168、悪魔は会わせる
クラウデン・ヴェリゴ混線ルートです。
近寄ってきたマデリーンとハスニーア。
2人は今日はクラウデンに会えると張り切ってメイクに力をいれてドレスも新調したものだ。
マデリーンは紫を基調にしたシックなものだが、ハスニーアは若い令嬢が着るような薄ピンクのドレスを着ていて30代半ばの地味な女が着るには痛々しく見えるのだが、着ている本人はまったくわかっていないようでそのドレスをふわりと浮かせてこちらに走りよってきていた。
俺は王太后マリアンナがまた体調を崩したということをマデリーンの執事が知らせてきたとマデリーンから聞いて、ちょうどいい機会だからと王城に見舞いに行くついでにクラウデンを待ち伏せしてはどうかと俺は2人に提案した。
それを聞いてすぐに2人は喜びあって行くと答えてきた。
「監視の目があるのでそこまで長く話すこともできませんし、猊下は冷たい態度をとってこられるでしょうが仕方ないこなとです。あなた方が会いたいとおっしゃってましたので、かなり無理をしました。」
「それは・・・ありがとうございます。」
「私たちのためにありがとうございます。」
俺の嫌味を含んだ言い方をあえてして、「あなた方のために無理をしてあげた」感を出したので額面通りに受け取った2人はとても俺に感謝していた。
こうしてマデリーンとハスニーアはマリアンナの見舞いをしつつも王城にしばらく滞在して、クラウデンが王城に来たという報せを聞いて急いできたのだ。
2人を見たクラウデンの反応はいつもの通りで、侮蔑の目を向けて凍るような空気を撒き散らしていた。
だが、2人はやっと会えたことに歓喜してクラウデンの雰囲気にまったく気付かず、「監視の目があるから厳しい顔をしている」と思い込んでいるようだった。
「クラウデン、この間は驚いたわ。怪我はなかったかしら?」
「怪我って、ちょっとぶつかっただけですわよね?お兄様!お母様は心配性なんだから。」
「・・・なにかご用ですか?」
ニコニコ笑う2人と対峙する冷たいクラウデン。
寒暖差のすごい場面をすぐ後ろで眺めている俺としては、早く話し終わってほしいんだけど。
そんな俺の願いが通じたのか、それからしばらく2人は話題を振ったりしてなんとかクラウデンと話そうとしていたが、クラウデンのイライラがすぐに限界に来て「仕事を残してきてるので。」と言って足早に去ることとなった。
俺は不機嫌に去っていくクラウデンの後に続きながら2人にわざと視線を合わせて軽く会釈した。
俺としては護衛として主人の後に続かなくてはならないので身分の高い者の前から去る際の会釈、ということでやったのだが2人には監視者をうまく誤魔化せたという合図になるだろう。
2人はクラウデンを追いかけるでもなく、その場にとどまってクラウデンの背中をいとおしそうに眺めていた。
総本部に帰ったクラウデンはずっと不機嫌で、乱暴な手つきで執務をこなしていた。
だが夕食前、執事が夕食ができたと迎えに来たくらいには落ち着いたようでなんでもない顔で応じていた。
そうは言っても嫌悪する母親と母親の傀儡に喜んでなっている妹に会ったクラウデンの心中は穏やかではないだろう。
俺はいつものように笑顔を張り付けて執務室から出るクラウデンに付き従い、廊下を歩く。
途中でどこかへ移動中のクラリスと遭遇した。
1人で正面から歩いて来ていて、手には花をいけた花瓶を持っているのでどうやらどこかの部屋に飾るためのものらしい。
俺はすぐさまクラリスの持っていた花瓶に罠魔法で風魔法をつけ、すぐに発動させた。
瞬間的な風で大きくぐらついた花瓶に驚いたクラリスは手を滑らせ、床に落としてしまった。
「きゃっ!?」
ガシャンッと割れてしまい、床の広範囲に水が飛び散り花は散乱して花瓶の欠片もバラバラになった。
「も、申し訳ありません!!」
近くにクラウデンや執事がいることが見えていたクラリスは慌てて謝りながら回収しようと手をのばした。
クラリスの顔は真っ青で少し手が震えている。
「クラリス、割れた欠片で怪我をしないように。とりあえず花だけ回収しなさい。誰か!」
執事がすぐさま反応してクラリスに花だけ回収するように言って他の使用人にホウキとチリトリ、水を拭く雑巾を持ってくるように指示を出していた。
「き、教皇猊下!申し訳ありません・・・!!」
クラリスは花を拾い終わるとクラウデンに改めて頭を下げた。
「いや、君が怪我がないならいいよ。花瓶はまた買えばいいしね。気にしないようにな。」
「は、はい!あ、ありがとうございます・・・!」
クラリスはぽうっと頬を赤らめてクラウデンを見つめていた。
「うん?君は確か・・・。」
クラウデンはクラリスの顔をまじまじ見て、俺の方を向いた。
どうやら俺の紹介でメイドになった子だと覚えていたようだ。
まあ、2週間近く前に紹介したばっかりだったから覚えてたんだろう。
「あ、はい。その子は俺の紹介で来たクラリスです。」
「やはりそうか・・・とても可愛らしい子だったから覚えているよ。」
クラウデンがそう言ってクラリスに微笑むと、クラリスは顔を真っ赤にして俯いた。
初心な少女の反応として俺でさえ可愛らしい仕草に見えた。
他の使用人が来て片付けることとなり、メイド長と思われる女性も来てクラリスを嗜んでいたのを執事に促されて、クラウデンは1階の食堂に移動した。
「おい、あのクラリスというメイド・・・。」
クラウデンは夕食を食べ始める直前に、執事に耳打ちしていた。
俺は食堂の脇で密かにそれを聞いていて、ニヤリと笑った。
クラウデンがメイドを殺した日は2日とも、昼間にマデリーンとハスニーアに会った日だ。
つまり、昼間にマデリーンらに会わせとけば夜は誰かメイドをクラウデンは私室に呼んで殺すということだ。
恐らくクラウデンはマデリーンらに会ったことで過去を思い出し、自身の中にある煮えたぎる憎悪が膨らんだのをメイドを殺すことで発散しているのだろう。
俺はリズさんが殺された日に、なぜクラウデンがメイドを私室に呼ぶことにしたのかと考えて、昼間にマデリーンらに会ったことを思い出して、もしかしてマデリーンらに対する憎悪をメイドにぶつけているのではと検討をつけそれを利用することにしたのだ。
今日、マデリーンらに会わせたのはわざとであり、マデリーンらの会話なんてどうでもよかった。
会ったことでクラウデンが憎悪をたぎらせるのが目的だったからだ。
そして少し前から働かせていたクラリスがちょうどいいタイミングで花瓶を持ってきてくれたのを魔法で花瓶を割らせてクラウデンの興味をクラリスに引かせた。
もしクラリスと接触する機会がないなら執事やクラウデンにそれとなくクラリスをアピールするつもりだったが、本当に偶然のタイミングで手間が省けた。
・・・クラリスには申し訳ない感情はもちろんある。
教会へ向かうときに楽しく話し、無邪気な笑顔を向けてくれたのだから。
だが、彼女の死は無駄にしない。
・・・まあ、最後に好きな人に抱かれるのだから本望かな。
おじいちゃんも見守っててくれるからね。
主人公がクソですいません!
主人公はリズが殺されたときにも触れましたが、「その人の死に意味があるなら死んでもよい」と本当に思っているのです。
死は平等であり、例えその人が善人でも悪人でも死が必要ならそう仕向ける、という絶望を見るためなら何でもする頭のおかしい考え方の人だと思って下さい。
あくまでも一小説の設定上のこととして読んでくださることを願っています。
次回は本当に本当に胸クソです。




