207、悪魔は会議に潜む
シルバーエルフの中央にそびえる城のような建物の中に会議室がある。
会議室も外観の銀の壁とは違って普通の白壁で絵画が飾られていて、大きな円卓テーブルとゆったりとしたイスがいくつか等間隔にあり、円卓の最奥にエルフ長アレクサンディルスが座っている。
その右側に補佐として次期エルフ長の長男ロブレキュロス・レィが座っていて、後は各村の代表となる老若男女のエルフが座っている。
アレクサンディルス・レィは見た目70代くらいの長い銀髪をなびかせ青い目で長い銀の髭を生やし、白いゆったりしたローブを羽織っていていかにもエルフの長という姿だ。
ロブレキュロス・レィは30代くらい少し長めの銀髪を横に流していて青い目の無表情で冷たい印象でかっちりしたローブ姿だ。
「これより、会議を始める。」
アレクサンディルスがそう言うと、ロブレキュロスと各代表は頷いた。
そうして始まった会議を俺は隠蔽魔法で身を隠して壁もたれかかるように立って様子を眺めていた。
せっかく隠蔽魔法をかけてコルネリアスの後ろを着いて会議室に忍び込んだというのに、ベネディクティスがいないことにがっかりした。
それでも一応全員に鑑定魔法をかけたけどな。
邪魔にならないように会議室の部屋の隅にいる俺の前には配置の関係でコルネリアスが座っていて、隣のブルーエルフ代表の青い髪の美魔女エルフに初参加ということで色々と教えてもらっているようだ。
因みにコルネリアス以外の各代表は年齢を重ねたものばかりで、どうやらコルネリアス以外は長年代表をしているようだ。
会議の内容は主に人間をエルフ領に少しずつ入れるようになってきて改善ししつつある食料事情についてだった。
ここシルバーエルフとグリーンエルフは人間の商人が多く来ているので結構順調にいっているが、エルフ領の西の方にあるレッドエルフと北の方にあるブルーエルフ、南東の端にあるブラックエルフはあまり商人が来ないようでシルバーエルフで取引された野菜らをレッド・ブルー・ブラックは卸してもらっている現状のようだ。
イエローエルフは最も商人が通りすぎるだけあって売れ残りなどを取引できるからまだましのようだが、イエローエルフは人間嫌いが多いため取引自体あまりうまくいってないらしい。
レッド・ブルー・ブラックとしては卸してもらうのは余計にお金がかかって野菜らがシルバーエルフで買うより高くなってしまうためになんとか商人に自分らの村に来て直接取引できたらと考えているが、商人もわざわざ行かなくてもシルバーエルフで十分取引できているので行かないらしい。
これに関してはシルバーエルフ側もそれとなくレッド・ブルー・ブラックをすすめてはいるが効果はないようだ。
イエローエルフについてはこれ以上人間と関わりたくないというイエローエルフ代表の考えがあるのでこの場で話したりすることは特にないらしい。
「現状は引き続き、他の村をすすめるしかないだろう。」
レッド・ブルー・ブラックの各代表たちはその言葉に押し黙ったままだ。
おそらくもう何年もこのままで諦めの雰囲気がシルバーエルフ側も各代表側も出ている。
・・・もしかしたら、コルネリアス兄妹の家でチラッと考えたビニールハウス案が案外イケそうな気がしてきた。
だが、今の俺は会議に侵入して盗み聞きしているのだから発言するわけにもいかない。
まあ、俺には関係ないから教えるというのも面倒臭い。
あの魔法で代用できるかじいさんに意見を聞くのも忘れていたし。
「・・・では、ここからは最も重要な議題をしよう。」
アレクサンディルスは重々しくそう言った。
各代表もこころなしかピリッとした。
コルネリアスだけはどうしたのかと困惑しているようだ。
「コルネリアス、これから話し合われることはまだエルフ長・次期エルフ長・各代表のみにしか明かされていない内容よ。」
ブルーエルフ代表はこそっとそう囁いた。
それほど重要な内容ということだろう。
「東の森の大結界の中の、眠れる邪竜がもうすぐ目覚めようとしている。」
「!?眠れる邪竜が!?」
驚いたのはコルネリアスだけだった。
眠れる邪竜ってなんだ?
「今回参加のコルネリアスは初めて聞く内容だろう。他の者たちは前回100年前の会議でも重要議題としてあがっていたからわかっていたことだがな。」
100年前の会議でも重要議題となるほどのことなのか。
「眠れる邪竜は1000年前に現れて森のアレを屠り眠りにつき、500年前に目覚めてアレをまた屠り眠りについた。それから500年たった今年、邪竜がいつ目覚めてもおかしくはなくなったのだ。」
森のアレ・・・。
そして邪竜の存在・・・屠るということと・・・眠りにつくということ・・・。
神様が俺のいた世界のラノベなどを参考にしてこの世界を作っている点を考えると・・・。
少し違うところもあるが、もしかして・・・。
「アレクサンディルス様、それは確かなんですか!?」
コルネリアスの問いにアレクサンディルスは静かに頷いた。
「残念ながら確かだ。・・・今度こそ、我々は邪竜を倒さねばならない状況まで来ているのだ。」
「だが、アレクサンディルス様。あの邪竜はとてもじゃないが鱗が固くてしかもとんでもなく強い。1000年前に倒せずにいた時にたまたま眠ってくれたし、500年前の時も同じだった。私も一緒に攻撃したから覚えているよ。」
レッドエルフ代表の女性がそう言った。
「アレクサンディルス様の上級風魔法でも少し鱗が切れた程度だったんだ。あれから500年経ったが今回もどうにかできるとは思えない。」
ブルーエルフ代表がそう言ったのを受けて皆考え込むような雰囲気になった。
ここにいる全員、倒さないといけないのに果たして倒せるのかと思っているのだろう。
それほど邪竜というのは強いということか。
エルフ長であるアレクサンディルスが上級風魔法で少ししか切れなかったということからとても強いとは思うが・・・。
だが、アレクサンディルスでも上級風魔法以上のものが唱えられないのだろうか?
そういえば・・・アレクサンディルスを鑑定するとレベルは俺と変わらなかった。
確か3000歳のエルフ長なのに、それにしてはレベルが低いと思うんだが。
ここにいる全員もコルネリアス以外レベル40~50台と年齢の割りにレベルが低い。
「今までは全エルフに邪竜については知らせていたが、もう・・・こうなれば、人間にも知らせて協力をあおいだほうがいいのだろうか?」
アレクサンディルスはそう言うと、イエローエルフ代表の男性がばっと反応した。
「それはいかん!俺は反対だ!人間どもに知らせてみろ、良からぬことを企むに決まっている!」
「だが、今回は倒さねばならないのに我々ではどうにもできないだろう?」
「それは・・・。」
「イエローエルフ代表の懸念もわかる。だから、知らせる人間を限定してはどうだろう?」
今まで黙っていた次期エルフ長ロブレキュロスがそう言った。
「知らせる人間を限定?」
「レベルが高いと言われている人間だけに手紙を書いて協力をあおいではどうだろうか。例えば勇者や、"黒の一族"などはどうだ?」
"黒の一族"!?
・・・もしかして、じいさんらと一緒に来たのは正解だったのかもしれない。




