138、悪魔は真面目
教会に行って数日後のこと。
ギルドに緊急依頼が出た。
「皆さん、緊急依頼です!」
受付にいたリズさんは立ち上がってそう叫んだ。
ギルド内にいた冒険者の目がリズに集まった。
俺はギルド内の酒場で昼食を取り終えて午後から依頼をやろうかなと思っていたところだったので、他の冒険者同様にリズさんの方を見た。
「ここから北の村がハイオークの集団に襲われて女性数人を拐ったそうです!ハイオークの数は7体でジェネラルオーク1体もいたそうです!ハイオークたちは村の近くの森の奥に去っていったそうで、ジェネラルオークがいたことからオークの村があると思われます!依頼人は村長で、募集人数は15人前後で報酬は1人につき2万インです!皆さんご協力をお願いします!!」
周りの冒険者たちがパーティー同士で話し合いをするなか、俺は迷わず受付に向かった。
「緊急依頼受けます。」
そう言ってカードを渡した。
「ユウジンさん!あなたが参加して下さるんでしたら助かります!ありがとうございます!!」
いえいえ、こちらこそいい依頼が来たから受けただけだからな。
真面目アピールするにはちょうどいい依頼だ。
え?誰にアピールって?
さあ、誰にだろうね。ふふふ。
それから5分もしないうちに参加者は15人となった。
ギルドが急いで用意したという馬車2台に案内されて15人は急いで乗り込んで北の村に向かった。
地図で確認すると、北の村は首都レクシフォンから馬車で数時間で着くところにある村のようだ。
「北の村って人口が50人もいないのどかな村なのに、ハイオークが襲うなんてな。」
「ここ何年かでハイオークが急に増えて襲われる村も増えたな。この間もハイオークに女性が拐われる事件あったよな?」
「ああ、近くの洞窟で見つかったらしいが、ひどいもんだったそうだぜ。女性は暴行されて気が触れてたらしい。」
「そんな可哀想なことになる前に助け出せたらいいがな・・・。」
「拐われた女性たちも心配だが、村もどうなってんだろう?怪我人とか死者が出てんじゃねえか?」
馬車の中ではそんな会話がされていた。
因みに今回参加した15人のうちほとんどが男性だ。
これは万が一、ハイオークに返り討ちにあって冒険者の女性が暴行される二次災害を防ぐためだ。
それでも数人女性がいるのは、拐われた女性が無事だった場合に男性が近づくだけで拒否反応することもあることを想定してのことだ。
俺は首都に来てからリズさん以外にまったく交流を持っていないために黙って膝の上で丸くなっているクロ助を撫でていると、隣の男性が話しかけてきた。
「あんたソロで参加かい?」
男性は男2人組のパーティーのようで、相方もこっちを見てきた。
2人とも30代後半くらいで話しかけてきた方は黒のツンツン頭に赤目でレザーアーマーを着て剣と盾を持っていて、もう1人は紫の短髪に紫の目で背が高くてデザインの違うレザーアーマーを着て槍を持っている。
装備品が使い込まれているところを見ると、結構なベテランのようだ。
「はい、そうなんです。この間、首都に来たばかりでして。」
俺はとりあえずニコリと笑って見せた。
「ということはこういった緊急で依頼を受けるのは初めてか?」
「隣のトリズデンにいた頃に1度受けたことはあります。」
「1回くらいしか受けたことがないって、もしかして低ランクか?だったら俺たちにまかせな。ちゃんとフォローするからよ。」
男性はニコニコ言いながら言ってきた。
「ありがとうございます。」
ハイオークなんて何匹も倒したからどうとでもなるけど、どうやらこの顔もあって低ランクに思われたようだ。
まあ、今回はたくさんの冒険者がいるから積極的に前に出るつもりもないし、頼りにしてもらおう。
「おいおい、よくそんなんで緊急依頼を受けたなあ?」
不意に、俺の向かいからそんな声が聞こえ、そちらを向くとゴツゴツした鎧を着た、いかにもガラが悪そうなモヒカン男が睨んでいた。
両脇には仲間と思われる同じような服装のガラの悪そうな男たちがいて、見たところ5人パーティーのようだ。
「こんなヒョロい奴が戦場をウロウロされたら邪魔でしょうがねえ。間違って殺しちまっても文句言うなよ?ははっ!」
モヒカン男はそう言って背中に背負っていた戦斧を素早く抜くと俺の喉元に突きつけてきた。
なんだろう全然怖くない。
じいさんに『黒焔』突きつけられたのに比べたら屁でもない。
俺がつまらなすぎてぼーっとしていたら驚きで硬直してしまったと勘違いしたモヒカン男がニタニタ笑ってきた。
「どうした?なにビビってんだ?ヒヒヒ」
「おいレガード!止めてやれよ!」
俺の隣の男性も俺がビビったと思ってようでモヒカン男にそう言った。
「ああ!?うるせえな!ランクCごときがランクBの俺様に立てついてくんな!」
そう言ってモヒカン男は立ち上がると男性の腹を蹴った。
「うぐっ!?」
うずくまった男性を見てモヒカン男はヒヒッと嘲笑う。
他の冒険者は心配そうに蹴られた男を見ていたが、見て見ぬフリでそっぽを向いている。
まるで関わったらこっちに飛び火するから関わりたくない、という感じだ。
その時、馬車が村に着いたようで止まった。
「はっ!弱えくせになにがフォローだ。せいぜいハイオーク1匹しか倒せねえくせに。その弱っちいのと肩寄せあって震えてな!はっはっはっ!!」
モヒカン男はそう吐き捨てて大笑いしながら馬車を真っ先に降りていき、同じガラの悪い仲間もニヤニヤ笑いながら馬車を降りていった。
他の冒険者もチラチラこちらを見ながらも少しずつ順番に降りだした。
「・・・さて、蹴られたところ大丈夫ですか?」
俺は頃合いを見て、うずくまっていた男性に近づいてヒールをかけた。
もちろんいつもの無詠唱ではなくちゃんと呪文を言ってだ。
「っ・・・、すまない。ありがとう。」
男性の顔色は良くなってゆっくりと体を起こした。
「いえ、こちらこそ助けていただいてありがとうございした。あ、俺はユウジンといいます。」
「ユウジンか、よろしくな。俺はレオ。こいつは相棒のイザークだ。」
黒髪がレオで、紫髪がイザークか。
「それにしても、レガードに関わって蹴りですんだんだ。今回は運がいいほうだな。」
イザークがやれやれという感じでレオの肩を叩いた。
「すいません。あのモヒカンの男性はいつもああいった感じなんですか?」
「この間首都に着たばかりだというから、驚いただろう?あれはランクBのレガードといって、首都では有名なパーティーのリーダーなんだよ。実力は十分あるし貴族が親族にいるってことでやりたい放題みたいで、冒険者たちの間で幅をきかせてるんだよ。」
「暴力で脅してくるなんて当たり前で、自分より下のランクC以下は奴隷くらいにしか思ってないんだよ。横取りも当たり前だから今回どうなるか・・・。」
2人ともなにやら諦めの表情だ。
「横取りというのは?」
「手柄をとった奴を脅して、手柄を横取りするんだよ。場合によっては手柄のために殺してるって噂もあるくらいで。」
「え!?それギルドとしてはアウトなんではないんですか?」
「親族の圧力で揉み消されるらしいんだよ。」
うわっ・・・。
ここにも全貴族の70%がクソというのが働いていたか。
いい貴族なんて本当に30%いるんだろうな?
「ま、あいつは手柄をとった奴にしか標的にしないから、今回は後方で見守ってようぜ。」
「はあ、そうですね。」
馬車を降りると村の出入り口すぐで、空は夕方に差し掛かろうとしていた。
村の出入り口には60代くらいの村長がいて、俺たち冒険者に深々と頭を下げてきた。
「今回は来ていただいてありがとうございます。村はこの通り襲われて拐われた女性を助け出す人間の確保が難しく、緊急依頼を出した次第です。」
村は小ぢんまりしていて村の東側の木造の建物が壊れているのが見えた。
包帯を巻いた村人もそこらじゅうにいて、泣き崩れる夫婦の姿もあった。
おそらくその夫婦の女性も拐われたのだろう。
「ハイオークどもは村の東側から塀を壊して侵入して暴れて、女性たちを担いで同じ東側から去っていきました。おそらくすぐ東にある森の奥に行ったのではないかと。拐われた女性は4人です!お願いします!女性たちを助けて下さい!!」
村長はそう言ってポロポロ泣きながら頭を下げてきた。
その姿と村の変わり果てた姿に沈痛な面持ちの冒険者たちはすぐさま東の森に移動して、女性を助けるべく次々と森に入っていった。
「ヒヒヒ・・・。」
レガードは森に入っていく冒険者たちを眺めてニヤニヤ笑っていた。
その後ろでレガードたちを見て、俺はニヤリと笑った。




