185、悪魔は北に進むことになる
「"黒の一族"当主の長男ラーシュリだ。その節は精神魔法から助けていただき感謝する。」
じいさんの別荘の応接室に来た黒ずくめの男はそう言って俺に一礼した。
ヴェリゴの影に入って精神魔法で操られていた黒ずくめの男、ラーシュリはじいさんとマスティフが証人となり"黒の一族"であると証明されたので翌日には釈放となった。
元々、操られていたということだったし、証言も全て取れていたのであっさりと釈放しても問題ないとなったのだ。
黒ずくめで黒のフードを被っていたから顔ぐらいしかわからなかったが、フードを取ったらマスティフに似て赤紫の少し短めのツーブロックの40歳くらいのイケオジだった。
黒ずくめなのは悪そうに見せるためと、盗賊のような戦闘スタイルなためらしい。
"黒の一族"の特徴という黒の鎧はあえてつけず、潜入などを得意としているそうだ。
「いえいえ。俺もまさかと驚きましたから。万能薬持ってて良かったです。」
「それにしても、マスティフばかりかじいさんとも知り合いだったとは驚いた。」
ラーシュリはどうやらちょっと固い口調のようだ。
「俺が冒険者の試験で知り合ってさ。それで仲良くなったところに悪魔教の誘拐未遂があって、それを聞いたじいさんが俺のいたとこに来て知り合ったんだよ。んでまあ、なんやかんやあってここに来たんだ。」
なんやかんやで飛ばしすぎだがまあいいか。
ラーシュリに関係ないし面倒臭いし。
因みに応接室には俺・クロ助・ラーシュリ・マスティフ・じいさんがいる。
いくつも置かれたソファーセットに皆適当に座っていて、クロ助はなぜかじいさんの膝の上の気分のようでそこで丸まって寝ている。
そんなクロ助を撫でてお茶を呑気に飲んでいるじいさんは孫のラーシュリに会えてご機嫌でいる。
「兄貴、ユウジン強いだろう?俺、一時期に毎朝、挑んでたんだけど魔法無しルールじゃないと勝てなくてさ。」
「お前・・・毎朝とか迷惑だろう。相変わらずお前は訓練バカか。」
あ、ラーシュリはどうやら常識人なようだ。
その調子でマスティフを押さえつけてほしい。
「それにしても、なんで兄貴は精神魔法かけられて操られていたんだ?」
「悪魔教信者の情報を得て残党を調べるために潜入していたんだが、どうやら怪しまれて鑑定魔法が使える信者に"黒の一族"だとバレてしまったんだ。鑑定魔法持ちの奴は殺せたんだが、隙をついて他の信者に眠らされてヴェリゴに精神魔法を駆けられて精神を乗っ取られていた。」
なるほど、どうりで悪魔教側に鑑定魔法持ちがいなかったわけだ。
「まさか5年以上ヴェリゴの影にいることになることになるとは思わなかった。」
そう言ってラーシュリは苦笑した。
そう、5年以上ラーシュリはヴェリゴの影にいて死体遺棄をさせられたり時には悪魔教の邪魔をした奴を殺したりしていたらしいのだ。
俺はそれをラーシュリの鑑定魔法のウィキをさらっと読んで知ったのだが。
「そうだぞ。ラーシュリが急に音信不通になって心配したぞ。」
おそらく、ヴェリゴがラーシュリを精神魔法で精神を乗っ取って操って影に入れていたのはじいさんへの復讐ではないだろうか。
悪魔教に大打撃を与えて壊滅に追い込んだじいさんの孫で当主の長男、つまりは次期当主が悪魔教の手先にしたということでじいさんに屈辱を与えるだけでなく人質をとっていることになるのだ。
もしかしたらじいさんがヴェリゴかクラウデンを攻めたらわざとラーシュリに相手させることも一興、と思っていたかもしれない。
・・・まあ、結果的にそれは無駄となったんだが、もしじいさんに任せていたらどうなっていたことか・・・。
「兄貴はこれからどうするんだ?」
マスティフはそんなことも露とも知らず、テーブルに置かれたクッキーをもりもり食べながらラーシュリにそう聞いた。
「とりあえず西大陸の実家に帰ることにする。親父とお袋が心配してるだろうからな。親父に今回のことも報告したいし。」
「多分心配してるだろうなあ。俺もしばらく会ってないなあ。」
10年くらい会ってないや、とカラカラと笑っていた。
お前の方が心配されないか?
「お前はたまに手紙書いてるだろ。俺は潜入の関係で連絡することはあんまりないからな。」
「そういやあ最近書いてないなあ。あ、そうだ。これから書くから持ってってよ。」
「おお、わしも頼んでいいかのう。」
「おいおい、俺は配達員じゃないんだぞ。」
そんなことは言いながら持っていくのはいいみたいで苦笑するだけだっだ。
仲良いな"黒の一族"。
「・・・んで、じいさん、これから俺たちはどうするんだ?」
まだもりもり食うマスティフのその台詞に俺は引っ掛かった。
「待ってくださいマスティフ。俺たちに俺が入ってませんか?」
「え?当たり前じゃん。」
なぜ当たり前なんだよ。
「ふむ、それについては・・・」
じいさんスルーか。
「ユウジンに聞いた方がええぞ。」
「ユウジンに?」
マスティフは首を傾げながら俺を見てきた。
・・・まあ、確かに俺に聞くのが正解だ。
「ユウジンは悪魔教を追っておるのだろう?理由はあえて聞かんがな。ユウジンがこれから向かうところに悪魔教信者がおるだろうから、わしはそれについていくつもりじゃ。マスティフもついてくるつもりじゃろう?」
「ユウジンが行くとこ面白そうだし、じいさんの訓練はキツいけどレベル上がって強くなれるからついていくぞ。」
「げっ、やっぱりついてくるんですか・・・。まあ、予想はしていましたが。」
「で、ユウジンはどこに行くつもりじゃ?」
「・・・エルフ領です。エルフ領に、悪魔教の最高指導者がいるようですからね。」
そして俺は神様に話した、通信の魔石を鑑定したこととクラウデンが前に調べていたことを話した。
マスティフはなるほどと頷きながらもなにかに気がついた。
「え!・・・でもさあ、エルフ領って確かに国の許可がないと行けないんじゃなかったっけ?」
「おや、マスティフがそんなことを知っているなんて珍しい。」
「え、嘘、俺ってユウジンにものすごくバカにされてる?」
「アホとは思ってます。」
「なんだと!?」
ムキー!と怒るのを無視しながら俺はアイテムからあるものを取り出した。
「これ、許可証です。」
それは国王印が入った書類だった。
それをじいさんに渡すとじいさんはじーっと見ると「確かに本物の許可証じゃ。」と言った。
「よく許可証が出たのう。」
「さっさと許可証が欲しかったですからねえ、ちょっと王家に恩を売っただけです。」
「王家に恩?」
「お花畑が頂点に立たれたら困るって親でも弟でも思うってことです。」
「「・・・・・・そういうことか。」」
じいさんとラーシュリはなにかを察したようだ。
マスティフはわかってないようで首を傾げながらクッキーを完食した。
「・・・うん?この許可証、人数のところに3人って書いてある。」
「ええ、どっかの誰かさんたちが嫌でもついてくるのを予想してましたから。一応俺たちは商人ってことで行くことになります。依頼でもないのにエルフ領に行く冒険者は怪しまれますから。じいさんがベテラン商人、俺がアイテム収納魔法持ちの荷物持ちでマスティフが護衛ということでお願いしますね。」
「・・・ふむ、ユウジンがここでわしらを迎えたのはなにかあると思っとったが、どうやらエルフ領に行く戦力が欲しかったようだのう。」
じいさんはそう言って苦笑した。
やっと首都レクシフォンでのことはこれで落ち着きました。
これからは北のエルフ領に繋がるところに向かう道中にちょっとハプニングがあったりしながらエルフ領に行くわけです。
エルフ領でのネタはぼやっとはあるのですが、絶望は多分ありません。
そしてこの作品が今回落ち着いたところで、しばらくお休みしようかと前々から思っていたのでしばらくの間ですがお休みさせていただきます。
もうひとつの作品がまったく書けてないのでそっちを集中的に書きたいためで、楽しみにしている方には申し訳ありません。
多分1ヶ月ほどでこちらを再開できると思います。
すいませんがよろしくお願いします。




