157、悪魔は取引する
少し短いです。
ギアノートに語ったじいさんの依頼というのは、もちろん嘘だ。
だが、これで俺を信じてくれるなら安いもんだ。
俺は不自然に思われない程度にじいさんとの関係とこの国に来た経緯をかいつまんで話した。
「俺はトリズデン王国でマリルクロウ様の孫と知り合いでして、一緒にやった依頼でたまたま悪魔教信者が起こした誘拐事件に巻き込まれましてね。王女ルナメイア様の誘拐未遂事件なんですが。」
「あ!あの事件か!?この国にも伝わっているぞ。そうか・・・犯人は悪魔教信者だったのか。」
「その事件で悪魔教信者が他にいることがわかって、孫がマリルクロウ様に知らせまして、それでマリルクロウ様は半年前にこの国を出られトリズデン王国に来て、俺はそこで知り合いました。そしてマリルクロウ様と半年ほど行動を共にして悪魔教を追っていました。そうしてこの国の教皇猊下が悪魔教の関係者であると確かな情報をつかんだのです。マリルクロウ様は俺の魔法を気に入って下さいまして、この魔法を利用して猊下に近づけないかと俺に先に潜伏するように頼んできたのです。」
因みにクラウデンのことを悪魔教の幹部ではなく悪魔教の関係者といっているのは、ギアノートをそこまで関わらせないためだ。
悪魔教の幹部であるのを知る必要がないのだから。
ギアノートはなにやら考え出した。
「なるほど。そう言った訳でユウジンはこの国に来たのか。・・・それにしても、「魔法真教」の教皇猊下が悪魔教の関係者か。というなら・・・あの噂は本当かも知れない。」
「噂ですか?」
なにやらクラウデンに関しての噂なんてあったのか?初耳だな。
「あるスパイが行方知れずになる前に報告してきたのだが、貴族の間で怪しいパーティがちょくちょく開催されているそうなんだ。ただ未婚の男女の貴族が集まって飲食をする出会いの場のようなのらしいのだが、そのパーティを主催しているのが教皇だという噂だったんだ。しかも数年前まで猊下はそのパーティに来た女性で気に入った子をお持ち帰りしていたそうだ。」
なんてパーティだ、と心の中で引いているとギアノートはさらに続けた。
「そしてそのお持ち帰りされた女性はそれ以来社交界に現れなくなったそうなんだ。行方不明という噂までたつほどまったく見なくなったそうだ。」
それは・・・思いっきり怪しいな。
それにクラウデンが関わっている可能性は明らかだな。
「さらに別のスパイが総本部で働くメイドたちに聞いたそうなんだが、"ある日突然辞めていくメイドが多い"という話があるようなんだ。これは数年前から起こってて、ある日突然、なんの前触れもなくメイドがいなくなって執事に聞いても「辞めた」しか言わないようなんだ。辞めたというメイドたちは全員が行方知れずになっているらしい。」
ふむ。と俺は考える。
「数年前まで貴族の女性をお持ち帰りしていて、数年前からメイドが行方知れず。・・・これは猊下が貴族の女性からメイドに切り替えたということでしょうね。悪魔教の関係者ということを考慮しても、いずれの女性やメイドたちはどこかに拉致されたか殺された可能性があるでしょうね。」
「貴族の女性の場合は行方知れずという騒ぎを起こしたくなくて親が黙っている可能性があるな。」
俺の考えに同意してギアノートは続けた。
「だとしたら行方知れずになっていると噂がある貴族の家を調べてみる必要があるかもしれないな・・・。」
「もし行方知れずになっているとわかったら遺体が戻ってきたか、戻ってきた際の遺体の不自然な点などを調べた方がいいかと。それでなにか手がかりが掴めるかもしれません。」
「ふむ。そうだな。」
ギアノートは考えながら何度も頷いていた。
俺がじいさんの依頼でクラウデンに近づいていると聞いた頃からか、ギアノートは少し心を開いたような感じがする。
それは確実にじいさんの名が出たことで、ある程度は俺を信頼してもいいかもと思ったのだろう。
まあ、まさか俺がじいさんに信頼されてるどころか追われてるなんて思ってもないだろうし。
「ああ、それで、こうして会う本題を話さないとな。・・・取引をしないか、と持ちかけてきたそうだが?」
「ええ。」
俺はにっこりと笑った。
「もしかしたら同じ目的かもしれないと、持ちかけたのですが、やはりお互い目的は同じです。だから取引という名の共闘をどうかと思いまして。」
「取引という名の共闘、か。面白い。取引内容は?」
「他にもたくさんの悪魔教信者がいますが、俺は猊下に近づく為にはその中でも特に信頼を得なければいけません。その為にはたくさんスパイを殺していくのが手っ取り早いと思うのです。例えば、彼らも気付いていないスパイを殺したりするのもいいかもしれませんね。」
ギアノートはそれを聞いてニヤリと笑った。
「・・・なるほどな。ではこれからもたくさんのスパイを送り込もう。」
「そうしていただけると助かります。あ、それからどこかアパートみたいなところを1棟丸々用意できませんか?さすがにたくさんのスパイを匿うのに宿屋では限界がありますでしょうから。」
「すぐに用意しよう。」
ギアノートはなんでもないように言った。
さすがは宰相だな。
「そうして教皇猊下に近づいて猊下に関する情報をあなたに逐一流します。これが取引内容となりますが、取引は成立でいいですよね?」
「ああ。願ってもない取引内容だ。」
ギアノートは笑って片手をこちらに差し出してきた。
すぐさま俺も片手を出してがっちりと握手をした。
「君の不思議な魔法についても彼女からスパイたちに言っておこう。そうしたらスムーズになるだろう。」
「ありがとうございます。あ、でしたら魔法のことを明かしておきますね。隠蔽魔法なんですよ。」
それから隠蔽魔法で顔を隠蔽できることや、存在を隠蔽することでどこにでも侵入可能であると話した。
実際に存在を隠蔽して見せたりすると、ギアノートはやはりこれまで見た人たち同様、隠蔽魔法にそんな使い方があったのか!?と驚いていた。
「もしや・・・この魔法を使えば他国の機密情報などすぐに手に入るのでは・・・?諜報部隊を作るか・・・。」
なにやら不穏な呟きが聞こえてきたような気がしたが無視した。
そして部屋を出る時には念のため顔に隠蔽魔法をかけて、クロ助にダイブしてもらって女性と宰相の屋敷を後にした。
それから数日後に俺の泊まってる宿屋の近くの古ぼけたアパートが1棟が貴族に買い上げられたそうで、それまで俺の用意した宿屋の部屋に泊まっていた女性はそこにしばらく住むこととなった。
そしてその後、俺はクラウデンのある行動に激怒することとなる。




