14、悪魔は夜に紛れる
初めてのテントだったが、ぐっすり寝ることができた。
朝、朝食がすむとさっさと片付けてアイテムに入れて、北へ出発した。
今日は丸1日かけて平原をつっきる予定だ。
「珍しく魔物がでねえなあ。ここの平原の魔物ってなんだっけ?」
「ク、クレイジーボアとウインドウルフ、それにゴブリンです。」
お!ラノベの序盤に必ず出てくるゴブリンがやっとこの平原で出るのか。
なんか見たいような見たくないような・・・。
「ギャギャギャッ!」
とか言ってたら出た!ゴブリン!
突然目の前に1匹出てきた。
茶色の体で体長80センチくらいの醜い顔でガリガリに痩せてて腰布だけ着て、手にはこん棒を持っていた、ゲームとかでもよく見るゴブリンそのままの姿をしていた。
鑑定魔法をかけてみたが、やっぱりゴブリンだった。
種族:ゴブリン
属性:土
レベル:18
HP:380
MP:19
攻撃力:88
防御力:70
智力:20
速力:58
精神力:41
運:4
うわあ・・・、弱い・・・。
というか、運が低過ぎやしないか?
「お!ゴブリンだ。よし、ユウジン!倒してみようか!」
「は、はあ!?俺ですか!?」
「うん。もう俺らゴブリンではなかなかレベルアップしないから、ユウジンのレベル上げした方がこれから廃城に行くにあたって底上げになるだろう?」
アルトクスは正論を言うが、まあ、俺はチートで能力が上がっているだけでレベル18だからな。
普通のレベル18ならゴブリンの能力と大差ないくらいだ。
レベルの底上げをさせようと思われても仕方ないもんな。
「わ、わかりました。」
俺はゴブリンの前に歩み出ると、ポーズで買って腰から下げていた短杖を構えて唱えた。
『我が前の敵を燃やせ、ファイア』
ボオッ
「ギャギャ!?」
普通に唱えたのに、ゴブリンは大きめの炎に包まれた。
あれ!?初級のファイアなはずなのに!?
確か手のひらサイズだったはずなのになんで大きめの炎になったんだ!?
ゴブリンは一発で全身火傷でヘロヘロになって、足取りが怪しくなっていたがそれでも襲いかかって来そうだったので、もう一発ファイアを唱えて黒焦げにして倒した。
つか、HP380あったから、ファイア一発でダメージ190与えたのか!?
最初2とか3しかダメージ与えられてなかったのに・・・!?
自分でも驚いて、皆を振り返ると俺以上に驚いて目を見開いて呆然としていた。
「ちょ・・・ちょっと!今の何よ!?今の本当にファイア!?」
「すごくねえか!?ファイアってもうちょっと、ポッと出る感じじゃねえ?」
「君すごいねえ。あんな炎出すなんて。」
「す、すごいです!ユウジンさん、ま、魔法の素質がすごくあるんじゃないですか!?」
みんな次々と感想を言ってきたくれたが、どうやらやり過ぎてしまったようだ。
こういう展開もラノベで見たことあるな。
「いや、僕もあんな炎が出るとは思ってなかったので驚きました。レベル3~4の時は手のひらサイズだったのでそのつもりだったのですが・・・。」
なぜあんな大きめの炎になったかは皆もわからないようだった。
ただ、魔法使いのウィズリーの見解に思い当たるものがあった。
「私も普通にファイアを唱えたらああいう大きめの炎になるわ。焚き火の火をつけるときとかは魔力を調整して小さくしてるから普段は出さないけど。でもあの大きさの炎のファイアは智力が200近くないとああはならないもの。」
つまり、智力200くらいだとファイアが普通にあの大きさの炎になるということだ。
俺の智力は198なのでファイアが大きくなって当たり前ということか。
だが、これでは俺が能力が高いのがバレてしまうな。
魔力の調整で小さくできるということは、要はあんまり魔力を使わないようにしたら火も小さくなるということか。
魔力を多めに込めることで落とし穴の壁をつるつるにしたりできたから、それの応用をしたらできるかもしれない。
それから北に移動しつつ、魔物が出たら俺が魔法で倒していくことになり、俺は歩いてヘトヘトになりながらも戦って、途中MPが無くなったフリしてMPポーションもらったりして進んでいった。
たまにヘトヘトの俺に気を使ってか4人のうちの1人が俺の代わりに戦ってくれたが、やはり経験が違うので一発で倒していた。
俺は解説などをしてもらい、戦い方を教わっていた。
そしてこの日も平原で夜を過ごすことになった。
夕食時に「こんだけ歩いているのにクレイジーボアの大群なんて見かけないがどうなっているんだろう?」という会話になったが俺は終始知らんぷりした。
そしてこの夜の見張りはウィズリーとリリナ→カルファー→アルトクスと俺の順番になった。
俺は自分用テントに入って寝ようとしたが、ふいに昨日のサーチのことを思い出し、練習のために使ってみた。
魔力を薄く薄くのばすイメージ・・・。
・・・ふむ、魔力が多いせいかだいぶ広範囲になってないか?
範囲は・・・・・・2km!?
しかも4人みんな気付いてないどころか、範囲内の小動物や虫すら気付いてない!?
・・・あ!?魔物がこちらに忍び足で近づいて来るのが見える。
緑色の狼なような姿で、どうやらリリナの言っていたウィンドウルフか?
全身で1メートルほどの大きさで、数は10頭の群れだと思われる。
さすがに2km離れてると"金の栄光"は察知できないようで、4人とも変わった様子はない。
よし、10頭を倒してレベル上げするか。
俺は自分に隠蔽魔法をかけるとテントから出た。
存在の隠蔽をしたから、見張りのウィズリーもリリナも気付いてない。
俺は音をたてないように移動してテントから離れ、ウルフたちが向かって来る北西へ向かった。
テントが小さく見える位置にまで来ると、俺は準備をした。
『我が後ろに壁を作り視界を塞げ、アースウォール』
俺の後ろに高さ5メートル、幅10メートルほどの分厚い土の壁が盛り上がった。
これは唱えた通り、皆からの視界を塞いだものだ。
それと同時にある程度の音も向こうに伝わりずらくなるだろう。
『我が手元を淡く照せ、ライト』
手のひらに淡い光を出して、歩きながら唱えた。
『この地に穴を掘れ、ピットウォール』
これで3回目となる複数の落とし穴だ。
続けて初級の水魔法を唱えた。
『この穴に水をはれ、ウォーター』
魔力をこめるイメージをしたらドバドバ水が出て、あっという間に3メートルの穴の半分は水に浸かった。
他の穴も同様に水をはった。
これでよしと言いたいが、ボアたちは知能が低くてボコボコ落ちてくれたが、ウルフたちはある程度の知能があるだろうからこれだけではすぐわかって回避されるだろう。
なのでこれを罠魔法の隠蔽魔法で蓋をした。
あの"地龍の牙"を落としたのと同じ手段だ。
しばらくしてわずかなガサガサという音がして、ウィンドウルフが身を屈めてこちらに近づいてきた。
一応確認で鑑定してみる。
種族:ウインドウルフ
属性:風
レベル:19
HP:350
MP:70
攻撃力:79
防御力:68
智力:36
速力:95
精神力:27
運:12
やっぱりウインドウルフで間違いないな。
ウインドとつくくらいだからやはりスピードタイプのようだ。
俺は気付いているぞと挑発するためにストーンバレットを適当に撃つと、唸り声をあげてこちらに向かって走ってきた。
「グルルルルッ!」
「ガルルルルッ!」
『全罠魔法、効力停止!』
罠魔法の直前で解除すると、狙い通り水をはった穴に次々と落ちていって10頭全部それぞれの穴に落ちた。
1~2頭くらい落ちないのもいるかと思ったけど、ウルフたちは予想外なことに動揺していたのかもしれないな。
どの穴を覗いてもガブガブと溺れていた。
「ごめんな。新しい魔法の確認なんだわ。」
俺はニコリと笑うと唱えた。
『我が前の敵を撃て、サンダー』
バリバリバリッ
ウルフたちは叫び声をあげることもできずにどこからか発生した雷に撃たれて痙攣して全身黒くなり動かなくなった。
ふむ、水のおかげとはいえウインドウルフを一発で倒せるくらいとは、いい魔法だな。
全てのウルフの入っている穴にサンダーを放ち、倒すとそのまま土魔法で穴を全て埋めてライトを消した。
そして土壁も元に戻してまた自分に隠蔽魔法をかけて静かにテントに戻り、自分用テントに入って横になった。
それから見張りの時間まで寝て、アルトクスと朝まで見張りをした。
また誘われたがそれとなく話題を逸らして返事はしなかった。
これ以上はちょっとウザくなるなあ。
どうにか諦めてほしいんだけどなあ・・・。




