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171、悪魔は後ろで笑う

ヴェリゴルートでヴェリゴ視点です。


前回の後書きで次回の後半は主人公が胸クソ鬼畜野郎になると予告しましたが思ったより前半が長くなってしまって、後半書こうとしていたことはこの次になりました。

教会の住居スペースの奥まったところにわたしが今こもっている書斎はある。

壁一面に本が並べられていて、内容は「魔法真教」関連のものが多く書斎の奥のに向かって大きめのデスクがあり、そのデスクの前の椅子にわたしは力なくもたれ掛かって虚ろな目で目の前を呆然と眺めている。


奥まったところにあるので目の前の窓の外には裏の墓地が見え、きれいに並べられた墓標に日の光が心地よくあたって静かだ。

そんな墓標の奥、石すら乗っていない地面にわたしの愛する孫が眠っていると思うと、先日の無惨な姿が脳裏をかすめてしまう。


・・・あれから何日たったなんて、おぼろげで覚えてない。

書斎から見える墓地を見て自責の念で泣き、墓地に行ってはクラリスが埋められた土に触れてクラリスにもう会えないことを実感する。

毎日昼夜繰り返している。

クリナが書斎に食事を持ってきてくれるがほとんど食欲がなく、だがクリナに余計な心配はかけてはいけないとどこかで思っているのか食べたりしているが、味もなにを食べているのかも覚えてない。


わたしの気持ちが定まっていないため、クリナには未だにクラリスが死んだことは言えていない。

・・・言えるわけがない。

あんな・・・惨い最後だったなんて・・・。

クラリス・・・。



「お父さん。」


いつの間にかクリナが書斎に来たようで背後からそう声をかけてきた。

振り返るとクリナの姿があったが、涙のあとと隈で顔色が悪いように見える。

クリナの後ろからに誰かいるのに気づいて、そちらを見て驚いた。


・・・なんで・・・ユウジンがここにいる?


「ク、クリナ・・・な、なんで、彼がここに?」

「お父さん・・・話があるの。ユウジンさんはお父さんが心配だってことで、私がついてきてもらったの。」

心配?ユウジンが?どういうことだ?・・・それに話?

クリナは一旦書斎から出ていって椅子を2脚とってきたようで、わたしの前にクリナが座りクリナの斜め後ろにユウジンは座った。

ユウジンは「口出しするつもりはありませんから後ろに控えてます」と気を使うクリナにそう言って斜め後ろを確保していた。


「お父さん、ちゃんと寝てる?食べてるのは・・・わかってるけど、隈すごいしだいぶやつれているわよ。」

クリナも同じように隈で顔色も悪いのにわたしの方がひどいようで心配されてしまった。

クラリスの死を言えないでいる今のわたしには・・・申し訳なく思ってしまう。

「お前こそ、顔色が悪い。話・・・というのは、なんだ?クリナ。」

こちらを見るクリナはさっきからとても真剣な目つきだ。


「お父さん・・・・・・クラリス、死んだって、本当?」


・・・は?

なぜ知ってる?

そしてなぜ、わたしに聞く?


驚くわたしの反応でクリナはどうやら察したようで、顔を歪めた。

「そう・・・。本当なのね。クラリスはどこにもいないのね・・・。」

ううっとクリナは持っていた白い布で目を押さえて俯いた。

孫の死に悲しむ娘の姿に心が裂けそうだ。

ハクハクと口を開け閉めするが、言葉は空を切り心臓がドクドク鳴る。

だが、無理矢理にでも声を出そうとなんとか紡ぎ出した。

「ク、クリナ・・・あ、あのな、すまない。・・・す、すぐに言えばよかった。だが、わたしも信じられなくて・・・すまない。」

なんとか取り繕った言葉を出して、目を伏せる。


本当は・・・わたしの心さえ落ち着ければ、クリナと探すフリをして行方不明を演出できたはずだ。

そうしたらクリナは「もしかしたら生きているかも」と淡い期待を抱えたまま生きることができると思ったのだ。

残酷な現実でクリナが悲しむのは避けたかった。

・・・なのに、なぜ知った?

知らなければ、こんなに悲しまなくてすんだのに。


「な、なぜ、誰に、死んだって聞いたんだ?」

「・・・ユウジンさんが、調べてくれたの。」

わたしがぎょっとしてユウジンに目を向けると、ユウジンはなにも言わずいつもの優しい笑顔でわたしたちを見ていた。

「ユ、ユウジンが?」

彼は優秀な悪魔教信者だ。

この首都に来て数ヶ月で幹部の護衛までなった。

だが、あくまでも護衛だ。

クラウデンの悪癖も渡が処理していることは彼の護衛の仕事が終わった後のことだから、知らないはずだ。

・・・その、はずだ。


「ユウジンさんが知り合いとかに聞いて回ってくれてわかったの。・・・私たちの尊敬する教皇猊下がメイドを殺していることも、お父さんがその死体を片付けてるのも。」


わたしはクリナの言葉に頭が真っ白になった。

「そしてクラリスは総本部のメイドとして働いていたんですって。そしてあの晩・・・クラリスは教皇猊下に、殺されたの、ね?お父さん。」

「・・・。」

呆然とクリナを見る。

クリナは涙を流し目の回りを擦りすぎて腫れぼったくなってきているが、目は真剣にわたしを射抜くように見てくる。

その目はまるで「お願い、違ってて」と言っているようにも見えた。


わたしの顔は真っ青になっているだろう。

なぜ、バレた?

総本部にいる者はほとんどが悪魔教信者だ。

彼らが裏切って話すはずがない。

特別口の固い敬虔な者をわたしが選んで送り込んだからだ。


「・・・お父さん、なんでそんなことするの?なんで猊下の殺した人を片付けるなんてことするの?・・・猊下の命令で、仕方なく従ってるのよね?きっとそうよね?」

黙って顔色を悪くして言葉がでないわたしに、クリナはすがるようにそう言ってきた。

クリナはわたしが悪魔教だとは全く知らない。

だから教皇という立場の人間に命令されて仕方なくやっている巻き込まれた共犯者だと思っているのだろう。

どうやらユウジンはクリナには悪魔教についての話はしてないようだ。

わたしと教皇の繋がりを表すものだから、話してないならクリナが言ったように「権力に従った」と思われても不思議ではないからだ。

だったら、その流れに乗るに限る。

悪魔教は露見させてはならない。

・・・ユウジンが口元をおさえて素知らぬ方向を向いているのは気になるが。


「そ、そうだ・・・。仕方なく・・・クリナ、すまない。」

わたしは頭を下げた。

「なんで・・・なんでクラリスが死んだって話してくれなかったの?・・・ううん、それだけじゃないわ。猊下の後始末みたいなことされてることも、なんで秘密にしてたの?」

言えるわけがない。悪魔教が関わっているし、何よりクリナやクラリスに知られたくなかった。

悪魔教では人殺しは犯罪ではなく善行なのだが、今の世の中では犯罪になる。

犯罪にわたしが荷担しているなど知る必要がないと思っていた。

それに、わたしが死体を遺棄するのにはある秘密(・・)があるから言えないのだ。


「私ってそんなに頼りなかった?私だってお父さんの力になりたいと思ってるのよ。」

「そうじゃない。そんなつもりはない。余計なことは知らなくていいと思ってたんだ。わたしは・・・いつだってお前たち家族だけを思って――」

「私もう40よ?いい大人なんだから、もうちょっと私たちに頼ってよ!そうやって思ってとか言って、都合の悪いことは聞かせないつもりだったんでしょ!?そんなの嫌よ!」

ガタッとクリナは立ち上がった。

「お父さんはそうやって黙ってると私やクラリスを守れると思ってたの!?そうやってお父さん1人で抱えられるとわたしたちは助けられないじゃない!わたしたちは役に立たないから、黙ってたってことでしょ!?」

「そ、そうじゃない!わ、わたしは・・・!」

言えない!悪魔教が関わっている上に・・・わたしの秘密(・・)を知られる訳にはいかない!

わたしが言葉を続けられず視線をさ迷わせているとクリナは深いため息をついた。

「は―――・・・。ごめんお父さん。感情的になって。ちょっと・・・外に出てくる。」

クリナはそう言って書斎から出て行ってしまった。



ああ、なんでこんなことになってしまったんだ・・・。

クリナとクラリスには、ただただ笑顔でなにも知らず暮らしてほしかったのに。

ため息をついて俯いたわたしに、ユウジンが声をかけてきた。



「・・・さて、クリナさんがいなくなったところで、ちょっと話をしましょうか?」



その顔は見たこともないくらい・・・狂ったような笑顔だった。




ヴェリゴの秘密はもうちょっとしたらわかります。

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