200、悪魔はご馳走になる
夜になって俺たちはコルネリアスの家を訪ねた。
コルネリアス兄妹の家は村役場の巨木の上の方にあり、元々家族でそこに住んでいたそうだ。
「いらっしゃ~い!」
元気なヘンリエッテに出迎えられて中に入ると中は結構広いリビングダイニングとなっていて、キッチンも広い。
奥の左右に階段があり兄妹それぞれの部屋に繋がっているそうだ。
ダイニングテーブルの上にはすでにところ狭しと料理が並べられていて、アクアパッツァにシチューにボンゴレなど見たところ洋食が並んでいた。
どうやらエルフは洋食を食べているようだ。
イメージどうりでちょっとほっとしたが、メインは超巨大肉のステーキなのはどうかと思った。
どう考えても妹の好みだろう。
「へー!どれも美味しそうだなあ!」
「ふふふ!全部私たち兄妹の力作よ!」
「ほう、これらは全部作ったのか?すごいのう。」
確かに2人で数時間で作ったとは思えない量だ。
「これ、お呼ばれしたお土産です。」
俺はそう言ってアイテムからステーキよりもはるかにでかい肉を出した。
重さに10キロという巨大さだ。
「ふああ~~!?」
ヘンリエッテが俺が出した肉の塊に歓喜の雄叫びをあげた。
「ええ!?こ、こんなお肉いただいていいんですか!?」
「ぜひご兄妹で食べてください。」
肉はサシも入ってツヤツヤしていてとんでもなくいい肉であるというのが一目でわかるものだ。
「なんのお肉なんですか?」
「それ、ヘンリエッテを襲ったサーベルタイガーのものです。」
「「!?」」
実はここに来る前に時間があったので、魔物の剥ぎ取りをしてくれるところを探してお願いしたのだ。
エルフ領には冒険者ギルドがないので剥ぎ取り小屋もない。
だが、よく狩りをするエルフの村には魔物の剥ぎ取りを得意とする村人がいて、お金を払うと剥ぎ取りをしてくれる村人もいるそうなのだ。
それを「神様監修:世界の歩き方」で読んだことのあった俺は兄妹へのお土産にサーベルタイガーの肉を持っていくことを提案して、剥ぎ取りをしてくれる村人を探したというわけだ。
因みに村人は剥ぎ取りをしてくれただけで、買い取りをやってくれるわけではないので解体されたものは全部俺のアイテムにある。
買い取りをしてほしい場合は村の店で買い取ってくれるらしいが、俺は不要な臓器は捨ててそれ以外は一応アイテムに入れてある。
剥ぎ取りをしてくれた村人に「サーベルタイガーの骨や毛皮は防具に使えるし、血や目玉は錬金術の材料になるし肉はうまいよ。」とアドバイスをもらったからだ。
肉は大量だから兄妹にお裾分けという意味もあった。
「やったーーーーー!!!サーベルタイガーのお肉美味しいのよー!」
肉を前に飛び上がって喜ぶヘンリエッテはものすごい勢いで肉に抱きついていた。
それからそれぞれ席についた俺たちは料理に舌鼓をうった。
じいさんはコルネリアスのすすめた酒を嗜みながら酒について話し、マスティフはヘンリエッテと肉の取り合いという大人げないことをしてじいさんに怒られていて、俺は適度に会話に入りつつマスティフの絡みを無視しクロ助は生肉や川魚の切り身をヘンリエッテからもらっていた。
「本当に人間の商人たちが来るようになってから本当に助かってるんです。それまでは肉か魚くらいしか食べられなかったもので・・・。」
成人しているコルネリアスはお酒を飲みながらそんなことを言う。
「それもこれもこの極寒の地だからでしょうのう。」
「そうなんです。前代表の父は寒さに強い野菜などを作ろうとはしていたんですが、こんなに寒いと種を見つけても芽吹かせるどころか、雪のせいで耕すこともできなかったそうで。」
この地に来て、雪はずっと降り続けている。
村では除雪も魔法で数時間おきにやってなんとか道に積もってはいない状況だが、村の外の道はほぼ除雪されていないので人通りが少ない道など馬車が4分の1埋まるほどの積雪量なのだ。
「この雪はずっと降り続けているんですか?」
「ええ、そうなんですよ。この大陸が出来たときからほぼやんだことがないとか。」
そんなにずっと!?
「ですが不思議なことに積雪量は50センチほどから積もらないのです。でも除雪しないと服は濡れますし固まった雪で転んで怪我をしてしまうものですから役場の者が除雪をしてますが・・・やってもやっても数時間後には積もるのを見るとげんなりしてきます。」
「それは・・・本当に大変そうですね。」
「ですが、この雪がやんだらなにか悪いことが起きる前触れと言われています。祖父が代表していた時はやんだ次の日に大規模な地震が起きて各地の村に被害が出て、父が代表をしていてやんだ時は地割れが起きて何人ものエルフが犠牲になって、なんとも恐ろしい唸り声のようなものがエルフ領中に響き渡ったそうです。」
地震に地割れに唸り声のようなもの・・・?
ついついなにかありそうと思ってしまうな。
まあ、地震は俺のいた世界でも世界各地で起こってたし、地割れはプレートの関係もあるかもしれないし、唸り声のようなものは気象現象かなにかで唸り声のように聞こえたのかもしれない。
・・・雪がやんだ因果関係まではわからないが。
「うーん・・・。おい、ユウジン。」
マスティフは急にヒソヒソと小声で声をかけてきた。
「こんな寒い地域でも野菜を育てる方法、ユウジンはできねえか?」
マスティフは今の話題でそこが気になったようだ。
寒い地域でも野菜を育てる方法。
俺がそこですぐに思い付いたのはビニールハウスだ。
だがもちろん、この世界にビニールがない。
その代わりとしてある魔法が頭に浮かんだが・・・俺が取得してない魔法のために実現可能かがわからない。
なので小さく首を振る。
「実現可能かわかないのでなんとも。多分じいさんに聞けばわかることですが。」
「じいさんに?・・・後で教えてくれよ。」
マスティフは俺の魔法を期待しているのかニカッと笑った。
正直、ものすごい面倒臭い。
なんで俺には関係ないエルフ領の農業事情を考えないといけないんだ?
商人が野菜を持ってきて売ってるんだからいいじゃないかと思うし、エルフたちから「農業事情をどうにか」と頼まれたわけでもない。
・・・だが、マスティフのこの絡みはしつこい気がする。
俺はげんなりしながらも笑顔を張り付けて雑談を聞いていた。
「・・・あ、そうじゃそうじゃ。」
不意にじいさんは思い出したようにコルネリアスに声をかけた。
「ここの代表じゃったら、知っておられるかもしれん。実はわしはあるエルフを探しておりましてのう。」
「え?あるエルフですか?」
「わしが若い頃に怪我をして倒れているところに、助けていただいたエルフがおりましてのう。その方にお礼をしたいんじゃが、名前しか覚えておらんから探しておるわけです。」
「そうですか。なんという名前で?」
「確か、ベネディクティス・レィ殿というんじゃが。」
最高指導者を見つけるにあたり探しビトはじいさんの恩人ということにした。
その方が探す動機としては不自然ではない。
ヘンリエッテは名前を聞いても首を傾げていたが、コルネリアスは驚いたような顔をした。
「知ってます!我らエルフの頂点に立つエルフ長、アレキサンディルス・レィ様の二男様です!」
この話で200話になりました。
まさかこんなに続くとは自分でも思わず感慨深いものがあります。
思えば見切り発車で自分のストレス発散のためだけに書き始めて1年半くらいが経ちまして、たまに産みの苦しみもあったり休んだりしましたが、今ではエルフ領編の次の次くらいまでネタが浮かんでいて書いてて楽しいです。
楽しみにしていただいている方には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも面白いと思っていただけるように書いていく所存です。
 




