17、悪魔は傍観する
アルトクス視点でお送りします。
突入した俺とカルファーは、信じられないものを見た。
部屋中が真っ赤で、それはリリナの血だった。
リリナは全身の穴という穴から血を流し、大広間の真ん中ですでに事切れていて、その傍らでヴァンパイアロードがニヤニヤしながらこちらを見ていた。
「おや、わざわざ助けに来たか。でも残念だったな。この娘はあまりにもうるさいのでちょっと魔力を流したらパンクしたぞ。」
「き、貴様――――――!!!!」
俺は怒りで狂いそうだ。
よくもリリナを!!
大事な仲間を殺したな!!
リリナはどもるのが口ぐせで内気だったが、努力家で真面目な子だった。
俺の英雄になるためのパーティメンバーとして、この内気さで大丈夫か?と思ったが、彼女はしっかりサポートしてくれて俺の英雄話も苦笑いしながらも聞いてくれた。
ウィズリーだってそうだ。
あいつは幼なじみだからよき理解者だった。
俺がヘマやったらすぐにフォローしてくれる、俺が英雄になるのに欠かせない存在だと思っていた。
なのになんで死ぬんだ!?
俺は英雄になる男なんだぞ?英雄は仲間を死なすような軟弱者じゃない!
なのになぜウィズリーとリリナは死んだ?
ああ、イライラする!!ヴァンパイアロードはランクBの魔物だが、俺が英雄になるためにこいつに勝たなければならない。
こっちにはたくさんの銀の杭がある。
大丈夫、俺はヤれる!
俺は英雄なんだから!
俺は剣と盾を構えてヴァンパイアロードに向かって走った。
と、同時にカルファーが弓矢でロードを攻撃した。
ロードは片手で次々とカルファーの放った矢を掴んでは放っていたが、それはフェイクだ。
『我が前の敵を切り裂け、ウインドカッター』
カルファーは弓矢に風の刃をまぜて放っていた。
ロードは「むっ!」というとウインドカッターで腕を少し切った。
しかし切れた箇所は見る間に塞がってしまった。
そうしている間に俺はロードの近くへ来ることができ、俺は剣で切りつけた。
しかしロードは俺の動きを読んでいて、剣を払い退けたところを、俺は素早く剣を手放して心臓めがけて隠し持っていた銀の杭を突きだした。
ロードはそれにも察知して、ひらりと避けて俺の脇腹に拳をいれた。
「がはっ!!」
ものすごい痛みが走ったが、俺は我慢して即座に剣を拾うとロードに切りかかった。
ロードはそれを避けると爪を鋭くのばし、俺に降りかぶったがカルファーの矢がそれを防いだ。
その隙に俺は作戦を立てるために距離をとったが、ロードはすかさず呪文を唱えてきた。
『我が前の敵を撃て、シャドウボール』
黒い球が出るとそれが勢いよく俺に飛んできて、慌ててそれを盾を構えて受け止めたが、シャドウボールのほうが力が強すぎて、盾が粉々に壊され俺の盾を構えていた左腕に直撃した。
「うぐあああっ!!」
「だ、大丈夫か!?アルトクス!」
カルファーがロードに攻撃しながらも声をかけてくれたが、腕が焼けるように痛い!
殴られた脇腹もまだ痛むし、なんて強さだよ・・・!?
だが、まだ戦える!
俺は強い!
杭があるのだから、まだ勝機はあるはずだ!
「カ、カルファー!引き続きサポート頼む!もうちょっとなんだ!もうちょっとで届きそうなんだ!」
「了解!」
再び俺はロードに切りかかり、かわされた隙にカルファーがウインドカッターを撃ってそれがロードの肩をかすめ、ロードの動きが一瞬鈍った隙に痛む左手に杭を持ち体めがけて突いた。
だが、ロードは体を無数のコウモリに変化して俺から距離をとった。
そしてロードは手を構えて俺にシャドウボールを唱えようとしたが、途中でなぜか止めた。
シャドウボールは結構強力な魔法だから撃ってきたらこちらにダメージを与えられるはずだ。なぜだ?
周りをよく見ると、淡い光の球が所々に浮いていた。
あれはいつからあった?部屋に入ったときにあったか?
あの光に照らされて、ロードはウザったいという顔をしていた。
一方の俺はどうすればいいかと考えていた。
心臓を突こうとしても強くてただでさえ突くのに苦労するのに、体に届いたと思ったら体を無数のコウモリに変化して逃げられる。
どうすりゃこいつを倒せるんだ!?
くそっ!リリナの神聖魔法があればまだましだったかもしれないな。
リリナが最初に拐われたのがまずかったか・・・。
だがまだやれる!
必ずなにか活路があるはずだ!
カルファーはなにか気付いたことがあるだろうか?
俺は警戒しながら後退し、カルファーの方を振り返った。
「おい、カルファー・・・――――――――」
カルファーの後ろに女が立っていて、長い爪をカルファーに振り下ろしていた。
「カルファー!!後ろっ!!」
「ぐああああぁぁぁっっ!!」
カルファーはすぐ気付いたが間に合わず、頭を深く裂かれた。
そして「あ・・・ああ・・・」とうわ言のような声を出すとバタリと倒れ動かなくなった。
「カルファー!!そんなっ!?おい、カルファー!!」
俺が声をかけるが、カルファーは目を開けたまま動かなかった。
カルファーの血が床に広がるのを、殺した女はニヤニヤしながら見ていた。
女はロードと同じ銀髪で真っ赤な目の色白の美女で、貴族のようなドレスを着ていた。
こいつもヴァンパイアロードか!?
いや、オーラや感覚はヴァンパイアロードよりは弱い気がする。
おそらくこいつはヴァンパイアか・・・!?
女ヴァンパイアはロードに近づいて隣にそっと寄り添った。
「旦那様、やっと殺せましたわ。」
「ご苦労様。さすが我が妻だ。」
「人間はやはり馬鹿で単純ね。旦那様が気を引いて下さったから、楽に殺せたわ。うふふふふ」
「!?ま、まさか・・・!」
最初から女ヴァンパイアは姿を隠して、俺とカルファーがロードと戦っている間、攻撃する機会を伺っていたのか!
そ、そんな・・・!?
最初から仕組まれていたのか・・・!?
「そ、そんな・・・!?こんなはずじゃないのに!俺は・・・俺は英雄になる男なんだぞ!?」
「うん?何をごちゃごちゃ言っているんだ?もう飽きたから死ね。」
ロードはそう言うと素早く俺に近づき、腕を振った。
俺は吹き飛ばされ、部屋の壁に体を打ち付けられ、その衝撃で右腕が吹き飛んだ。
「うぎゃあああっ!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!!
血がボタボタ垂れてあまりの痛みにその場でのたうち回った。
意識が遠退きそうになるのを無理矢理意識を保った。
今気を失ったら確実に殺される!!
俺は殺されるわけにはいかないんだ!
俺は英雄になるための男なんだぞ!?
なんでこんなところで、こんな目に会わないといけないんだ!
誰か!誰か助けてくれ!
俺はここで死ぬ男じゃないんだ!誰か!!
そういえば・・・あいつはどこだ・・・?
さっきから姿が見えない・・・。
その時、俺の耳元で声がした。
「ほら見ろ。あんたは英雄じゃないんだよ。」
この声は・・・。
「ユ、ユウジン・・・?どこにいる?」
俺は左腕で傷をおさえながら見回すが、どこにもユウジンの姿がない。
「俺は誰からも見えない魔法を使っているだけだ。俺のことはどうでもいい。それよりみんな死んで残念だったなあ。」
「な、何を言ってるんだ?魔法?口調も・・・どうしたんだよ?」
「ああ、ごめんごめん。うまく物事がいくと口が悪くなる癖なんだよ。うまいことみんな死んでくれたから。」
「はあ!?・・・み、みんな死ぬように仕組んだのか、お前は!?」
「そうだよ。だってお前がリリナが拐われたってのに、「俺は英雄だ」とか頭のわりーこと言ってたから後悔させるためにお前を煽って城に突入させたんだよ。」
「なっ・・・!?」
「さりげなく地下に誘導してさ、そこでウィズリーかカルファーのどちらか死んでくれてお前は英雄じゃないって思い知ってくれたらいいなと思ってたら、ウィズリーが死んだな。んで、そこで冷静になって城を一旦出ようとか言ってくれたらこっちも打つ手あるからなんとかなるかなって思ってたのに、攻め続けるって言い出すし考えも変わらないしで、しょうがないから俺は誰にも見えなくなる魔法使って傍観してたんだよ。んで、どう?みんなが順番に死んでいくのはどんな気持ち?」
なぜかユウジンがニヤニヤ笑っているような気がした。
「ふざけんなっ!お前、命をなんだと思ってるんだよ!?」
「お前こそ、なんだと思ってるんだよ?「俺は英雄だから仲間は死なない」とか言ってたな?そっちの方が命を軽視してんじゃねえか。お前のために仲間は生きているって言い方じゃねえか。」
「だって・・・みんな俺を助けてくれるし・・・。」
「頭マジでわりいな。3人は英雄じゃねえお前を慕って助けてただけじゃねえか。」
英雄じゃない俺を?
英雄になるからではなく?
「ともかく仲間がみんな死んだんだからこれで証明されたな、お前は英雄ではないって。」
「ち、違っ・・・俺は・・・」
「仲間を助けられないお前が誰を助けられるんだ?お前は誰も助けられない。そんな奴が英雄になれるわけないだろう?」
違う!違う!違う!
俺は・・・俺は・・・
「お前は仲間の命を危険にさらしたんだ。それを考えない時点で英雄じゃない。なれもしない。」
涙が勝手にこぼれてきた。
俺は・・・英雄に・・・なれないのか。
だって・・・そうだな。
俺は仲間の誰も助けられなかった。
強いやつがいる危険なとこだとわかってて、仲間の命を危険にさらした。
そして何より、助けてくれと誰かにすがってしまっている。
俺は英雄なるために生まれてきたんじゃないんだ・・・。
だったら、俺の今まではなんだったんだよ・・・。
「はははっ!その顔だよ!いい絶望だねえ。今までの人生なんだったんだって、悲観する顔たまんないなあ。自業自得だよなあ、誰のせいでもない、お前の思い込みで今まで人生無駄に過ごして来たんだもんなあ。あー、かわいそう。」
なんでこいつテンション上がってるんだよ・・・。
もう、何でもいいや。血が流れ過ぎて意識が遠退いてきた。
「おや?血が流れ過ぎて気絶しそうかな?大丈夫、生かしてあげるよ。これから後悔や悔しさの絶望を味わってるところを見せてもらわないといけないからねえ。」
ユウジンがそう言った直後、なにかの衝撃が走り、また俺は吹き飛ばされた。
「さっきから何を1人でぶつぶつ言っている?気味が悪いからさっさと死ね。」
ロードが攻撃してきたようで、俺は感覚が無くなったようになにも感じなくなり、チラッと体を見ると下半身がなかった。
ああ・・・俺は死ぬのか。
もうどうでもいい・・・。
死ねるなら、何でもいい。
あの・・・悪魔のような男に生かされるよりましだ。
そうして俺は意識を手放した・・・。




