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139、悪魔は流れに任せる

小動物もほとんどいない鬱蒼と繁る静かな森の中。

夕日に照らされて冒険者たちはなるべく静かに移動している。


冒険者は皆、周りを警戒しながら進んでいき、ほどなく森の中で佇むハイオーク1体を発見した。

ハイオークは周りを気にしている様子もなくただ暇そうにウロウロしている。

冒険者の1人が静かに気付かれないように近寄って様子を見て、後ろの冒険者に合図を送った。

合図を見た冒険者は弓矢を構えてハイオークがこちらに背を向けた瞬間に背中めがけて矢を射った。

「ブオッ!?」

ハイオークが驚く隙に、2人の冒険者が木の陰から飛び出してそれぞれ足を攻撃して健を切った。

ハイオークはうつ伏せに倒れ、別の冒険者が素早くハイオークのうなじに剣を深く刺した。

「ギョオオォォオオ・・・・!?」

ハイオークは唸り声のようなものを叫びながら息絶えた。


「よし!今のいい感じだったぞ。」

「この調子でどんどん行こう!」

攻撃をした冒険者たちは互いを褒めながら進んでいく。

なるほど。集団でハイオークを倒すときはああやって分担して倒すのか。

俺は1人で倒せるし考え事をしながら倒せるくらいなのは能力が高いからであって、今のように数人で協力して倒すのが本来の戦い方なのだ。


「ん?ユウジン、今の戦いを興味深げに見てたな。」

戦った冒険者たちの後方でその様子を見ていた俺に、隣にいたレオが話しかけてきた。

「あ、ええ。分担してああやって倒しているんだと思いまして。」

「え?ハイオークを分担した倒すのは当たり前じゃねえか。もしかしてハイオーク倒したことねえのか?」

「あ、いえいえ、そうではなくて。俺はソロなんで集団での戦いをあまり見ないものですから。」

「あ、なるほどね。でも、そう言うってことは、あんまり戦闘の経験ないのか?」

「そんなことないとは思いますが・・・。でもまあ、9ヶ月前に冒険者になったばかりですから、レオやイザークに比べたらまだまだ戦闘経験は少ない方だと思います。」

9ヶ月と聞いてレオとイザークが目を剥いた。

「は!?9ヶ月っつったらランクEくらいか!?よくこんな依頼受けようと思ったな!?」

「こりゃますます俺とレオでフォローしねえと・・・。」

どうやら9ヶ月という短い期間ではランクE辺りなのが普通なようだ。

なんか勘違いされているけど・・・まあ、いいか。

この15人の中でランクではレガードが1番だが、能力ではぶっちぎりで俺が高い。

だけどそれが明らかになってもランクの割になんで能力が高いんだと怪しまれるから変に目立つだけだし、能力が高いからと頼られるのは正直面倒臭い。

とぼけて弱いフリしてた方が楽だ。


レガードたち5人は俺たちよりさらに後方で戦っている冒険者たちの様子を見ている。

5人ともなにやらニヤニヤしていて、まったく戦いに参加する様子もなく雑談したりしている。




そうしてハイオークをまた1体、そして普通のオークと3体戦ったところで2体は倒せたが、1体を逃してしまった。

「ブオオォォォ・・・!!」

オークは意外に素早く木々の間をうまく縫うように奥へと走り去ってしまった。

「不味いぞ!?奥の仲間に知らせに行ったかもしれない!」

「ここで待機していてくれ!偵察してくる!」

冒険者たちが慌てるなか、盗賊の男2人がものすごい早さで追いかけていった。

盗賊2人の姿があっという間に見えなくなったら冒険者たちは立ち止まって休憩しながら待つこととなった。



そして30分ほどして、夕日が陰ってきた頃に盗賊2人は帰ってきた。

息を切らせて、顔が真っ青だった。

「む、村だ!・・・奥に村があった!」

盗賊のその言葉に皆ざわついた。

「よりによって村があんのかよ!?か、数は!?」

「・・・そこまで大きくない。けど、ジェネラルは2体、マジシャンは1体いてもおかしくない規模だ。外から見た感じはハイオーク10体、オーク5体いた。それから掘っ建て小屋みたいなのが5つあって、多分その小屋のどれかに拐われた女性はいると思う。」

盗賊の言葉を聞いた冒険者たちはそれぞれ苦い顔をした。

「こっちより人数多い可能性があるってことか。こりゃちょっと不利だな。」

「なんか作戦を考えて行動した方がいいな。」


「・・・だったら、こういうのはどうだ?」

イザークが冒険者たちの輪に加わった。

「結構派手に戦って、ハイオークやオークの注意を村の入り口に向けるんだ。その隙に身軽な者は村の裏手から侵入して小屋を確認していくってのは?」

「ふむ、それはいいかもな。」

冒険者たちは次々と頷いて、彼らからも案がでた。

「ちょうど夜だし、確認した小屋は火を着けていったら分かりやすいんじゃないか?」

「そうだな。んで、女性たちを発見・保護したら空に火魔法で合図をするようにしよう。その合図を見たら一旦村から離脱して、森を抜けることにしよう。」

へえ、なるほど。

女性の救出を主とした作戦があっという間にできた。

今回の依頼は拐われた女性を助け出すのが目的だ。

オークたちの討伐は全てかなわなくても、女性が救えるのなら問題ないし、その作戦だったらこちらの人数が不利でもできる。

本当は人間の村も近くにあるからできれば全滅するのがベストなのだろうけど、それは女性を救って一旦森を出て応援を呼んでから改めてオークたちを殲滅すればいいのだし。


・・・ああ、なるほど。

レガードたちがずっとニヤニヤしてる意味がわかった。


「・・・ただ、問題はオークたちを引き付けるのにどれだけ持つことごできるかだ。最悪の場合、ジェネラル1体とサシで戦わなければならない状況だってあり得るかもしれない。」

冒険者たちは難しい顔をして恐る恐る、レガードの方を見た。

レガードは仲間たちと少しだけ離れたところからその会話を黙って聞いていて、ニヤニヤ笑っていた。

「なんだあ?てめえらこっち見やがって。」

「レガード。」

冒険者の1人がおずおずとレガードに近付いた。

「すまないがレガード。今の話を聞いていただろう?囮はなるべく多い人数で派手に戦ってた方がいいから、パーティーで囮役に参加してくれないか?もしジェネラルが出ても、ランクBのあんたならサシで戦えるだろう?」

レガードは考えるような素振りをした。

「うーん、まあ、ジェネラルだったら俺1人で対処できる。アレはランクCの中でも強い方だからな。お前らは同じランクCのハイオークでも複数でないと倒せないもんなあ?」

レガードのバカにした言い方に冒険者たちはグッと苦い顔をしていたが、特に反論することもなく黙って俯いた。


「・・・そうだなあ。俺も仲間もレベル上げてえしランクも上げてえしなあ・・・。受けてやってもいい。」

「本当か!?ありが「ただし、条件がある。」

冒険者は明るくなってお礼を言いかけたのを、レガードは遮った。

「えっ・・・?じょ、条件?」


「今回の依頼の報酬全部と討伐証明部位がとれたらそれを全部寄越せ。」

「「「はああ!?」」」

冒険者たちは声を揃えて驚いた。

おいおい、ハイオークらに聞こえるぞ?


「ふざけたこと言うなレガード!?」

「あ?俺は当然のことを言ったんだが?だって俺らが囮として参加してやるんだぞ?俺の負担が多そうだし、労力に見合ったものがねえとなあ?別に嫌なら俺らは参加しなくていいんだぜ?だが参加してほしいのはお前らだろう?俺がいなかったらどうなるかなあ~?囮役がジェネラルに皆殺しにされてもいいってことか?ヒヒヒヒヒ・・・!」

冒険者たちは悔しそうに俯いた。

「それに、人にものを頼むのにその態度はどうかと思うがなあ?そうだなあ・・・、全員こっちに思いっきり頭下げて「俺たちはハイオークすらも1人で倒せない弱い冒険者です。レガード様、力を貸してください。」って全員声を揃えて言おうか。」

「は!?おまっ、どんだけクソ野郎だよ!?」

レオがブチギレてレガードに怒鳴った。

「おいレオ!落ち着け!」

イザークは慌ててレオの肩を掴んで止めた。


・・・恐らく、これがレガードが望んでいた展開だ。

村を襲ったなかにジェネラルがいたし、村の可能性はギルドも言ってたからレガードは村があると予想してこの依頼に参加したのだろう。

そして本当に村があった場合、殲滅ではなく救出であることからこの作戦になるだろうと予想して頼まれるのを待っていた。

そしてレガードの予想通りに頼まれたら報酬全部と討伐証明部位を寄越せという条件でやるつもりだったんだろう。

冒険者たちは頼んだ立場だし手に負える敵ではないから理不尽な条件でも断ることはできない。

まあ、もし村がなくて殲滅で救出できそうとなったらその時はその時でジェネラルを倒して「1番強いやつを倒したから報酬全部寄越せ。」と言い出しそうだな。


レオの言う通り、実にクソ野郎だ。


「レオ、しょうがない。俺たちじゃあジェネラルは手に負えないんだ。下手をして皆殺しになるより、ずっとマシだ。」

イザークは悔しげな表情をしながらも、レオを宥めていた。

イザークもレガードにクソだという感情を持っているが、我慢しているのだ。

他の冒険者もだ。

拳を握ったり、レガードを睨んだりしているが、反論する者はいない。


そして冒険者たちは唇を噛み、全員が深く頭を下げて「俺たちはハイオークすらも1人で倒せない弱い冒険者です。レガード様、力を貸してください。」と全員で言った。

レガードはその姿を見て大爆笑して、レガードの仲間もゲラゲラ笑っていた。

俺は一連のことにまったくなにも思わなかったが、流れに乗ってレオらに続いて頭を下げていた。

でも言葉は言わなかった。

だってハイオーク1人で倒せるし、レガードより強いし。



その代わり、俺はニヤニヤ笑っていた。

・・・いやあ、この後、レガードが面白いことになりそうだなあ。




俺は馬車を降りた時点で、いち早く周囲をサーチして、森も全域サーチしていた。


そして森に入る前からオークの村を発見。

全てのオークどもの位置や拐われた女性たちの位置もすでにわかっていた。




・・・・冒険者15人どころか、レガードでも手に負えない規模であることも。




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