184、悪魔は1年経つことに気付く
「なるほどねえ。そして今回も優人は容赦なかったというわけか。」
小さな男の子の神様はそう言って苦笑した。
例によって、ふと目が覚めると目の前は空で雲の上に寝ていた。
ああ、神様と会う時期に来たんだなと思って起き上がると、俺の首元で丸まって寝ていたクロ助もいつものように一緒にこちらに来ていて、起きて周囲を見回し伸びをした。
そしていつものようにどこからか、小さな男の子の神様がふわりと降りてきて「やあ!久しぶり!」と明るく言ってきた。
そしていつものように前回から今に至ることを話したのだ。
今回は3ヶ月間イルヴァルナスの首都にいたので場所の説明は簡単だったが、色んな思惑や俺の計画の説明は面倒臭かった。
それでも長々と説明し終わった後の神様の感想が先の台詞だったのだ。
「容赦なかったのというのは?」
「え、もちろんクラウデンに対する仕打ちだよ?一生、母親と妹に狂わされるようになったのに、手足までアレするかい?」
「マスティフもそこに引っ掛かってましたが、そんなに気にすることですかねえ?俺としては当然の報いで、それをやったことで苦痛を得ていい絶望を見せてくれましたよ。」
その時の涙と汗でぐちゃぐちゃになった顔は今思い出しても傑作だ。
ふふふと笑うと男の子神様は「優人、闇が漏れてるよ!」と引きながら突っ込んでいた。
「クラリスの犠牲もどうかと思うけどね。ヴェリゴを絶望させるためだけに彼女は死んじゃったんだからね。」
「でもクラリスの死は無駄ではありませんでしたから。未来ある彼女を殺させることについては申し訳ない気持ちはないわけではないですが・・・絶望させるなら手段は選ばない主義ですからねえ。誰も犠牲は出さずに正義だけで世の中は回ってないのですから。」
「なにその主義、怖いよ。優人は優しい時もあるけど、絶望させることについては残酷なくらいに平気で善人も巻き込むよね。なんていうか、そこの容赦のなさが怖いよ。」
神様はさらに引いた。
俺は容赦がないのだろうか?
俺としては、ちゃんと絶望を与えたいからやっているのだから、巻き込むのは善人も悪人も関係ないだけなんだけどなあ。
「ま、まあ、君の計画がうまくいって良かったねって言っとくよ。」
「ありがとうございます。まあ、さすがにヴェリゴの影にいた黒ずくめの男が"黒の一族"だなんて予想外のこともありましたけど。」
俺はリズさんの死体を回収している初めて見たときにすでに鑑定魔法をかけていた。
そして男の正体を知って驚いたが怒りが強かったからそれには触れなかったんだけど。
王城に行ったじいさんとマスティフがとても驚くと思って黙っていたのだけど、あの後帰ってきたじいさんとマスティフに散々怒られた。
「"黒の一族"は悪魔教と色々あったからね。そこら辺は優人はなんとなくわかってるでしょ?」
じいさんを鑑定魔法かけた時のウィキの記録があるから暇なときにササッと読んだ程度だけどな。
「そのうち話してくれるかもしれないね。とても仲良さそうだし。」
仲良さそう?殺されそうになって追われていたのに?
だがまあ、なんだかんだでマスティフはまだ俺に絡んでくるし、仲良いのか・・・?
「はあ・・・。あまり興味がないですが・・・。」
神様が呆れた顔をしていたような気がしたが無視した。
「そういえばどう?こちらの世界に来て1年経つんだけど。」
そういえば、神様と夢で会うのは最初来た時の1週間後と3ヶ月ごとに会うのが今回で5回目だった。
そうか、もう1年経ったのか。
「色々と目新しいものばかりでしたから、あっという間という印象ですかね。今まで生きてきた中でとても有意義な1年を過ごさせてもらったと思ってますよ。人々も文化も素晴らしいですし、魔法も面白くてまだまだ色々とやりようもありそうですし。」
「君が張り切って人々を絶望させてるから満足してるのは察してたけど、めちゃくちゃ気に入ってくれてるようでちょっと複雑な気分だよ。」
はははと神様は乾いた笑いをした。
複雑というのはとても楽しんで世界を満喫しているけど、それはたくさんの人々をこれからも絶望させがいがあるということを察してのものだろう。
まあ、お察しの通りなのだが。
「一応誤解されやすいので言っときますが、俺が絶望させるのは俺が気に入らない奴だけですからね?その他の絶望はなんというか・・・間食みたいなものと言えばいいのでしょうか。」
「その他の絶望っていうのは、優人ではない誰かやなにかに絶望を与えられたってこと?ヴェネリーグ王国でいうと浮浪者で、イルヴァルナスでいうと捕まってた獣人たちか。」
「そうです、さすが神様。わかってらっしゃる。」
「ううっ、わかりたくない・・・。」
神様は項垂れた。
「あ、そういえば、気になることとか問題とかあったかい?」
気になること・・・というところで、雲の床を前足でちょいちょいしているクロ助が目に入った。
「・・・あ!聞きたかったことありました。クロ助なんですが。」
「うん?どうしたの?」
「こちらの世界の猫も見ましたが、クロ助は他の猫と比べて小さいままではないですか?いくらメス猫とはいえ生後約1年ですし、もうちょっと大きくなるかと思ったのですが。」
「そういえば・・・そうだね。」
神様はしばらくクロ助の主に体をじっと見つめた。
「ふむ。クロ助は元々成長が遅いのもあったけど、成長しきれていないタイミングでドラゴンたちを吸収したからその影響かもしれないね。クロ助の体がドラゴンたちの魔力と馴染んじゃって、成長を止めたんじゃないかな。その分が尻尾にきてるようだね。」
「尻尾に?」
「クロ助の尻尾、長いでしょ?あちらの世界の猫はもちろんだけど、こちらの世界の猫の中でも長いほうだよ。」
「今のところ健康に影響があるようでもないけど、もし気になるなら僕の力でどうにかしようか?」
神様の力ならできそうな気がするが、クロ助はどう思ってるんだ?
「クロ助はどうしたいですか?」
クロ助はしばらく考えて鳴いた。
「このままでいいって。君の肩に乗るのにこの大きさがいいし、ちっちゃい見た目の方が皆が可愛がってくれそうだって。」
「そうですか。では、クロ助の気が変わったらお願いしていいですか?」
「もちろん。」
神様はニコリと笑った。
「で、これからはエルフ領に行くということかい?」
「ええ、そのつもりで許可証も発行してもらうようになりましたし。」
「なんでまたエルフ領?」
「そこに最高指導者がいるのがわかりましたから。」
「え?どこでわかったの?」
「クラウデンと最高指導者が通信の魔石で話している時に通信の魔石に鑑定魔法をかけてみたら通信相手の居場所と名前が出まして、それで通信相手がエルフ領にいることがわかったんです。」
恐らく鑑定魔法を最上級にしたから通信相手の情報もわかったのだろう。
因みにクラウデンの持っていた最高指導者との通信の魔石は俺が盗んで持っている。
「それにクラウデンもどうやら探っていたようで、鑑定魔法のクラウデンのウィキに少しだけ書いてました。どこをどうやって調べたかはわかりませんが、最高指導者がエルフ領にいるとわかったみたいで、だから最高指導者の名を堂々と使って部下の信者に誘拐をそそのかしたりしてたようです。」
「へえ、なるほどねえ。・・・うーん、僕から1つ、アドバイスしとこうかな。」
「おや、アドバイスなんて珍しい。」
明日はなにか天変地異でも起きるのかな?
「ちょっと優人・・・。なんか失礼なこと思ってない?」
「いいえ?」
俺は100点の笑顔で返した。
神様ははぁっとため息をつくと、気を取り直して話し出した。
「僕の世界のエルフは君のいた世界のラノベを参考に創った存在だから、高過ぎるプライドと高い魔力のせいで世界からほとんど孤立している状態なんだ。イルヴァルナスとだけ行き来が出来る状況だけど、それはつまりイルヴァルナスとしか取引できていないってこと。イルヴァルナスは色んな国と貿易しているついでに取引しているという感じだけど、エルフ領は地域によってはイルヴァルナスからの物資がないと生活できないから、取引してもらわないと困る。けど高過ぎるプライドが邪魔をして未開の地を盾にして取引を延ばしている状態さ。」
それは面倒臭いことになってるな。
「まあ、イルヴァルナスも薄々気がついているから、行き来が国が認めた者しか通行できないようにしているってのもあるし、エルフの留学生という名の人質を積極的に受け入れているっていう感じかな。」
・・・うん、ちょっと待て。
なんで神様はこんなにエルフ領とイルヴァルナスの取引のことを細かく言ってくるんだ?
まさか・・・。
俺は苦い顔をしたのを見て、神様は苦笑いをした。
「あれ、バレた?どうせエルフ領行くならエルフの高過ぎるプライドをどうにかして、もうちょっとエルフも他の種族と仲良くしてほしいという僕の思惑。」
テヘペロ☆と神様は舌を出した。
「神様、そんなキャラじゃないでしょう・・・?」
「うっ!冷静に言われると恥ずかしいからやめてよ・・・。」
俺は悪魔が見たいだけなのでエルフ領やエルフに興味がないと言ったのだが、俺が寝る直前まで「できればでいいからさ。」「あ、でもエルフ全員絶望させられても困るけど。」「もしアレならマリルクロウに頼んでもいいから。」とかなんとか神様はブツブツ言ってきた。




