218、悪魔はサポート中ーニーズヘッグ戦2
マスティフ視点です。
『あらあら、誰かと思ったら見苦しい頭の悪いトカゲじゃないか。』
フレースヴェルグの嘲笑う声が響く。
青に近い銀色の体のフレースヴェルグはニーズヘッグの頭上で優雅に飛んでいる。
ニーズヘッグは世界樹への歩みを止めてフレースヴェルグを睨み上げた。
『・・・誰かと思えば口だけのヒステリー鳥か。いつになったらその鳥頭は我が偉大なドラゴンだと理解するのだ?』
『誰がヒステリーよ。え?偉大なドラゴン?どこにいるのかしら?ごめんなさい、私のきれいな目には見えないみたい。』
『お前の目は石より小さく濁っているからな。お前の性根があらわれていて実に不快だ。今からでも我の視界から消えろ。』
『あなたが消えなさいよ。人間とエルフに惨めに倒されてくれるかしら?私は早くあなたが『死にたくないよ~』ってびーびー泣くのを心待ちにしてるんだから。』
『誰が言うものか!!』
・・・うん。
思ったよりも罵り合いがすごい。
俺もじいさんもアレクサンディルスも思わずぽかんとして眺めてしまっている。
ニーズヘッグとフレースヴェルグがわーわー罵り合いが続くなか、戸惑ったアレクサンディルスがニーズヘッグに警戒しながらもじいさんに近づいた。
俺も大剣を構えながらじいさんに近づく。
「マ、マリルクロウ殿・・・、あのオオワシは一体?それに、この状況は一体どうなって・・・?」
「思わぬところで味方が来たようですのう。」
「み、味方?」
じいさんもユウジンから「援軍が来ます」しか教えてもらってなかったから、まさかこれがと思ったに違いない。
まあ、俺はリスのラタトスクとユウジンが話してじいさんの元に帰っている道すがら教えてもらったけど、それでもさすがにこんなにでかい鳥とは思わず驚いてしまった。
「あのオオワシは邪竜が世界樹に向かうのを阻止するために喧嘩を売ったようですな。あの様子だと口喧嘩だけではすみそうにない。すぐに本格的な喧嘩を始めるでしょうな。そうなればわしらとしては好機。そこをわしらも攻めていこうではありませんか?」
「そ、そうだな。・・・わかった。」
色々と疑問があるがひとまず置いといて好機を待つことにしたようで、アレクサンディルスは戸惑いながらも頷いた。
『言わせておけば好き勝手言いおって!!今日という今日は許さぬぞ!』
『こっちだって頭にきたわ!覚悟しなさい!!』
しばらく罵り合いをしていたニーズヘッグとフレースヴェルグはそう叫んで、ニーズヘッグは衝撃波を全身から出した。
フレースヴェルグは大きく羽ばたいて鋭い風を起こして衝撃波にあてて霧散させた。
俺たちの方にも来たが、俺たちは構えて動向を見守っていたのでいなすことができた。
といってもじいさんだけが無傷で俺とアレクサンディルスはちょっと受けてしまったが、やっぱりすぐに回復した。
因みにアレクサンディルスはすぐに回復するのに戸惑いじいさんがなにかしたのかと問いかけ、じいさんは「持っているだけで周囲の味方を回復する魔道具を持っているから回復する」とアレクサンディルスに説明していた。
そんなめちゃくちゃな魔道具あってたまるかと俺は思ったが、アレクサンディルスは"黒の一族"なら持っていても不思議ではないと思ったのか納得していた。
フレースヴェルグが舞うように羽を羽ばたかせると次々と風の巨大な刃が出現してニーズヘッグに降り注いだ。
見たところ大きさが違うもののウインドカッターと大差ないように見えたが、風の巨大な刃はニーズヘッグの鱗にざっくりと刺さった。
『ぐっ!』
初めてニーズヘッグが苦い顔をした。
ニーズヘッグが誤魔化すように地面をズンッと踏みしめるとニーズヘッグの周りにいくつもの黒い球体が出現してそれらがものすごい勢いでフレースヴェルグめがけて飛んでいった。
あれは恐らく闇魔法のシャドウボールの多重魔法だ。
が、フレースヴェルグは舞い上がりシャドウボールをかわした。
その隙にニーズヘッグは唸り声をあげて空中にダークスピア・・・闇魔法の黒い魔力でできた槍を3本をかわしたフレースヴェルグの死角から放った。
『甘いわ!』
フレースヴェルグはすぐに気づきそう言うとフレースヴェルグの周りに風魔法の竜巻が起こりダークスピア3本は竜巻に阻まれて霧散した。
その規模の大きな戦いを俺とじいさんとアレクサンディルスは見守っていた。
そういえば確か・・・世界のあらゆる風はフレースヴェルグが起こしたものといわれているとユウジンが言っていた。
だからもしかしたらウインドカッターでさえも鱗を切れるほどの威力になるのかと納得してしまった。
っていうか、規模がでかすぎて俺たちが手助けすると邪魔になりそうで手助けしにくいというか・・・。
「ガアアァァアアアァァッッ!!」
ニーズヘッグはフレースヴェルグに向けて口から衝撃波と共に炎を吐いた。
炎は衝撃波をまとっているせいかゴオゴオと見たことがないほど燃え上がり明らかにとんでもない威力であるとわかる。
「ピイイイィィィッッ!!」
フレースヴェルグがそう鳴くと、フレースヴェルグも衝撃波と共に風の渦のようなものを吐いた。
こちらも竜巻を圧縮させたようなとんでもないものと一目見てわかるほどのもので、それらがニーズヘッグとフレースヴェルグの間でドゴオオン!とぶつかった。
「っ!?」
「うわっ!?」
そのぶつかった瞬間にどちらとものの衝撃波が周りに広がって俺たちは危うく吹っ飛ばされかけて丘の地面が所々えぐれていた。
衝撃波が去った後は、少し鱗がはげているニーズヘッグと羽が少しボロボロなフレースヴェルグがいた。
『ふん。最後に喧嘩した数十年前よりはやるようだな。』
『そう?あなたもいつもは泉の中で寝ているだけの癖にどこにそんな力があるのか、しぶといわね。』
ニーズヘッグはチラリと自分の体を見て一瞬なにか考えたように視線をさ迷わせた。
『・・・このまま鳥と遊ぶのもまた一興かもしれん。』
やった!ニーズヘッグは世界樹に向かわずにフレースヴェルグと喧嘩すらか!?
そうしたら気を逸らすことになるし、ニーズヘッグが俺たちを無視してフレースヴェルグと喧嘩してくれた方が俺たちが攻撃しやすくていい。
現にニーズヘッグは結構傷を負っているから攻撃がまったく通じない訳ではない。
そろそろじいさんが本気を出してくれたら結構な致命傷を与えられるかもしれないし。
だが、俺がそう期待するようにはいかなかった。
『だが・・・我は気づいているぞ。』
ニーズヘッグはニヤリとじいさんを見た。
『ふん!鳥までけしかけて、そんなにしてまでかじられたくないか?』
俺はげっと思ってじいさんをチラリと見た。
じいさんは真剣な顔でニーズヘッグを見据えている。
『だったら面白いことをしてやろう!根を食ろうてやるわ!』
ニーズヘッグは再び世界樹に向けて歩きだした。
「ま、まずいっ!!」
俺たちは慌ててニーズヘッグを追う。
『アホトカゲ!無視するんじゃないわよ!』
フレースヴェルグがウインドカッターを飛ばして注意を引くように攻撃する。
ウインドカッターはわざと傷ついたところを狙って刺さるのにニーズヘッグは『ぐぅっ!』と痛そうな声をあげるが止まる気配はない。
俺たちも追いながら魔法や剣で攻撃したりするが、やはり硬い鱗に苦戦するしニーズヘッグは止まらない。
そしてニーズヘッグは世界樹の元まで来た。
ズタズタの2本の根を無視して3本目の根に近づいて大きな口を開けてがぶりと根にかじりついた。
バキバキバキ・・・メキメキメキ・・・!
根はニーズヘッグの牙があっという間に根にくい込んでいく。
その時
『っ!?なっ・・・―――――』
ズシャアアアァァァッ!!
かじった根から土でできた槍がいくつも出現してニーズヘッグの口の中や喉に突き刺さった。
今年はこれで書き納めです。
来年もどうぞよろしくお願いします。




