166、悪魔は進める
ヴェリゴルート→少しギアノートルート→少しギアノート・ヴェリゴ混線ルート→クラウデンルートです。
あれから2週間ほどたち、俺の計画は順調に進んでいる。
ギアノートの屋敷に行って数日後の朝に、教会近くでクラリスと待ち合わせて一緒に総本部に向かった。
執事に紹介して、執事はメイドたちを集めてクラリスを紹介していた。
クラリスは俺が適当に設定を考えた「知り合いの商家の孫クラリス」を気に入ってメイドたちにもそう自己紹介していた。
まあ、クラリスとしては仲良くなったメイドには機を見て話すらしいが、それまではすぐバレることは避けるという。
クラリスには内緒でクラリスの顔にヴェリゴだけ隠蔽するように魔法をかけているのだから、万が一ヴェリゴが総本部に来ても大丈夫なんだがな。
元々明るい性格のクラリスはすぐに他のメイドと仲良くなっていたようだったのでひとまず任せて、俺は護衛の仕事に向かった。
ギアノートにはあれから手紙のやり取りを1度したきりだ。
俺からは必要書類は着々と盗んでいることを書いて、ギアノートからもなにか収穫はあったようで、詳しくは手紙には書いてなかったが姿が見えなくなった令嬢の家に行って家族と話して、なんらかの話が聞けたのかもしれない。
俺の計画には家族の存在は加味していないから、どういう情報でも関係ない。
俺は俺で隠蔽魔法などでクラウデンの情報を入手できているから、ギアノートの手札が増えただけだしな。
とはいえ、そろそろ糾弾するほどの材料が揃った。
後は絶対に覆せない証拠か証人がいるなとギアノートは思う頃だと思う。
だったら・・・証人を用意してやろう。
俺はある行動に出た。
それは、ある噂を流すというものだ。
じいさんが時期的に後1ヶ月ほどで首都か別荘に着く頃。
その頃を見計らっていた俺は「マリルクロウ・ブラックが後1ヶ月ほどで別荘に帰ってくる」噂を流すことにした。
出掛けた夜の酒場や昼間の飲食店に宿屋の食堂など、近くの客にわざと聞こえるように誰ともなく流して、噂はあっという間に広がった。
元々"黒の一族"として人気の人物で、別荘に住んでいた時はたまに首都にも来て普通に買い物していったりしていたそうで、首都での人気は高かった。
なので皆喜んで噂しあったようだった。
俺としては思わぬ好都合となった。
・・・この後、この噂が大事となってくるのだから、広まってあの人の耳に入ればいい。
そして俺が結構力を入れたのはマデリーンとハスニーアの洗脳だ。
2人は俺の計画の総仕上げに欠かせないから、俺の言う通りに動いてもらわなければ困る。
かといって彼女らに無理矢理なにかをさせるということではない。
むしろ彼女らの願いが叶う手助けをするのだ。
2回目の訪問で、俺は彼女らに半分真実で半分嘘を吹き込んだ。
「実は猊下はその地位を追われそうになっています。架空請求に女性に対する暴行や殺人、その他色々とです。・・・もちろん、根も葉もない嘘なのですが、猊下は脅されていて罪を認めろと言われています。」
「まあ!なんてこと!?」
「罪を認めないと家族に危害を加えると言われているのです。猊下はあなた方を守るために脅迫者に従っているのです。脅迫者は猊下が国の政策などに関わるのが常々邪魔だと思っていた者です。」
「なんてことでしょう!お兄様は私たちのために・・・!?」
「だからあなた方がお会いされても冷たく対応したのです。仲良がよくないと脅迫者にアピールすることで、あなた方が誘拐や危害を加えられることを防ごうとしているのです。現に、この屋敷の周辺には監視している者がいます。もしなにかあったらすぐに誘拐や危害を加えれるために。」
「そ、そうだったのですね・・・。」
「俺だったらその監視を目を誤魔化してここに来ることができます。俺から猊下についてお話しますので、あなた方は会いに行かれない方がいいかもしれません。あ、この屋敷からもでない方がいいでしょう。猊下に会いに行くと勘違いされるかもしれませんから。」
「そんな!外に出れないなんて!?」
「これも猊下のためです。あなた方が猊下を守るのです。を救えるのはあなた方しかいません。」
3回目の訪問では、今まで飴を与えていたのを鞭を与えた。
「教皇様に会いたい?前回言ったのを忘れておいでですか?あなた方が教皇様に近づいてあなた方にもしものことがあったらどうするのです?」
「で、でも、少しくらいなら・・・。」
「そう浅はかな考えで万が一のことがあったらどうするんです?脅迫者は危害を加えると言っているのですよ?拐われた後、暴力を振るわれたり犯されて変な薬を盛られてヤク中にされてもおかしくはないのですよ。それにあがなう力はお持ちです?持ってないでしょう?」
「ひ、ひぃ・・・!?」
「だから俺がここに様子見に来てやっているのですよ。俺が来てなかったらどうなってたかわかってます!?町中のならず者がこの屋敷に押し寄せて夫人の目の前でお嬢様を・・・なんてこと起こっていたのですよ?」
「ひいいぃぃ!?」
「ああ・・・ユウジン、ごめんなさい。わたくしが愚かなことを言いました。あなたに従いますから・・・これからも様子見に来て・・・。」
「もちろんそのつもりです。」
そう言って4回目の訪問ではまた飴を与えるのだ。
「前回は会うなと言ってしまいましたが・・・やはり猊下の周りは監視だらけです。ですが、彼らだって人間ですから必ず隙はできます。その隙ができたらあなた方を猊下に会わせることができるかもしれません。」
「ほ、本当!?」
「あなた方が我慢して屋敷で大人しくしていただいたおかげです。タイミングは俺が指示していいですね?」
「ええ、ユウジンにすべて任せます。」
まだ4回・・・ほぼ知り合って3週間ほどしかたってない相手をここまで信じるとは、愚かと言うかなんと言うか・・・。
普通ならここまですんなり洗脳はできない。
これはマデリーンの思い込みの激しい性格とハスニーアの素直でまっすぐな性格と周りとの長年の孤立、それに旦那を神としていたことなど下地がなされていたおかげでこんなに早く洗脳できたのだ。
旦那を亡くしてクラウデンを新たな神と定めたマデリーン。
その神の位置に俺を置くことが洗脳の目的ではない。
神を慕う信者仲間という立ち位置で、神を見つめるマデリーンの横で、彼女の都合のいいことを吹き込む位置になるのが目的だったのだ。
そうすることで、マデリーンは意思を持っているのにも関わらず、俺の誘導通りの行動をすることとなる。
だが、本人は自らの意思で動いたと思いこむ。
・・・ああ、なんて滑稽で、愚かだ。
俺は5回目の訪問でなにも気づいていないマデリーンとハスニーアがにこやかに紅茶を飲んでいるのを見ながらくっくっと笑った。
「さて・・・夫人、お嬢様。そろそろ猊下に会いたくないですか?」
「「えっ!?」」
途端に2人は顔をほころばせた。
部屋の隅では5回の訪問の度に控えている執事が相変わらずニコニコ笑って俺たちの会話を聞いていた。
最近起こっている事件に洗脳が使われていますが、今回この回に出てきたのはたまたま偶然ですよ!(笑)
そして貴族の公爵夫人と令嬢を明らかに洗脳しているユウジンをまったく止めない執事。
なぜでしょう?
その謎は後にわかります。




