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170、悪魔はクリナに話す

ヴェリゴルートです。

そして長いです。

クラリスが死んで数日後、俺は教会に行った。

いつもの寄付をするついでに、ある話をしたかったからだ。


「あ、こんにちはユウジンさん、それにクロスケちゃん。」

教会に入って出迎えたのはシスターもしているヴェリゴの娘のクリナさんだった。

「こんにちは、クリナさん。」

「ミャー」

クロ助は機嫌よくこんにちは、と鳴いた。

最近隠蔽魔法で存在を消してるせいで、誰にも声をかけられないので寂しかったようで挨拶されただけで機嫌がいいみたいだ。

「寄付、いいですか?」

クリナさんはにこやかに頷いてくれたが、よく見たらクリナさんの目の下には隈ができていた。


俺はさっさと寄付をすますと、クリナさんに話しかけた。

「クリナさん、目の下に隈ができてますよ。なにか心配事ですか?」

クリナさんは俺の言葉を聞いて悲しそうに苦笑した。

「実は・・・クラリスが、行方知れずなの。」

やはりクラリスがいないことを心配して寝不足なのか。

俺は何も知らないフリをした。

「えっ!そうなんですか?」

「数日前から・・・働き先から帰ってこなくて・・・。その日の朝、普通に出てったから何かあったんじゃないかって。」

クリナさんはそう言って不安そうに俯いた。

「働き先には聞いてみたんですか?」

「それが・・・働き先はメイドなんですが、どこのメイドなのかは秘密って言われて。お父さんには反対されるからってお父さんにだけはメイドであることも秘密にしてて、どこかのお店の事務をしていることにしてるんです・・・。それもあって私1人で昨日から知り合いのとことか、心当たりのあるところは探してりしてるんだけど、誰も知らないって・・・。本当に、どこ行ったのかしら?今まで黙ってどっか行くような子じゃなかったのに・・・。」

クリナさんはだんだんと目尻に涙が溜まっていってホロホロと泣き出してしまった。

クラリスはちゃんとヴェリゴにはメイドですら秘密にして、クリナさんにはメイドであることだけ話しているようだ。

本当に、素直で俺の思い通りの子でよかった。

彼女の死は、無駄にはしない。


「だ、大丈夫ですか?クリナさん。ところで、神父様は?出掛けてるんですか?」

「すいません、急に泣いちゃって・・・。お父さんは数日前からふさぎ込んでて、書斎から出てこなくなっちゃって。」

「どうしたんでしょう?」

「それがわからなくて・・・。フラフラ出てくることはあるんで、その時に何回聞いても「なんでもない」って言ってどっかに出掛けちゃうんです。どこに出掛けてくのかなってついてったら、裏の墓地の一角でしゃがみ込んでなんか祈ったりしてて。クラリスといい、お父さんといいどうしちゃったのか・・・。」

ふむ、どうやらヴェリゴはまだクラリスが死んだショックから立ち直ってなくて、クリナさんにも話せずに埋めたと思い込んでるところに行ってるのか。


・・・ふふっ、では明後日、絶望させてやろうかな。



「・・・クリナさん。依頼をやった知り合いに貴族やメイドがいまして、俺から聞いてみましょうか?もしかしたらなにか、クラリスのことがわかるかもしれません。」

「えっ、ほ、本当ですか!?ありがとうございます。」

クリナさんは流した涙を拭いて頭を下げてきた。

「いえいえ、クラリスさんとは何回か立ち話をさせてもらいましたし。協力します。では、明後日また教会に来ますから、その時になにかわかれば話しますね。」

「は、はいっ!」



まさか俺が全部知っているとは思ってないよな。

クリナさんもクラリスさんと同様に素直な人で利用しがいがある。くくくっ。



そして2日後、俺は再び教会に来た。


クリナさんは自分でできる限りの場所を探したり知ってそうな人に尋ねたりしているようで、隈はさらに濃くなって心なしかやつれているように見えた。

「あっ・・・!ユウジンさん!」

教会の祭壇近くの長椅子に力なく座っていたクリナさんは俺の姿を見ると慌てて立ち上がった。

「こんにちは、クリナさん。クラリスと神父様はどうです?」

クリナさんは悲しい顔をして首を振った。

「クラリスは相変わらず行方知れずで・・・まったく情報がない状態です。お父さんは・・・ほとんど書斎にこもっちゃって。」

どうやらまだヴェリゴは立ち直ってないのか。

まあ、目の前で孫が殺されるのを見てまだ1週間も経ってないのだからしょうがないと言えばしょうがないのだけれど。


「・・・クリナさん、クラリスの情報持ってきました。」

俺がそうわざと重苦しく言うと、クリナさんは目を見開いた。

「えっ!?そ、それは本当ですか!?ど、どこに!?無事なんですよね!?」

クリナさんは俺に詰め寄ってきたが、俺は勢いに後退りながら長椅子に座るように促した。

やつれたクリナさんはこの後の俺の話に立っているのも辛くなるはずだからだ。


「クリナさん、先にハッキリと言います。・・・クラリスは行方知れずの日に亡くなりました。」


「・・・・・・え?」


クリナさんはしばらく呆然と俺を見つめていた。

頭に言葉が入ってこなかったのだろう。

それほどクリナさんにとって信じられないことだということだ。

「・・・もう一度言います。クラリスさんは行方知れずの日に亡くなってす。」

「・・・嘘。」

今度は言葉は届いたが受け入れられないようだ。

信じられなさ過ぎて涙も出ないようで呆然と俺を見ていたが、常に笑顔の俺が真剣な顔をしてクリナさんを見つめていたので、やがて本気で言ってると理解したようだ。

途端にクリナさんの視線があちこち泳ぎ、あっという間にボロボロと泣き出した。

俺はアイテムから適当な布を出してクリナさんに差し出した。

クリナさんはしばらく娘の名前を呼びながら泣いた。



だいぶたって涙も落ち着いてきたので、俺は詳しく話すことにした。


「まず、クラリスさんがどこで働いていたのかということですが、クラリスさんは「魔法真教」総本部で通いのメイドをしていたことがわかりました。」

「えっ!?そ、総本部で!?」

「最近、総本部ではメイドが不足していましたから、それをクラリスさんはなにかのきっかけで知ったのではないでしょうか。メイドであること以上を黙ってたのは、総本部で働いてると驚かせたかったのではないですかね?総本部のメイドとして真面目に働いてて周りの評判はよかったようですよ。」

「そ、そうですか・・・。」

「そして調べてわかったのですが、行方知れずになった日、たまたま教皇猊下とお近づきになる機会があったクラリスさんは夕食後に教皇猊下の私室に呼ばれたそうです。・・・クリナさんはこの意味わかりますよね?」

クリナさんは意味がわかったようで少し頬を染めてから慌てて頷いた。


「そしてその教皇猊下に・・・クラリスさんは殺されたのです。」

「!!??」

クリナさんは目を見開いて顔色を真っ青にした。

心なしか震えている。


「・・・う、嘘っ!?きょ、教皇猊下、が?・・・そんな・・・?」

クリナさんはこの教会のシスターであるから「魔法真教」にとって教皇は清廉潔白な雲の上の存在だ。

その教皇様が娘を殺した犯人とは到底信じられないだろう。

「俺はさっき、総本部ではメイドが不足していると言いましたよね?もうここ何年にもなるようですが、総本部のメイドがある日突然行方知れずになることはよくあるそうなんです。そのメイドたちは全員、前夜に猊下に私室に呼ばれた後、姿を見てないそうです。総本部のメイドに聞いてみてもらっても構いませんよ。」

「そんな・・・。」



「そしてその死体を遺棄するのは・・・神父様の役目だったんです。」

「えっ!?・・・ま、まさか・・・!」


クリナさんは倒れそうなほど真っ青になって俺を見てきた。

自分の父親が犯罪の片棒を担いでいるなんて思わないよな、普通。

そして、俺の次の言葉を察してしまったのだ。

「そうです。神父様はクラリスさんが行方知れずになった日に殺されたクラリスさんの死体を遺棄したのです。」

「い、いやぁぁっ!?」

クリナさんが信じられず悲鳴をあげた。

「すいませんが・・・これは紛れもない、真実です。」

俺は真剣な顔を崩さずずっと話しているので、クリナさんには真実だと思ってもらいやすいだろう。


「で、でも、どうしてお父さんが?教皇猊下とお父さんは1度くらいしか会ったことがないはず・・・。」

その1度というのはクラリスがクラウデンに一目惚れするきっかけとなった、この教会に来たことがあるという1度のことだろう。

まさか彼らが悪魔教で繋がっているとは思わないだろう。

だが、クリナさんには悪魔教のことは言わないことにしよう。


「・・・教皇猊下は通称で"ファースト"と呼ばれていることもあるそうです。この名前に覚えは?」

クリナさんはハッとした。

「そういえば!クラリスが帰ってこない日に、教会のドアのところにメモが落ちてて・・・。すぐ来いみたいな内容で・・・ファーストって書いていたのを覚えてます。・・・ま、まさか、アレが!?」

「・・・教皇猊下が死体を遺棄しに来い、ということだったんでしょう。元々教皇様と神父様ですから、猊下が立場を利用して神父様に死体遺棄を命じたのかもしれませんね。神父様はとてつもなく地位の高い教皇の命令なんて拒否出来なかったのではないでしょうか。そして今まで何回も死体遺棄をしたのでしょう。そんなメモでやり取りするくらいですから。」

俺は沈痛な顔でそう告げるとまたクリナさんは泣き出した。

父親の辛い立場に心を痛めたのかもしれない。


・・・まあ、そのメモは俺が事前に書いてアイテムに入れていたのを、罠魔法とアイテムをリンクさせたのを教会のドアの近くに張っといて、クラウデンが執事にクラリスをつれてくるように指示しているタイミングを見計らって発動させたものだ。

総本部にいながらヴェリゴを呼ぶ手段がそれしかなかったのもあるが、クリナさんが俺の話を少しでも信じさせるためもあってメモという手段をとったのだ。



「・・・ユウジンさん。こんなにたくさんの情報、ありがとうございます。・・・これから、お父さんに本当か、話してきます。」

クリナさんは涙がおさまった目元を俺の渡した布でおさえながらそう言った。

「・・・クリナさん、よかったら俺もついていっていいですか?」

「・・・え?」

クリナさんは驚いた顔で俺を見てきた。

「ここまで知ってしまったら俺としても話を聞きたいです。・・・それに、ここの教会に寄付しに来る度に色々と話をして、親しくなったつもりですし。」

俺がふっと笑いながら言うと、クリナさんは少し考えて「わかりました」と言った。


「基本的に親子の話の邪魔をするつもりはありませんから、2人で話して下さい。俺は見守ってますから。」

「そうですか?・・・では、そうさせてもらいますね。」

クリナさんはヨロヨロと立ち上がると、教会の住居スペースに案内してくれた。



クリナさんの後ろについて住居スペースに入った俺は、この後のヴェリゴの反応を想像してニヤリと狂気の笑顔を浮かべた。



次回、多分後半辺りで主人公の本性が出ます。

胸クソ鬼畜野郎になるよ。

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