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211、悪魔はエルフ長に会う

「はじめまして。わしは"黒の一族"元当主のマリルクロウ・ブラック。長命なエルフ長殿と会えるとは、うれしいかぎりですのう。」

「ほほう、あなたが。こちらこそ、有名な冒険者殿に会えて光栄だ。エルフ長のアレキサンディルス・レィという。」


お互いにこやかな笑みを浮かべてじいさんとアレキサンディルスは握手した。



俺はじいさんが協力してくれる返事を聞いて、早速ベネディクティスと会う算段をした。

利用したのは、ベネディクティスが遭難してくる人間を保護しているという活動と、俺たちがベネディクティスを探す時に「昔助けてもらった恩人」ということで探していたことと、前にじいさんがマリルクロウとしてエルフ領に来たことがあるということの3つだ。

この3つを掛け合わせて、昔、じいさんはマリルクロウとしてエルフ領に来た時にベネディクティスに助けてもらい、そのお礼をするためにお忍びでマリオンという名前でエルフ領に来てベネディクティスを探していた、ということにしたのだ。

そうすればじいさんとベネディクティスが人前で会うことになってもなんら不思議ではないし、そこに一族の代表としてアレキサンディルスが同席していても不自然ではない。


相談をした翌日にはベネディクティスに通信の魔石で連絡を取って口裏を合わせてもらうように打ち合わせをしてから城にアポを取り、すぐに会えることとなって今というわけだ。

応接室にはじいさんとマスティフがソファに座っていて、俺はじいさんの後ろに立っている。

俺はじいさんの弟子ということでついてきたのでソファに座るわけにはいかないからだ。

じいさんの対面のソファにアレキサンディルスとベネディクティスが座っていて、その後ろには護衛が2人立っている。


「その節は本当に世話になりましたな。ずっと感謝を言いたいと思っていたのに今頃になってしまって申し訳ない。」

「いえいえ、元気な様子で安心しました。"黒の一族"の活躍はこのエルフ領にも聞こえてきますよ。」

じいさんが申し訳なさそうに頭を下げると、ベネディクティスは柔和な笑みを浮かべて応えた。

「お陰様で、世界中に知られるようになったのは嬉しいが、それもこれもベネディクティス殿があの時わしを助けてくれたことがきっかけですじゃ。ベネディクティス殿が手を差しのべてくださらんかったら、とっくに遭難して死んでいたかもしれんですからのう。」

「そんな大袈裟な。俺はたまたま通りかかったのを助けて治療しただけですよ。」

「だけ、と言いますが、それこそなかなかできるものではないことですぞ。アレキサンディルス殿も素晴らしい息子殿を持たれたものですなあ。」

「"黒の一族"に褒めてもらえるとはとても光栄だ。」

ニコニコと皆会話をしているが、じいさんとベネディクティスはもちろん初対面なので会話全てが事前の打ち合わせで話し合った台詞だ。

そしてマスティフは孫と紹介をするが、とりあえずニコニコして会話を聞き流すだけでしゃべるなと厳命している。

このアホの発言でボロがでてはいけないからな。


「マリルクロウ殿は現在、なにをされているのだ?」

「当主を退いてからはしばらく悠々自適に過ごしておったんですが、どうしても体を動かしたくなってしまいましてのう。今はこの孫と弟子の育成に力を使っているところですのう。それの関係でこちらのエルフ領に来るツテができたもんですから、かつての恩人を探してみようかと思った次第です。」

「自由を謳歌しておるようでうらやましい。」

「なにを。アレキサンディルス殿も町中を散歩されることもあると聞きましたぞ。こんな美しい町並みをいつも満喫できるとはわしはそっちがうらやましいですぞ。」


とかなんとか言って、お互いを褒めあう当たり障りのない話をしている。

俺としては暇でしょうがないが、これでじいさんとアレキサンディルスは仲良くなっとく必要があるから静観する。

「しばらくこのシルバーエルフに滞在しようかと思ってましてのう。もし、なにか力になれそうなことがあったら喜んで力になろうと思っとります。機会があれば恩人にぜひ恩返しをさせて頂きたい。」

そして今のエルフたちにとって魅力的なことをあえてじいさんは言う。

アレキサンディルスはそれを聞いてふむ、と考え込む動作をした。

眠れる邪竜をもしかしたらどうにかできる"黒の一族"がいる。

タイミングが良すぎると疑われる可能性もあるが、それよりも頼れる戦力がぜひほしいはずだ。


まあ、今すぐ協力の話が来るとは思ってないが、俺とじいさんは気長に待つつもりだ。

マスティフは知らん。



それからはしばらく当たり障りのない話が続き、俺たちは城からおいとまさせてもらった。


「ユウジンとしては何日くらい待つことになると思っとる?」

「うーん・・・、長命のエルフの時間の感覚がわかりませんが、早くて数日じゃないですか?さすがに1ヶ月とか1年はないかと思いますが。」

「わしも同意見じゃ。」

じいさんも苦笑しながらそう言った。

マスティフはすぐに協力の話があると思っていたらしい。

「俺は待つのは苦手でさあ。ぱっぱと進んでくれたらぱっぱと終わるのがいいんだよなあ。数日待つ間、なにしよう?ユウジン、模擬戦しねえ?」

「やりません。」

俺がきっぱりと断るとしょぼんと項垂れた。




エルフ長から「折り入って相談がある」という知らせが宿に来たのはそれから3日後だった。


恐らく協力してもらおうという話し合いをアレキサンディルスと息子2人とでやったのだろう。

俺たちが3日前通された応接室に入ると今度はアレキサンディルスと息子2人ロブレキュロスとベネディクティスがいた。


「実は・・・このシルバーエルフの東にある森の奥の方に、大きな結界があるのだが。」

アレキサンディルスは俺たちが前と同じ配置でじいさんとマスティフがソファに座り、メイドがお茶を運び終えたところでそう神妙にきり出した。


それから大結界の中にあるアレ(・・)のこと、そして眠れる邪竜のこと、今回は倒さねばならないことをアレキサンディルスは俺たちに語ってくれた。

俺の予想は見事に合っていて、やはり俺の知ってる神話とほとんど一緒であった。

神話と違った点もあったがそれも俺の予想通りで、神話の知識を使えばどうかなるものだった。

事前に俺の予想を話していたのでじいさん・マスティフはやや大袈裟に驚くフリをしていて、俺も驚くフリをしながら淡々と聞いていた。


「――――――――・・・ということで、マリルクロウ殿にはもうすぐ起きるであろうその日になったら是非とも共に大結界内に入って、眠れる邪竜を倒すのを手伝ってほしいのだ。一家で話し合って倒せた暁には褒美も用意しようとなった。どうか、共に戦ってくれないだろうか?」

アレキサンディルスはそう言って頭を下げた。

「・・・アレキサンディルス殿、頭を上げてくだされ。」

じいさんはじっくり考えたフリをして、アレキサンディルスに声をかけた。

「大結界内に人間のわしらが入って大丈夫ですかのう?エルフの守ってきたものをわしは知ったところで言いふらすつもりもないですが、エルフにとって大事なものなのでしょう?」

「確かにアレはエルフにとって大事な・・・神聖なもので、できればエルフ以外が見ることも大結界内に入ることも本来ならば遠慮してくれと思う気持ちもあるが、エルフだけではどうしようもない問題であるならば仕方ないと思う。」

「わしは大結界内になにがあろうと口にするつもりはありません。そしてわしの方から、ぜひ戦力として加えて頂きたい。エルフの皆さんが困っていてわしが力になれるなら喜んで手伝わさせてくだされ。」

「!・・・手伝ってくれるか!それはありがたい!!」

「褒美も別に用意せんでかまいませんぞ。"黒の一族"は金には困っておりませんからのう。・・・あ、でも1つ、お願いは聞いてほしいことがあるんですがのう。」

「ほう、お願いとは?」

「いや、それは眠れる邪竜を倒せた後に話すことにしましょうかのう。なに、すぐに実行できることですし、簡単なことですから。」

「・・・わかった。とにかく、その日が来たらよろしくお願いする。」



こうして、じいさんは協力することとなり、その日が来るまでシルバーエルフに滞在することとなった。

近いうちその日が来る、といってもいつ来るかがわからないから暇で暇でしょうがない毎日を送ることになりそうだ。

それこそ・・・暇で気が狂いそうになるマスティフと模擬戦するはめになりそうだなと俺は内心嫌な顔をしたのだが。

案外そうはならなかった。



じいさんが協力すると話した数日後、その日は500年ぶりの雪が降らない日となった。



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