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閑話 ベアトリーチェの呪い3

最高指導者は鼻から上がひどい火傷で髪は1本もなく後頭部から背中にかけて焼けただれていた。

目はかろうじて片目が見えているが、もう片目は潰れていて生きているのが不思議なほどだ。


「この姿はマリルクロウ・ブラックが住まいに襲撃してきて逃げる際に爆発魔法を食らったものじゃ。部下が回復魔法をかけながら山脈まで逃がしてくれたおかげで山脈は越えられたが、痛いし片目は潰れるわでひどいもんじゃ。」

口元を緩める最高指導者だが、正直見た目はかなり醜い。

部下の回復魔法のおかげで山脈を越えられたようだが、十分にかかってないのか所々膿んで見ただけでもかなり痛いと思われる。

このエルフ領にも"黒の一族"の名も悪魔教という宗教の噂は流れてきていた。

イルヴァルナスから来る商人たちが多くのエルフたちに話してそれが広まっていたのだ。

ベアトリーチェもベネディクティスから聞いて知っていたので、老人が最高指導者と聞いてとても驚いた。


ベネディクティスは呆然と最高指導者の火傷を見ていたが、ハッとして口を開いた。

「・・・なぜその火傷を隠しているんです?治療院で治療してもらったら・・・」

「治してもらったところでわしはもうこのような老体じゃ。回復しても人間の国に帰る訳にもいかんしここに住むにも老体にこの寒さはキツい。どちらにしてもここで生涯を終えることになるじゃろうて。」

まるで他人事のように自分の死期を言う最高指導者にベネディクティスは返す言葉もなかった。

事実、火傷が回復してもこの寒さに耐えられる体力が最高指導者にあるように見えないほど、治療した手や足は痩せ細っていたからだ。


最高指導者は懐からなにかを出した。

「これをおぬしにやろう。わしの死後、好きに使うといい。」

それは無色の魔石であった。

「これは?」

「人間の国にいる第1幹部のファーストと連絡がとれる通信の魔石じゃ。幹部は3人、ファースト・セカンド・サードと呼びファーストは代わったばかりの若造じゃ。わしとは数度しか話してないから声が変わったところで気付くことはないじゃろう。尊大な神官のような口調でしゃべればバレん。」

「・・・。」

それは・・・代わりになってもいいということ?

ベアトリーチェと同じことを思ったようでベネディクティスは通信の魔石を受け取りながらも戸惑ったような目で最高指導者を見た。


「わしは人間を憎んで悪魔教を作れたし、同胞もたくさんできて世の中を混乱に陥れるほど人間を殺すことはできたと思っておる。マリルクロウ・ブラックという天敵に追われこういう目に合ってまで逃げる己にもう・・・疲れたのじゃよ。」

最高指導者のその言葉はもう楽になりたいというようなニュアンスに聞こえた。

「だが・・・それでも人間を憎い気持ちは消えんままじゃ。じゃから、この気持ちを悪魔教に託そうと思う。幹部が人間の国にいる限り、悪魔教はまだまだ人間を殺すことはできる。悪魔教が人間を殺せばわしの憎しみはこの世からなくならん。それだけを希望にわしは生涯を終えようと思っとる。」

人間を憎みたくさんの人間を悪魔教が殺すことが希望など、正気ではない。

そんなことを希望にしてなんになるのかと言いたいのに声をかけられないことにベアトリーチェは悲しくなった。


「だからおぬしの好きなように利用するがええ。」

最高指導者は火傷で口元を緩めることしか表情がわからないにも関わらず、なんともゾッとするような笑顔になった。

離れたところで聞き耳をたてているベアトリーチェですらゾッとして震えた。


そして最高指導者は悪魔召喚についてのある秘密を語った。





その夜から最高指導者は火傷が元でどんどん弱っていき、数週間後に亡くなった。

最高指導者は名前すら語らなかったために遺体は治療院の側の集合墓地に安置された。


ベアトリーチェはベネディクティスと最高指導者の会話を誰にも話さなかった。

恐ろしくて誰にも言えなかった。


兄の殺戮行為に悪魔教・・・。

兄が助けた人間を殺すほど憎いとは知らなかった。

殺し方は明らかに自分のことがきっかけなのは明らかだった。

兄が狂気に走らせたのは私なんだ・・・。

私が・・・火傷を負ったから・・・。

そして火傷を治さないから・・・恐らく兄は憎しみをつのらせて狂気に走ってしまったのだ。

私のせいだ。

私が兄を狂わせてしまった。


ベアトリーチェはいつもは普通に過ごして、夜ごとに1人罪悪感で泣いていた。

何度目かの夜に泣いた後、やっと落ち着いたベアトリーチェはベネディクティスの動向が気になった。

ベネディクティスが通信の魔石を使うのか気になったのだ。

そしてベアトリーチェは夜に寝るフリをして、隣の部屋の様子を伺っていた。


ベネディクティスはどうやら通信の魔石を使っているのはわかったが、部屋の隅で声を抑え気味に話していたために話の内容はわからない。

だが、使っているということにベアトリーチェはおおいに恐怖した。

最高指導者は使うであろうと明らかに思ってベネディクティスに通信の魔石を渡したと感じた。

それでベネディクティスが幹部と連絡を取り、憎い人間をどう殺していくか最高指導者が期待して託したようにしか思えてならなかった。

兄の凶行を止めたい。

少し気を紛らすだけでもいいから。

だが、1人で考えていても何も思い付かなかった。


そんな時、使用人同士のある会話が耳に止まった。


「ベアトリーチェ様の足の具合はどうかしら?」

「変わらないわ。火傷の疼きがもう数百年も続いてるなんて気の毒で・・・。」

「どうして治らないのかしら?ベネディクティス様は様々な薬を取り寄せているみたいだけど、どれも効果がないようね。」

「なんとかならないものかしら・・・。ここまで何をしても治らないなんて、まるで呪いのようね。」


呪い。

そう聞いた時にこれだとベアトリーチェは閃くものがあった。

すぐに院長を読んで閃いたことを話した。

そう。この火傷は実は呪いだったと最近わかったことにしてはどうかと相談したのだ。

そして日に何度か薬を塗らないと火傷が疼いて苦しむということにして、兄が塗ったら疼きがおさまるということにした。

そうすることで、ベネディクティスは必然的に今までよりさらに自分の近くにいなくてはならなくなり、山脈の麓まで送ることはまずなくなる。

近くにいなくてはならなくなると通信の魔石を使うことも減るはずだ。

もしかしたらどういった会話をしているのかも聞ける機会があるかもしれない。

院長に悪魔教のことは話さなかったが、ベアトリーチェがあまりに真剣な顔になにかあると察して乗ってくれた。

そして院長はアレクサンディルスには本当のことを話して、その他には火傷は呪いであったと言った。

院長はすぐに塗り薬を用意してくれて、これは火傷の疼きを抑える薬だと説明したが実際はただの保湿クリームだった。


そうしてここ数十年位はベアトリーチェはベネディクティスに薬を塗ってもらいながらベネディクティスの動向を注視していたのだ。


どうにか兄をこれ以上狂わせたくなくて。




そしてある夜、ベアトリーチェは愕然とした。


最高指導者がベネディクティスと話した夜のような、深夜。

ドアの隙間から隣の部屋の様子を伺っていたら、ベネディクティスの目の前に急に男が現れたのだ。

男は人間のようで茶色のふわふわの髪に虫も殺さないような優しそうな顔をしていて、そして肩に黒い猫を乗せていた。

男はサッと通信の魔石を取り出して見せて、ソファに座ってベネディクティスと話を始めた。

男がどこからともなく現れたことも驚きだったが、話の内容にさらに驚いた。


重要議題の解決に、私の解呪をできたら悪魔を召喚してほしい・・・!?

重要議題は兄から聞いたから知っているけど、お父様出でさえ歯が立たない眠れる邪竜を倒せるの!?

そればかりか、私の解呪だなんて・・・!?

そう思っていると、兄は了承してユウジンと名乗った男は「そうと決まれば退散させていただきますね」と言ってソファから立ち上がった。


そしてこちらをチラッと見て微笑んだ。


今、目が合った・・・?

見られて聞かれているのをわかってる!?

ベアトリーチェは口元をおさえて去って行くユウジンの背中を見つめていた。







思った以上に長くなってしまった・・・。

これはもはや閑話か?(笑)

次回主人公視点に戻ります。

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