219、悪魔は亀裂を塞ぐ
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
俺はニーズヘッグとフレースヴェルグが罵り合いをしているであろう光景を横目に蛇と息子たちや騎士たちの攻防を見ていた。
さすがに距離はあるので罵り合いがこちらまで聞こえてこないのが少し残念ではあるが。
息子2人は同レベルの蛇と戦うとなるとそこまでの数しか倒せないだろうと思っていたが、高い魔力と聖霊魔法を駆使して100体以上の蛇を倒しているし、騎士たちも同じように思ったより倒していて善戦している。
まあ、何回も息子たち騎士たちは俺が張った回復魔法が発動したから戦えているが回復魔法がなかったら今頃死んでいる騎士は多い。
即死している騎士もいるにはいるが、それはしょうがない。
俺は蘇生させる魔法・・・恐らく最上級光魔法を取得したらできるかもしれないが条件も出していないのですぐに取得することもできないし、正直そこまでして取得する義理はない。
回復魔法100回を張っているのだからそれで死ぬならしょうがないと思う。
全ての人間を助けるなんて空想な綺麗事を思うほど俺はアホではない。
ヴェネリーグ王国で散々犠牲は出たし出したのだから今さらだ。
だが、死は無駄にはしない。
ニーズヘッグを倒せば死んだ彼らは名誉の殉職と讃えられるだろう。
無駄死にはさせないのが俺の弔い方だ。
因みに息子たち騎士たちにもちろん回復魔法を張っていることは言ってないので適当に「そういう魔道具をマリルクロウ様から預かってます。」と言っておいたらそんな魔道具があるのかとすぐに信用された。
後にじいさんもアレクサンディルスにそう言っていたのを知ってじいさんと似た感覚かと嫌な気分になったりした。
「ミャー!」
可愛らしい声を出しながら闇をまとってライオンの姿になったクロ助も蛇に食らいつき引っ掻いたりしている。
クロ助だけですでに200体以上を倒していてよくよく見ればクロ助は苦戦している騎士たちに向かう蛇を攻撃しているようで、恐らく助けたくて参戦したいと俺に訴えかけてきたのだろう。
育て方を間違えてなかったようでよかったと密かにホッとした。
『さあ!ユウジンはどうするんだ?』
俺の肩で面白そうにラタトスクは聞いてくる。
っていうか、なんでここにラタトスクはまだいるんだ?
「あなたはニーズヘッグとフレースヴェルグの罵り合いを見に行かなくていいのですか?ここからだとなにを言ってるのか聞こえませんでしょう?」
『どうせヒステリー鳥とか頭の悪いトカゲとか言い合ってるさ。それよりユウジンの方が面白そうな気がすげえするぞ!』
面白そうな気とはなんなんだろう。
マスティフみたいな勘が鋭いのだろうか?
「まあ・・・いいですけど。あの亀裂を塞ぐだけですし。」
そして俺は周りをまた見回して、誰も俺など見てないのを確認して隠蔽魔法を使って存在を隠した。
『んん?あれ?どうなってんだ?』
存在を隠したから蛇たちは途端に俺にはまったく目もくれなくなり、俺が蛇たちの横を素通りしてもまったく意識を向けてこない。
それにすぐ気づいたラタトスクはキョロキョロと俺と蛇たちとを見て戸惑っていた。
「魔法で俺の存在を隠蔽しましたから、誰にも存在を認識できません。あなたも俺の肩に乗ってますから一緒に存在を隠蔽されてますよ。」
『存在を隠蔽!?なんだそりゃ!?』
ラタトスクは聞いたことなかったようですっとんきょうな声をあげていた。
でも頭のいいラタトスクはすぐに理解したようで興味深くキョロキョロしていた。
俺は息子たち騎士たちに向かう蛇たちを避けつつ亀裂に近づいていった。
サーチでは深さが結構あるのがわかった。
あれだけ大量の蛇とニーズヘッグが出てきたと思われる亀裂の奥が深いわけがないんだがな。
「それにしてもどんどん出てきてますね。」
亀裂からは蛇が次から次へと這い出てきていた。
数としてもちょっと異常とも思えるほどだ。
『うへ~、あんなうじゃうじゃ・・・おっかないなあ。』
ラタトスクは被補食対象なのでおっかなびっくりで俺の肩で縮こまっている。
「大丈夫です?」
『襲ってきても余裕で避けられるけど、本能でビビっちまうだけだから大丈夫。』
大丈夫というならそうなんだろうと気にしないことにして俺は亀裂に近づいた。
亀裂の底がどうなっているのかと見たら水が溜まっているのが見える。
泉の水ももしかしてここから湧いているのだろうか?
だとしても蛇が一緒に湧き出るなら使い道はないな。
水の溜まった底はほの暗くおっかない気配がなんとなくする。
「・・・ラタトスク、この底の奥はなにがあるか知っているんですか?」
『いや、知らねえ。っていうかユウジンも感じてると思うけど恐ろしい気配がするだろ?蛇やニーズヘッグなんかよりおっかない感じの。知ったらなにかおしまいな気がして知りたくないんだよ。』
気持ちがわかるほど、ほの暗い底からはヤバい気配しかしてないのでそれ以上確かめるのは止めておくことにした。
「でもまあ、蛇がこれ以上這い出てくるのは迷惑ですし、蛇を倒しましょうか。」
俺は雷魔法のサンダーボルトを×20にして亀裂の水に放った。
ビリビリビリビリ・・・!!
水の中の蛇たちは大ダメージとなって全部死んだようでプカプカ浮かび上がった。
亀裂の中でのことなのでもちろん息子たち騎士たちは気づいてない。
続けて魔力を多めにして土魔法で溜まった水の上にめちゃくちゃ硬い土を盛って亀裂を塞いだ。
これで万が一蛇が出てこようとしてもめちゃくちゃ硬い土に阻まれて出られないだろう。
「お、おい!亀裂がなくなっているぞ!?」
「ほ、本当だ!!」
騎士たちは困惑してそう叫んでいたが、蛇を倒すのをすぐに再開していた。
今はそれより目の前の蛇を倒そう、となったのだろう。
『キキキ!面白いなあ。ユウジンの魔法は豪快でいいね!』
まあ、多重魔法をフル活用しているから豪快にはなるな。
それが見ていてどうやらラタトスクには面白いようだ。
「はあ、面白いと思っていただけてよかったです。」
すると「ガアアァァアアアァァッッ!!」「ピイイイィィィッッ!!」という声が辺りに響いてきた。
見るとニーズヘッグが吐いた炎とフレースヴェルグが吐いた風の渦が2体の間でドゴオオン!とぶつかった。
「っ!?」
衝撃波が周りに広がってきたのが見えたので俺はヤバいと思って咄嗟にローブセットに魔力を通して肩のラタトスクを庇うと、ローブの裾が盾になるように俺の前に広がった。
衝撃波は広がったローブにぶつかって俺は無傷だった。
「大丈夫です?ラタトスク」
『吹っ飛ばされるかと思ったあ。ユウジンありがとなー!』
周りは大丈夫かとを見回してみたら息子たち騎士たちは距離があったから衝撃波は届いたようだが大したことなかったようで戦い続けているが、世界樹近くの丘の地面が所々えぐれていた。
そうだ、今の衝撃波を受けたことにして後方の蛇たちの数を減らしておこう。
俺は詠唱した。
『蛇の首を狩る罠を張りすぐ発動しろ、トラップ、リンク:ウインドカッター×100』
後方の蛇たちの地面から次々とウインドカッターが出現して蛇の首を狩っていく。
「シュ!?」
「ジュ!?」
「シュゥゥ!?」
蛇たちは驚きと共に狩られていく。
ウインドカッターは本来ならばレベル50台の蛇を傷つけるくらいしかできないのだが、ローブセットのおかげで効果の上がったウインドカッターはやすやすと蛇の首を狩るだけでなくブーメランのように回ってきて狩られた蛇の近くにいた蛇たちの首も次々と狩っていく。
そしてあっという間に300体ほどが狩られた。
『えええ!?あっという間にたくさんの蛇を倒した!?』
ラタトスクは目を白黒させていた。
そして俺の方をキラキラした目で見てきた。
『ひゃっほー!すげえなユウジン!』
マスティフにもそんな目で見られるのでなんかイラッとした。
「これで蛇は後150体くらいになりましたから、俺が離れても大丈夫でしょう。」
亀裂からは1000体以上出てきていたが実は後方半分ほどは俺が周りの様子を見ながらチマチマ戦っていた時に罠魔法で倒していた。
息子たち騎士たちがそれに気づかないように彼らの様子を見ながら罠魔法を発動させていたし、倒した蛇の死体は罠魔法の土魔法ピットフォールですぐさま死体の真下に落とし穴を作って土魔法で埋めたので気づかれてないはずだ。
息子たち騎士たちを見ると回復はしているが疲れてきているようだがまだまだやれそうだし、クロ助も助けている。
「!?」
世界樹に向けて歩を進めようとして、ニーズヘッグが根をかじるのが見えた。
そして土の槍に口や喉を刺されていた。
俺はニヤリと笑った。
 




