212、悪魔は結界の先に行く
判明する予定でしたが、書くことがあって書ききれませんでした。
そしてちょっと長いです。
「どうもありがとうございます。」
俺はにこやかに宿屋の店主ウルナさんに礼を言った。
ウルナさんもにこやかな笑みでいやいやと手を振ってきた。
「こちらこそありがとうございます。こんなに買っていただけるなんて驚きで。」
「それほどこれは素晴らしいんです。ほんとうはもっとほしかったのですが・・・さすがにこれ以上はファンに怒られそうですからね。」
「ふふふ、そんなに気に入ったんですか?・・・うちの自家製蜜酒。」
シルバーエルフの宿屋滞在中のある時、俺は宿屋の食堂で飲んだ蜜酒を気に入った。
そして宿屋に小さな売店があって、そこに「自家製蜜酒」が売られていたのを見つけてウルナさんにたくさん買えるか聞いてみた。
蜂蜜と水を混ぜて置いておくとアルコールが発生して蜜酒となるが、簡単に作れることからこの世界ではビールと同じくらいよく飲まれている。
蜂蜜によって味や香りが変わるので、地域によってどころか店によって違ったりするからうまいまずいがあったりする。
ウルナさんによると元々趣味で3姉妹で作っていたのだが、たまたま宿屋の食堂で出したら好評で「売ってほしい」というファンまでできて売り出すことなったそうだ。
そして売り物にするならちゃんとしたものをと、商人から大量にいい蜂蜜を仕入れていて、それとこの近所でとれる雪解け水を使って作っているそうで味も香りも甘味があってうまいとさらに人気がでて毎年何十キロも買うファンもできたくらいらしい。
そして俺もファンの1人になった。
・・・ということにしている。
ちょっと大量に買う用事ができたからだ。
しかも、この3姉妹の自家製ではないといけないから、面倒臭かったが味を気に入って大量購入することにした。
「それにしても・・・、10キロの樽を10樽だなんて、かなりの荷物になるんですけど、大丈夫なんですか?」
大量に買うと言ってお金のやり取りもすんだというのにそんな心配されてしまった。
んまあ、普通は荷物の心配をして当然だ。
「ご心配なく。俺はアイテム収納魔法持ちなんです。」
そう言ってアイテムからポーションを出し入れして見せたら今まで他の人に見せた時と同様にやはり驚かれた。
「よいしょっと!・・・すげえ量飲むつもりなんだなあユウジン。」
その後、10樽を部屋まで運んできてくれた従業員に手伝ってもらってアイテムに入れていたら、部屋でくつろいでいたマスティフもなぜか手伝ってきてそんなことを言われた。
因みにじいさんは暇ということで町に散策に出ている。
「まあ、一部はお土産ですし。」
「へえ、誰の?」
「トリズデン王国の首都でミスリルローブセットを作ってくれたドワーフです。」
グリーンエルフのあの兄がぜひ弟に見せびらかしてくれ!と言ってきたのがなんとなく面白そうに思って本当に見せびらかしに行こうと思ったのだ。
「ええっ!?トリズデン!?そのドワーフにやるだなんて、いつになるかわかってんの?ユウジン、ここからかなり遠いぞ?」
まあ、確かにここからイルヴァルナスを経由してトリズデンに行くなら数ヶ月かかるわな。
こんな会話をしていたらアイテムに入れ終わって従業員は一礼して去っていった。
俺はテーブルセットのイスに座りつつ、呆れ顔でマスティフを見る。
「マスティフって本当にアホですねえ。」
「ミャー」
そうだね、とベッドの上でくつろいでいたクロ助も鳴いている。
「あ!?俺はアホじゃねえって!」
「抜けてるからアホと言ったんです。俺は移動魔法が使えるんですよ?それも中級の。」
中級移動魔法は中距離を移動できるだけではない。
今まで行ったことがあるところにもいけるのだ。
よってトリズデン王国にも行けるということだ。
ただし、行きたいところとの距離によって消費魔力は変わってきて、距離が離れていればいるほど消費魔力は増える。
ここからトリズデンに行くのはMPがかなりいるので普通の魔法使いならMPが足りなくて途中で魔力切れになって当たり前なのだが、俺は指輪とローブセット(改)のおかげでMPは豊富にあるのでトリズデンに行くことができる。
「今はいつ眠れる邪竜が目覚めるかわからないですからトリズデンに行くつもりないですし、MPもなるたげ温存しておくつもりですけどね。でもまあ、気にしなくていいなら1日6~7回くらいなら往復はできます。」
「は!?6~7回往復!?むしろ多くね!?」
それからはマスティフの「暇なら模擬戦しようぜ」の言葉をのらりくらりかわしまくってしばらくのんびりと過ごした。
時刻は昼近くになり、今日は宿屋の近くの飲食店で昼食をとろうとなぜかついてきたマスティフと宿屋を出ようとして、玄関辺りがざわついているのを感じた。
「ん?どうしたんでしょう?」
店主のウルナや従業員たちだけでなく町の人と思われるエルフたちも空を見上げて困惑したようにオロオロしている。
「ウルナさん、どうかされたんです?」
俺が声をかけると、ウルナさんは俺たちに気づいて空を指差した。
「ゆ、雪が!雪が止んだんです・・・!」
「!?」
俺はそのことを聞いてきた!と思ったが、マスティフはピンと来てないのか首を傾げている。
「雪が止んだのがどうしたんだ?」
「マスティフ・・・、コルネリアスが前に雪が止んだら悪いことが起きる前触れ、という話を覚えてますか?」
「ああ、覚えてるぞ。たしかコルネリアスのじいさんが代表していた時はやんだ次の日に地震が起きて各地の村に被害が出て、親父さんが代表をしていてやんだ時は地割れが起きて何人ものエルフが犠牲になったって。唸り声が響き渡ったとか言ってた奴だよな?」
「そうです。何年前か言及はしてませんでしたが、今まで2回あったことといえば・・・1000年前と500前に眠れる邪竜が起きた回数と重なりますよね?」
「・・・あ!」
ここまで言ってようやくピンときたようだ。
「え、てことは・・・眠れる邪竜が、目覚めたってことか!?」
「恐らくそうでしょう。」
それから宿屋から出てみると、本当に雪が止んでいてエルフたちが空を心配そうに見上げていた。
「ユウジン、マスティフ。」
しばらく空を見上げていると散策に出かけていたじいさんが慌てて帰ってきた。
「どうやら目覚める時が来たようじゃのう。」
「そのようですね。すぐに城に行きますか?」
「いや、来てくれと知らせが来るまで宿屋にいた方がいいじゃろう。」
確かに、俺たちはあくまで協力する立場で本来ならエルフの守るところにお邪魔することになるから、あまりしゃしゃり出ることは避けないといけない。
宿屋に戻って部屋で俺のアイテムの中に豊富にあった食料で昼食をさっさとすませたらそこで知らせが来た。
城に向かう時には町の中はあわただしくなっていて、ぽかんと空を見上げているエルフがいれば店じまいをして家の中に引っ込んだり子供たちを慌てて家の中に呼ぶエルフなどがいた。
眠れる邪竜の存在については全エルフが知っているそうだが、今回それが今年目覚めるというのはまだ公表されていない。
アレクサンディルスの意向で眠れる邪竜を倒した後に公表するとのことだ。
事前に公表しては要らぬ混乱を招くということらしい。
なので家の中に慌てて隠れるエルフたちは「雪が止んだら悪いことが起きる前触れ」ということを思い出して隠れているのだろう。
「マリルクロウ殿、来てくれて礼を言う。ついに時が来たようだ。」
アレクサンディルスは緊張しているのか、俺たちを城の前で待っててくれて会うなりそう重々しく言ってきた。
エルフ長アレクサンディルスの後ろにロブレキュロス、ベネディクティスがいて戦力となる騎士鎧のエルフの男女数十人がその後ろにいた。
「一族からエルフ長、自分、そして弟が参加します。そしてこの日のために鍛えていた騎士50人と共に向かうこととなります。」
ロブレキュロスは俺たちにそう説明してくれた。
ふむ、騎士の男女は50人ほどのようだ。
騎士50人は少ないように思えるが、人間と違ってエルフの人口は多くはないため、50人という数字は妥当なようだ。
エルフは人口が少ないが一人一人の魔力はいずれも高いので人間50人よりははるかに戦力となる。
因みに村の代表たちは参加しない。
すでに村に帰っているので今から向かってきても数日かかる村が多くて参加はできないし、それより万が一村になんらかの影響がないように村を守ってくれる方がいいらしい。
俺たちは用意された馬車に乗って町をでた。
一族が乗る馬車に続く馬車に乗せてもらって、その後ろを騎士たちがついてくる並びで町を出たのだが、道はこの日のために整備された普段は通行止めにしている道で、森の奥へと続いていた。
普段は通行止めのせいかひどくガタガタ道で尻が痛くてうんざりしていると、やっと大結界の前についた。
一族の馬車が止まり、アレクサンディルスが出てきて片手をあげてすいっと横に滑らせた。
すると大結界は一瞬光ったかと思うとサーッと霧が晴れるように消えた。
「ええええっ!?な、な、なんだありゃあああっ!?」
消えた結界の中が見えるようになり、馬車の窓から顔を出していたマスティフはそう叫んだ。
じいさんも珍しくぽかんとしている。
驚くのも無理もない。
結界が消えた途端、信じられないほど巨大な大樹が目の前に現れたからだ。
その大樹は森の最奥に天に向かって生えていて、上の方は雲がかかっていて見えないほどだ。
俺はちらりと見て、予想通りだなとそこまで驚くことはなかった。
「へえ・・・本当に大きい。さすがエルフが守る定番の世界樹ですねえ。」
じ、次回こそ・・・。
そして変な奴が出てきます。
 




