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162、悪魔は親子に近づく

遅くなってすいません!

クラウデンルートです。

クラウデンの母と妹に接触した翌日は護衛の仕事で、朝から総本部に向かった。



いつものように・・・と言ってもまだ護衛をやり始めて3回目だが・・・執務室へ上がろうとすると、なにやら話し声が1階から聞こえてきた。

それは廊下の端でメイド同士がなにやらしゃべっていた。


「え!?あの子、今朝出てっちゃったの!?」

「そうみたいなの。私もさっきメイド長から聞いて。なんか、急に家業を継ぐとかで・・・。」

「それにしても急過ぎない?だって・・・ついこの間、リズが辞めたばかりじゃない!?」

「リズも確か急だったわよね。なんでも親の介護とかで・・・。」

「ちょっと・・・!やっぱりおかしくない?私、貴族のお屋敷で働いたことあるけど、こんなに急に辞めたりとかなかったわよ。」

「それも、ここ何年も突然辞めるメイド多いわよね?」

「挨拶もなしにある日突然よ。前いたメイドの中には、翌日に一緒に買い物する約束してたって子も次の日にはいなくなってたらしいし・・・。ねえ、なんだか怖くない?」

「ちょっと!怖いとかやめてよ!」


メイド2人はそんな話をしつつ、使用人室へ入っていって会話は聞こえなくなった。


今朝またメイドがいなくなった?

リズさんや他のメイドのように突然?

俺の脳裏にリズさんの変わり果てた姿がよぎった。

途端に、めちゃくちゃイラついた。


・・・あの男、また命を無駄にしやがったか。


だが、これからその男のところへ向かわなければならないというのを思い出して、ひとまず廊下の端で立ち止まり、そばにあった窓から外を眺めているフリをして怒りを静めた。

隠蔽魔法のかかったクロ助が肩の上で心配そうに見てきたので頭を撫でた。


俺の張り付けた笑顔のおかげで感情を隠すのは難しくはないのだが、雰囲気やふとした仕草などでクラウデンや周囲の悪魔教信者に違和感を持たせてしまうかもしれない。

俺はクラウデンに従う悪魔教信者のその他大勢の1人と思われて、味方であるのが当たり前のように思われなくてはならないのだ。


そうしたら、裏切った時に余計にいい絶望が見れるかもしれないだろう?



それから俺は怒りをおさめて護衛についた。

この日はお花畑国王に呼び出されることはなく午前中は執務をして、午後からは総本部近くの教会へ視察に向かうということで護衛した。

その教会はヴェリゴの教会とは比べ物にならないくらいにでかくて荘厳な雰囲気で、どうやら貴族用の教会のようだ。

教会には2人の司祭いて、その2人の部下として数十人の神父とシスターがいるそうだ。

2人の司祭はクラウデンとそこそこ付き合いがあるようで、雑談を交わした後に教会内を案内してもらって教会を後にした。


俺たちが教会に行っている間に財務に昨日の架空請求をしにクラウデンの使いが行ったようだ。

使いは悪魔教信者の若い男で、架空請求はまったくバレなかったようで後日、お金は届けられるということで了承の書類を持って若い男は夜には帰ってきた。





そして翌日。

護衛は休みで昼から宿屋を出掛けた俺は貴族の屋敷が立ち並ぶ一角、隠されたように隅の方に追いやられたような屋敷の前にいた。

他の屋敷より少しだけ大きいその屋敷は青い屋根に白い壁と、昔はきらびやかだったろう面影を残しているとはいえ、屋根の青はところどころくすんでいて壁も少しヒビが入っている。

ここはクラウデンの実家でもある、バズテリア家の屋敷だ。


手には手土産を持っていて、これはここに来る途中で寄った高級そうなお菓子屋の一番豪華なクッキーセットだ。

クロ助は今日は隠蔽魔法をかけていない。

護衛の仕事の時は目立つのを避けるためにクロ助を隠していたが、今日は一応休みということで見られてもいいかなと思ったのだが。

だがまあ、貴族の屋敷に行くのに肩にペットを乗せているのは問題あるかもしれない。

注意されたら影に入ってもらっとこう。

門番に声をかけると俺が来ることは知らされていてすんなり入れてもらった。

そして門を開けてもらい、屋敷に足を踏み入れると玄関にはマデリーンとハスニーアと執事と思われる老人の姿があった。


「こんにちは、夫人にお嬢様。わざわざお出迎えありがとうございます。」

「ようこそ、ユウジン。」

「ようこそいらっしゃいました。まあ!かわいらしい猫ちゃん!」

マデリーンが柔らかい笑顔で迎えて、ハスニーアはクロ助を見て声を弾ませた。

「クロ助と言います。すいません、自分のペットなんですがどうしてもついて来たがったもので。」

「クロスケちゃんというのですね!かわいいお客さんは大歓迎ですわ。しかもこの子、「神の使い」ですから光栄なくらいですわ。」

「よかった、ありがとうございます。」

どうやら「神の使い」のおかげでクロ助を今後また連れてきても問題はなさそうだ。

「それとこちら、よかったらどうぞ。」

そう言ってクッキーセットを差し出すと執事が受け取ってくれた。


「さ、我が家の自慢のサロンに案内するわ。そこで話をしましょう。」

マデリーンがそう言って公爵夫人自らサロンに案内してくれるようだ。

ハスニーアもニコニコしながらついてきて、執事は少し俺に警戒しながらも笑顔でハスニーアの後ろについていた。

屋敷の外観は少し古い感じを受けたが、内装はきれいだった。

壁や窓なんかもしっかり磨かれていて、きれいな壺やランプといった調度品がところどころに飾られている。

廊下をしばらく歩いた先のサロンは中庭が一望でき、柔らかな日の光が降り注ぎ、座り心地がよさそうな白い大きなソファがいくつも並べられていた。


勧められたソファに座るとクロ助はさっさと肩から降りると探検を開始し始め、すぐに飲み物とお菓子を持った執事とメイドがサロンにやって来た。

そしてテキパキとテーブルにお菓子と紅茶を置くと、サロンの隅に控えた。


「本日は我が屋敷にお越し頂きありがとうございますわ。」

マデリーンはそう言って紅茶に口をつけた。

「いえ、夫人とお嬢様と話をする機会ができてとても楽しみに来させて頂きました。猊下のお話など、護衛の俺でも他人に話せませんし。」

俺は苦笑しながら紅茶を一口飲んだ。


俺が今日、この屋敷に来たのはクラウデンの話をするということで来た。

自分たちの愛するクラウデンに、現在ものすごく拒否されている2人はどうしたらいいかとクラウデンの情報を欲しているだろうと思った。

俺が一昨日この2人に接触したのはクラウデンの話をきっかけに2人にある協力(・・)をしてもらいたいからだ。

クラウデンの傍らにいたし、彼の護衛という立場ということで俺がクラウデンの話をしたいと2人を助け起こした後に言うと、2人はすぐに俺を信用してくれてこうして屋敷にお邪魔することとなったのだ。


しばらく「このサロンとてもきれいですね」とか適当な雑談をした後、ハスニーアはおずおずと聞いてきた。

「あ、あの、普段のお兄様のご様子はどうなんですか?」

「朝から夕方まで教会の仕事しています。執務が多いですが、たまに視察にと教会に行くこともあります。その他は、国王陛下の急な呼び出しに応えてますね。」

「お兄様は楽しそうにしてますでしょうか?」

「楽しそうに・・・というか、ごく普通にやっているといった感じですかね。好きでやっているというよりかは・・・教皇という地位にいるからやっているという感じですか。国王陛下の急な呼び出しには困っているようですけど。」

クラウデンは教皇という立場と国王の従兄弟という立場を利用して、悪魔教を金銭的に支えているような感じだ。

まあ、経済面での大口のセカンドを失ったのだからやっているのだろう。


俺の返答を聞いたハスニーアはふっと少し悲しい顔をした。

「・・・やはりお兄様は・・・教皇というお立場が好きではないのかしら・・・。」

ハスニーアのぽつりと小さく呟いた言葉は俺には聞こえたが、あえて聞こえないフリをした。



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