191、悪魔は復讐される
『こいつが・・・わたしをころした!・・・くるしい、いたい・・・!』
火の玉は涙を流しながらそう叫ぶ。
俺が殺した?
俺が殺したということは・・・この火の玉は元々は魔物か?
記憶をすぐに辿りながら鑑定魔法をかけて、思い当たった。
見たことあると思ったらそうかこいつ、トリズデン王国のあの廃城にいたヴァンパイアロードのサヴァン・ロードか!
そしてすぐに気付く。
ちちうえ、とこいつ言ってなかったか?まさか・・・!
途端に、ものすごい殺気が男性から向けられてきた。
すぐに鑑定魔法を唱えた。
名前:ルドヴィグ・ヴァン・オーバーロード
種族:ヴァンパイアオーバーロード
属性:闇
レベル:94
HP:4600
MP:3340
攻撃力:440
防御力:407
智力:804
速力:410
精神力:226
運:102
適性:月魔法
戦闘スキル:上級剣術・上級吸血術
魔法スキル:上級風魔法・中級土魔法・上級闇魔法・毒魔法・中級月魔法・死霊魔法
レベル94!
俺が今まで戦った中で1番レベルの高かった魔物はグリフォンのレベル61だからグリフォンより30もレベルが高くそれに見合うように能力は高い。
・・・だが、能力だけならレベルとHP以外は俺の方が上だ。
適性のある月魔法と吸血術に気を付けたら勝てない相手ではないということだ。
というか、ルドヴィグは死霊魔法が使えるのか!
だったらルドヴィグが村人たちやオークたちを使役している術者である可能性は高いな。
「我が息子を殺した人間と聞いて、どんな奴だと思ったが・・・。はっ!こんなしょぼくれて貧弱な人間とは!」
ルドヴィグは不気味に笑いながらそう口にした。
言葉のひとつひとつに憎しみがこめられたような、地を這うように恐ろしい声だ。
「お、おいユウジン!どういうことだ!?この火の玉はなんだ!?」
マスティフは大剣を構えたまま困惑して聞いてきた。
「あなたに会う前にヴァンパイアロードを倒したのですが、この火の玉はそれの魂のようです。そして口振りからどうやらアレはそのヴァンパイアロードの親のようですね。」
「ヴァンパイアロードの親となれば、アレはヴァンパイアオーバーロードか。難儀なのに目をつけられたのう、ユウジン。」
じいさんは構えていたのを解いて腕組みをしている。
さすがじいさん、じいさんにとっては敵ではないということか。
「人間の癖に我らヴァンパイアに歯向かうばかりか、優秀な息子を殺しおって!我が息子の仇を討ってやる。」
人間の癖に、という台詞で思い出した。
そういやあ息子もそんなことを言って俺は気に入らなかったなと。
息子がそうなら親もそうということか?気に入らない。
俺はニヤリと笑った。
「優秀な息子という割には結構簡単に倒せましたけどね?ヴァンパイアの癖に。」
「人間風情がっ!!」
ルドヴィグは目を血走らせ歯を剥き出しにしてブチギレてきた。
ものすごい殺意が威圧となってのし掛かってきたが、じいさんのに比べたらまだマシだ。
それでも背中に冷や汗が流れるのを隠してつとめて冷静に、なんでもないような顔をする。
「あれ?なにかしました?復讐するって言ってましたが、こんなもんです?くくくっ」
「貴様ああぁぁっ!!」
ニヤニヤ笑いながらそう言うと、ルドヴィグはますます顔を真っ赤にして怒りだした。
「お、おい!ちょ、怒らせたら不味くないか!?」
「大丈夫です。それより俺はオーバーロードを相手しますから、マスティフとじいさんは他をお願いします。囲まれてます。」
「ええっ!?なにに!?」
「それはオークたちにじゃろうマスティフ。もうちょっと考えんか。」
サーチによるとこの部屋の外はもちろん、中庭にも大勢のオークたちが待ち構えている。
ルドヴィグの指示を待っているのだろう。
俺は肩の上でやる気満々のクロ助をおろした。
「クロ助、デビュー戦にしては相手が多いかもしれませんが、頑張って下さい。ヤバくなったら誰かの影に飛び込んで下さいね。」
「ミャー!」
うん!という感じで鳴いたクロ助は全身に闇を纏って黒豹の姿になった。
「殺す!殺す!殺す!・・・オークども!攻め入ってこい!人間の仲間を殺せ!!」
部屋の扉が突き破られ、たくさんのオークたちがなだれ込んできた。
ハイオーク・ジェネラルなど関係なく皆ギョロリとした目をして武器を手に持ちこちらに向かってくる。
「へへっ!数は多いがやってやるぜ!」
マスティフは大剣を構えて向かっていった。
「これこれマスティフ。あまりの壁や床を攻撃してはならんぞ。城が崩れてしまうぞ。」
じいさんは呑気にマスティフの後を歩いていって、その後を黒豹のクロ助が追ってった。
直後にそっちの方からものすごい戦闘音がしたが気にせずルドヴィグの方を向いていた。
「さて、俺も戦いますか。」
俺は魔法剣を構える。
「殺す!殺す!殺す!」
ルドヴィグは両手を広げた。
『我が前の敵を撃て!シャドウボール!』
ボールというには大きな、2メートルほどの黒い球体がルドヴィグの前に出現すると俺の方に向かってきた。
大きいのはおそらく魔力を多く込めたからのようだ。
俺は向かってきたシャドウボールを魔法剣で切り、こちらも魔法を射つ。
『我が前の敵を射て、ファイアアロー×20』
俺の周りに出現した火の矢は次々とルドヴィグに向かっていった。
「多重か!ふんっ!」
ルドヴィグはマントを大きく翻すと火の矢を全て防いでいた。
20本全て防ぐとはなかなかの防御力を持つマントだ。
では大きめのだとどうだ?
『風の渦よ、竜巻となって敵を吹き飛ばせ、サイクロン』
風の渦がびゅうびゅういいながら3メートルほどの大きさとなってルドヴィグに向かっていった。
ルドヴィグはマントを翻しながら4つの羽根で飛んで避けた。
ある程度マントで防いで飛んで流したか。
・・・まあ、吹き飛ばすのが目的ではなかったからどうでもいいけどな。
ルドヴィグの視線がそれた隙に俺は近くに浮かんで苦しげな声をあげていた火の玉を真っ二つに斬った。
そのためにサイクロンは放ったのだ。
『うぎゃあああっ!!』
火の玉は悲鳴をあげたが消える様子はなく、切れた様子もない。チッ
「貴様ああっ!!息子になにをする!?」
ルドヴィグは火の玉を俺が切ったのを見て怒りに震えながらそう叫んできた。
「あ、すいません。ちょっとウザかったんで切ったら成仏しないかなと思いまして。」
飄々と答える俺にルドヴィグはイライラしている。
とりあえず火の玉は一旦ほっといてルドヴィグの相手をしてやろうか。
俺は無詠唱で魔法を唱えた。
ジャラジャラジャラ・・・
「!?」
ルドヴィグの足元から勢いよくのびたいくつもの黒い鎖はルドヴィグの両足に巻き付いた。
今まで詠唱していたのは急に無詠唱にして驚かして隙を作るためだ。
ルドヴィグが驚いて足元を見たところで、次の魔法を唱える。
『我が天上に降り注ぐ光よ、集いて、裁く槍となり、前の者を打て。シャイニングスピア』
俺の頭上に3メートルの光の槍が出現した。
「闇属性にはやっぱりこれが効くでしょうか?」
「なっ・・・!?」
俺はニコリと笑うと光の槍はルドヴィグめがけて飛んでいき、ルドヴィグの体をぶち抜いた。




