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222、悪魔はシルバーエルフに帰る

『馬車ってのはこんなにも揺れるもんなんだなあ。オイラ初めて乗ったよ。』

『それを言うなら私も初めてよ。長年世界樹で暮らしていたからねえ。』


シルバーエルフに帰る馬車の中。

ガタガタと揺れる車中にじいさんとマスティフと俺とクロ助と、そしてなぜかラタトスクとフレーズヴェルグがいる。

フレーズヴェルグはわざわざ馬車に乗るためにあのオオワシの姿から普通のワシより少し小柄なワシの姿になって馬車のイスに座っている。

ラタトスクはなぜか俺の肩に乗ってキョロキョロしている。


俺は面倒臭いことになったなとため息をついた。


なぜこうなったかというと・・・・。


俺たちは今日のところは一旦シルバーエルフに帰ることとなった。

ニーズヘッグの死体を埋めるか解体するにしても人手がもうちょっとほしいし、先ほどの地震などの被害状況やニーズヘッグを倒したことをエルフたちに知らせたいということで帰ることとなり、また明日にでも来ることにしたのだ。

なので俺はお礼を言おうとフレーズヴェルグとラタトスクに近づいたら、2体はなにやら話し合っていた。

そして話しかけたら『『エルフの町に行きたい』』と言い出したのだ。

ラタトスクはニーズヘッグがいなくなってつまらなくなったので世界樹の外に興味が出たようで、フレーズヴェルグはニーズヘッグがいなくなってこれでゆっくりできるけどゆっくりする前についでだから一緒に町に連れてけと言い出したのだ。


面倒臭いなと思っていたら勝手についてきて一緒に聞いていたマスティフが「それいいな!」と言い出してすぐにじいさんに言いやがって、一緒に聞いたアレクサンディルスが「邪竜を倒す際に協力してくれた恩人だから是非来てくれ」と言ってこうしてついて来たというわけだ。

ラタトスクを知らないアレクサンディルスにわざわざマスティフは「オオワシを呼んだのはこのリスだ」とまで言いやがって、アレクサンディルスは「それならオオワシ殿と同じ恩人だ」と言って一緒に来ることを了承したのだ。

本当にマスティフは面倒臭いことをしてくれるな・・・。


『ラタトスク、あなたその人間の肩から降りないわね。よほど気に入ったのかしら?』

『そだよ。ユウジン面白いからね。』

俺のことを面白いと評価するのがいまだに意味がわからない。

俺はちょっとため息をついて話しかけた。

「・・・それは神様の気配がするからでしょう?」

『それもあるけど、ユウジンって見ていて飽きない感じがするんだよね。言動とか雰囲気とかが。』

「あ、それわかる!」

マスティフが同意してきた。

こいつも俺のことを面白がってる奴だった。

話が盛り上がりそうな予感しかしない・・・!


『お!わかるか人間!お前見る目あるな。』

「俺はユウジンのダチだからな。」

マスティフはなぜか胸を張ってそんなことを言った。

「いやいや、ダチではありません。」

「え、違うのか!・・・そうか、マブダチか!」

「違います。」

マスティフ、ポジティブ過ぎだろ。


「ほっほっほっ!ユウジンは照れておるのう。」

じいさんまでそう言ってくるか!

「じいさん、面白がるのは止めてください。」

『ユウジンはなんでこの人間を友達じゃないと言うんだ?かっこつけてんのか?ダサいぞ?』

「いや、ダサいとかいう問題ではなくて・・・・」

『それともアレか?孤高ぶってんのか?だとしたら引くし寒いぞ。』

「ちょっと・・・、なんで俺のことを煽ってるんですか?」

俺は呆れながら肩のラタトスクに答えていたらふいにフレーズヴェルグがふふふと笑いだした。


『ふふふ、確かに面白いわ。ラタトスクの挑発にまったく乗らないなんて。』

『キキキ!だろ!?』

「面白がらないで下さいよ・・・。」

やっぱり予感はしていたが盛り上がって、馬車が止まるまでわいわいしゃべることとなってしまった。


森を抜けてシルバーエルフに戻ってきて、俺たちは宿屋の前で馬車を降ろさせてもらった。

アレクサンディルスたちはそのまま城に帰っていって、被害状況の確認をしてからニーズヘッグを倒した声明を出すようだ。


フレーズヴェルグとラタトスクは俺たちに懐いた野生動物のふりをして宿屋にまでついてきた。

ラタトスクは俺の肩にいてフレーズヴェルグはじいさんの腕にとまっている。


「あ!皆さん無事でしたか!」

店主のウルナさんが俺たちに気づいてかけよってきた。

「出かけられた後に地震とか起きて心配しました。大丈夫でしたか?」

ウルナさんら3姉妹は俺たちのことを商人一行と思ってて心配してくれているのだろう。

じいさんの正体やじいさんとマスティフが"黒の一族"なのはエルフ長一族とニーズヘッグと戦う際に同行した騎士たち以外は伏せられている。

じいさんはにっこりとしてウルナに返事した。

「心配かけて申し訳ないのう。わしらは無事じゃったぞ。宿屋は大丈夫じゃったかな?」

「私たちも大丈夫でした。ちょっと物が落ちたり食器が割れちゃったりしましたけど。でも近所では地面にヒビが入って崩れた家もあるとかで兵士たちが1件1件回って救助や状況確認をしているようなんです。」

「崩れた家もあるとは、住人は大丈夫なのかのう?」

「地震で家を飛び出していたから大丈夫だったみたいです。」

「それは怪我もなくよかった。」


ウルナはチラチラとじいさんの腕にとまる小柄のワシと俺の肩にいるリスを見てきた。

「あの、マリオン様。そのワシとリスは・・・?」

「たまたま森の近くを通りかかったら保護しまして。森に帰そうとしたら懐かれたようでしてのう。」

「まあ、そうだったんですね。ではワシとリスの食べそうなものを後で部屋にお持ちしましょうか。」

「そうしてくれるとありがたい。」

ウルナさんは気をきかせて食べそうなものを持ってきてくれるという。

ラタトスクは嬉しいようで跳び跳ねていて、フレーズヴェルグは見た感じ無反応に見えて実は満更でもないようで尻尾を震わせていた。



それからまもなく、アレクサンディルス・レィの名前で眠れる邪竜を倒したことと世界樹の根が完治したことが発表された。


そしてエルフ領内での被害状況も同時に発表され、領内全域で地震と地割れでそれなりに被害は出ているようで死者は出ていなかったが怪我人もそれなりに出たようだ。

また、領内全域で樹木の倒壊があり近海では津波が来たり魚の不自然な大量死したり、山では滝が枯れたり鳥が大量死したりしたそうだ。

だがそれも世界樹が完治した現在はおさまっていて波は穏になり滝も流れているそうだ。


眠れる邪竜を倒す際は"黒の一族"元当主マリルクロウ・ブラック一行に助力してもらったこと、邪竜に止めを刺したのは孫であるマスティフであることも発表されたがアレクサンディルスがさらっと言ってさらっと流したので俺たちがマリルクロウ一行だとバレることはなかった。

元々商人として来ているためにバレたら偽証罪・・・それはヘタをしたらエルフ領とイルヴァルナスとの国際問題に発展してしまうだろうが、協力してくれたことは喜ばしいことなので言いたいというアレクサンディルスが気を遣ったためにさらっとな発表になったのだろう。

因みにフレーズヴェルグとラタトスクも協力してくれたので一緒に発表したいとアレクサンディルスは言っていたが2体が頑なに固辞したので触れてはいない。


調べたらワシは大きいのをワシ(鷲)、小さいのをタカ(鷹)としているそうですが、はっきりとは決まってないようです。

フレーズヴェルグが小さめのワシと書きましたが、元々の巨大なオオワシの姿から馬車に乗れるほどの小さくなったら小さめのワシくらいのサイズになっただけなのでワシと書かせていただきます。

あしからずです。

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