203、悪魔は狩りに出かける
後半少しだけ三人称視点です。
防具の改良を頼んだ数日後、ヘンリエッテに付き合ってグリーンエルフの外に狩りをしにやって来た。
ヘンリエッテが「肉が食べたい!」と主張してコルネリアスが反対していたのだが、ヘンリエッテのあまりの駄々っ子に妹を可愛がっている兄が負けた形だ。
しかしサーベンタイガーのこともあったので1人ではダメという条件付きだ。
そこで俺たちに同行をしてほしいと言ってきて、俺とマスティフはどうせ暇だからとヘンリエッテの狩りに付き合うことにした。
じいさんは一応老いぼれ商人という設定なので同行するのもアレなので「わしは宿屋で読書をするか職人のところにでも行こうかのう。」と言ってきたこともあって不参加だ。
護衛がヘンリエッテの方に来ていいのか?と思うが誰も何も気にしてないので俺も気にしないことにした。
まあ、あのじいさんのことだから村が爆発しようが水没しようが無事だろう。
ケロッとしてそうなのが容易に想像できる。
そして今、村の裏手になるうっそうとした森の中に狩りにやって来たわけだ。
「・・・そういえば、ヘンリエッテは一緒に狩りをする人がいないんですか?」
俺が少し気になったことを聞いてみたらヘンリエッテは「失礼ね!」と睨んできた。
「私にもお友だちはいるわよ。でも皆まだ成人迎えてないし、私が狩りをしていることを知らないもの。成人してるお友だちがいることはいるけどいい顔はしないだろうから。」
まあ、未成人が狩りをするということでその友だちらは心配するとおもったのか。
そしてヘンリエッテとしては心配されるのが嫌なんだろう。
「いつも狩りをする人たちはこの森で狩りをしているの。私が狩りをしているのを知ってるのはお兄ちゃんだけだから私はこの森で狩りできなくて、南の森や他のところで狩りをしてたんだけどね。だからもし狩りのグループに会っても私が狩りをしていることは黙ってて。」
「わかりました。・・・あ、前方に魔物がいます。」
俺は森に入る前からはっていたサーチでどこに魔物がいるのはわかっていたが、近くまで近づいたところでマスティフとヘンリエッテに知らせた。
慎重に前方に近づいて草の影から見ると、少し小ぶりのイノシシの姿があった。
全身灰色の毛で下顎からは青い牙が長くのびている。
「あ、あれはフロストボアだわ。ここは任せて。」
ヘンリエッテはフロストボアの姿を確認すると背中に背負っていた弓を手に取って腰にさしていた矢筒から矢を取り出してかまえた。
そしてヒュンと矢は勢いよく飛んでいき、フロストボアの喉を貫通した。
「プギィィィィッ!?」
ヘンリエッテは続けて矢を射り次々と矢が刺さったフロストボアはばたりと倒れた。
「よし!肉確保!」
ヘンリエッテは嬉しそうに弓矢を仕舞うとフロストボアに近づいた。
「なかなか手際も良くて1人で十分いままでやって来たのがわかりました。」
「すげーかっこよかったぜ!」
俺とマスティフが褒めるとヘンリエッテはえへんと胸を張りながらも照れた表情を浮かべた。
フロストボアは血抜きと他の魔物をおびき寄せるためにそのままにして、俺たちはしばらく血のにおいでやって来た魔物を狩った。
といっても肉大好きなヘンリエッテと戦闘大好きなマスティフが主に狩って俺はもっぱら血抜きの終わった魔物をアイテムに入れてばかりだったが。
マスティフは黒の鎧を職人に預け仮初の護衛に見える鎧を着けていたから普通に闘えるものの、俺はローブセットを剥ぎ取られてしまったので今は防具を着けておらず服を重ね着した上にコートを着ているだけの町人スタイルなのでさすがに戦う気になれない。
今までほとんど攻撃を受けたことがないし、攻撃を受けそうになっても罠魔法と移動魔法を使った緊急回避をすれば問題ないのだがローブセットを着ていない状態の俺はMPも4分の1になっているので今まで通りバンバン魔法を使う訳にもいかない。
そんなことを思って戦わないことにしたが、まあ、要は戦うのが面倒臭いだけだ。
依頼でもないし戦う必要がないなら戦闘大好きなマスティフに任せたらいいだけだ。
・・・というかクロ助がコートの中にいる状態で戦うというのはさすがにできない。
影に潜んでくれてていいのに、クロ助はなぜかコートの中に入りたがるのだ。
それもあってヘンリエッテの中で俺は非戦闘員と思われたようで「狩り終わったら呼ぶから隠れてて」と言われてしまった。
因みに俺のコートの中にいるクロ助もペットと紹介した為にもちろん非戦闘員にされてヘンリエッテに「大丈夫?」と心配されて複雑な顔をしていた。
「あら、矢が無くなっちゃったわ。」
ヘンリエッテが矢筒を覗きながらそんなことを言ってきた。
森に入ってる数時間、結構な数を狩ってはアイテムに入れてきたので矢が無くなったようだ。
「でしたらここらで終わりますか?」
俺がそう声をかけるとヘンリエッテはうーんと考えて「大丈夫!」と笑った。
「これから魔法を使っていけばいいから。ね、風の精霊!」
ヘンリエッテがそう言うとどこからか風が吹いてきてそれがヘンリエッテの右肩に集まると小さな妖精のような姿になった。
体長30センチほどの人型でギサギサのワンピースのスカートを着ていて、蝶のような羽を背中に生やして白い髪をポニーテールにしていてその顔はつり目で口角を上げている。
シルフはニコニコ笑いながらヘンリエッテを見ている。
なるほど、これがエルフ特有の精霊魔法で呼び出した精霊なのか。
「へえ、妖精のようで可愛らしいですね。」
「すげえな!初めて見た!」
俺とマスティフがそう言うとヘンリエッテはちょっと驚いた反応をした。
「え!?2人とも見えるの!?・・・珍しいわね。精霊は私たちに見えるけど、人間は精霊魔法が使えないからよほど精霊たちが機嫌がいいときじゃないと人間に姿を見せないのに。」
そうなのか?
『うふふ、とっても楽しそうだから姿を見せちゃった。』
シルフの声と思われるのが頭に流れ込んできた。
見るとシルフの口は動いてない。
頭に流れ込んでるということは、念話みたいなものか?
「シルフは楽しそうだから姿を現したって言ってるわ。」
「へえ、そうなんだ。しゃべってんの聞こえなかったなあ。」
どうやらマスティフには聞こえてないようだ。
「精霊の姿は見えるけどさすがに声は聞こえないはずよ。精霊の声は私たちにエルフにしか聞こえないみたいだから。」
「そ、そうですか・・・。」
なんで俺は聞こえるんだ?
もしかして・・・テスターだからか?
俺がチラッとシルフを見ると、シルフはこっちにニコニコ笑顔を向けてきた。
なんとなく・・・シルフは俺が聞こえるのわかってる気がする。
だが、聞こえるなんてバレたら面倒臭い。
狩りに集中させよう。
「・・・あ!あそこに魔物がいます!」
俺はサーチで近くにいた魔物を見つけて魔物の方を指差した。
「お!今度はなんの魔物だろうな。」
マスティフは喜び勇んで俺の指差した方向に駆け出した。
「・・・ねえ、シルフ。」
駆け出してったマスティフを呆れつつ追うユウジンの背中を見ながら、ヘンリエッテは自分も続こうと歩きだした。
『なあに?ヘンリエッテ。』
「彼らの魂の色はきれい?」
精霊は人間・エルフ・ドワーフなどの種族の見分けはつくが、個人の見分けはつかない。
そのために精霊は魂を見通す特殊な目を持っていて、色やきれいさでその者がどういう者か判別ができるという。
ヘンリエッテは善人か悪人か判断するために聞いたのではなく、あくまでも精霊にとって彼らは信用できるか聞いただけだった。
『ひとりは赤に黄色が混ざって炎のように形を変えてきれいよ。』
赤は熱い、黄色は明るいというイメージでヘンリエッテはマスティフのことかなと思った。
『もうひとりは・・・とってもきれいなものに守られている。』
きれいなもの?守られている?
ヘンリエッテは意味がわからず首を傾げた。
『魂はきれいよ。・・・でも』
シルフはくすりと笑った。
『色はまるで血がこびりついたみたいに赤黒いわ。』




