178、悪魔は元教皇に話す
クラウデンルートです。
クラウデン視点で絶望への前フリです。
「うっ・・・。」
頭が少しボーッとする。
眉間にシワを寄せ、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
目が少しグラグラするな・・・。
確か・・・馬車で寝たはずだが。
頭をもたげ、今の状況をと視線をさ迷わせる。
ここは・・・馬車じゃないのか?
ん?目の前に・・・誰かいるのか?
「やっと目が覚めましたか。薬がよく効いてたみたいですね。」
目の前の人物から機嫌がよさそうな声が聞こえた。
何回か瞬きを繰り返し、やっと焦点が合ってきた。
そして目の前にいる人物を見て、俺は目を見開いた。
「・・・なっ!?ユ、ユウジン!?おまっ、なんで!?」
ユウジンを見たことで意識が一気にはっきりし、周りが見えてきた。
ユウジンと俺がいるのはとても豪華な部屋で、普通の部屋より広さは倍で天井や壁にはきらびやかな壁紙が張られ家具も調度品も高価なものばかりで、ベッドもキングサイズのものだ。
なんだこの部屋は?まるで王族や他国の来賓でももてなすくらいの豪華さだが。
・・・なぜだ、見覚えがあるような・・・気のせいか?
「こんばんわ教皇猊下。あ、もう教皇ではなくなりましたね。えーと、ではクラウデン様と呼びましょうか。ご気分はどうでしょうか?」
ユウジンは呑気にそう言っていつもの笑顔で首を傾げてきた。
咄嗟に殴りかかろうと体を動かして、自分の状態に気がついた。
豪華な椅子に座らされているようで、見下ろすと俺は両足を椅子の足に縛られ、両手は肘掛けに縛られ胸辺りも背もたれと一緒に縛られていた。
縛っているのは黒いロープで、力を入れてほどこうと身動いだが、まったくほどける気配はない。
この黒いロープから強い魔力を感じる。
拘束魔法というやつか?
「気分など、悪いに決まってるだろうが!このロープをほどけ!」
「え、無理ですよ。せっかく、あなたを匿ってくれる貴族の元に連れてきたのに。」
クスクスと笑うユウジンの人を馬鹿にしたような言い方に腹が立つが、それより気になることを言ったな。
匿ってくれる貴族?
確か・・・そう言って馬車に乗ったはずだが。
「ここは・・・誰の屋敷だ?いや、そもそもなぜここにお前が?」
「俺がいるのはまあ、色々ありまして。それより、あれ?この部屋気づかないですか?」
気づかないか、だと?
そう言われても・・・。
いや、なんか見たことがある?
「目が覚めたのですね!?」
その声と共にガチャッと扉の開く音がして、ぞろぞろと3人の人物が入ってきた。
入ってきた3人のうち2人を見て、俺はギョッとした。
「は、は、母上・・・!?ハスニーア!?」
残り1人は執事だったが、あの執事は・・・どこかで・・・?
それより、なんで母上とハスニーアがここにいる!?
まさか、そうか!
・・・ここは・・・母上らのいる屋敷で、俺の忌々しい記憶しかない実家か!
だとしたらまさか、貴族が屋敷で匿ってくれるというのは・・・母上らのことか!?なぜ!?
「ああ、クラウデン。牢屋などに閉じ込められて大変でしたね。ですが、もう大丈夫よ。わたくしがあなたを守るから。」
母マデリーンは微笑んで俺の左側に回ってすり寄ってきた。
「私もお兄様を守ります。あぁ、お兄様、間近で見てもかっこいい。」
ハスニーアも微笑んで俺の右側に回って俺の頬に触れてきた。
2人のそんな姿にゾッとして冷や汗が出る。
「くっ!近寄るな!」
体を捩るがロープがしっかりと巻かれていて動けない。
「ほどけ!なんでこんなことをっ!?」
「あら、何を言ってるの。あなたを守るためじゃない。大丈夫、わたくしたちは知っているわよ。いわれのない罪をわざと被って、地位を奪われ命を狙われているのよね?」
「・・・は?」
「お兄様、隠さなくていいのですよ。お兄様が脅されていて辛かったでしょう?」
「・・・は?」
な、何を言ってるんだこの2人は?
ぽかんと2人を交互に見ると、2人は真剣な顔をしていた。
「おやおや、こんなに真剣にあなたを守ろうとしているのに、間抜けな顔をして。」
ユウジンはくくくと意地の悪い笑い方をしてきた。
「な、なんだ?どういうことだ?わざと罪を被った?脅されていた?」
「ああ、それらは俺が2人を洗脳してあなたを守らせるために適当に言ったことです。お気になさらずに。それよりちょっと落ち着いてきました?これから死ぬまでここで暮らすんですから、早く慣れた方がいいと思うんですが。」
「は?」
この2人がいるところで暮らす?
冗談じゃない!!
「そんなに睨まれましてもねえ。そもそも、ご自分の立場わかってます?」
ユウジンはニヤニヤ笑ってきた。
「あなたは脱獄した身ですから、誰かに姿を見られるわけにはいかないでしょう。教皇を剥奪された殺人鬼を誰が匿うというのです。悪魔教信者たちはヴェリゴがまとめていましたが、そのヴェリゴは捕まりまして悪魔教幹部ということで死刑が確定しています。まとめ役がいなくなった悪魔教は空中分解するでしょう。そんな人らがあなたを助けるほど余裕があると思いますか?あ、因みにあなたは悪魔教幹部ではなく悪魔教関係者または信者となってます。これは俺がそう言ったのでギアノートをはじめ誰もが信じてます。」
「は?な、なぜだ?俺は・・・。」
「悪魔教幹部が脱獄したなんて、王国側の醜聞に関わりますからね。いち信者が逃げたことにした方がそこまで力を入れて探されないかと思いまして。あ、国王の従兄弟の元教皇猊下は急病のため教皇の地位を降りて地方にて静養するということになったそうですよ。さすがに国王の従兄弟の教皇で国の政策に関わっていた人が悪魔教で殺人鬼だなんて発表できないみたいで。」
地方にて静養・・・?
俺は、王城の地下の牢屋にいたのに?
「おそらくあの牢屋にクラウデン様を入れたのはあのまま衰弱死させようとしたのでしょう。あなたの罪を明らかにできないですから刑罰も与えられませんし、国王の従兄弟ですから誰も殺したがらない。せめてもの罰として、誰にもわからないうちにゆっくりゆっくり衰弱させて死んでもらおうとあの牢屋に入れたのでしょうね。そして数年後にそれとなくあなたが病死したと発表するつもりでしょう。」
それを聞いてゾッとした。
つまり俺はこいつによって脱獄しなかったら、あのままあの牢屋で何年もかけて衰弱死させられていたということだ。
まさか、そうすると考えてこいつは俺が信者だと言ったのか?
そして脱獄させた?
・・・ま、まさかな。
「俺は別にあなたを助けようなんて思って助けた訳ではありません。俺は、こちらの2人の想いを叶えて差し上げようとしただけですから。」
ユウジンはそう言って、俺に擦り寄る母上とハスニーアにニコッと笑った。
「このお2人の想いは、あなたともう一度暮らし直すことです。」
「そう。わたくしはクラウデン、あなたをまたあの日のように支えたいの。」
「私も、お兄様を身を呈してお支えしたいのです。」
ユウジンのにこやかな笑顔に、2人は狂気の笑顔で続いた。
次回、絶望します。




