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188、悪魔は調査する

「実は隣村の様子がおかしいのです。」


村長は重々しくそう切り出した。

じいさんとマスティフが積極的に話を聞こうとしているなか、俺は表面上いつもの笑顔を張り付けているが、心の中では舌打ちをしていた。

あーあ、どう考えても厄介事を頼まれる予感しかしないぞ。

そしてじいさんとマスティフはこういうのほっとけなさそうな性格だ。

急ぐ旅ではないが、自分と関係ない厄介事に首を突っ込む趣味はないんたがな・・・。

これは北に行くのは少し遅れそうだ・・・。




模擬戦が終わった後、マスティフを光魔法で回復させながら休憩していると村長と店主がやって来て、ぜひ相談させてほしいことがあると村長の家に招かれた。


「隣村は私の甥が村長をやってまして、仲もよいのでちょくちょく手紙のやり取りや行き来をしているんですが、ここ1ヶ月前くらいから全くやり取りがなくなったのです。なにかあったのかと村の者に頼んで隣村の様子を見てきてもらったんですが、なんか変だと言うのです。」

「変?どう変なんですかな?」

「最初は村人も皆いて、いつもと変わりないように見えたそうですが・・・不自然なほどなにもせずウロウロするだけだったらしいです。男は畑仕事すらせず目的もなく村をうろついて、女は家事せず村をうろついたり家の中をうろついたりしていたそうなんです。おかしいと思って色んな村人に話しかけたそうですが、受け答えはするのに目が虚ろだったらしいです。それに異常に肌が青白かったそうで、見てきた村の者は気味が悪くなって慌てて帰ってきたのが先週のことです。」

受け答えはするのに目は虚ろで肌が青白くてなにもせずウロウロする?

思い当たることは・・・あるな。


となると・・・もしかしたら。


「んんん?どういうことだろう?」

マスティフはしきりに首を傾げていた。

じいさんはチラッと見た限り、思い当たっているようで微笑んでいた。

「私が明日行ってみようかとも思っていたのですが、村の者たちに止められましてな。もしなにかの流行り病だったらどうすると言われて困っていたところでした。」

「なるほど。隣村ということもあって心配でしょう。」

「それもですが、やはり甥の村長が心配で。子供の頃から私を慕ってきてくれたこともあって、息子のように可愛がっていたので余計に心配なんです。」

「ふむ・・・、よかったらその甥の村長を訪ねて話を聞いてきましょうかのう。」

「本当ですか!?ありがとうございます。」

村長はとてもほっとした表情で頭を下げてきた。


「あの・・・それで、おいくら用意すればよろしいですか?」

村長はおずおずとそんなことを聞いてきた。

恐らく冒険者であることを聞いたから報酬を用意する必用があると考えたんだろう。

「いやいや、お金はいりませんぞ。わしらが勝手に隣村に行くと決めたんですから。それに今のところお金には困っておりませんからのう。」

「あ、ありがとうございます!」

村長はものすごく深々と頭を下げた。

まあ、じいさんは冒険者としてめちゃくちゃ活躍してるから財産持ってそうだし、マスティフも高ランクだからそれなりに持ってるだろうし、俺は大金を隠し持ってるし。

金には困ってないメンバーだったから断っても問題はないわな。


「隣村はここから東方向の道なりに1日半行ったところにあります。ちょっとお待ちください、紹介状を書きましょう。」

村長はそう言ってさらさらと手紙を書いてじいさんに渡していた。




「すまんのう。勝手に向かうと決めてしまって。」

隣村に向けて出発してしばらくして、じいさんは俺にそう言ってきた。

馬車の御者はマスティフが担当していて、後ろには俺とじいさんが乗っている。

クロ助は暇なようで俺の膝の上で昼寝をしている。

俺はいつもの笑顔で答えた。

「あの村長から相談事があると言われた時からじいさんとマスティフの性格上受けるだろうと思ってました。まあ正直、話を聞いて少し興味がわきましたし、付き合いますよ。」

「そう言ってくれると思っとったぞ。さすがユウジンじゃのう。」


「でも機嫌悪かったよな?」

俺とじいさんの会話に御者席からマスティフが声をかけてきた。

「・・・は?機嫌悪い?」

俺はいつもの笑顔を張り付けていたはずだ。

「なんとなく雰囲気?気配?がそんな気がしたんだけど違ったか?」

「・・・気のせいじゃないですか?」

俺は思わず苦い顔をした。

チッ、アホのくせに勘がいい奴は面倒臭いなあ。


じいさんは俺の苦い顔を見てふふふと笑った。

「なんじゃ、仲良くなった証拠と喜んでいいぞ?」

「仲良くなった覚えはありません。アホと仲良くなってもいいことありませんし。」

「俺はアホじゃねえ!」



道なりに東に進み、夜になったので道の脇で野宿をすることとなった。

「うーん、なんかおかしいなあ。」

マスティフは焚き火の前で俺がアイテムから出した魔物肉のビーフシチューを食べながらそう言った。

「なんか移動中、魔物がほとんど出なかったことないか?」

それまで馬車の移動中で10分に1回は魔物が出ていたのに、隣村に向かうこの道中では1時間に1回魔物が出るかどうかまでになっていた。

「確かにそうですね。・・・周辺を見てみましたが、ほとんど魔物がいませんね。」

俺はシチューを染み込ませたパンを食べながらサーチで5キロいっぱいまで魔力を伸ばしたのに、いた魔物は数えるほどだ。

明らかにおかしい。


「そうじゃのう。それにオークらが特にいないようじゃ。」

じいさんもサーチで辺りを探ったようで、ビーフシチューをペロリとたいらげてのんびりお茶をすすりながら考え込んでいた。

このイルヴァルナスは特にオーク系の魔物が多く首都周辺にはオーク系しかいないということはしばらく滞在していて十分わかったが、首都から離れるとなぜかオーク系以外の魔物も出てくるようになった。

それでもオーク系は多く出てきており、だいたい魔物が10体出てきたら7体はオーク系というくらい多い。

なのにこの道中にたまに出た魔物は全てオーク系以外の魔物ばかりだった。


「オーク系が嫌がるものがこの近くにあるとか?例えばオーク系の天敵だとか、嫌がる臭いを出す植物が生えているとかはないですか?」

「オーク系の天敵はあえて言うならわしら人間じゃろう。他の魔物でオーク系だけを狙う奴なんておるとは思えんし、嫌がる臭いを出す植物も見たことないのう。もしあったら首都周辺に植えるじゃろう。」

なるほど、やはりないか。

「つーか、そんな天敵とか植物とか、ユウジンの知識にないならないんじゃねえ?」

まあ確かに、この世界はラノベを参考に作られた世界だからラノベにないならないか。


俺としては首都でオーク系は倒しまくったから正直もう見たくないほど飽き飽きしていたから助かるが、村のことといい気になるな。

もしかしたら・・・村の異変とオーク系だけがいないのは繋がりがあるかもしれない。




夜は隠蔽魔法で存在を隠して寝たのに、朝はじいさんが「緊張感が養われん」と言って勝手に隠蔽魔法を解除されて朝っぱらから魔物の襲来で叩き起こされた。

魔物の襲来、といっても弱い魔物ばかり5~6体だったので魔法ですぐ倒せたが。

それからじいさんが朝の鍛練とか言って寝ぼけているマスティフを連れて近くの森に突撃して行った。

俺ももちろん連れていかれそうになったが断固として断って馬の世話をするとかなんとか言って免れた。



そして村を出て1日半、俺たちは村に着いた。

村の大きさとしては出発した村とほとんど変わらず畑が広がっていてのどかな光景が広がっていた。

だがよく見ると畑の作物は枯れ果てて実は腐っていた。

村人がフラフラと歩き回っているのが見えたので声をかけてみた。


「すいません。この村の名物はなんですか?」

『うう・・・、山菜・・・です。』

歩いていた中年の男性は一瞬立ち止まって呟くようにそう言うと、またフラフラと歩き出した。

顔を覗きこんだが異常なくらい青白く目は虚ろだ。

本当に村人たちはウロウロしているだけだったので、彼らを避けながらとりあえず商店を探してみた。

すぐに見つかったが商品は全部うっすらとホコリをかぶってて店主と思われる老夫婦も店の中をウロウロするだけだった。

「なんだこりゃ?お、おい、ユウジンわかるか?」

「手当たり次第に村人に鑑定魔法をかけましたが、俺の予想通りでした。」

「うえ?予想できたのか!?」

「なんじゃマスティフまだお前は気づかないのか?」

やれやれとじいさんは呆れた顔をしてマスティフを見た。


「異常に青白くて目は虚ろ、受け答えはできる存在とヴェネリークで会って話したじゃろうが。」

「えっ・・・?・・・あっ!!」

そこでやっとマスティフはピンときたようで大きな声をあげた。



「この状態、生き返ったティーガとほとんど同じでしょう?村人たちは全員死霊魔法で生き返った者たちです。」


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