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202、悪魔は職人に会う

「そういえば、ちょっと行きたいところがあるんじゃが。」


コルネリアス兄妹に夕飯をご馳走になった翌日、宿屋の食堂で3人と1匹で朝食を食べているとサラダを食べながらじいさんがそう言ってきた。

「行きたいところ?じいさんなんか面白いところあんのか?」

マスティフが分厚いトーストにバターをアホほど塗りながら首を傾げていた。

「前に来た時に、ここの職人のところに依頼で行ったと話したじゃろう?その職人のところに行きたくてのう。」

「職人のところ?なんの職人なんです?」

俺はウインナーを食べながら聞くとじいさんは朗らかに答えた。

「主に防具を得意とする鍛冶職人なんじゃが、ものすごく腕のいいドワーフでそっち界隈では知られた存在なんじゃ。せっかくそんな職人がこの村にいるわけじゃし、その職人にわしの鎧のメンテナンスを頼みたくてのう。」

「なるほど。今は装備してないからメンテナンスを頼むにはちょうどいいですね。」

「あ!だったら俺のも頼みたい!」


ということで、俺たちはじいさんが前にいった職人のところに向かうこととなった。

俺はあんまり攻撃を受けたりしないがメンテナンスはやっといたほうがいいとじいさんに言われて俺も頼むこととなった。

防具のメンテナンスというのは数日で終わるそうで、そこまで急ぐ旅ではない俺たちにとっては数日滞在は問題がない。




「確か・・・おお、ここじゃ。・・・前に来た時と変わっとらんのう。」

じいさんの記憶を頼りにグリーンエルフの奥の方に行くと、1件の家に着いた。

沢山の石が小山のように積み上がり、小山の頂上付近から煙突が生えていてモクモクと煙が出ている。

小山の手前には小山の内部に入れるようにドアがあるがそれも金属でできていて、小山からカンカンと金属を叩く音がする。

「なんというか・・・変わった家ですね。」

グリーンエルフの家は巨木に穴を開けた家ばかりなのにこの家だけが石でできた小山というのは周りととんでもなく浮いている。

まあ、鍛冶は火を使うから巨木の中ではできないのはわかるけど、石を積み上げた小山なのはどうなのだろうか。


俺が微妙な気持ちになっているのをよそにじいさんはドアをノックした。

すぐに返事があってドアが開き、中からドワーフが顔を出してきた。

「!?」

俺はその顔を見て目を見開いた。

そのドワーフはトリズデン王国の首都にいた、俺が親父と呼んでいた鍛冶屋のドワーフと瓜二つだったからだ。

背が低く髭が長く同じような作業着を着ていた。

違うのは髭が長いのを三つ編みにしているぐらいだろうか。

ドワーフという種族は全員似ているのだろうか?


「おう?人間か?なんだい?あんたら。」

ドワーフは急に訪ねてきた俺たちを少し警戒したように聞いてきた。

「急に申し訳ない。あなたの鍛冶の腕が素晴らしいと聞きましてのう、鎧のメンテナンスを頼めますかのう?」

じいさんが用件を言うと職人はすぐにニカッと笑った。

「メンテナンスか!ちょうど暇してたところだから大歓迎だぜ!」

そう言ってすぐさま家の中に招き入れてくれた。


小山の中は意外に広くて、ドアを開けてすぐが工房でその隣の部屋が鍛冶場になっていて、さらに奥の部屋が住居スペースのようだ。

鍛冶場の熱気がほんのり工房に伝わってきていて、家の中に入った途端に暖かい空気に包まれた。

工房にはいくつも来客用と思われる背もたれのない椅子があってそれに座らせてもらった。

「んで?メンテナンスするって鎧はどこだ?」

「あ、それは俺が持ってます。アイテム収納魔法持ちなんで。」

「なに!?いい魔法を持ってんなあ~!」

職人はご多分に漏れず感心した目で俺を見てきた。


俺がじいさんとマスティフの黒い鎧を出すと、職人は手に取ってしげしげと見始めた。

「こっちはじいさんのかい?なかなか使い込んでるな。ふむ、少し繋ぎ目が緩んでるか。メンテナンスだけで改良はいいかい?」

「気に入ってるんでメンテナンスだけでお願いしたいのう。」

「わかった。こっちのは兄ちゃんのかい?うーん、細かい傷が多いな。兄ちゃんはどうする?」

兄ちゃんと言われたマスティフはメンテナンスと改良を頼んだ。

職人と話し合ってもう少し動きやすいものにしたいらしい。


「こっちの兄ちゃんは・・・うん?」

俺はメンテナンスしないのかと聞くつもりだったのだろうが、なぜか職人は俺の着ていたローブをマジマジと見始めた。

「おい兄ちゃん、ちょっとそのコート脱いでローブを見せてみろ。」

「え?あ、はあ。」

俺はよくわからないままに膝に乗っていたクロ助を下ろして立ち上がり、コートを脱いだ。

職人は色んな角度から俺のローブを眺めやっぱり!と声をあげた。


「兄ちゃん!その装備はドワーフがやっただろう!?」

「え!?あ、はい。」

ドワーフがやったのなんて見てわかるもんなのか!?

「そのドワーフ、わしにものすごく似てなかったか?」

似てるどころじゃないほど瓜二つだ。

俺はコクコクと頷いた。

「はい、とんでもなく似てます。」

それを聞いて職人はニカッと笑った。


「似てて当然だ!そのドワーフは俺の弟だ!」

「は!?」



なんと親父と職人は兄弟だった。

そりゃあ似てるわけだ。

それから職人は自らのことと親父のことをなぜか話し始めた。


なんでも、職人と親父は小さな頃からライバルとして鍛冶の技術を競い更なる技術を追い求めて職人が旅を始めると親父も同時に別の場所に旅に出たそうだ。

そして職人はこのエルフ領のグリーンエルフで良質の鉱物が採れることからここに住み着き、親父はトリズデン王国の首都に住み着いたという訳らしい。

別にライバルだが仲が悪いというわけではなくむしろ仲が良くてたまに手紙のやり取りをしてお互いの近況や技術を競いあってるとのこと。


「この間来た手紙に「ミスリルを使ったローブセットを作った」と書いていたからな、それに襟や袖についている模様はあいつが好きな模様だ。だからピンと来たんだ。」

職人は胸を張ってそう言ってきた。

「それだけでもわかるというのはすごいですね。」

「それにしても・・・ミスリルをローブに使うとは、さすが弟だ。・・・俺も負けてらんねえな。」

職人は俺のローブを見てニヤリと笑いそう言ってきた。

「よし!そのローブセットを改良してやろう!」

「ええ!?メンテナンスだけでいいんですが・・・。」

「なに言ってやがんだ!こんなローブを見せられて俺の職人魂が黙ってらんねえ!なあに、そのローブセットの効力を下げることはしねえよ。むしろ上げてやるってんだ。」

「あ、上げるんでしたら・・・それはありがたいですが。」

「それに費用は格安にしてやろう。1000インでいい。」

それは安い!普通にそこらの防具屋にメンテナンスと改良を頼むと1万インは越える。

大金を持ってはいるがちょっとそれはどうかと思って今までメンテナンスすら頼んだこともなかったんだが、それだったら頼んでもいいかもしれない。


「・・・時間はどれくらいかかります?」

「そうだなあ。改良だし、鎧2つもやるから・・・5日くらいだな。」

それを聞いて一応じいさんとマスティフに視線を送る。

2人は問題ないようでじいさんは頷きマスティフはオーケーサインを出してきた。

「わかりました。お願いします。」


こうして思いがけずローブセットを剥ぎ取られた。


セット丸ごと預けるわけだから、ローブはもちろんガントレットにグリーブ、短杖2本も渡したのでなんだか心もとない。

特に短杖がないというのは魔法剣が使えないということだから余計にそう思う。

だがまあ、今のところほとんど攻撃を受けたりしてこなかったし、魔法剣以外の魔法が使えるのだからなにかあっても問題はないか。


「・・・あ、そうだ。あの、これを役立てられませんか?」

俺はそう言ってあるもの2つ(・・)をアイテムから出して職人に見せた。

職人はそれらを見てものすごくやる気に満ち溢れた顔をしていた。

「面白いもん持ってんな!くくく!」




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