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260、悪魔はサハギンと戦う

区切りのいいところがなかなかなくて長くなってしまいました。

ポイントに着いたと船長が言ってきたのを聞いたようで、一旦部屋に戻っていたレオニダたちが甲板にやって来た。

俺たちは昼食後もなにをするでもなく甲板にいたのだが。

因みに船長と船員たちは非戦闘員だし被害が出てはいけないということで船内に待機している。


「ポイントに着いたみたいだな。だが・・・見たところいない?のか?」

俺たちもレオニダたちも海面などを見回してみるが、いたって普通の海だ。

「サハギンは海中にいるのでしょうか?だとしたらどうやって討伐しましょう?もしかして潜って戦うようになるんですかね?」

俺の疑問にレオニダは大丈夫だと返事が返ってきた。

「サハギンは海中の方が自分たちに有利だとわかっているから海中で戦うこともあるらしいが、船を襲う時は甲板に乗り上げてくるぞ。」

「甲板に?確か、サハギンは水魔法ができるし三ツ又の槍を持っているんですよね?でしたら、それこそ自分たちに有利な海中から船を攻撃して船底に穴を開けるとかしないんですか?」

「昔はそれで沈められた船は多かったらしいが、数十年前にそういった魔物とかから船底を守る結界の魔道具が開発されて増産されてな、今ではどんな船にも当たり前に装備されてるからサハギンくらいの魔物の攻撃なんざ効かねえんだ。」

「なるほど、それで甲板に乗り上げてくるようになったと。」

俺とレオニダがそんな会話をしている間にも他の面々は周囲を警戒している。


近づいてくるのがわかった方がいいな。

サハギンが海中にいるのなら、サーチで探れないか?

俺はサーチかけて、下に伸ばしてみた。

サーチは横に伸ばすと5キロまでわかるが、下に伸ばすというのはやったことがない。

特に海中は陸とは勝手が違うだろうと様子見しながら伸ばしてみたが・・・。

ふむ・・・、かろうじてわかるのは水深2.5キロくらいまでか。

そこから先はぼんやりしている感じがする。

なんとなくだが、海に潜ったことがないからやはり勝手が違うようで、1度海中に潜ったりしたら恐らくそこら辺はクリアになって5キロくらいはわかるようになる気がする。

俺は水の中でも息ができる水中呼吸魔法ができる上級水魔法を取得しているし、なんなら上級結界魔法で水を弾く条件をつけたら体や服を濡らさないまま海中に行けるので今すぐ飛び込むことができる。

だが、さすがに今から「海中に潜ってきます」なんて言ったら頭がおかしくなったと思われかねないから海に潜るのは別の機会にしよう。



とりあえず水深2.5キロの範囲内で探ってみると、大小様々な魚の間をすり抜けてこっちに向かってくるものがあった。


「・・・サハギンの群れが浮上して来ています。」

「「「え?」」」

周囲を見回すでもなくどこか違う方を見ていた俺がそんなことを言ったのでじいさんとマスティフ以外が驚いていた。

「水深2.5キロ以下からこちらに向かってきています。数は・・・多いですね。」

「は?ユウジン、なにを言ってんだ?」

「ああ、すいません。水深5キロまでわかればすぐに気が付くことができたんでしょうが、あいにく俺は海に潜った経験がないもので2.5キロまでしかわかりませんもので。」

「いやいやユウジン。2.5キロで十分だから。」

マスティフが呆れたように言ってきた。


「ふむ、数が多いと言っていたがユウジン、何体ほど来ておるんじゃ?」

「35体です。レベルは全部40代です。」

じいさんが聞いてきたので答えたらまたレオニダたちは驚いていた。

「ちょ、ちょっと待て!どういうことだ!?ユウジン、なんでサハギンが来るとか数とかレベルなんてのもわかんだ!?」

レオニダは困惑した顔で聞いてきた。

おや、探索魔法ができてしばらく経つのにこの反応を見るとまだまだ広まってないようだな。

「探索魔法で海をサーチかけたんです。探索魔法、知ってますよね?」

「た、探索魔法なら最近できた魔法だと知ってはいるが、取得している奴なんてまだほとんどいないぞ。」

「そうですか。まあ、俺はサーチをいつも駆使してますから並みの探索魔法よりは広範囲で詳細がわかるだけですよ。」

「いやいやユウジン。だけって、お前普通にやって普通に把握してるけどすげえことなんだぞ?」

またマスティフが呆れたようにツッコミを入れてきた。


「まあ、それは置いといて今はサハギンのことです。サハギン35体ですが、ランクBの4人パーティーには明らかに荷が重すぎではないですか?」

「そのランクBの4人パーティーってのは最初の討伐依頼を受けたパーティーのことだな。確かに・・・35体のサハギンを相手なんて無理だ。多すぎる。それに2回目の討伐の9人でも無理な数だな。となると・・・、彼らはサハギンにやられたという可能性が出てくるな。」

だが、そうなると2隻の船はどこに行ったのかという疑問が出てくる。

サハギンが船を攻撃したところで魔道具で壊れないのだから沈没の可能性は少ないのに、2回目の討伐のパーティーたちの乗っていた船の残骸が見つかっている。


ということは・・・


とここまで考えたところで、サハギンの群れが水面近くまで浮上してきたのがサーチでわかった。


「サハギンたちが来ます。」


ザバアアァァァァァ―――――――ン


大きな波の音が聞こえて船に大きな波が当たる。

結界の魔道具のおかげか揺れはほとんどないが、波しぶきは甲板より高く上がってその

波から次々と魔物が飛び出してきて、甲板に次々とびちゃびちゃと音を立てて着地した。


「「「ギシャアアァァァァ!!」」」


サハギンは前もってマスティフから聞いた通り、頭がカエルで全身青緑色で至るところに鱗とヒレがある人型の魔物で、茶色の三ツ又の槍を持っていた。

叫んだ口の中は尖った歯がいくつも並んでいてそれを見せつけるかのように威嚇してきて槍をこちらに向けてきた。

俺はすでに1番前のサハギンに鑑定魔法をかけていた。



種族:サハギン

属性:水

レベル:41

HP:1000

MP:700

攻撃力:195

防御力:170

智力:153

速力:100

精神力:80

運:41


戦闘スキル:中級槍術

魔法スキル:中級水魔法・初級氷魔法



ざっと他のサハギンにも鑑定魔法はかけたがだいたい似たり寄ったりだ。


俺は次々と甲板に飛び込んでくるサハギンを見つつレオニダに声をかけた。

「どうしますか?とりあえず、倒す方向でかまいませんよね?」

「ああ。だが、アニキからの指示であんただけで戦ってくれ。俺たちは手出ししないのはもちろんだが、マスティフにマリオンさんも手出ししないでくれ。」

「え?」

「は!?手出ししないでって、どういうことだよ!?」

俺がレオニダの言葉に驚くと同時にマスティフがレオニダに詰め寄った。

討伐依頼と聞いて喜んでいたマスティフとしては討伐したかったんだろう。

それを手出しするなと言われて困惑するわな。


「俺たちはあんたの実力をこの目で実際に見て確かめるために来た他に、もしもの時に助けにはいるための要員だ。そしてマスティフは"黒の一族"としての実力も評判も知ってるから確かめるまでもねえ。それからマリオンさんは顔がぼやけてわからねえが、あんたからはえげつねえ圧を感じるからとんでもねえ実力を持ってんのはなんとなくわかる。だから後はユウジンの実力を確かめるだけなんだ。」

まあ、じいさんは顔をぼかしてても雰囲気で只者じゃないと思えるだろうし、マスティフは顔を隠してないからわかる人が見ればわかるだろう。

それに対して俺は・・・恐らくこの優顔が実力をわからなくさせている気がする。

虫も殺さないような優顔は警戒心を持たれにくく人の心に付け入りやすいが、逆に甘く見られがちでもある。


というか、このサハギンの群れを俺1人で戦えってことか?

レベル的に超格下だからぶっちゃけサハギンが何万体が来ても勝てる。

でも・・・、うーん面倒臭い。


だが・・・戦わなければ俺は甘く見られてアニキというNo.2に会わせないとか言い出しそうだ。

俺ははあっ・・・と大きくため息をついた。


「・・・わかりました。クロ助、じいさんのところへいてください。」

「ミャー!」

頑張って!という感じで肩の上で鳴くクロ助を掴んでじいさんに渡した。

「ほっほっ、遊んで来い。」

「ちぇっ!ユウジンちゃちゃっと終わらして来いよ。」

じいさんとマスティフは俺の実力をだいたいわかっているので余裕なのを察して軽く声をかけてきた。

「まあ、そうします。」

俺は軽く言ってサハギンの方に少し近づいた。


さて、どうやって戦おうかな。

1番簡単なのは、35体全部甲板に上がって来たところを罠魔法で首に爆発魔法をやれば一瞬で終わる。

だがそれだとレオニダたちがなにが起こったのかわからず俺の実力がわかりにくいだろうか。

ある程度戦う姿を見せた方がいいかもしれないな。

まあ、サハギンの連携というのがどんなものなのかもちょっと見てみたいかも。


そう思って腰の短杖1本を手に取ったところで・・・。


うん?サーチに反応が。


恐らく深海から水深2.5キロの範囲内に入ってきたから反応できたのだろう。

範囲内に入ってきたのは・・・これはどういうことだ?

・・・サハギンと関係があるのか、それとも無関係なのか。


俺は様子見をするためにサハギンと戦うことにした。




『我が前の敵を射て、ファイアアロー』


まだ距離はあるが返り血対策でローブに魔力を通して、短杖からファイアアローをサハギンに向けて飛ばす。

「ギシャアァ!」

向かっていった先のサハギンは三ツ又の槍でファイアアローを凪ぎ払った。

そしてその隣のサハギンが叫ぶと口から水の塊が俺に向かって飛んできた。

水の塊は矢の形をしているから恐らく中級水魔法のウォーターアローだ。

他のサハギンたちも次々とウォーターアローを飛ばしてきたが、俺はサハギンとは3倍近くレベルが高い上に付与のおかげで速力がとんでもないことになっている。

なので迫りくる複数のウォーターアローを余裕で避けられる。

避けながらこちらも応戦する。


『我が前の敵を射て、ファイアアロー×10』


俺の頭上にファイアアロー10本が出現してサハギンの元に飛んでいく。

適当に射ったファイアアローなのでサハギンたちに当たったかも確認せずに次の魔法を唱える。


『我が前の敵を射て、ウインドカッター×10』

『我が前の敵を射て、ロックバレット×10』


風の刃に石つぶてが次々とサハギンに向かっていく。

「ギギャア!?」「ギャ!?」

サハギンたちは次々来る攻撃に驚いて攻撃を受けたり戸惑いながらも槍で凪ぎ払ったりしている。

「「ギシャシャァァ!」」

サハギンの何体かがそう叫ぶと俺とサハギンとの間に薄い水の壁ウォーターウォールが出現して、続けて他のサハギンたちが叫ぶとウォーターアローが口から出てウォーターウォールを通り抜けてこちらに向かってきた。

俺はそれらを避けてウォーターウォールを見た。


ウォール系魔法は張った術者や仲間の攻撃などは通すが敵の攻撃などは通さない。

そうすればこちらの攻撃はウォーターウォールで防げて遠距離からウォーターアローで攻撃できる。

もし敵がウォーターウォールに近づいてきたら槍で攻撃すればいい。


「なるほど。連携がうまいとは聞いてましたがなかなかいいですね。」

俺はサハギンたちにニコリと微笑んだ。

「ですが、この攻撃には耐えられますか?」


俺は無詠唱でファイアスピアを1本、頭上に出現させた。

魔力を通常よりも少し多めに込めたファイアスピア(といっても俺のMPとしてそこまでの量ではないが)は通常よりも倍近く巨大化してボウボウと炎が燃え盛っている。


「「ギャシャ!?」」

ファイアスピアに驚くサハギンたちに向けて俺は指を差し放った。


ゴオオオオオォォォォォ!!


ファイアスピアは轟音をあげながらウォーターウォールに突っ込み、ウォーターウォールはパンッ!という軽い音を立ててあっさり割れた。

そしてファイアスピアの進路上にいたサハギンたちを次々と串刺しにして焼き炭にしていった。


「・・・ふむ、これでも10体しか倒せませんできたか。」

俺はすぐにサーチで残ったサハギンたちを把握して、10体が倒せて25体が残っているのをすぐにわかった。

「でもまあ、サハギンとの戦いはわかった感じですかね。」

俺はなんでもないように言いながら持っていた短杖を腰にさして後ろで見守っていたじいさんらの方へ向かった。

「おいおいユウジン!まだサハギン残ってるぞ!?最後まで戦えよ!?」

マスティフは慌てて俺に言ってきたが、俺はふんっと鼻で笑った。

「そのつもりで距離を取ったんです。すぐにサハギンどころじゃなくなりますから。」

「は?」


「お、おい!?どういうことだ!?」

レオニダが戸惑った顔をして聞いてきた。

「サーチで下から来るのがわかりましたから。ちょっと甲板のどこかにつかまっといた方がいいかもしれませんよ。」

「ちょ、なに言って―――――――――」


ズゴゴゴゴゴゴゴ・・・

バシャアアアアアアァァァァン!!


地鳴りのような音がしたかと思ったら甲板の先の海面が突如大きく盛り上がった。

そして出現したのは波よりも高く甲板など見下ろせるほどの巨大な魔物であるのが誰が見ても一目でわかった。


黒く光る体に吸盤のついた10本の脚がうねり、ちらりと見える目は真っ黒でギョロリと俺たちを見ていた。



7~8メートルはおろうかという巨大なイカ、クラーケンがそこにはいた。





6月21日、マスティフが持っている力の大剣の効力がまったく生かしきれてないので「任意で一時的に速力を攻撃力に換算する」を「攻撃力と大剣術が強化される」に変えました。

具体的に攻撃力がどのくらい上がったかは今のところ秘密です。

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