193、悪魔はオーバーロードを倒す
「おのれ!人間が我をこけにしおって!!」
ルドヴィグは歯を剥き出しにしてそう叫んできた。
「すいません。ちょっと準備に時間がかかってしまいまして。」
俺はいつもの笑顔で答えた。
「でもおかげで準備を終えました。」
「あ?準備だと?」
「ええ、あなたを倒す準備が。」
するとルドヴィグは豪快に笑いだした。
「はははは!!我を倒すだと!?オーバーロードである我が人間に倒せるわけがない!この最強の肉体でどう倒すというのだ!?はははは!」
ルドヴィグはよほど自信があるんだろうか。
そうやって侮るところは息子と似てるなあ。
俺はニコニコ笑いながら頭上を指差した。
指差した先にあるのは満月だ。
「こうやって。」
すると満月が消えた。
「・・・・・・は?」
ルドヴィグはぽかんとしばらく夜空を見上げてそう呟いた。
「は?・・・な、なぜだ?・・・なぜ、月が・・・?・・・ぐっ!ううぅぅ・・・!」
ルドヴィグは困惑していたが、急に頭を抱えてうずくまった。
そしてみるみる覆っていた筋肉が細くなって体は最初現れた時の人間に近い姿に戻っていった。
尖った目もいくつも出た牙も引っ込み、困惑した表情のルドヴィグがそこにいた。
俺はニヤリと笑った。
「やはり・・・月が強化のポイントでしたか。」
強化された肉体が倒せそうにないなら、強化前に戻せばいい。
そう考え満月を見て、月魔法で強化したのなら月を隠してしまえば強化はおさまるのでは、と考えた。
呪文にムーンライトがついてるからそうだとは思ったのもあるが。
それで俺は満月を隠蔽魔法で隠したのだ。
さすがに隠すものがものだけに、大量の魔力を使ったがルドヴィグを倒すチャンスになるならしょうがない。
「く、くそぉっ!!」
ルドヴィグは殴りかかってきたが、俺は軽く避けた。
ジャラジャラジャラ・・・
地面から黒い鎖を出してまた全身を拘束した。
「チッ!」
ルドヴィグの姿がぐにゃりと歪んで大量の蝙蝠の姿になった。
蝙蝠たちは鎖を振り払って飛んでいこうとする。
が、俺は想定していた。
ガシャガシャガシャ・・・
「!?」
細い鉄の棒が斜めにクロスしながらいくつも地面から出てきて、蝙蝠たちの四方を覆った。
囲いは網目が細かく蝙蝠たちは通り抜けられずにバタバタ囲いの中で飛び回っている。
「檻も拘束具ですからねえ。」
蝙蝠たちは威嚇するように鳴いて檻の中で1つに集まってルドヴィグの姿に戻った。
「オーバーロードたる我になんたる無礼!この檻を外せ!」
ルドヴィグは怒りの表情でそう叫んでくるが、もちろんそんなことをするわけがない。
俺はあえて呪文を唱えた。
『我が前の不死者を浄化する聖なる剣を、ホーリーソード×20』
天から次々と光がさし、20本の光の剣が出現して俺の周りの地面に刺さった。
「ふ、ふん!20本も出してどうする気だ!?」
ロードであるサヴァンは弱ったところをホーリーソード1本で倒せたが、オーバーロードになると1本では心もとないかもしれない。
かといって腹に大穴を開けたシャイニングスピアをぶつけるには檻が邪魔になる。
檻を取り去れば蝙蝠になって避けられる可能性があるから、檻の目に通るホーリーソードがいいと思った。
そして俺は20本なら同時に扱える。
「どうするもこうするも・・・こうします。」
俺の周りに刺さっていた光の剣20本が一斉に浮き上がり、ジャキンと檻のルドヴィグに向かって刃を向けた。
「・・・・・・は?」
ルドヴィグは驚きに目を見張った。
「な、なぜ、ひとりでに?なんだそれは!?」
「最近できた魔法です。多分今のところ俺しか使えないでしょうから見たことないでしょうけど。」
光の剣たちはヒュンヒュンと舞って檻の周りを取り囲んだ。
「念のために弱らせておきましょうか。」
俺は檻の周囲に魔力強めのライト50個を出した。
「ぎゃあっ!?」
ルドヴィグは身を縮めるような動作をして顔を手で隠したが、肌が焼けじゅうじゅうと音をさせている。
「ぐああぁぁっ!?やめろっ!があぁっ!?」
俺が腹に開けた大穴が開き、そこから血が溢れだした。
どうやら穴を塞いだりする力が光で弱まったのだろう。
「や、やめろっ!痛いっ!・・・ぐっ、があっ!やめ・・・!」
皮膚が段々と焼けて黒ずんでくる。
「おのれ!おのれ!・・・我は、ヴァンパイアの・・・ぎゃあぁっ!」
もうこれ以上は見ていても気持ちのいいものではないだろう。
俺は光の剣20本にルドヴィグに突き刺されと指示をだした。
光の剣20本は次々とルドヴィグの体に刺さっていき、ルドヴィグはあまりの痛みに断末魔の悲鳴をあげるが口や喉にも次々と剣が刺さる。
剣が刺さったルドヴィグは全身から血を吹き出したかと思うと、みるみるうちに砂のように崩れていき、長い牙とボロボロになったマントを残して息絶えた。
「お!オークたちが!」
マスティフがなにやら叫んでいたのでマスティフたちの方を見ると、オークたちが次々と倒れていっていた。
術者であるルドヴィグが死んだから死霊魔法が解けたのだろう。
・・・まあ、すでに倒されているオークが山のようになっているが。
「ユウジン!倒したか!」
マスティフが大剣を肩に担ぎながらこっちに近づいてきた。
結構大暴れしたのか息があがっていて血とかで鎧や顔が汚れている。
「すいません。もっと早く倒せたらよかったのですが。」
「いやいやいや!オーバーロードを1人で倒すなんて普通できないし、早いほうだぜ!3~4人のランクAパーティーが半日かかって倒せるかどうかな奴なんだからな!?」
まあ・・・ランクAより断然俺の方が能力が高いのはわかってるが、そんななのか。
「オーバーロードを倒したかユウジン。」
じいさんが悠然と近づいてきた。
じいさんは息もあがっていないし汚れてもない。
「1人で倒したのは見事と思うが、まだ終わっとらん。オークどもを浄化せんといかん。」
じいさんはそう言って魔法が解けて倒れたオークたちを指した。
オークたちは魔法が解けただけで、魂は地上にある状態だ。
この状態が一定時間以上経つとゴーストやグールとなる可能性があるのだ。
また、他のヴァンパイアが来てまた死霊魔法をかけて使役される可能性もあるので、魂をちゃんと天へと導く浄化をする。
そして死体も処理すれば完了というわけだ。
「わしもかけていくが、数が数じゃからユウジンもかけてくれんか?MPはあるか?」
「浄化できるほどなら残ってます。」
正直なことを言うとオークの魂を浄化なんて面倒臭い。
オークたちの死体はほとんどが腐ってグールに近い体なので回収してギルドに売ることもできないので、そう思った時点でオークたちなんてどうでもよかったがじいさんの頼みを断ったら後が怖いので従うことにした。
「ミャーー!!」
そんな鳴き声がしてクロ助がもやのライオンの姿でこっちにかけてきた。
そしてもやがみるみる消えてクロ助の姿になるとピョーンと俺の胸元に飛び込んできた。
「クロ助、大丈夫でしたか?怪我とかしてないようですが・・・。」
「ミャー!」
いっぱい戦ったよ!という感じで鳴いてクロ助はえっへんと胸を張ってきた。
「クロスケすごかったぞ!俺チラチラ見てたんだが長い尻尾の刃を使ってハイオークの首を切ったりもやの豹の姿で引っ掻いたりライオンになって噛みついたりしてさ。オークたちの攻撃もちゃんと避けれてたぞ。」
マスティフはキラキラした目をしてクロ助の頭を撫でた。
クロ助はますますドヤ顔をしてきて、俺は一安心した。
というか、マスティフは俺の戦いを見てリアクションしたりクロ助の様子を見たりするとか・・・。
自分の戦いに集中しろよ。




