208、悪魔は建物に侵入する
会議でベネディクティスを見れなかった俺は手っ取り早く翌日にエルフ長一家が住む城のような建物に侵入することにした。
といっても問題がある。
それは建物全体と上の方の階に結界が張られているということだ。
建物全体はイルヴァルナスの「魔法真教」本部にかかっていた結界と同じものだったので、コルネリアスが会議のために建物に入る際に隠蔽魔法で寄り添って一緒に入れたので、これで俺は1人でも入れるようにはなった。
だが建物の上の方に張られた結界は厄介なものだった。
建物はサーチで全10階で上5階が一家の居住スペースで下5階が会議室や応接室等があるようだ。
もし国外から要人が来た際の貴賓室も下5階にあったので上5階には一家の他にお世話をする使用人か護衛しか出入りできないようだ。
なので5階の途中から先は結界で行けないようになっていて、結界の先は階段になっていてそこからしか上の階には行けないようになっている。
結界は「許可していないものが入ると警報が作動する」「結界内で許可していないものが魔法を使うと無効化して警報が作動する」「結界に攻撃すると結界が強固になり警報が作動する」の3つで俺が例え隠蔽魔法で誰かの後について通ろうとしても許可していないものとして警報がなり、さらには隠蔽魔法が無効化してしまうのだ。
かといって結界を攻撃して壊すのはリスクがある。
強い結界だったら攻撃しているうちに人が集まって来てしまう可能性がある。
それに結界に比べてどうやら建物の強度は一般的だから結界を壊す前に建物が壊れる可能性があるから、それでは侵入どころではなくなってしまう。
一家の情報か侵入する手がかりはないか、俺は建物の下5階で働いている使用人たちや護衛の会話を盗み聞きすることにした。
因みにこの建物に入る前から隠蔽魔法で存在を隠蔽しているので堂々と盗み聞きすることができる。
「4階の廊下の窓拭き終わってる?」
「すいません、まだです!」
「早く終わらさないと会議室の掃除に移れないわよー!」
「なあなあ、今日このあと予定ある?俺とご飯いかない?」
「えー、どうしよっかなあ。」
「俺のオススメの大衆酒場があるんだよ。」
「こういう時は高めのレストランに誘うものよ。サイテー」
「今日はなにを作ろうかなあ?」
「まだ決められないんですか料理長。」
「そうは言ってもアレクサンディルス様の食欲が落ちているからなあ。軽いものがいいかなあ?」
「となればサンドイッチかリゾットとかですかね?」
「そうだなあ。」
そんなためにならないような会話を盗み聞きしまくるなか、気になる会話があった。
「なあ、そういえばもうそろそろ一家の居住スペースの結界の書き換えの時期じゃねえか?」
「そういえばそうだな。この間から誤作動もしてるし、アレクサンディルス様に相談してみるか?」
「あ、それ相談しといたぞ。侵入者なんていたことないけど、もしものことがあったらいけないしこういうのは早めがいいかなって。」
「結界の書き換えの時は使用人と護衛は全員結界内にいないといけないんだったよな?」
「そうそう。「結界内にいるものは許可するもの」って設定しとかないと俺たちが結界出入りする度に警報なっちまうからな。」
護衛と思われるエルフの男2人はハハハと笑った。
ふむ・・・これは使える情報だな。
俺は早速5階の結界が張ってある目の前まで来た。
そして調整して超微弱のウインドカッターを出して結界に当てた。
キイィィィィィン――――――――――
建物中に甲高い音が響き渡って慌てたように護衛たちが集まってきた。
このキーンというのがどうやら警報のようだ。
ちょっと頭に響く嫌な音で俺はまだ顔をしかめるくらいですんでいるが、肩にいるクロ助は両前足で器用に耳を塞いでいる。
「なんだなんだ!?」
「また誤作動か?」
護衛たちは結界が異常内か見て回って首を捻っている。
俺は罠魔法で結界の外の天井から結界に向けて超微弱のウインドカッターを張って護衛たちが他を向いている隙に作動させた。
キイィィィィィン――――――――――
「ま、また反応したぞ!?」
「だが、誰もいない。やっぱ誤作動みたいだな。」
天井からウインドカッターが出たなんて誰も思ってないようで誤作動と勘違いした。
水や土と違って風は魔法発動後に残らないし火は発動後に消えても明るくなるし熱も感じる。
なので俺はウインドカッターを使ったのだ。
それでも風を感じるかもしれないと超微弱に調整して放った。
結界にはその風ぐらいが当たったとしても攻撃と判断するだろう。
そんな俺の考えが当たったのだ。
「どうだ?今回も誤作動か?」
「アレクサンディルス様!」
結界の奥からエルフ長アレクサンディルスがゆっくりと歩いて来た。
アレクサンディルスの後ろには護衛と思われるエルフの男たちが数人付き従っている。
「はい、どうやら今回も誤作動のようで。怪しい者は見当たりません。」
結界の外にいた護衛がそう答えた。
「このままでは皆に不要な心配をさせてしまうな。本当は書き換えは来年しようと思っていたが、これからやることにしよう。」
アレクサンディルスはそう言って結界に触れた。
すると結界は砂のようにサラサラと溶けてあっという間に消えた。
「今から張り直すから建物にいる使用人と護衛を集めてくれるか?」
「「「はっ!」」」
護衛たちは元気よくそう言うと数人が走り去っていった。
俺は走り去る護衛たちとすれ違い、アレクサンディルスとその後ろにいる護衛の横を通り過ぎて奥の廊下の物陰に隠れた。
結界魔法が護衛たちが言った通りの条件で本当に張るのか一応確認しておくためだ。
万が一違っていて隠蔽魔法が無効化されてもすぐにはバレないように物陰に隠れたわけだ。
そしてしばらくして使用人たちや護衛たち数十人が慌てて来て、アレクサンディルスが全員か確認して結界を張った。
護衛たちが話していた通り、結界内にいるものたちは許可すると条件をつけていたので一安心した。
それから使用人たちと護衛たちが解散していってアレクサンディルスも護衛たちを従えて奥に去っていった。
俺はアレクサンディルスの後を追って奥に行き、上の階に続く階段を上った。
上5階は居住スペースということで下とは雰囲気が違った。
階段を上った先はとんでもなく広いサンルームになっていたのだ。
建物の上5階の正面方向半分は普通の建物だが、後ろ半分は吹き抜けになっていて後ろ全面ガラス張りの日が当たる空間となっていたのだ。
サンルームには豪華なソファセットがいくつもあり、サロンのようなところにもなっているようだ。
そこらじゅうに鉢に入った植物がところ狭しとあって、外はいつも雪が降ってるとは思えないほど暖かい。
サーチではアレクサンディルスはどうやら上の階の自室に戻ったようだ。
そして俺の目的の人物、ベネディクティスは・・・いた。
俺はベネディクティスのいる部屋に向かった。
ベネディクティスはどうやら自室の隣の部屋にいた。
隣の部屋の扉を開けて入るとひとりでに扉が開いたと驚いて騒がれるからどうしようと思ったら、隣の部屋とは扉1枚でベネディクティスの自室と繋がっていて隣を繋ぐ扉は開いていた。
なので俺は周りを確認してベネディクティスの自室の扉を開けてゆっくりと扉を閉めた。
そして隣へと続く扉から隣の部屋を確認した。
アレがベネディクティスか。
俺は素早く鑑定魔法をかけて確認。
ん?ベッドに寝ている女性の足に薬を塗っているのか?
「ベアトリーチェ、痛くはないか?」
「ありがとうお兄様。とても気持ちいいわ。」
女性は申し訳なさそうに微笑む。
「今日はサンルームまで俺が担いでいくからそこで本を読まないか?」
「ええ、あそこは暖かくて過ごしやすいから好きよ。この足の呪いさえなければ自分でサンルームに行けるのに・・・。お兄様、ごめんなさい。」
「ベアトリーチェを横抱きにできるいい口実をとらないでくれるかな?」
兄妹はふふふと笑いあった。
足の呪いでどうやら女性は歩けないようだ。
「そうだ、サンルームで飲む紅茶は何にする?」
「すっきりしたハーブティーってお願いしていいのかしら。」
「もちろん。それだったらミントにしようか。この間、商人がいいミントをくれてね。ティーにしようと使用人に渡していたんだ。」
「まあ、それは楽しみだわ。」
仲のいい兄妹のようだ。
ベアトリーチェという女性にも鑑定魔法をかけた。
・・・・・・へえ。
なるほど、面白い。
ベネディクティスはその後、ベアトリーチェの足に薬を塗るのを終えて彼女を担ぎ上げてサンルームに向かった。
そしてベアトリーチェは使用人が持ってきた紅茶を飲んで美味しいと微笑みながらベネディクティスが渡した本を読み始めた。
側に使用人と護衛がいるということで、その2人に任すことにしたようでベネディクティスは自室に戻った。
その間、俺は考え事をしていた。
今ベネディクティスの前に姿を現して、本来の俺の目的である「悪魔を召喚して悪魔を見せてくれ」と言ったところで「はいどうぞ」と悪魔を召喚してくれる訳がない。
だったらどうしたらいいか。
召喚してくれる状況にするにはどうしたらいいか。
大結界の先のモノ
眠れる邪竜
強力な"黒の一族"
ベアトリーチェの呪い
そして・・・
俺は考えをまとめてニヤリと笑った。
 




