209、悪魔はじいさんに相談する
「じいさん、ちょっと相談があるんですが。」
俺は夕食の席でそうじいさんに声をかけた。
今はシルバーエルフに来て5日経ち、コルネリアス兄妹は会議が終わったこともあり、昨日グリーンエルフに帰っていった。
それまでマスティフは兄妹と出掛けたりじいさんと町の外で特訓していたりしていたらしい。
「・・・それはここに来てから毎日おぬしがどこかに行ってたことと関係があるのかのう?」
じいさんはちょっと考えてからそう聞いてきた。
俺が頷くと、じいさんはふむ、と頷いて「夕食後、部屋に戻ってから相談を聞こうかのう」と言った。
そのやり取りを俺とじいさんを見比べながら聞いていたマスティフは俺に声をかけてきた。
「な!ユウジン!俺も聞いていい!?」
「あなたは・・・そうですね。あなたにも協力してもらうことがありますし、聞いてもらった方がいいですね。」
「やったぜ!」
マスティフはなぜかガッツポーズをした。
除け者にされるとでも思ったのだろうか?
夕食後、部屋に戻った俺たちはテーブルを囲んだ。
「相談の前にまず、俺がここ毎日どこでなにをしていたかお話しします。俺はあの城に侵入して、会議を覗いたりエルフ長の一家を調べたりずっと観察していました。」
じいさんは予想していたのか特に驚くことはなかったが、マスティフは「は!?城に侵入!?」と驚いていた。
これは俺が一家を調べて観察したことだ。
まず、エルフ長アレクサンディルス・レィはエルフの中で長命であるために知識も思慮も深く、全てのエルフたちから慕われている。
最近は食が細くなってしまったそうだが、体力の衰えもほとんどなく今でも精力的にエルフ領に関する執務をしているし、建物の出入り口と上階の結界と森の大結界はアレクサンディルスの結界魔法のようで、大結界や上階の結界の条件を細かく設定できる上級結界魔法が使えるしその他、精霊魔法はとにかく強力なものが使えるようだ。
アレクサンディルスの妻でロブレキュロス・ベネディクディス・ベアトリーチェの母の女性はだいぶ前に病気で亡くなっている。
ロブレキュロス・レィは次期エルフ長としてアレクサンディルスのサポート役もやっている長男で、まったく表情を表に出さず真面目で冷静であることから「冷たい」「少し怖い」という印象を持っているエルフもいるようだ。
独身で特に親しい女性もいない。
ベネディクディス・レィはアレクサンディルスの二男で、エルフ長のとしての仕事にはまったく関与しておらず、双子の妹ベアトリーチェを溺愛して彼女の世話をする傍らエルフ領に迷いこんできた人間を保護したり、住み着く人間の相談役をやっているそうだ。
「迷いこんできた人間?イルヴァルナスからの商人ぐらいしか人間はいないんじゃないのか?」
マスティフは首を傾げてきた。
俺も確かに知った時はうん?となった。
「実はトンネル以外にもエルフ領に来る手立てはあるそうなんです。エルフ領と他国との間にはものすごい山脈が連なっていて本来ならば通れないのですが、その山脈を抜けてくる人間がごくたまにいるらしいんですよ。」
「はあ!?道なき道の上に雪山だし、結構な標高だぞ!?」
「まあ、俺も信じられないのですが遭難などの理由でエルフ領に入ってしまう人間が本当にいるそうで、そんな人間を保護して治療して宿泊もできる施設を作っているそうですよ。」
そしてその人間がエルフ領に住みたいとなったら住居を探したり仕事先を探したりしてくれているそうだ。
ベネディクディスは兄と違って常に柔和な笑みを浮かべていてエルフたちも好感を持ってる者も多いそうだ。
表で人々に優しく常に笑顔をしている悪魔教信者、と言えばイルヴァルナスのクラウデンだが、あいつの裏はそこまで笑顔でもなかったし女性たちを平気で殺していたクソだったが。
クラウデンに比べてベネディクディスは表裏がなくひとりの時も常に笑顔だったし周りの使用人たちにも嘘で優しくしているようではなかった。
人を殺すということすら彼からはかけ離れている印象を持ったが、鑑定魔法のウィキを見て色々と納得した。
その内容については追々触れることになるので、ここでは割愛するが。
ベアトリーチェ・レィはアレクサンディルスの長女でベネディクディスの双子の妹で、足に火傷をおって歩けなくなり後に「呪い」だと判明した。
とても心優しい性格で気弱だが美しいとあってエルフの男性からの人気はとても高いらしい。
彼女が火傷をおう前まで元々人間の保護・相談役をしていたそうで、彼女が火傷をおってそれまで城や町の警備管理をしていたベネディクディスが代わりにやり始めたそうだ。
1日に数回、特製の軟膏を塗らないと火傷が疼いて、ひどい時は夜も眠れぬほどでベネディクディスが塗ると落ち着くということでだいたいはベネディクディスが塗っているらしい。
以上の4人がエルフ長一家だ。
4人一家の仲は基本的にいいそうでアレクサンディルスもロブレキュロスもベアトリーチェの部屋を訪れては話し相手になったりしているが、ロブレキュロスとベネディクディスの間には兄弟ならではの微妙な距離があるようだ。
「――――――・・・とまあ、一家についてはこんな感じです。」
「はあー。さすがユウジンつーかよく調べたなあ。」
マスティフは感心して終始「ほー」「へえー」と言ってきた。
「でもなんでそんな調べたんだ?鑑定魔法使ったら一発じゃないのか?」
「鑑定魔法は俺が1番上まで取ったので詳しく見れるようにはなってはいますが、性格や細かいところはわかりませんからね。腹黒やツンデレだったらそれによってこっちの出方を考えないといけませんから。それにベネディクディス自身がなんとかなっても他に周りの者で不安材料がないか調べておきたかったですからね。」
「不安材料?」
「俺の企みの邪魔をする者、ですね。」
ニコニコ笑ってそう言う俺をマスティフはぎょっとして見てきて、じいさんはギロリと睨んできた。
「・・・ユウジン、おぬし。」
「あー、じいさん殺気出さないで下さいよ。今回はじいさんにとっていい企みなんですから。」
「・・・誰も死ぬことは許さんぞ。」
「誰か死ぬようになるならじいさんにこうして相談を持ちかけてません。」
じいさんは少し考えると、薄く出していた殺気を霧散させた。
じいさんと知り合って半年以上、じいさんの軽い殺気にもすっかり慣れてしまった。
「ふむ・・・、ではおぬしの企みを教えてもらおうかのう?そして相談というのも。」
「ええ。俺は元々、悪魔というものを見たくて悪魔教を追っていたわけですが。」
「んん?そうなのか?」
じいさんは呆れたような声をあげた。
そういえばじいさんに悪魔教に興味があるわけを話してなかったような・・・。まあいいか。
「そのついでに気に入らない悪魔教幹部を絶望させてただけですし。悪魔教の考えそのものも気に入らないのもあってですけど。まあ、それは置いといて。悪魔を見たい俺がある日突然、ベネディクディスのところに行って悪魔召喚をして悪魔を見せてくれと言ったところで取り合ってくれないのはいくらマスティフでもわかるでしょう?」
「え、俺のことなんだと思ってんの?それくらいわかるわ!」
「アホとしか思ってませんが?まあそれより、ベネディクディスは悪魔教最高指導者であることも隠してしらばっくれる可能性が高いですからね。ではまともに取り合ってくれないのであれば、まともに取り合ってくれるようにしたらいいと思いまして。」
俺はニコッと笑った。
「ベネディクディスに密かに取引を持ちかけることにしたんです。会議の重要議題の解決と妹の足の「呪い」を解く代わりに悪魔を召喚してくれないか、と。」
企みと相談はまさかの次回に続きます。




