197、悪魔は商売をしてみる
「・・・さて、これからどうするんじゃ?」
宿屋に戻ってきた俺たちは視線に疲れたため、今日は部屋に籠ることにした。
とはいえ暇だったので買ったケトルでアイテムに入れておく用の紅茶を作っていると、のんびり外を眺めていたじいさんがそう俺に話しかけてきた。
「明日はどこに向けて出立するつもりじゃ?」
「あ、そういやあどこに行くか教えてくれてないよな。」
マスティフは床で腹筋をしながら呑気にそんなことを言ってきた。
じいさんが切り出さなかったら明日どこに出発するつもりだったんだマスティフ。アホだなあ。
「ここから北のグリーンエルフに行って、そこから北西に行くと首都に着くようですから首都に行ってみようかと思ってます。道すがら探しビトをする感じで。」
「探しビト?誰か探してるのか?」
「マスティフ・・・、そもそもこのエルフ領に来たのは悪魔教の最高指導者を見つけるためなんですが。」
「・・・あ。」
マスティフは思いっきりそうだった!という顔をしてその様子にじいさんは呆れていた。
「マスティフには困ったもんじゃ・・・。じゃが、探しビトをどうやって探すんじゃ?まさか最高指導者ですか?なんて聞いて回るわけにも行くまい。」
「名前はわかってるんで聞いてみようかなと思ってます。」
通信の魔石でクラウデンと最高指導者が話しているときに鑑定魔法をかけて場所と名前はわかっていた。
だが、名前だけわかっただけで何者なのか、詳しいことはわからないので情報収集くらいはしたかった。
じいさんは「そういえばそうじゃったのう。」と言って、マスティフは「そうだっけ?」と言っていた。
「名前はなんというんじゃ?」
「ベネディクティス・レィです。」
トリズデン王国のギルマスでエルフのサルフェーニアの名字がリィだったことを考え、似ていることから恐らく最高指導者はエルフの可能性が高い。
「ふむ・・・長い名前にその名字、恐らく最高指導者はエルフじゃろう。」
「やっぱりじいさんもそう考えますか。長い名前もエルフの特徴なんですか?」
「ああ。エルフは長命の誇り高き種族というのを長い名前で表していると前に来た時に誰かから聞いたことがある。名字もエルフは2文字とも聞いた。」
エルフの名前にその特徴があるなら最高指導者はエルフだな。
「探しビトを具体的に探す方法は・・・さっき食堂で食料を売っていた時にお客としていたエルフたちが興味があるようにこっちを見てました。なので明日の午前中は村の中心地辺りでフリマのようにして少し売ってみてはどうかと思います。寄ってきたエルフにそれとなく探しビトを聞いたらなにか情報が得られるかもしれません。」
「それだったら村人たちも野菜が手に入るからいいな!」
マスティフもどうやら食堂の客が気になっていたようだ。
「それならば村長に挨拶でも言った方がよくないかの?勝手に中心地辺りで売ったりしたら不味くはないのかの?」
真面目なじいさんがそう言ってくるのは予想できていた。
「そこは特に問題はないみたいですよ。雑貨店でそれについて聞いてみたら中心地で勝手に売ってく人間はいるそうで、エルフ領は村長はいなくて代表がいるそうですが、その代表は人間とあまり関わりたくないから見て見ぬふりをしているそうです。」
「ほう、すでに聞いているとは、さすがユウジンじゃのう。」
じいさんも納得したようだし、明日は野菜を売ってみるか。
その後、夕飯を食べに外に出る気になれなかった俺たちは部屋で俺が作った夕飯を食べ、それぞれが眠りについた。
翌日。
ハラハラと雪が降るなか、俺たちは村の中心地の少し開けた場所に来た。
俺が木箱に入った大量の食料を出し、マスティフが並べてじいさんが応対をしてあっという間に村のエルフたちが押し寄せてきた。
他の村か首都で商売をしながら情報収集する可能性があるので食料はある程度に抑えたが、それでもじゃがいも2キロ、玉ねぎ3キロ、小麦5キロなどとキロ単位で売れまくり、3時間ほどでほぼ完売した。
じいさんが破格の値段で売りまくったので売上はそこまで稼げなかったが、新鮮な野菜に気をよくしたエルフにそれとなく話しかけると機嫌よく応じてくれて情報収集もできた。
が・・・。
「名前に心当たりがないヒトばかりでしたねえ・・・。」
午後から北のグリーンエルフを目指して出発したのはいいが、俺は御者席で肩を落としていた。
今回は俺が御者で、クロ助は俺を裏切って馬車の中で寝ている。
御者席は吹きっさらしで寒い。
まあ、コートとマフラーのおかげでなんとかなっているのだが。
「・・・おや、魔物がいる。」
サーチでこの先に魔物がいるのがわかった。
このエルフ領は人間の国に比べて魔物が少ない。
恐らく寒さ耐性の魔物しか暮らせないし、エルフたちに狩られているようなのでだから少ないのだろう。
そう思ってたら前方に見えてきた。
「ギャーオ!」
いたのは体長1メートルほどのキツネの魔物だった。
全身白くて尻尾の先と耳の先だけが黒い。
鳴いてこっちを威嚇してきたのだが・・・鳴き声はコンコンじゃないのか。
「ギャーオ!」
もう1匹、同じ大きさのが出てきたところで俺は馬車を止めた。
「ん?どうした?ユウジン。」
マスティフが馬車の窓から顔を出してきた。
「魔物がいたので戦ってみようかと思いまして。」
「え?魔物?・・・あ、あの白いキツネか。」
「フロストフォックスという魔物だそうですよ。」
種族:フロストフォックス
属性:水
レベル:27
HP:420
MP:80
攻撃力:75
防御力:60
智力:46
速力:110
精神力:30
運:520
戦闘スキル:初級牙術
魔法スキル:中級水魔法・初級氷魔法
「レベル27?だったら戦わなくてよくねえか?」
確かに能力的にもすぐに倒せそうだが、初級氷魔法というのにどんなものか興味があったからだ。
「まあ、馬の休憩と思ってもらって構いませんので。」
俺は御者席から降りてフロストフォックスたちの前に立ちはだかった。
腰から短杖を1本手に取り魔法剣にした。
今回は片手剣の長さにしてみた。
「ギャーオ!」
フロストフォックスたちはそう鳴いて1匹がこちらに向かってきた。
速力は100を越えているとはいえやはり遅く感じる。
「よっ、と。」
噛みつこうと牙を剥いて飛びかかってきたのを避けて首元に切りつけた。
思ったよりもスパッと切れて首の半分以上を裂いて1匹は事切れた。
「ギャーオ!」
残ったフロストフォックスがそう鳴くとフォックスの周りに氷の粒がいくつも出現してそれが勢いよく俺に向かってきた。
アレが初級氷魔法か。
土魔法のロックバレットの氷版という感じだ。
勢いよく向きって来たことは来たが、避けられないほどではないので避けたり魔法剣で叩き落としてこちらからフロストフォックスに近づいて一撃で倒した。
「ふむ、なんとなく氷魔法がわかりました。」
倒したフロストフォックスはアイテムに入れた。
毛皮か肉が売れるかもしれないからな。
「よ、お疲れさん。な?わざわざ戦うことなかっただろ?」
マスティフは窓から見てたようでそう声をかけてきた。
「確かにそうですが、まあ、経験しとくのは悪いことではありませんから。」
さて、御者席に戻ろうかと思っていると。
「キャー!!」
「グオオオ!!」
ん?
甲高い叫び声と獣の吠えたような声?
「ユウジン、どうしたんだ?」
「今、叫び声のようなものと獣の吠えた声が聞こえました。」
「え!?もしかして誰か襲われてんじゃねえのかそれ!?」
マスティフは馬車から飛び出してきた。
その後をゆっくりじいさんが出てきた。
「わしはここで馬車を見ておこう。マスティフとユウジン、確かめに行ってくれるかの?」
え、俺も行くの?という顔をしたらクロ助も馬車から降りてきてピョーンと俺に飛び付いて、行こう!という感じで鳴いた。
「わ、わかりました・・・。」
クロ助を肩に乗せて俺はサーチをした。
「・・・!この先の森の中です。」
前方に見える森の中で、魔物と誰かがいるのがわかり森を指すとマスティフは森に走り出した。
クロ助に急かされて俺も走ることになってしまった。
魔物は大型の魔物で、誰かはどうやら小さなエルフのようだ。
森に入ってしばらく草をかき分け進むと・・・いた!見つけた。
白いサーベルタイガーに似た魔物が歯を剥き出しにして今にもエルフの少女に襲いかかろうとしているところだった。




