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194、悪魔は再び北上する

俺はじいさんと2人で次々とオークたちを浄化していった。

浄化し終わった死体はマスティフが瓦礫の先のベランダから中庭に放り投げて集める。

クロ助も尻尾をオーガの腕にして死体運びを手伝っていて、その腕を見たマスティフがクロ助に模擬戦を申し込むのを俺が阻止したりと脱線があったりもしたが、数時間で浄化を終えることができた。

中庭に山となった死体を燃やすこととなりMPポーションを飲んで俺がやろうかと思ったが、じいさんが『黒焔』で巨大な炎を出して黒い炎はあっという間にオークを燃やし骨の山となった。

その骨の山の真下に土魔法で深い穴を作って土に埋めたのは俺がやった。


『くるしい・・・にくい・・・にくい・・・。』

残ったのはサヴァンの魂だけとなった。

「残念でしたね。俺に復讐することもできず、父親も同じ目に会って。」

ふふっと俺が笑うとサヴァンは苦しそうな声をあげた。

神聖魔法を唱え、サヴァンの魂は浄化されていった。

「あなたに憎まれても嬉しくもなんともありませんから、もう化けて出ないで下さいね。」


「これこれユウジン。意地悪を言うでないぞ。」

側にいたじいさんにたしなめられた。

「じゃが今回、おぬしが真っ当に戦っていたのが意外じゃったのう。」

俺はその言葉に心外だという顔をした。

「俺だって普通に戦います。・・・まあ、オーバーロードの絶望を見たかったことは見たかったですが、どうしてもという訳ではありませんでしたし。」

「それはオーバーロードが気に入らなかった訳ではないってことか?」

マスティフは死体運びが終わって暇だったようで中庭の岩に座って頬杖をついたまま聞いてきた。


「息子と同じで人間より優れていると過信していたところが気に入りませんでしたが、絶望させても息子と同じ表情かなと想像できましたから、そう思ったらなんというか興味を失くしまして。」

「うーわ、その興味の失い方が怖いわ。」

マスティフは呆れたような顔をして俺を見てきた。

む、呆れられるようなことは言ってないはずだが。


「・・・んまあ、やってみたい絶望はありましたけど。」

「やってみたい絶望?」

俺はチラッとじいさんを見て、じいさんも知りたがっているような顔をしていたので話すことにした。

「俺がサヴァンの魂に死霊魔法をかけるどうなりますか?」

「死霊魔法を?・・・サヴァンの幽霊がでるわな。」

「そのサヴァンの幽霊は術者である俺が使役することになります。」

そして俺はニヤリと笑った。


「・・・俺がサヴァンの幽霊に、父親を殺せと命令したらどうなったと思います?」

「「!?」」

想像してゾッとしたようでマスティフは固まった。

じいさんも眉を潜めた。


「サヴァンの幽霊は苦しみながら俺の命令に従うでしょう。そして父親のオーバーロードはどうするか?素直に殺されるか?抵抗して戦うか?それとも息子の幽霊を倒すか?・・・俺としては是非愛する息子の幽霊を倒して、自責の念に狂い絶望する姿を見たかったのですがねえ。」

くくくっと笑うとマスティフもじいさんも引いていた。

あ、肩のクロ助も引いている。


「・・・ま、まあ、結果的にはやらなかった訳ですが。」

「やらなくて正解だぞ。」

「ミャー」

マスティフのツッコミにクロ助が同意するように鳴いた。


因みにやらなかった本当の理由はじいさんに睨まれていたからだ。

オーバーロードと俺が戦い、オークたちもマスティフらが戦うことになったくらいからじいさんが俺に釘を指すように睨んできていたのだ。

俺に釘を指しながら片手間でオークたちをさばいていたのだからじいさんはやはり恐ろしい。



廃城から出て地図と俺のサーチを頼りに、全員死者の村に戻った時には朝日が昇るかどうかという時間だった。

死者だった村人たちは村のあちこちで倒れていて、村でも浄化と死体を集めて燃やし骨は土に埋めた。

ただ、オークの時と違い墓だとわかるように土を盛って土魔法で大きめの岩を墓石がわりに置いた。

この村には俺たちが置いてった馬車があったのでその馬車で依頼人の村長のいる村に帰った。


村長は俺たちの話を信じられないという顔で聞いていたが、証拠として持ってきていた隣村の村長の着ていた服や持ち物を渡して、オーバーロードの牙やマントを見せると信じてくれて、甥が亡くなり村人たちが犠牲になったことに泣き崩れた。

お礼にと村の宿屋にタダで泊まらせてもらうこととなり、とんでもない豪華な料理を振る舞ってくれた。

酒もとんでもない量が振る舞われたがマスティフは一口で倒れるわ、じいさんは村の酒豪と飲み比べ対決を始めるわで村は遅くまで賑わった。




村を出て再び北上した俺たちは10日ほどかけてイルヴァルナス最北の町に着いた。

この町から北へ10分ほど歩いたところにエルフ領へ繋がるトンネルがあるそうだ。

俺はこの町で大量の食料を買い込み、じいさんとマスティフは服を買いに行った。

これはエルフ領に出入りするのに商人として通るため、飲食の商人ということで俺は商品を仕入れをしたのだ。

じいさんは老いぼれ商人ということでいつもの黒いローブではなく金持ちの商人っぽく少し豪華な服を着てもらうことにして、マスティフは用心棒ということでいつもの黒い鎧ではなく鉄の鎧を身につけることとなった。

黒い鎧や黒いローブは"黒の一族"の象徴としてあまりに目立つからだ。

最北の町に着く前に黒の鎧とローブは俺のアイテムに入れたしじいさんは顔を隠蔽魔法で隠したから町が騒ぐこともなかった。

じいさんはエルフたちに顔を知られている可能性があることから、これからエルフ領に入っても顔に隠蔽魔法をかけるようにして、名前もマリオンと名乗ることとなった。


「ユウジンも分厚いコートでも買った方がええぞ。」

なぜ俺も?それも分厚い?

「必ず必要になるから買っといた方がええ。」

「はあ・・・。」

よくわからないがじいさんに勧められるままに、俺も裏地がふわふわ起毛の白の分厚いコートを買った。


そして町から北へ10分ほど歩いたところにあるトンネルへ来た。

とても厳重な関所のようになっていて、関所の出入り口とトンネルの出入り口で許可証の提示を求められ、商売道具の少なさに疑われたが俺がアイテム収納魔法持ちでアイテムの中の大量の食料を出して見せるとすぐに信じてくれた。


「確認しました。ではお通り下さい。」

屈強なイルヴァルナスの騎士が頭を下げて、トンネルの出入り口の門を開けてくれた。

両開きの頑丈そうな門の先のトンネルは両側に等間隔に光る魔石が設置されていてとても大きい。

馬車が2台すれ違えるほど大きく、俺たちは馬車に乗ったままトンネルへと入って行った。


「このまままっすぐ数時間行くとエルフ領じゃ。」

じいさんは知っているようにそんなことを言ってきた。

「じいさん、そういえばエルフ領は行ったことあるんですか?」

「40~50年前に一度、依頼で行ったことがあるぞ。当時のイルヴァルナス国王から手紙を預かってエルフ領の職人に届けたことがあったのう。じゃがその職人のいる村にまっすぐ行ってすぐに引き返したから首都のことや国のことはわからんがのう。」

「マスティフは?」

「俺はないなあ。つーか、"黒の一族"だとしてもランクBの俺がエルフ領に行くような依頼を受けられるわけないって。」

まあ、それもそうか。



それから数時間。

やっとトンネルの向こうが見えてきた。






そしてトンネルの向こうは・・・一面の雪景色だった。




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