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239、悪魔は頼まれる

「お、ユウジン。」


トリズデン王国から移動魔法で帰ってきた俺が宿屋の部屋に入るとじいさんだけがいた。

どうやら読書をしていたようでテーブルにはいくつも本があった。

「この本、どうしたんですか?」

「城に所蔵されていた数百年以上前の歴史書じゃよ。アレクサンディルス殿に借りてのう。我々人間たちの数百年以上前の歴史書なんぞいずれも国の蔵書で王族でないと読むことはほとんどできんが、エルフにとっては数百年以上前は近代なようでアレクサンディルス殿が気軽に貸してくれたわ。色々と書いていて面白いぞ。」

数百年以上前が近代扱い・・・。

まあ、アレクサンディルスが3000歳なんだから数百年前なんてこの間くらいの感覚なんだろうな。

「ところで、ベネディクティスについては発表はありましたか?」

「まだじゃ。が、もうすぐじゃないかのう。」



その日の夕方、ベネディクティスについての罪状がやっと決まったようで発表があった。

アレクサンディルスによりベネディクティスが助けた人間に対して残虐行為を行っていたこと、そして世界樹を守る手助けをしてくれた人間の1人に対する殺人未遂を行ったことが明らかになり、ベネディクティスは極刑とすることとなったと発表された。

ここエルフ領でベネディクティスは人間の国で言う王子の位置付けに似たポジションなので「急病により~なんたらかんたら~」と表向きの発表をして裏では密かに極刑を施行となるのが人間の国ではやりそうなところだが、エルフ領はそこは結構はっきり明らかにするようだ。

人間の国に比べて人口が少ないことや種族としての結びつきが強いこと、それにアレクサンディルスの性格もあっての今回の正直な発表となったのだろう。

ただ、悪魔教が絡んでいたことはアレクサンディルス一族と代表たちのみ知るだけで発表はなかった。

まあ、もう壊滅した宗教が絡んでいたことなんて無駄に混乱させることとして伏せられたのかもしれない。


ベネディクティスが極刑になったのは間違いなく俺を殺そうとした狂気をアレクサンディルスがしっかり見たからだろう。

そうじゃなかったらアレクサンディルスは性格的に息子に極刑など下さないし、代表たちから「あなたの息子は極刑にした方がいい」なんて提案が出るはずがない。

極刑は今回の発表が落ち着いた頃に誰に見守られることもなくひっそりと行われるそうだ。

極刑が行われる前に1度ベネディクティスに会いにいこうかな。

絶望した顔をしてそうだからな、それはぜひ見ておきたい。


俺とじいさんは発表を部屋で聞いていた。

なので発表を聞いたエルフたちの反応はどうだったかはわからない。

まあ、明日にでも宿屋の店主ウルナさんにでも聞いてみようかな。



「・・・そういえば、マスティフはどうしたんです?」

そろそろ夕食時となって、俺はじいさんに聞いてみた。

「いつものように近くの森に魔物を倒しにいったはずじゃがのう。そろそろ戻ってくるはずじゃぞ。」

その時、ここの部屋に向かってくるドタドタという足音が聞こえてきた。

そして勢いよく部屋のドアが開いた。

「ユウジン!お、いた!」

マスティフは騒がしくやって来た。

ベッドに座ってくつろぐ俺を見つけて近づいてきた。



「ユウジン!コルネリアスのこと手伝ってやってくれよ!」



マスティフはそんなことを急に言ってきた。

「は?手伝い?」

「そうそう!さっき俺、コルネリアスに会ったんだよ。」


マスティフは近くの森で魔物を倒して運動した帰りにベネディクティスの発表を宿屋への帰り道の城の前で聞いたそうだ。

その発表が終わってすぐに代表たちが城から出てきて、マスティフはコルネリアスを見かけたから声をかけてその場で世間話をしたらしい。

「コルネリアス、前に野菜のこと言ってただろ?この地で育つ方法を探してるって。」

そういえば言っていたな。

「それがどうもいいアイデアが浮かばないって悩んでるみたいだったんだよ。んて、あん時ユウジンがなんか思いついてたのを俺は思い出してさ。」

・・・うん?ちょっと待て、まさか。

「多分ユウジンなら手伝えるかもしれないぞって言ったんだ。そうしたらすっげえ喜んでくれてさ。ぜひグリーンエルフに来てくれってさ。」

「は!?」


なんでそういうことを言ったんだマスティフ!?

「なに言ってんですかマスティフ!?俺は手伝える訳がないでしょう!?」

「えー、でもあん時、確か・・・じいさんに聞いてみないとわからないけど、みたいなこと言ってただろ?だったらじいさんに確かめたらできるかもってことだろ?」

チッ、勘が鋭い。

確かにあの時はビニールハウスを思い付いてはいたが。

じいさんに確かめるのも面倒臭いと思って結局聞いてないのに・・・。


「なんじゃ?わしに聞いてみないのわからないこととは?」

「いえ、ちょっと思いついたのが俺が使えない魔法でじいさんの使ってる魔法だったので後で聞こうと思っていたのですが、忘れてました。・・・ですが、ちょっと待ってください。そもそもなぜコルネリアスの手伝いをしなければいけないんです?俺たちはもうエルフ領には用はないのですから人間の国に帰る予定じゃないですか。」

元々はベネディクティスの罪を聞いてから帰ろうとなっていたから、罪が発表された以上は明日から帰るつもりだ。

エルフ領の滞在期限にまだ余裕はあるけど、ギリギリまでいる用事もないんだし。


「いやいや、手伝ってこうよ。こうやって知り合ったのもなにかの縁だし。ユウジンのアイデアでエルフたちが野菜を育てられるようになったら商人たちからだけ野菜を買う必要なくなるからいいと思うんだけど。」

「ふむ、そうしたらイエローエルフのように悪い野菜を売られても野菜を育ててるなら断れるじゃろう。そうなると自然と商人はいい品質の野菜を持ってくるようになったり野菜以外のものを売るようになってエルフたちの生活はよくなるかもしれんのう。」

確かにエルフたちの生活はよくなるとは思うけど、だといっていくらエルフたちの生活がよくなったところで俺とは関係ない。

それに面倒臭い。

だが・・・この2人がそれで引き下がるとはまったく思えない。


「なんじゃ、ユウジン手伝ってやれんのか?おぬしのことじゃからもうエルフ領に興味がないのかもしれんが、これも飯をご馳走になったと思えばええじゃろう?それに先に恩を売っておくという考え方もできるぞ。」

・・・まあ、確かにご馳走だけでなくベネディクティスがエルフ長の次男であるなど色々と話してくれたもんな。

それに・・・恩か。

「お主は困っている人のために動くというのが得意ではなさそうで、なにかないと面倒臭いと思いそうじゃからのう。」

・・・さすがじいさん。

俺の性格を見抜いてあえて恩を売っておくという言い方をしたのか。


「・・・わかりましたよ。確かに先に恩を売っておいて損はないでしょうしね。じいさんやマスティフがそこまで言うなら手伝いますよ。」

「お!やったー!」

「どうせ明日人間の国に帰る予定でしたから、グリーンエルフに寄ってコルネリアスの用事がすんだらそのまま南に向かってエルフ領を出るようにしましょう。」

「そうだな。」

「うむ。」


こうして俺たちは人間の国に帰る帰路の途中でグリーンエルフに寄ることになった。



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