閑話 クラウデンの過去
序盤三人称視点で途中からクラウデン視点です。
虐待・暴力表現をなるべくさらっと書いたつもりですが出てきます。
苦手な方はご遠慮ください。
そして長いです。
クラウデン・バズテリアは47年前にこの世に誕生した。
父はミグラス・バズテリア公爵で母はマデリーン。
マデリーンは元々、ここ東大陸イルヴァルナス王国の左隣に位置する西大陸のアルバニカ王国の現アルバニカ国王の姉でアルバニカ前国王の第二王女だった。
今から50年前の15歳の時にアルバニカ前国王の第一王女マリアンナがイルヴァルナス王国の前国王が当時王太子だった時に2国の友好の証として嫁いできたのと同じ時期にマデリーンも同じ理由で筆頭公爵家のバズテリア公爵家に嫁いできたのだ。
侍女数人だけで嫁いできたマデリーンは文化の違いに戸惑いはあったが、大人しい性格で生真面目で少し思い込みの激しいところもあったが、公爵家に1日でも馴染もうと努力していた。
だが、使用人に優しく声をかけても皆俯くばかりだった。
使用人たちは王女に声をかけられてとても恐縮していたのだが、マデリーンには壁を作られたように思え、会話もろくにできなかった。
ミグラスは仕事を第一にして厳格な性格で筆頭公爵家として常に振る舞うことをよしとする男であった。
嫁いできたばかりのマデリーンに公爵夫人としての振る舞いを常に求めてきた。
マデリーンは嫁いできた身であるため全てをミグラスの言う通りにした。
そうしていれば、たまにミグラスは褒めてくれたからだ。
同じく嫁いできた姉マリアンナに会って、なんでもない話くらいしたかったが、いくら姉妹であっても王族と公爵なのだから頻繁に会うのは良くないと言うミグラスに従い、月1回お茶会をしていたのを半年に1回にした。
一緒に来た侍女たちは数年で次々とこの国での出会いで家庭を持ち、子育てなどを理由に公爵家を去っていった。
大人しい性格だったので街に出ていくこともほとんどなく、夜会などで出会う貴族はマデリーンの地位にしか興味がなかった。
マデリーンがまともに言葉を交わすことができるのは半年に1回に会う姉とミグラスだけとなってしまった。
やがて尊大に振る舞い、時に叱咤され時に褒めてくれるミグラスがマデリーンにとっての神となった。
そしてマデリーンが嫁いで3年後、俺が産まれた。
父の白髪と母の金の目を受け継いだ俺は産まれた時からとても可愛らしかったそうだ。
母は神から授かったと喜んで育て、俺に常に付き従った。
対して父は後継ぎができたことに喜んだが、それだけで仕事で家を空けることが多かった。
俺が12歳になる頃にマデリーンは俺にとっての妹ハスニーアを産んだが、マデリーンは産む前日まで俺にべったりで、ハスニーアが産まれるとすぐに乳母に押し付けて産んだ翌日には俺にべったりだった。
俺は自分の母が異常に俺にべったりなことはわかっていた。
小さな頃から付き合いのあった他の貴族たち親子の様子でなんとなく察したし、俺が産まれた1年後に産まれた現国王リュディンスと半年に1回会って遊んでいたときにマリアンナが「あなたちょっと溺愛どころか執着してない?」と言った言葉にマデリーンが「そうかしら?」と傾げていたのを聞いたのもあったからだ。
ミグラスは帰って来ず、マデリーンの世界は俺を神と定めたようだった。
そんななか、ミグラスが事故で亡くなった。
馬車で帰宅中に目の前に子供が飛び出してきて、それを避けようとした馬車がバランスを崩して横転し、強く頭を打ってそれが元でとのことだった。
マデリーンが最も衝撃を受けたのはその馬車が浮気相手となる令嬢の屋敷からの帰りだったということだ。
俺が13歳の頃で、ハスニーアはやっと1歳になった頃だった。
マデリーンは呆然としてろくに食べることも寝ることもしなくなった。
彼女にとって神がいなくなったのだ。
本当に、ただの人形のようになった。
公爵の爵位を賜るには俺は幼いということで、公爵の爵位は一旦保留となり妻のマデリーンが公爵婦人として俺が15歳の成人するまで家を取り仕切ることになっているのだが、マデリーンは人形の状態でとても任せられる状態ではなくやむなく公爵婦人の名で俺は執事の力を借りてなんとか家を取り仕切った。
半年ほどしてマデリーンは落ち着いて家を取り仕切れるようになったが、俺に対する執着は度を越していった。
朝起きてから寝るまで使用人のように付き従い、着替えはマデリーンがやって靴下まで履かされ、俺が使用人に声をかけるだけで怒り狂い、食べ物は手ずからと言って差し出された食べ物を食べないと「気に入らない物を作った料理人が悪い」と料理人をクビにしたりとなっていった。
俺は触れられる度、視線を向けられる度ににゾッとして、付き従うのを止めてくれと常に言っていたが、崇拝していたミグラスを亡くしたマデリーンの耳には一切聞こえてきなかった。
俺は思春期に入っていたこともあって、本当に気持ち悪かった。
マデリーンが異常だととっくに気づいていた。
俺は逃れるために積極的に外に出た。
家になるべく居たくなくて友人知人の家や街の店に入り浸ったりして、そこで笑顔を張り付けることを覚えて対人関係も学んでいった。
幸い、俺は顔がとてもよかったので女性からもモテた。
家にろくにいない俺にマデリーンはミグラスを重ね合わせたのだろうか。
マデリーンは俺が15歳になって成人する頃には恐ろしい考えにいたっていた。
俺が15歳の誕生日パーティーをした日の夜。
俺は正式にバズテリア公爵になった日。
俺は寝る前にとマデリーンに勧められた果実水を飲んでしまった。
途端に、手足が言うことを聞かなくなってその場に倒れた。
だが、意識はあった。
「な、なんだ・・・!?」
「うふふふふふ、かわいいかわいいクラウデン。ごめんなさいね。」
マデリーンは口元を吊り上げていた。
手にはナイフが握られていた。
「や、やめっ!・・・やめろ!母上!やめろ―――――――!!」
倒れて指1本も動かせない俺の上に股がってきたマデリーンは俺の腹部めがけて、ナイフを突き立てた。
「あなたが悪いのよ、クラウデン。わたくしを置いて外の世界に行くなんて。そんなこと許さないんだから。ふふふふふふっ」
たまたま物音を聞いて不信に思った使用人がすぐに駆けつけたため、俺は一命はとりとめた。
治療受けるため俺の体を見た医師は驚いたそうだ。
背中や腹部、太ももなど服で隠れるところはすべて古くからある傷だらけだったからだ。
俺は物心ついた時から虐待を受けていた。
マデリーンは俺に公爵家としての振る舞いを強要し、気に入らない仕草をしただけで体を引っ掻きつねってきた。
常に付き従っていたのは俺の体の傷がバレないか見張ってたのと、公爵家としての振る舞いをしているか監視するためだった。
医師は即座にマリアンナに報告し、俺はすぐさま保護された。
俺はすでにマデリーンが近づくだけで吐き気がした。
マデリーンに接触禁止を言い渡された。
そのまましばらく王族に匿ってもらっていたが、マデリーンは毎日王城にやって来た。
俺はそれすら気持ち悪く、リュディンスの父親である当時の国王の勧めで魔法真教総本部に身をおくことにした。
マデリーンはアルバニカ王国の人間のため、魔法真教信者ではなかったので信者となり総本部にいれば連れ帰ることは難しいと考えたからだ。
そして国王の采配でマデリーンとハスニーアは首都から離れたバズテリア公爵家の別宅のある町に住むように命令し、町から出るのを禁止した。
本来ならマデリーンは虐待で法の裁きを受けるはずだったが、マリアンナの懇願でそれは避けた。
また、元王女を裁くのはアルバニカのこともあり国際問題になりえたからだった。
そうして俺は総本部で働き、友人たちと交流して穏やかな日々を送った。
自分が異常だと気づいたのは、年頃になりある令嬢と親密になった時だった。
俺はいざそういうことになった時、脳裏にいつかのマデリーンが姿が浮かんだ。
途端に令嬢はマデリーンに見え、憎悪で夢中で殴っていた。
薬で身動きはとれない状態ではない。
俺はもうお前の好きにさせないぞ!
殺してやる!殺してやる!
ハッとして気が付くと、目の前には血まみれの令嬢が事切れていた。
「・・・ふはっ!ははは・・・!」
俺の気分はとても・・・とても爽快だった。
俺はマリアンナに言わなかったが、マデリーンに性的にも虐待をされていた。
それからは、たまに夜会に出かけては令嬢を物色してベッドの上で殴って殺した。
成長するにつれて俺の顔はより見目がよくなり優しい台詞を吐く技術も身につけたので、令嬢を釣るなんて簡単だった。
数年後には結婚にこぎ着けた令嬢もいたが、初夜でうっかり殺してしまった。
その令嬢は気があったから家庭を持てるかと思ったが、やはりマデリーンの顔が浮かんでしまって殴ってしまった。
司祭にまでなっていたので司祭と公爵の権力で殺しは誤魔化して事故死にした。
それから数年後にまた婚約まで持っていけた令嬢がいたが、やはり我慢できなくて殺してしまった。
その令嬢はマリッジブルーで自害したことにした。
それでもなにも知らない令嬢たちは俺にすり寄ってきたし、俺はたまにパーティーを開いて気に入った令嬢をお持ち帰りして殺していた。
「・・・はじめまして、バズテリア公爵。悪魔教に興味はありませんか?」
そんな俺に目をつけたのは悪魔教幹部サードこと神父ヴェリゴだった。
俺は悪魔教にまったくの興味はなかったが、俺の殺しは正当で崇高なものだとヴェリゴが言っていたので気分がよくなって信者となった。
俺は司祭として働く傍らで悪魔教信者として働き、どちらも俺はメキメキ力をつけていった。
それでも性欲というのは沸くもので、パーティーをやってはお持ち帰りしたり、娼婦を買ったりして殺してすませていた。
元冒険者のメイドを私室に連れ込んで殺した時にレベルが上がってある魔法が取得可能であることがわかった。
それは即死魔法だった。
俺は適性があることはわかっていたので喜んで取ったが、本当に殺したい者にはまだ使えてない。
元王女というのがこんなにも邪魔だと思わなかった。
そして35歳の時に当時の教皇の指名で俺は教皇となり、同時期に幹部ファーストになった。
幹部ファーストは当時ある貴族がなっていたが、病気を理由に幹部から信者となることになり、その貴族に指名されたのだ。
「あなたは有能でありますし、表の教皇という立場も利用できる。ファーストにふさわしいですね。」
ヴェリゴはとても喜んでいた。
最高指導者様も喜んでいた。
といっても、通信の魔石越しだが。
「君が新しいファーストか。悪魔教繁栄のため、よろしくな。」
最高指導者様は悪魔教の人事を担当しているサードですら会ったことがないらしい。
最高指導者様用の通信の魔石は1つしかなくファーストが受け継ぐそうで、悪魔様からのお告げは最高指導者様からファーストに魔石越しで伝えられ、それを幹部で話し合って実行するそうだ。
そして今までたまに最高指導者様から来るお告げを伝えたり、最高指導者様からのお告げということで俺の都合のいいことを信者に命じたりした。
都合のいいこととは、全世界の見目麗しい女を拐ってくるようにということだ。
悪魔様は美しい魂が大好物とか言えば信者たちはあっさり信じて美女と噂の貴族の令嬢や商家の娘を拐ってきてくれた。
ルナメイアも心待ちにしていたのだが、それが叶わないのは本当に残念だったが。
40歳になると、前国王が崩御されてリュディンスが国王となった。
それによりバズテリア公爵家の別宅にいたマデリーンとハスニーアは首都に帰ってくることとなり、接触禁止も少し緩和された。
これはリュディンスが家族に会えないのは気の毒だと余計な采配をしたことによるもので、俺にとっては最悪なことこの上なかった。
そしてリュディンスは謁見の間でわざわざ俺とマデリーンとハスニーアの再会をさせやがった。
「うふふふふふ・・・。クラウデン、久しぶりですね。」
約25年ぶりに会ったマデリーンはそれ相当に年をとっているようにも見えたが、目があった瞬間、なにも変わっていないことを察した。
気持ちの悪いねっとりとした視線に吐き気がして、即死魔法を使いたくてたまらなかった。
だが、それと同時に戦慄した。
「ふふっ、お兄様。ご無沙汰しております。」
マデリーンの横で眼鏡をかけて地味な妹が、マデリーンと同じ視線を俺に向けていたのだ。
マデリーンは別宅にハスニーアと移ってから、ほぼ軟禁状態だったのを利用して当時3歳ほどだったハスニーアに兄を神だと仕込んだのだ。
「ハスニーアは今28歳なのに貰い手がないのよ。困ったものね。」
「え、だってお兄様みたいな男性が現れないんだもの。しょうがないわ。」
ハスニーアは別宅のある町に住むある貴族と過去にお付き合いをしたこともあったそうだが、「兄みたいにかっこよくない」と言ってフッたらしい。
「ふふっ、私もお母様みたいに初めてをもらっていただきたいわ。」
屈託なくそう言った妹に、それを聞いて微笑む母親に、心底嫌悪した。
俺がまともに女性を抱けないのはこの女のせいなのに!
「気持ち悪い!」
俺がそう吐き捨てると、2人はぎょっとした目で俺を見てきた。
「リュディンスの頼みで会ってやっただけですからね。今後も一切関わらないでください。あなた方には嫌悪と憎悪しかありません。」
俺はそう言って謁見の間から去った。
本当に殺してやりたかったが、やはり即死魔法を唱えることは国際問題になってしまうのでできなかった。
それからこの間まで、会うことはまったくなかったのに。
会ってしまった後は嫌なことを忘れようとたまたま給仕をしたメイドに目がいった。
顔も悪くはなかったので、執事に私室に来るようにと案内させて、私室に入ったところで香魔法でそういう気分にさせて殴り殺した。
最近はイライラする事が多い。
前宰相が邪魔だったので殺してやったのに、その息子が新たな宰相になってスパイを寄越して来るなんて。
サードの紹介で来たあのユウジンとかいう護衛はなかなか使えそうだし、宰相を殺させようかな。
俺は数日後、またリュディンスに呼び出された。
クラウデンの過去を知った上で今後の話を読んでいただいたら、面白いかなーと思ってここで閑話を挟みました。




