234、悪魔は知らない間に
フィオレンツォ寄りの三人称視点で、ちょっと短いです。
村の入り口に駆けつけたフィオレンツォはとんでもない光景を見て固まってしまった。
フィオレンツォは村人の避難などの指示を一通り終えて施設長室に戻ると、ベアトリーチェとユウジンがいないことに血の気が引いた。
そして慌てて施設を飛び出して村の入り口に向かったのだ。
「ああ!ベアトリーチェ様が行動力がある方だという認識が抜けていた!だとしてもいつの間に施設から出られたんだ!?それにあの護衛の男は何をしていたんだ!護衛の癖に、ベアトリーチェ様を止めなかったのか!?」
フィオレンツォはそもそもユウジンのことは一目見た時から・・・いや、噂で聞いた時から気に入らなかった。
長年治せなかったというベアトリーチェの火傷を治したという人間の男。
それどころか今回の施設訪問に際して共に来たというのも気に入らなかった。
なぜならベアトリーチェは今まで高い魔力と有り余る行動力のため1人で行動していた。
だから誰かと来たというのは実は前代未聞のことだった。
フィオレンツォは成人前にたまたま施設に手伝いに来た際にベアトリーチェに一目惚れした。
苦しむ患者に一人一人回復魔法をかけながら寄り添い、話を聞いて励ます姿は聖母と思うほど美しかった。
一目惚れしてからは施設に足しげく通うようになり、積極的に話しかけてベアトリーチェと気軽に話せるほど仲良くなった。
火傷を負ったあの事件の時は当時の施設長に言われて患者の救助をしていて、ベアトリーチェが火傷を負ったというのを聞いたのはしばらく経ってからだった。
成人前の無力な自分をわかっていながら、あの時ベアトリーチェの側にいたらと後悔した。
火傷が治ったらすぐに施設に帰ってくるだろうと施設の手伝いを続けて、成人すると施設で働くことを決めた。
だが、ベアトリーチェは帰ってこなかった。
見舞いに行った当時の施設長が「火傷がなぜかなかなか治らないらしい」と聞いて火傷を負わせたあの男を憎んだ。
だけどあの男はベネディクティスが殺したと聞いていた。
だったら自分が治したいと思った。
そのためフィオレンツォは魔物を倒してレベルを上げて光魔法を上級まで取得して、様々な文献を読み漁って火傷を治す方法を模索した。
そうしているうちに当時の施設長が建物の改築を機に、フィオレンツォに新施設長にならないかと持ちかけてきて、フィオレンツォはすぐに了承した。
施設長になればベアトリーチェが帰ってきた時に誰よりも近くにいれると思ったからだ。
それに施設長として堂々とベアトリーチェに見舞いに行ける。
約200年ぶりに会ったベアトリーチェは相変わらず美しい姿でベネディクティスが側についていた。
フィオレンツォは新施設長としての挨拶と共に火傷を治したいうむを伝えた。
だが、上級光魔法など効かないことはもちろんあらゆる薬も効かないことを聞いて自分のしてきたことは無駄だったと絶望した。
それでも自分が治す方法を見つけ出して、ベアトリーチェを救いたいという思いは消えなかった。
だからベアトリーチェの火傷が治り、それが人間の男が治したと聞いて横取りされた気持ちになったのだ。
だが、実際にユウジンに会ってみてフィオレンツォの印象はなんとも優しい顔の男だと思った。
顔立ちはもちろん体も強そうに見えず、非力と言われているエルフですら殴り合いになっても勝てそうと思えるほどだ。
腰に2本の短杖をさしているが、普通は短杖1本のところを2本持っているとはよほど短杖に頼らないと魔法が撃てないのかもしれないと思わせた。
それに美しい容姿が特徴のエルフのフィオレンツォと比べるほどの容姿でもない。
ということは、この男は支援役か回復役が得意なだけなのだろうとフィオレンツォは判断した。
「これは完全に勝った」と鼻で笑ったのだった。
・・・だが、フィオレンツォは今、それを見誤ったと思った。
フィオレンツォが村の入り口に着くと村人の集団とベアトリーチェの後ろ姿が見えた。
集団とベアトリーチェの向こう側になにかあるのかと思っているとフィオレンツォの目に黒いもやのような大きな獅子とユウジンの後ろ姿がチラリと見えた。
そしてユウジンは無詠唱で頭上にたくさんのファイアスピアを出した。
黒い獅子がものすごいスピードで駆け出して次々とサーベルタイガーを殺していき、それに続いてユウジンがファイアスピアをイエティに向けて放って、あっという間にイエティは胴と足だけになって燃えてサーベルタイガーは首から上ばかりを攻撃されて倒されていった。
あまりに信じられない光景にベアトリーチェも村人たちもポカンとしていた。
もちろんフィオレンツォもである。
気を取り直したフィオレンツォは慌てて村人たちに指示を出して周辺にまだ魔物がいないか探ってもらったが、いないということで施設に戻った。
「一応、今日はこのまま避難させたままでいいのではないですか?先程の魔物の群れが全てとは限りませんから、今日は警戒を緩めない方がいいかと。」
フィオレンツォは納得してユウジンのその意見に賛同して避難してきた村人たちに事情を話し、今日は一応施設に泊まることとなった。
「となると村の入り口の魔物の死体を片付けなくては。血の臭いで別の魔物が来てしまうかもしれない。」
フィオレンツォがそう言って村人に指示を出そうとするとユウジンが止めてきた。
「それでしたらイエティの死体は土魔法で埋めてサーベルタイガーの死体はアイテムに入れました。血も土魔法で覆ったので魔物が集まることはないと思います。」
「は?アイテム?」
ずるりとユウジンはサーベルタイガーの死体をどこからともなく出してきた。
「サーベルタイガーは肉が食べられますよね。だから頭しか狙ってません。捌いて村の皆さんの今日の夕食に使ってください。」
「・・・。」
無詠唱でたくさんのファイアスピアを出してイエティを瞬殺し。
飼っているペットを獅子にしてサーベルタイガーを瞬殺させ。
あんな魔法を使った後だというのにケロッとして冷静に後のことを考え。
アイテム収納魔法持ちで。
サーベルタイガーの肉を食べられるからと頭だけ狙うようにして。
自分が討伐した肉を無償で村人の夕食に提供する。
・・・どこが支援役か回復役だ。
見た目で自分は判断しただけで、勝手に勝った気でいたのだとフィオレンツォは気がついた。
「・・・ユウジンさん、とてもかっこよかったです・・・。」
ベアトリーチェはうっとりとユウジンを見て微笑んで、ユウジンは笑顔が引きつっていた。
ベアトリーチェの頬を染めユウジンを見つめる姿を見て、フィオレンツォはふっと苦笑した。
「・・・負けた。」
「は?」
ユウジンは訳がわからないという顔をフィオレンツォに向けたが、フィオレンツォは清々しい笑顔でなんでもないと言った。
「ですが・・・次は負けません。」
「は?え?」
はて、なんでフィオレンツォの恋バナなんて書いたんだ?笑
次は・・・とか言ってましたが多分フィオレンツォもう出ません。
だってそろそろエルフ領を出るから。
 




