253、悪魔はイルヴァルナスに戻ってくる
「こりゃ美味い!」
「美味しいー!」
「これは美味いのう。」
パプリカとトマトを試食してみた俺たちは一口食べて美味しさに驚いた。
なんの調味料もつけずに食べてみたのだが、パプリカはシャキシャキしていて爽やかな甘味があって、トマトは甘くてほどよい青臭さが残ってて美味い。
「お、じゃがいもも茹であがりました。」
俺は炎と水の塊を消して風魔法でそれぞれの皿に茹であがったじゃがいもを乗せてった。
さすがにじゃがいもはそのままはアレかと思ってアイテムから塩の瓶を出した。
「あちちちち!・・・ん!う、美味い!」
「ホクホクしててこっちも甘味があって美味しいわ!」
皆悪戦苦闘しながら熱々のじゃがいものの皮を剥いで塩をふって食べて口々に美味しいと言った。
確かに甘味があって舌触りも滑らかで美味い。
「これは成功ではないかのう。大きさも普通より大きく量も多くその上、味もいい。」
「そうですね!成功どころか大成功ですよ!それもこれもユウジンさんのおかげです!」
コルネリアスはそう言ってものすごく頭を下げてきた。
「いやいや、コルネリアスの農業への意欲があってこそです。俺はたまたまアイデアを持っててちょっと手伝ったにすぎませんから。」
「ちょっとどころか!こうしてヒスランさんたちも連れてきてもらいましたし、ユウジンさんはこれからのエルフにとっての恩人です!」
お、恩人?・・・それはいくらなんでも言い過ぎなような。
「それにしてもこんなに美味しいものがたくさん採れてよかったです。これなら喜んで半分量をユウジンさんに差し上げられます。」
それは俺が色々とやった礼として俺が欲したものだ。
チラッと見ただけで野菜や果実が各種1かごに約50個ずつ入っていてそのかごが30箱はある。
だがまだ収穫は終わってないから恐らく最終的に50箱ほどになりそうで、そうなると25箱ほどをもらうことになる。
本当にアイテム収納魔法持っててよかった・・・。
それからも収穫を続けて、結界ハウスの中の作物を取り終えたのは夕方に差し掛かった頃だった。
俺の見立て通り50箱ちょいで、半分は約束通りもらったのでアイテムに入れて、残りはコルネリアスが村人を結界ハウス前に集めて配っていた。
それでも大分残っていたので役場で今日のところは保管して、明日にでもエルフ領でも結界で野菜や果実が作れることをエルフ長に報告するためにシルバーエルフに持っていくそうだ。
そして翌日。
ヒスランとカルドは2人で話し合って正式に移住することに決めたそうだ。
となるとちゃんとした引っ越しが必要となり、俺はヒスランたちとイルヴァルナスの村に戻って荷物をまとめてアイテムに入れてって、カルドが両親にエルフ領に移住することを話した。
カルドの両親は心配はしていたそうだが「あんたたちが決めたのなら応援する」と言ってくれて手紙の約束をしたそうだ。
そしてグリーンエルフに戻ってくると今借りている部屋をそのまま住むことにコルネリアスがしたようで、俺は引っ越しの荷物を出した。
一応結界ハウスの様子も見たかったので近いうちにまたグリーンエルフに来るつもりなので不都合などがあったらその時聞くとヒスランたちに言っといた。
こうして昼にはヒスランたちの引っ越しも落ち着いたので俺たちはグリーンエルフから出ることにした。
「皆さんありがとうございました。」
「また来てね!ご馳走するわ!」
コルネリアスは丁寧に頭を下げてきて、ヘンリエッテは元気よく手を振ってきた。
因みにこの日からの結界ハウスはコルネリアスの信頼できる知り合いのエルフ数人が結界に入っていて、今後はコルネリアスの指示とヒスランらの指導の元、農作業を手伝ってくれたりするらしいので人手の心配はないそうだ。
馬車でグリーンエルフを離れてしばらく、御者をしていた俺は馬車を止めた。
「さて、こんだけ離れたらいいでしょう。移動魔法使いますよ。」
「おう!」
「わかった。」
後ろのマスティフとじいさんに声をかけて俺は移動魔法を使って馬車ごとエルフ領とイルヴァルナスの間にある関所の近くに移動した。
そして関所に近づく。
俺が帰るといってイルヴァルナスの首都に直接移動魔法で帰らなかった理由はこの関所にあった。
関所は出入国を許可証でしっかりと管理しているので、通らないとずっとエルフ領にいることになってしまって滞在期間が過ぎてしまう。
そうなるとエルフ領内に大規模な捜索が入る可能性が出てきてそれをきっかけに下手をしたら国際問題になりかねないことになりそうなのだ。
正直、国際問題とかぶっちゃけ俺はどうでもいいが、せっかく野菜や果実が育てられるようになったのに余計なことで滞ってしまってはもったいない。
まあ、関所を通ってしまえば移動魔法を使えるからいいんだが。
こうして俺たちは問題なく関所を通過した。
そして関所トンネルを通って俺たちは防寒具を脱いで関所が見えなくなるところまで馬車を走らせて、俺はまた馬車を止めた。
「イルヴァルナスに帰ってきました。とりあえず首都に移動しますか?」
「特に首都に用があるわけではないのなら、別荘に行かんか?すぐにくつろげるぞ。」
それはそうだな。
俺は一応首都に用はあるが、急ぎではないからどっちでもいいし。
「わかりました。では別荘の裏手の人目につきにくいところにしますね。」
じいさんとマスティフが別荘に着いた時に裏手から来たのを思い出して裏手から入る方がいいだろうと思った。
じいさんは有名人だから表から入って目立ちたくなかったのかもしれない。
そして別荘に移動した。
「おおっ!久しぶりに帰ってきたなあ。」
「しばらく寒いところにいたから空気が暖かいのう。」
「それにしてもユウジン、魔力は大丈夫なのか?朝から引っ越しとかここまで来るのに4回も長距離を移動魔法使ってるけど。」
普通の魔法使いならまずこの長距離の移動魔法は魔力が足りなくてできないしできたとしても1日1回くらいが限度だろう。
だが俺は元々高いMPの上に(×8)だから1日6回くらいなら余裕だ。
さらに『回復の指輪』のおかげでしばらく待つだけでMPが全回復する。
俺としてはまったくの要らぬ心配なのだが、バレたら面倒臭いと思ったので「後1回くらいなら大丈夫です。」と言っといた。
別荘に入った俺たちは各自部屋に向かってしばらくゆっくりすることとなった。
俺はじいさんの指示で執事が用意してくれた客人用の部屋に通してもらって、くつろぐことにした。
俺は魔力を使ったということでくつろがせてもらうことにしたが、じいさんとマスティフは馬車にちょっと乗っただけで別荘に着いたので別に疲れている訳ではない。
なのでマスティフは別荘の裏手の庭のようなところで筋トレを始めて、じいさんは留守の間に来ていた手紙やらを見ているようだった。
さて、俺はここのところのんびりできなかったもんな。
ちょっと昼寝でもしようかな。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、肩のクロ助もくわっと欠伸をした。
「クロ助も昼寝をしますか?」
「ミャー!」
賛成!という感じで鳴いて肩からベッドに飛び乗ってフミフミしだした。
そうして俺はマスティフが暇すぎて「模擬戦しようぜ!」と押し掛けてくるまで昼寝をした。
その日の夜。
豪勢な夕食をいただいて立派な風呂にも入ることができて満足した俺は涼みに別荘の裏手の庭に出た。
昼間にマスティフが筋トレしていたところで、別荘の表からは一切見えない位置にあるので庭をウロウロしていても観光客に見られる心配はない。
じいさんの別荘ということで警備もしっかりしていると思ったので俺はローブセットをアイテムの中に入れてズボンにシャツだけというラフな格好だ。
肩にはもちろんクロ助がいてクロ助は俺がさっぱりした雰囲気を感じ取ったのか自分もと顔を洗っていた。
「・・・おや?」
「おお、ユウジン。」
庭の花壇の前のベンチにじいさんが座っていた。
なにか考え込んでいるような感じだったが、俺に気づいてニコッと笑ってきた。
「なにか考え事ですか?」
「うむ。・・・ちょっとのう。」
じいさんはなにを考え込むことがあるんだろう?
「気になることがあってのう。」
「気になること?」
「・・・悪魔教のことじゃ。」
悪魔教のこと?
「悪魔教は最高指導者がいなくなって壊滅しました。今さらなにを・・・?」
「・・・わしが追っていた悪魔教の男が見つかっておらんのだ。」
その一言であることに気がついた。
「・・・じいさんの奥さんと長男さんを殺した男、ですね?」
じいさんは悪魔教に奥さんと長男を殺されている。
が、奥さんと長男を殺した男はある日突然消息を絶ったのだ。
じいさんはその行方を追いながら悪魔教を壊滅させていったのだが、悪魔教信者でさえその男の行方はわからないようだった。
悪魔教幹部サードことヴェリゴが捕まった後に面会したのは最高指導者の情報を聞き出すことはもちろん、ヴェリゴは悪魔教の人事を担当していたのでこの男の行方を知っていたら聞くためもあったのだった。
じいさんはふっと苦笑した。
「さすがユウジンじゃ。それを把握しておったか。」
「鑑定魔法を最高までありますから鑑定した人の過去もある程度わかるようになってますから。」
俺はヴェネリーグでじいさんに鑑定魔法をかけた時にウィキを読めるようになったので後日内容は読んだ。
「正直、俺の中では悪魔教は壊滅したことで残党が残ってようが興味がなくなりました。やることがなくなってどうしようか考えてます。まあ、とりあえずしばらくはここを拠点に冒険者をやってこうかなと思ってはいますけど。」
「そうか。わしは明日から悪魔教についてもう1度調べてみるつもりじゃ。やることがなくなって気が向いたら手伝ってくれるかのう?」
「・・・考えておきます。」
そうして俺は部屋に戻ったが、じいさんはしばらく庭にいたようだった。
 




