25、悪魔は好感度をあげることにする
朝。
いつものように罠魔法の雷魔法で起きて食堂に行くと、やはりローズさんが待ち構えていた。
「おはよー、おチビちゃん!あら!首輪買ってもらったのかい!?似合ってるじゃないか!」
「ミ、ミャー」
「ふふ、おはようございます、ローズさん。」
「おはよう、ユウジン。あんたセンスいいわね。」
「ははは、ありがとうございます。やはり首輪がないと野良猫と間違われてはいけませんし、拐われでもしたら大変ですから。」
「だから防犯でチャーム着けてるのかい。うんうん、ちゃんとしてるね。」
席に案内されると、早速朝食セットが出てきて、クロ助にミルクが出てきた。
それを食べていると次第に人が増えて来たが、昨日ほどではなく半分くらい席が空いていた。
それからしばらくして、アシュアとレフィが食堂に来た。
「あっ!!クロ助、ユウジン!おはよう!」
アシュアはこちらに気付くと元気よく挨拶しながらやって来た。
「おはようございます、アシュア、レフィ。」
「おはようございます。」
昨日のステータスのことがあってう゛っと来るものがあったが、得意の笑顔を張り付けて挨拶すると、いつもの無表情でレフィも挨拶した。
「ねぇ、私たち2人だけで食べててもなんだし、また相席していい?」
「だ、大丈夫ですよ。」
なんかフラグが立ちそうな予感だったが、これで断るのも変に思われるのでにこやかに了承した。
アシュアは素直にヤッターと喜んで、クロ助に近い席にアシュアが座り、その隣の俺と対面になるような位置にレフィが座った。
因みに席は4人席で丸テーブルだ。
そして朝食セットが来た2人は食べ始めた。
昨日は動揺してちゃんと見てなかったが、2人ともものすごくテーブルマナーができていた。
なんならそこからバレるんじゃないか、というくらいきれいに食べていた。
「ところで昨日、ユウジンはなにか依頼を受けた?」
「いえ、昨日は首都に来たばかりだったので、観光してました。東側の武器防具屋、面白かったです。」
「あ、それ私も思った!あの金ピカ全身鎧いいわよねえ~。ほしいわあ~。」
「え!?」
あれほしい奴がここにいたか。
「・・・いやいや、あれなんて装備してたら魔物のかっこうの的ですよ。しかも金なんて硬度そんなにないですから、すぐ壊れますよ。」
「えっ!?そうなの!?」
「・・・アシュア、だから言ったじゃない。買ったらダメだって。」
「それならそうとちゃんと説明してよ、レフィ!えー、ショック~。」
アシュアはしょげてしまった。
そんなにほしかったという方が俺には驚きなんだが。
やはり金持ちは金ピカなもんが好きなのかねえ?
「と、ところで、アシュアとレフィはなにか依頼を受けたんですか?」
俺が話題をすり替えると、レフィはこくりと頷いた。
「はい。この近くの森に出るオーク討伐をしてきました。」
この近くにオークが出るのか。
でも人型だからあんまり率先して倒しにいきたくはないかな。
「オークだったら、お金になったんじゃないですか?」
確か人型なのに高級豚肉として流通しているはず。
ラノベはそうだった。
するとしょげていたアシュアががばっ!と勢いよく顔を上げた。
「それが最近、オークの村が見つかったみたいでね。村はいくつかの冒険者パーティで壊滅できたみたいだけど、そのオークの肉が一気に市場に流れてきちゃったもんだから、価格破壊が起きてオークって今買い取り額がものすごく安いんだって。それ知らないで私たちオーク討伐やっちゃって・・・。本来なら1体2万インなのに、今回もらったの、1体1000インにもならなかったの!ショック~!!」
そう言ってアシュアはまたしょげた。
そんなことがあったのか。
まあ、俺も下手したらクレイジーボアを価格破壊させるところだったから、他人事には思えないな。
「それはそうと、今日はどうするの?」
しばらくしたら復活したアシュアはそう聞いてきたが、正直なところ首都に目的があって来たわけではないからなにをしようか?という感じなのだ。
「とりあえず、冒険者ギルドで依頼を見てから決めようかと思っています。アシュアとレフィは?」
「私たちもそう。お互い、いい依頼があったらいいわね。」
「そうですね。」
俺は一足先に食べ終えたので、クロ助と食堂を後にして一旦部屋に戻った。
「やりたいことはあるんだけど、ねえ?」
「ミャー?」
クロ助は首を傾げていたが、俺のやりたいことはこの世界に来て1つだけ。
この世界の人間の絶望を見たい。
それだけ。
でも今のところこの首都に絶望させたい奴がいないから、つまんないんだよなあ。
まあ、来て2日しか経ってないからしょうがないんだけどね。
とりあえず冒険者ギルドに行って依頼を見て考えよう。
俺は身支度をすますとクロ助を肩に乗せ、宿屋を出て冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドは昨日と変わらずで、酒場に多くの冒険者がいて、掲示板に大量の依頼が張られていた。
箱の依頼は減ってないような気がする。
おそらく冒険者たちは張られている掲示板を優先しているのかもしれないな。
掲示板の依頼は同じような討伐依頼でなんとなく面白くなさそうな気がして、箱の依頼をパラパラめくってみた。
ふむ・・・、やはり変わった依頼や怪しい内容の依頼がここにたまっているという訳か。
1番古いのは・・・・・・10年前!?
経ちすぎじゃないか!?
依頼人はじいさん!?死んでないか!?
っていうか依頼人でさえ覚えてないんじゃないか10年前なんて!?
・・・ふむ、やはり箱の依頼から選んだ方が面白そうだ。
レベル上げもしたいことはしたいが、それはまあヴァンパイアロードを倒して爆上がりした今は余裕が出ているからその内するとして。
絶望させる人間を見つけるにはまずはなるべく多くの人間と知り合わないと。
それを考えると依頼人と対面する依頼がいい。
それに、箱の依頼をわざわざ選んで解決させたら、いい人のイメージがますますつくから、絶望させた時により絶望してくれるわけだ。
それにもし万が一、俺がなにかヘタこいてもいい人イメージで揉み消せたりもできるしな。
よし、と決めると俺は依頼を一つ一つ読んで依頼を確認していった。
依頼内容が今の俺のステータスで可能なものや依頼人がはっきりしているものなどを選んでいくので時間がかかり、その間にも掲示板の依頼は次々と減っていった。
「あれ?ユウジン?」
ふとそんな声をかけられたので声の方を見ると、アシュアとレフィがいた。
「ユウジンなにやってるの?」
「なにって、依頼を選んでるんですよ。」
「掲示板の依頼を受けないの?」
「掲示板の依頼は討伐依頼ばかりで、それ以外でなんかないかなあ、と思いまして。」
「えー、討伐面白いじゃない。その箱の依頼、怪しい依頼ばかりでやんない方がいいわよ?」
「いいのがなかったら、討伐しようかなと思ってます。アシュアとレフィは討伐依頼受けるんですか?」
「うん!魔物をやっつけるの、楽しいもん。」
そう言ってアシュアは掲示板を覗きこみ始めた。
なんとも物騒なお姫様だなあ。
ストレス解消とかかねてるのかな?
ふと、レフィがこちらをじーっと見てきていた。
「?どうしたんですか、レフィ?」
「・・・いえ、なんでもありません。失礼します。」
レフィは一礼するとアシュアに近寄って、どの依頼にするか話し合い始めた。
ううん?なんか気になることがあったんだろうか?
正体が暗殺者なだけに、なんかヘタなことをやったのかと思ってしまうが、今のところ俺はそこら辺の冒険者その1のはずだ・・・多分。
ほどなくして2人は討伐依頼でなにかを選んだようで、挨拶してギルドを出ていった。
俺もそれから少しして選んだ依頼を持って、カウンターに向かった。
「あの、すいません。」
「あ、はい。」
受付には美女職員がいた。
清楚系な感じで、多分ここのアイドルではないだろうか。
「依頼は最高いくつまで同時に受けられますか?」
「えーと・・・5つまでですね。でもなるべくなら1つずつ受けられることをオススメしますね。」
「それはなぜですか?」
「1つの依頼になにか支障が出た場合、他の依頼に影響が出るからです。後、依頼をすっぽかす可能性が高いらしいんです。」
「それはいっぱい受けてどれがなにだかわからなくなって忘れて・・・ってことですか?」
「そうです。」
なるほど、では数日に分けて受けるとしよう。
どうせ箱の依頼は誰も受けないようだし。
「では、この2つをやりたいのですが。この2つなら大丈夫と思いまして。」
美女職員は依頼書を見て、えっ!?って驚いた顔をした。
「ほ、本当にコレ受けられるんですか!?箱の依頼ですよね!?」
「ええ、受けようかと思いまして。」
俺が冒険者カードを出すと慌てて確認してなにかに記入していた。
そしてカードと依頼書を受け取り、俺は訝しい目でみてくる美女職員に目もくれずギルドを後にした。
すごい不審な目で見られたな。
やっぱり率先して箱の依頼を受ける者はいないようだ。
だからなにか企んでるのではないかと疑ってきたのかもしれない。
まあ、依頼内容も内容だからね。
さて、頑張りますか。




