204、悪魔は新装備を着る
その後、俺たちは魔物をある程度狩って帰った。
途中で狩りに手こずっているエルフたちに遭遇してマスティフが我先にと助けていた。
その際にヘンリエッテは狩りをしていることがバレてはいけないと戦えない案内役のフリをして木の影に隠れていた。
俺はマスティフに任せたらいいや、面倒臭いと思って離れて眺めていた。
助けられて喜んだエルフたちは彼らが採った寒さに強い果実をもらった。
狩りは結局フロストフォックスなどの小型の魔物を10体とフロストボアなどの中型の魔物を5体狩った。
ヘンリエッテによるといつもは小型の魔物3体で持って帰るのに苦労するのだから、持って帰るのを気にせずたくさんの魔物が狩れてとても喜んでいた。
まあ、こんなに大量に狩れるのは確かにアイテムのおかげだ。
因みに森にはアイスサーベルタイガーのような大型の魔物がいなかった。
だからエルフたちは森に狩りに行くということらしい。
前にアイスサーベルタイガーを捌いてくれた村人に魔物を捌くのをお願いしたらさすがに数が多すぎたようで村人の隣近所も手伝ってくれることとなり、頼んだ俺としてもただ眺めているのも悪い気がしたので捌く手伝いをした。
当然マスティフもかってでて、ヘンリエッテも手伝っていた。
捌かれた大量の肉を見てヘンリエッテは満足そうに微笑みながら持って帰っていた。
大量の肉は兄妹の家の外に設置されている箱型の氷室(冷蔵庫にどことなく似ている)に置いとくと自然と寒さで凍るようで、そこにパンパンに詰めていた。
それから数日、村を観光して回ったりヘンリエッテに付き合って狩りに行ったりして防具が出来上がるまでの日を過ごした。
そして頼んで5日後。
俺たちは職人の元を訪れた。
「おう!来たか来たか!」
職人はニカッと笑って迎え入れてくれたが、目は充血してて目の下に隈もある。
どうやら徹夜していたようだ。
「・・・だいぶお疲れではないですか?大丈夫ですか?」
「そんなことを気にするな!お前らに渡したら酒飲んで2日ほど寝るつもりだからな!」
職人はそう言いながらじいさん、マスティフの順に鎧を差し出した。
「・・・ほお!」
じいさんは自分の鎧を受け取ってマジマジと眺めて感心したように言った。
「留め具もしっかりしておる。それに鎧の細かい傷まで直っとる。」
「どうやら長い間愛用していたようだからクセはあえてそのままにしといた。傷が多かったから直すのに苦労したぜ。」
「わっ!すげえ!俺のも傷直ってるし、改良もイメージしてたよりかっこいい!」
マスティフはキラキラした目で自分の鎧を見て感激している。
「おう、兄ちゃんのクセや筋肉の付きかたを俺なりに考えて改良してみたんだが、気に入ってくれたようでよかった。」
俺の目には肩当てが少し短くなったくらいしかわからないが、マスティフから見たら結構変わってるみたいで鎧をひっくり返したりして眺めていた。
そして俺のローブセットだが。
「・・・?なんか預ける前とそんなに変わってないように見えますが。」
職人が渡してきたローブセットは渡した時と変わらず白の装飾の少ないローブセットそのままに見える。
変わった点としては、両肩に白く短いケープがついているくらいか。
映画などで探偵ホームズが着ていたインヴァネスコートに似ている。
「まあまあ、まずは着てみてくれ。」
俺はその場で着てみて、腕や足を適当に動かしてみた。
・・・なんだ?前に比べて驚くほど違和感がない。
元々渡す前も違和感はそこまでなかったが、今のは着ているのを忘れるほど軽い。
「・・・これは、ものすごく動きやすいですね。」
「それだけじゃねえぜ。ローブに魔力を通してみな。」
ローブに魔力を通す?
そう言われてもどうやればいいんだ?
とりあえず・・・魔力でローブを包むイメージをしてみた。
するとローブに変化が出た。
「すげえ似合ってんなユウジン!」
マスティフはキラキラした目で見てくるし、じいさんはニコニコしてこっちに微笑んできている。
元々装飾は一見するとほとんどない位シンプルなものだったが、魔力を通すことで右肩、左脇腹、裾のところに黒のトライバル柄の模様が浮き出てきた。
「魔力を通すことでミスリルと兄ちゃんが渡してくれたモノが反応して防御力が高くなる仕組みだ。」
元々もミスリルを使用していたから防御力が弱いわけではなかったのに、魔力を通すことでより防御力が上がるということか。
強敵と戦うことになったときに役立ちそうだな。
それとガントレット・グリーブは変わってはなかったがきれいに磨かれてミスリル製品ならではの銀色に輝いている。
そして2本の短杖もきれいに磨かれて装飾が増えていた。
トライバル柄は優男顔の俺に合っているのか?と正直思ったが、マスティフとじいさんの反応を見るかぎり意外にそこまで違和感はないようだ。
「フミャー!」
着るために膝から下ろしていたクロ助が俺のローブセットを見て鳴いた。
似合ってるよ!という感じで足元をスリスリしてくる。
座り直してクロ助を膝に乗せつつ、ひそかに鑑定してみる。
『ミスリルローブセット(改)』
職人による改良で強化されたローブセット。
ミスリルローブセット、『不滅の外套』、ヴァンパイアオーバーロードのマントからできている。
魔力を通すことでシンプルから印象がガラッと変わりまして、よりエレガントになってどこに行っても恥ずかしくない装いになりましたね。
エレガント・・・?
そ、それはさておき、俺が改良前に渡していた2つのものは・・・俺が愛用していた『不滅の外套』とオーバーロードのマントだ。
『不滅の外套』はどんな汚れも叩くだけで取れるという優れもので、魔物と戦う前に着るようにしていたものだ。
そうしなければ返り血で白のローブは真っ赤になってしまってすぐに洗わなければならないからかなり面倒だった。
だが、戦う度にいちいち着るのも面倒臭い。
それを常々思っていた俺は職人が改良してくれると聞いていい機会だと職人に『不滅の外套』を説明しながら出した。
オーバーロードのマントは、倒した時に討伐証明部位の牙と一緒になんとなくアイテムに入れていたもので、なにかに利用できないかとついでに出したのだ。
オーバーロードと戦っているときに俺の魔法をマントで弾いたのを覚えているから、そんな感じのことができたら儲けもんくらいに思ってわたしたのだが。
職人は2つともにとても興味が沸いたようでうまく利用してくれたのだろう。
もしかして、トライバル柄の黒の部分はオーバーロードのマントなのだろうか。
「『不滅の外套』の能力をローブセット全体に移行できたからローブだけじゃなくガントレットらも叩けば汚れはとれるようになってる。さらに魔力を通した状態にしとくと顔や頭に汚れがつきそうになったら自動で防いでくれるぞ。」
俺の期待以上の機能がついて感心してしまった。
マスティフやじいさんも羨ましいという目で見てきている。
それだけ討伐の際の返り血などは服についたら厄介なのだ。
「ありがとうございます。さすがですね。」
「へへん!ここ最近の俺様の中でも最高傑作ができたぜ!弟にまた会うことがあったら見せびらかしてくれよ!」
職人はニカッと笑った。
代金は本当に1000インでいいということだったが、こんな機能がついた防具にしてくれたのに少額過ぎるので俺は事前に用意していた酒樽1tをアイテムから出して職人にあげた。
これは村の商店に売られていた中で1番うまくて樽が大きいものを前日に買い物ついでに買っといたものだ。
職人は「こんなに!?わ、悪いなあ!」とものすごく驚いていたが飛び付いていた。
やはりこの職人もドワーフとあって酒好きなようだ。
マスティフ・じいさんらもそれぞれメンテナンス・改良費を払って(職人のご厚意で1000インずつにしてくれた)職人の家を出た。
「これからどうするんじゃ?」
「ちょっと森に行ってきていいでしょうか?ローブセットを着た状態の魔法とかを確認しときたいので。」
前のローブセットは着たら魔法の威力が上がっていた。
今回もそうなっているのか確かめたいのと魔力を通したローブセットの防御力の変化も見たいし。




