143、悪魔は懺悔する
依頼を終えた俺たちは首都に帰ってきて、あれから数日経った。
あの後早々にアイテム収納魔法持ちだと言ってオークたちの死体を全部回収して、死んだ冒険者の死体は惨い状態だったので埋めて遺品だけ回収した。
女性たちは無事、村に帰りついて家族や友人と抱き合って泣いていた。
生きていたこともそうだが、乱暴されずに助かったというのは珍しいことだそうで、村長をはじめ村人皆が感謝して頭を深々と下げてくれた。
夜遅かったので村の空家に泊めてさせてもらうと、助けてくれたお礼ということでたくさんの料理やお酒を俺らに振る舞ってくれた。
家を壊された人もいるのに悪いなと思ったので、皆が酒盛りしていのに参加している間に罠魔法の土魔法で壊された壁を建て直しといた。
うっかり魔力を多く注いでしまったので、壁はコンクリートブロック並に強くなったみたいだ。
・・・まあ、女性たちの絶望の顔を見れたのでそのお礼だ。
翌朝、いつの間にか直っている壁に村人たちは驚いていたが、素知らぬ顔で朝食をいただいて馬車に乗って首都へと帰ってきた。
レオとイザークは「強かったんだな、助かったよ!」「また一緒に戦えたら頼もしいな」と言って別れた。
そういえば、今回の依頼の報酬については俺以外全員で折半となった。
俺はアイテムにオークたちの死体があるのでそれを売ったお金をもらうので報酬はいらないと言った。
レガードが多めにもらおうとごちゃごちゃ文句言っていたが、「1番オークたちを倒したのは誰ですか?1番強いオークキングを倒したのは誰ですか?1番強いのを倒した冒険者の言うこと聞くんですよね?俺がいなかったら全滅してましたよね?」と言ったら静かになった。
変な逆恨みしないように、別れ際にも「俺の魔法はいつどこにいても思うだけで発動できます。ハイオークたちのように頭を吹っ飛ばされたくなかったら変なマネはやめてくださいね。」とニコニコ笑って脅しといた。
レガードと仲間は顔を真っ青にして震えていた。
首都に帰ってきてからも俺はちょこちょこ真面目にオークらを倒して剥ぎ取り小屋に売って職員にどやされた。
ある部屋に、男2人の声が響く。
「・・・・・・お疲れ様。どうだい?いい人材は見つかったかい?」
「ああ。・・・見つけた。本当に、いい人材だ。」
「ほう、君がそう言うなんて珍しい。よっぽどのようだね?」
「そ、そうだ・・・。」
「どうした?なぜ震えている?顔色も悪いじゃないか。」
「なんでもない・・・。それで、見つけた奴なんだが、同じ冒険者のユウジンという20代の男だ。」
「・・・な!?ユウジン!?」
「ん?・・・知ってる奴か?」
「あ、ああ・・・。」
「そいつなんだが・・・よくわからない魔法を使う奴で、オークたちがひとりでに鎖で縛られたり、ハイオークが1度に5体、触れずに頭を吹っ飛ばしたりしやがった。」
「は?」
「ユウジンの仕業かと聞いたらそうだと言った。訳わかんねえだろ?詠唱すらしてなかったんだぞ。」
「・・・は?」
「その後、マジシャンの頭も吹っ飛ばして、オークキングを魔法を使わずに1人で倒した。それも変な剣2本だけで。」
「・・・君、正気かい?」
「俺は正気だ。俺たち怪我をした冒険者にハイヒールを多重魔法をかけてきやがった。他の冒険者に確認してもいい。」
「ハイヒールに多重!?信じられない・・・!何者なんだ?」
「わからない。だが・・・帰りに、あいつに脅されて、その時のあいつの目が、忘れられない・・・。」
「おい・・・?大丈夫か?」
「あいつは・・・狂ってる。あいつは人が死ぬことになにも思ってないし、苦しめて喜ぶ、本物の狂人だ。」
「ふむ・・・、では我らの宗教に入っても、即戦力になるということか?」
「あ、ああ。間違いなく。」
「・・・ご苦労だったな。後はまかせて、ゆっくり休め。」
「ああ・・・。だが、気を付けろ。」
「うん?」
「長年色んな奴を見たが、あいつは群を抜いてる。下手をしたら・・・。」
「なんだというのだ?」
「下手をしたら・・・我ら・・・悪魔教は潰されるかもしれない・・・。」
「!?・・・ははっ、何を言うかと思ったら。どうやら本当に疲れているようだ。帰って休みなさい。」
「・・・あ、ああ。そうする・・・じゃあな、神父。」
「またいい人材頼むよ、レガード。」
俺はこの日、教会に来た。
寄付をするためと、神父ヴェリゴに用事があったからだ。
「こんにちわ、神父。寄付よろしいですか?」
「おお、ユウジン。いつもありがとう。」
教会には数日に1度、訪れては10~20万インを寄付している。
今日は20万イン寄付した。
「ユウジンのおかげで寄付金もすごく貯まっているよ。本当に、君のような敬虔な信者と出会えてうれしいよ。」
「いえいえ。寄付で皆さんの役に立つならと思ってなるべく多めに寄付しているだけですから。」
俺が照れるように笑うと、それを見てヴェリゴは楽しそうにニコニコ笑っていた。
娘さんのクリナさんは今買い物に出掛けているそうだ。
「ただいま~!」
そんな声が教会の扉を開ける音と共に聞こえたので振り返ると、そこには可愛らしい少女がいた。
10代後半くらいでふわふわの腰まで長い茶髪に赤目の整った顔立ちでとてもクリナさんに似ていた。
服装は普通の町娘が着る淡い色のワンピースドレスだ。
「おじいちゃん、ただいま!」
「おかえりクラリス。」
少女は祭壇のヴェリゴを見つけるともう一度ただいまと言い、ヴェリゴはとても柔らかな笑みで返事をしていた。
おじいちゃん、ということはこの子はヴェリゴの孫でクリナさんの娘、ということか?
「孫のクラリスです。」
「こんにちは。」
ヴェリゴが俺にクラリスを紹介してきて、クラリスは丁寧に一礼して挨拶してくれた。
俺も頭を軽く下げて挨拶した。
「こんにちは、冒険者をしています、ユウジンと言います。こちらはクロ助といいます。」
「ミャー」
「ふふっ、可愛いネコちゃん。ゆっくりしてって下さいね。」
クラリスはニコリと笑うと住居スペースと思われる部屋へ去っていった。
笑った顔がクリナさんに似ていたし、このヴェリゴとも似ている感じだ。
「とても可愛らしくてしっかりしたお孫さんですね。」
とりあえず褒めたらヴェリゴはムッとした。
「なんですか?うちの孫に変な気を起こさないで下さいね。いくらユウジンでも許しませんぞ?」
ちょっと冗談混じりに言ってるが、目はマジだ。
・・・どうやらものすごく孫を溺愛しているようだな。
俺の世界にも孫にデレデレのじいさんはたくさんいたが、この世界もそういったじいさんはいるようだ。
「ははっ、怖いですよ神父。」
「おっと、これは失礼しました。どうも、孫のこととなると・・・。」
ヴェリゴはそう言って照れたように苦笑した。
「いえいえ。それだけお孫さんを愛してるってことで、素晴らしいことです。」
それからしばらく雑談をした後、俺はヴェリゴに尋ねた。
「申し訳ありませんが神父。・・・懺悔室って、利用して構いませんか?」
ヴェリゴは少しだけ目を見開いて、すぐにニコリと笑って頷いた。
「ええ、構いませんよ。こちらです。」
祭壇の脇に扉があり、そこが懺悔室のようだ。
ヴェリゴに促されて扉を開けると、1畳もないくらいの狭い部屋ポツンと椅子だけがある部屋で、奥の壁は格子状の小窓のようなものがあった。
中に入って扉を閉めて椅子に座るとクロ助がするりと膝に乗ってきてほどなく、小窓の向こうから物音がして誰かが椅子に座ったような音がした。
・・・まあ、サーチでヴェリゴだとわかっているんだけど。
俺はぽつりと呟いた。
「・・・・・・俺は人を殺したいんです。」




