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169、悪魔は隠れて微笑む

クラウデン・ヴェリゴ混線ルートです。

前半はヴェリゴ視点で後半は主人公視点です。


胸クソ・残酷展開です。

ご注意下さい。

「お父さん、教会の出入り口になんかメモが落ちていたわ。お父さん宛よ。」

「・・・うん?」



教会の隅、懺悔室の掃除をして出てきたわたしに、娘のクリナはそう言って紙を差し出してきた。

不審に思いながらもメモの内容を見たわたしは目を見張った。


至急、また頼む。ファースト


ファーストとは我らが悪魔教幹部の通称だ。

ということはあの男がまたメイドに手を出したということか。

その後始末のためにわたしを呼ぶ内容であることはすぐにわかった。

だが、いつもは通信の魔石で連絡してきたのに・・・。

なぜ、わざわざメモを?

それに至急、とはどういうことなのだろう?


「至急ってあるからとても急いでるってことよね。お父さん、この人に心当たりある?」

「え、ああ・・・、友人なんだ。だが、至急というほどの用事はないはずなんだがな。どうしたんだろう?」

「知ってる人なら会いに行ってみたら?」

そうだな・・・。

もし会って何事もなかったらイタズラですむが・・・。

いや、ファーストという名を知ってる時点でただのイタズラではないと思うが。

だが・・・なにやら、嫌な予感がする。


「そ、そういえば・・・クラリスはどうした?」

「あら、もうこんな時間。そろそろ帰ってくる頃よね。働いてるところがとても楽しいみたいよ。」

クラリスはこの間からどこかの事務で働くことになったようで、出かけることが多くなった。

どうやら楽しいようでニコニコしながら帰ってくるからいいんだが。

どこに働きに出てるか聞いても秘密としか言わないところが、不満ではあるのだがな。

それをクリナに言ったら「孫可愛がりもほどほどにね」と笑われてしまった。


「ちょっとこのメモの友人のところに行ってくる。すぐに戻るつもりだが、クラリスが帰ってきたら先に夕飯は食べていてくれ。」

「わかったわ。いってらっしゃい。」

わたしは教会を出て早足で総本部に向かった。



総本部に向かい、中に入ると夕食を終えた時間帯とあって少し静かだった。

通いのメイドならちょうど帰った頃だから住み込みのメイドがある程度いるのだろうが、クラウデンがメイドを殺すせいで住み込みのメイドが少なくなってきている。

そのためメイドたちは使用人室に引っ込んでて、わたしが総本部に来てこうして入ってもまったく気づかれない。

人手不足はちょっと問題だが、おかげで誰かに見つかる面倒が避けられるというのは皮肉に思える。


とりあえず執務室に向かおうと2階に上がると、ふと、執務室の前に執事とメイドがいた。

後ろ姿であるが、こんな時間に執事とメイドが何の用だろう?

「教皇猊下、メイドをお連れしました。」

執事がそう言ってドアを開けてメイドを中に入れていた。

わたしはその後ろに近づいた。


ん?なんか・・・このメイド、髪型といい髪の色や身長といい、孫に似ている?

いや、まさかな・・・。


「やあ、クラリス(・・・・)。突然呼んですまない。」

「いえ、とんでもございません。」



・・・・・・は?

ク、クラリス、と言ったか?


「ク、クラリス?」

わたしは後ろ姿に問いかけた。

しかし、なぜだか返事がなかった。

横から顔を確認すると、ここにいるはずのない孫の姿がそこにあった。

「通いのメイドということだったが、呼び止めてすまないな。」

「家の者は大丈夫と思いますのでご心配には及びません。」

執務室のデスクに座ったクラウデンが張り付けた笑顔で思ってもいない謝罪をすると、クラリスは柔らかな笑顔でそう答えた。

頬が染まっているような気がするのは、気のせいだと思いたい。


なぜここにいる?なぜ返事をしない?

「クラリス?違うよな、クラリス?・・・ファースト!これはどういうことですか!?」

わたしはクラリスに呼び掛け、クラウデンにも呼び掛けクラウデンに駆け寄ったが、クラウデンはわたしを見ない。


「家の者に信頼されているのか?」

「はい。特に祖父は私のことを溺愛してるんで。」

クラリスはそう言ってふふふと笑った。

どういうことだ?2人とも・・・いや、執事を入れたら3人ともわたしに気づいてないのか?

「では教皇様、ごゆっくりどうぞ。」

執事はそう言って執務室から去っていってしまった。

残されたクラリスはなにやらモジモジしながらクラウデンに熱い視線を送っている。


ガタリッとクラウデンは椅子から立ち上がるとクラリスに近づいて、手を差し出した。

「夜に呼び出した意味、わかっているようだな。先ほど会ったばかりというのに、おかしいか?」

「いいえ。・・・私は教皇猊下のこと、お慕いしておりましたから。」

クラウデンの差し出した手に自らの手を添えて、クラリスは顔を赤くしながらも微笑み、そう言った。


私はこの後のことを予想できてしまって、青ざめた。

いけない!クラリス!!

クラリスの肩を掴もうと手を伸ばした。


ジャラジャラジャラ・・・!


突然地面から黒い鎖が延びてきて、私の体を縛った。

掴もうとした手も絡めとられて、上半身は動けなくなってしまった。

「な、なんだこれは!?くっ!くそっ!?」

乱暴に体を動かしてみても鎖はまったくほどけない。

なんだこの鎖は!?離せ!離せ!クラリスが!!

「離せ!このっ!クラリス!にげるんだ!クラリス!クラリス!!」


「こっちが私室だ。」

「は、はい。」

2人はわたしの目の前を通って私室に向かっていく。

クラウデンが私室のドアを開けてクラリスを促し、2人で入っていってしまった。

「ま、まてっ!!まってくれ!!クラリス!」

地面から生えていた鎖がなぜかジャラジャラと延びた。

上半身はギチギチに縛られているが、動き回れるほど延びたので2人を追って私室に向かった。

わたしが私室のドアの前に立つとなぜかひとりでにドアが静かに開いた。

途端にむっとする、あの甘い匂いが漂ってきた。

クラウデンの香魔法で、そういう気分(・・・・・・)にさせる香りだ。

わたしはもう年齢が年齢だから効かないが。


急いで寝室に入ると、ベッドに腰掛ける2人が見えた。

クラウデンはこちらに後頭部を向けている体勢のためドアが開いたのに気づいていないようで、こっちに顔を向けているクラリスは香りにやられて目の前のクラウデン以外見えないようでトロンとした表情でクラウデンを見上げていた。


「や、やめっ・・・!?」

クラリスに向かおうと歩を進めようとすると。


シュルシュルシュルシュル・・・!


天井や壁から無数の黒いロープが生えてきて、私の全身を縛ってきた。

「な、なんだ!?このっ!」

身震いするように暴れるが鎖やロープはまったく解けず、あっという間にわたしは足1本指1本動かすことができなくなり、さらにはロープは頭にも絡まってきて首を振ることさえできなくなった。

つまりわたしは、クラウデンとクラリスがいるベッドから目を離すことができなくなったのだ。

やめろ!クラウデン!やめてくれ!クラリスにげてくれ!

わたしは暴れて何度も叫んだが、2人には聞こえてないし見えてないようで、キスをしだした。

やめてくれ!これ以上は見たくない!!



だが、わたしの悲痛な願いもむなしく散った。


クラリスはわたしの前で幸せそうな顔をしていたのを一変し、狂うような苦悶の表情と悲鳴を何度もあげて血を吐き涙を流して死んだ。










「・・・さて、終わったかな。」


俺は執務室のデスクの上の書類を漁るのをやめて、私室のドアを少し開けた。

隙間からむっと甘い匂いがしたが、俺は一瞬の目眩ですんだ。

・・・どうやらこの甘い匂いにそういう効果があって、それを状態異常ととらえた指輪が防いでくれたようだ。

指輪をつけてなかったらどうなっていたかと思うと香魔法も侮れないな。

ドアの隙間から覗くとどうやら終わったようで、クラウデンがズボンだけ履いてベッドの縁に座っていた。

俯いていてなにかやっていたので、その隙にと素早く部屋に入ってドアを閉め、中の様子を伺うとなかなかの光景が広がっていた。


ベッドの上には両手足がバラバラの方向に向いて乱暴され、血まみれで苦悶の表情で死んでいるクラリスの死体があり、それをまっすぐ見れるベッドの正面に黒い鎖とロープでぐるぐる巻きになったヴェリゴが涙を流しながら呆然とクラリスの死体を見ている。

そしてヴェリゴの足元には、ヴェリゴの影に入っている黒ずくめの男が黒い鎖で全身ぐるぐる巻きにして転がっている。


「・・・ふむ、サードの奴、通信の魔石に出ない。まあ、いい。先に湯浴みをしてくるか。」

クラウデンはそう呟いて持っていた透明の魔石をサイドテーブルに置いて奥の部屋へと消えていった。

どうやらなにかやっていたのはヴェリゴへ通信の魔石で連絡を取ろうとしていたのか。



俺は帰ったフリをして隠蔽魔法で執務室に潜み、ヴェリゴが来たら彼に隠蔽魔法をかけた。

そしてヴェリゴがクラウデンかクラリスに触って気づかれないようにまず上半身を拘束。

2人が寝室に入ったら拘束魔法を調整してヴェリゴに向かわせられるように伸ばして、ヴェリゴが寝室に入ったら多重魔法を駆使して顔も逸らせられないほど拘束した。

黒ずくめの男はヴェリゴが命令したら出てくるだろうと罠魔法で「影から出てきたら拘束魔法でぐるぐる巻きになる」よう発動条件にして、ぐるぐる巻きになっているところを見ると案の定、影から出てきたということだ。


俺はこれをヴェリゴに見せるためにクラリスにメイドにならないかと持ちかけた。

だってヴェリゴの弱点は溺愛している孫なんだから。

愛する孫が殺され、しかも相手はヴェリゴより上の立場のクラウデンだなんて、面白すぎる場面をヴェリゴにぜひ見せたかったんだよな。

俺は人の性癖を覗き見る趣味なんてないから執務室で終わるまでデスクを漁ったりしていたんだけどな。


・・・だが、これではまだヴェリゴは絶望しない。

ヴェリゴの心の拠り所がまだあるからだ。


俺はヴェリゴと黒ずくめの男の拘束魔法を解いて、隠蔽魔法も解いた。

俺はずっと隠蔽魔法で存在を消しているから、誰も俺がここにいるなんて気付いてない。

ヴェリゴは呆然としばらく膝をついていたが、黒ずくめの男に指示してクラリスの死体を影に入れて、足取りを重く私室から出ていった。

クラウデンにブチギレて食って掛かると思ったが、そんな気力も起きないほど打ちのめされているようだ。

一言も発することなく、フラフラと総本部を出たヴェリゴは街中を呆然としたまま歩き、教会の裏手にあった広大な墓地に来ていた。



「・・・・・・。」

ヴェリゴが一言も言わず墓地の脇の石のベンチに座り込んで項垂れた。

影から黒ずくめの男が出てきて、クラリスの死体を乱暴に抱えると墓地の一角にある、墓石もなにもない場所に移動した。

そして黒ずくめの男は無造作にクラリスの死体を置いて近くに隠してあったシャベルをとってきて土を掘りだした。

ここはクラウデンが殺したメイドたちの死体遺棄している場所だ。

リズさんの死体もここで埋められたのを、リズさんが殺された時にヴェリゴを尾行して確認済みだ。


俺はチラッとヴェリゴを見ると項垂れて地面を見ていたので、こちらを見てない隙に黒ずくめの男をまた拘束して、クロ助のシャドウダイブで俺の影に入れてクラリスの死体はアイテムに入れた。

そして土魔法で表面をボコボコさせ、死体を埋めて土を戻したように見せた。


しばらくしてヴェリゴはハッとして顔を上げ、死体を埋め終わって黒ずくめの男は影に戻ったと思ったようで、俺がボコボコさせた土に近づいて手をついて泣いていた。


「クラリス!・・・クラリス!すまない!クラリス!くっ・・・!」



主人公がホントとんでもないイカれ野郎で申し訳ありません。

だって悪魔と言われるほどだからこれくらいしないと・・・と思ってしまって。

因みに今回のクラリスの死は無駄ではないので主人公は怒りませんでした。

ヴェリゴに見せるためもありましたが、他にも思惑がありまして。

それは次回かその次にわかるかなと思います。


もうこれ以降は誰も死にませんのでご安心を。

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