147、悪魔は悪魔教信者となる
ヴェリゴから悪魔教に勧誘された翌日の朝。
俺は宿屋の朝食のタマゴサンドを鼻歌混じりに食べていた。
「おやユウジン、ご機嫌だねえ。」
宿屋の主人の奥さんがにこやかな笑顔でそう声をかけてきた。
俺はいつもの笑顔で答えた。
「ええ、ちょっといいことがあったんです。」
「そうかい。あんた冒険者だって言ってたからもしかしていい依頼でもあったのかい?頑張んなよ。」
そうではないけど、わざわざ説明するつもりもなかったのでそういうことにして「はい頑張ります。」とだけ言っといた。
それにしても、こうもいい調子でことが進むとはね。
俺は神様に言った通りに悪魔教信者になることをとりあえずの目標にして、まずやったのは連日のハイオーク討伐だ。
そして宿屋の主人や飲食店の親父にまで鑑定魔法を無詠唱でかけまくり、冒険者ギルドの職員のリズさんが悪魔教であることを早々に気が付いた。
そして自然と仲良くなって彼女オススメの教会でヴェリゴと知り合った。
緊急依頼でオーク討伐に行った時もレガードにいちゃもんつけられた時に鑑定魔法をかけていたので悪魔教信者と知っていたので、レガードが殺られそうな時にわざと助けてやった。
俺が強いというインパクトで人型を躊躇もなく殺せるのをわからせるためだった。
そしてレガードがヴェリゴと話した数日後にタイミングよく俺はヴェリゴに懺悔する。
俺の大袈裟っぽい懺悔にクロ助はちょっと呆れた目をしていたが、無視した。
連日のオーク討伐の意味は、人を殺せないから代わりに殺してるとアピールするためで、リズさんは俺がオークばかり討伐していることは把握しているから彼女が裏付けてくれると思う。
その数日後に起こった追い剥ぎもリズさんの仕業なのは気付いていた。
リズさんが酔ったフリして俺に抱きついてきて動きをわざと制限させたうえで、追い剥ぎにあったらどう対処するか試されていたのだろう。
こうやった試し方はいままで何回か信者候補と思われる人にやっていたようで、それがリズさんの鑑定を詳しく読んだら書いていた。
だから抱きついてきた時点でおや?これは?と気付いた。
悪魔教ということで、残虐性は見せといた方がいいだろうと腕と足を切り落とそうと思っていたが、さすがに殺すのは俺のポリシーに反する。
なのでちょうどいいタイミングに巡回している警備兵がこちらに来るのをサーチで見計らって髭面男たちを煽り切り落としたのだ。
こうすれば、「本当は殺すところだったが警備兵が来てしまった」と後からでも言えるしな。
でも、リズさんは俺が腕と足を笑顔で切り落とした思いきりがよかったのか、ヴェリゴに勧めてくれてヴェリゴは俺を勧誘してきたというわけだ。
そして俺はもちろん、「入信します」と言った。
ちゃんとしばらく考えたフリをしてね。
入信はヴェリゴが認めて本人がそれに応じたらそれで入信できるようで、今日は悪魔教の他の信者に会わしてくれるそうだ。
他の信者に会ってバンバン鑑定魔法で誰か見ていくとするか。
もしかしたらファーストに会えるかも知れないしな。
言われた時間に教会に行くと、珍しく祭壇前の長椅子に人が2人座っていた。
黒のゆるふわの髪の女性と、モヒカン男。
おや?この2人はもしかして?
「リズさん?それに・・・レガード?」
どうやら他の信者とは、この2人か?
信者と気付かないフリして話しかけた。
2人はこちらを振り返って、ニコリと笑った。
「ふふっ、驚いた?私もレガードも悪魔教信者なのよ。」
「えっ!?そうなんですか!?気づかなかったです・・・。」
「ははっ!俺は悪魔教信者歴10年の先輩なんだぞ。」
2人は俺が驚いたのを見て笑っていた。
ん?なんかレガードの雰囲気が違うような?
「待たせたね。・・・やあ、ユウジン来たかい。」
そこへヴェリゴがニコニコ笑顔でやって来た。
「おはようございます神父。」
ヴェリゴに長椅子に座るように促されて、俺はリズさんとレガードた同じ長椅子に座った。
祭壇に立つヴェリゴに向かって左から俺、リズさん、レガードという並びになった。
クロ助は俺が座ったらすかさず近くを探険しだした。
「ユウジン、驚いたかい?リズもレガードも信者だとわからなかっただろう?」
いや、まあ鑑定魔法で最初から知ってたし。
「本当に驚きました。レガードはともかく、リズさんはぽくないですから。」
「おいおい、俺だってぽくないだろうが。リズのことを言うならオメーもそうだろ?」
「え、もしかして俺の顔のこと言ってますか?よく言われるんです、虫も殺せない顔って・・・。」
「ははは!それは俺も最初見たときはそう思って脅したんだ。ところがとんだイカれ野郎で驚いたぜ。」
とんだイカれ野郎だなんて心外だなあ。
というか、やっぱりレガードの雰囲気が違う。
「レガード・・・雰囲気が違う気がするんですが、気のせいですか?」
「お!オメー、思ってた以上にやるなあ。ギルドに関わっている時は「悪者レガード」として表立ってわざとやってるんだよ。そうして冒険者の中から悪魔教に入れられそうなのをスカウトするのが、俺の役目だ。」
なるほど・・・。
レガードは明らかな悪者をわざとすることで、冒険者たちの正義感を見ていたということか。
そして正義感を持たない者を見つけてヴェリゴに報告するということか。
「そして私の役目はレガードが目をつけた冒険者がどれだけ悪魔教にふさわしいか試すこと。・・・申し訳ないんだけど、私と飲んだ日に追い剥ぎにあったでしょ?あれは私の雇った人たちで、ユウジンのことを試すつもりでやったの。」
「え!?そうだったんですか!?」
知ってたよ。まあ、普通の人なら気付かないだろうけど。
「でも、試してみて君は悪魔教にふさわしい心を持っているとわたしが判断して、誘ったんだよ。この悪魔教に入ったからには、君がやりたかった人殺しは善行とされている。心置きなくやって大丈夫だからね。」
ヴェリゴはニコニコしながら物騒なことを言ってきた。
「はい。ありがとうございます。」
昨日勧誘されたときにざっと悪魔教の教えについては教わったが、やはり人殺しが善行とはイカれている。
・・・まったく、人の命をなんだと思っているんだか。
今日集まったのは本当に顔合わせのようで、その後も特に何かあるわけでもなく雑談が続いた。
内容はなかなか物騒だったが。
「俺が初めて人を殺したのは15ん時でな。ヤンチャして喧嘩した相手を殴り殺しちまったんだよ。その感触が忘れられなくて、動物や浮浪者を殴り殺していたところをヴェリゴに見つかってな。そんで勧誘してくれたんだわ。」
レガードはそう言うと片手の手袋を外していとおしそうに拳を眺めていた。
拳はズタズタになった跡が残っていた。
どれだけ殴り殺したのか、それを思うとちょっとゾッとした。
「私は子供の頃に目の前で両親が殺されたの。殺したのは薬でラリっていた隣のおじさんだった。それからは人が死ぬのを見るたびに両親が殺された記憶が薄まってくから、たくさんの死を見たくて悪魔教に入信して、神父様に数年前から仕えるようになったの。おかげで今では人が死ぬのが楽しみになったのよ。」
リズさんはそう言って、本当に楽しそうで笑っていた。
こう言ってはなんだけど、2人とも十分イカれてるな。
2人とも恐らく心の闇やトラウマが死に触れる度に歪んで大きくなってしまったのだろう。
この2人の話をなにも思わずニコニコ笑って聞いているヴェリゴも十分、イカれてる。
「・・・そうだ、リズ。君はとても働きも良く、本当に敬虔な信者だ。ある悪魔教信者の貴族様の屋敷でメイドを募集しているのだが、そこで働く気はないかい?」
途端にリズさんは目をキラキラさせて勢いよく立ち上がった。
「まあ!本当ですか神父様!?私、貴族様のお屋敷でメイドとして働くのが夢だったんです!」
「ならちょうどよかった。君が働けるように言っておこう。ギルドの職員を辞めたらすぐに行けるようにしとこう。」
「ありがとうございます!」
リズさんは本当に嬉しそうにしていた。
「よかったですねリズさん。メイド頑張ってください。」
「はい!ありがとうございます!」
俺がそう声をかけると明るい笑顔でそう言ってきた。
この1週間後、リズさんが殺されるなんて誰もわからなかった。




