぞ!?





その時、どこからかグラトニークラーケンに向かってなにかが飛んでいってゆらゆらと揺れていた触手の1本に当たった。

『!?』

飛んでいったのは水の槍ウォータースピア1本で、触手に刺さっている。


飛んできたのは・・・甲板でグラトニークラーケンとユウジンの戦いをただ見ていたサハギンたちからだった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ