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137、悪魔は教会に行く

「もう無理だーーー!!!」



剥ぎ取り小屋にそんな叫び声が響いた。


「毎日毎日あんたハイオークいくつ狩ってきてんだよ!?あんたがいっつもアホみたいな量持ってくるから流通が追いつかないんだよ!!」

剥ぎ取り小屋の剥ぎ取り担当職員は血まみれで俺にそう言ってきた。

別に怪我をしているんじゃないぞ。

剥ぎ取り作業をしながら怒っているのだ。


ここの剥ぎ取り担当職員は若くて俺と同年代くらいの青年だ。

といっても力仕事ではあるのでマッチョばりにムキムキで2メートルのハイオークを肩で担いで運ぶ怪力の持ち主である。

そんな彼でも処理できないほど俺は毎日ハイオークを持ち込んでいるので、ついに今日怒られたのだ。

「はあ、すいません。でもまだアイテムの中に15体ほどありまして・・・。」

ここに来てとりあえず10体出したところでキレられた。

「じゅ、15体!?もうさすがに保存倉庫も満杯なんだよ。とりあえず出した10体は買い取るから、明日15体買い取るということでいいか?明日の朝に肉屋が取りに来てくれるようになってんだよ。」

「わかりました。こちらとしては急いでないので明日また来ます。」

「そうしてくれ。・・・まったく、アイテム収納庫魔法持ちはすげえな。普通は冒険者パーティー1組が台車に1~2体乗せてくるもんなんだがなあ。」

職員はそう言いながら10体分の買い取り金額を渡してきてくれた。


因みにハイオークの肉はいい肉として流通していることもあって随時討伐依頼になっていて、通常は倒して報告すると冒険者は倒した数×1万インの報酬をもらえ、職員がハイオークの死体の回収に向かって剥ぎ取り小屋に持ってくるらしい。

死体を運べない少人数のパーティーや力のない魔法使いパーティーなんかはそうしていて、力のあるパーティーはハイオークの死体を剥ぎ取り小屋に持ち込んで、死体1体につき10万インで買い取ってもらっているそうだ。


俺はアイテムのおかげで依頼の報酬25万インに買い取り10体100万インを1日で稼いだ。

合計125万イン。

・・・パーティーでも1日でこんなに稼げないであろう額を俺はさらっと稼いでしまった。

125万なんてあれば毎日遊び倒しても1週間は持つ額だ。

といっても、40億を持ってる俺としては125万インが少なく思える。

恐ろしい、40億の力。



俺は剥ぎ取り小屋を追い出されると、首都を散策しながら教会に向かうことにした。





ところで、この世界には様々な人種がいる。

人間の他にエルフ、ドワーフがいるのはトリズテンで見たので知っていたが、獣人がいるのをイルヴァルナスに来て初めて知った。


エルフのほとんどは菱形の形のこの東大陸の北方に住んでいて、そこはエルフ領としてひとつの国としているそうだ。

トリズテンの北西、イルヴァルナスの北東に位置するエルフ領は領土全体が山脈に覆われているためイルヴァルナスとエルフ領の間にあるトンネルが唯一の交通手段でそのトンネルを通行するには国の許可がいるほど厳重に管理しているという。

エルフ領から毎年何人かのエルフを留学生として招いて、その留学生たちが社会勉強ということでイルヴァルナスに住んだりトリズテンなど他の国に行ったりしているそうだ。

エルフは長命で魔力が高く耳が尖っていて全員が美人という、よくある特徴を持ってるそうで、トリズテンのギルマスのサルフェーニアがエルフだったな。

サルフェーニアが普通に友好的だったが、普通のエルフはあまり人間と関わりたがらない警戒心と長命のプライドの強い種だそうで、イルヴァルナスでのみ交流があるのもそれが関係しているのかもしれないな。


ドワーフはトリズテンに鍛冶屋にいたのだ言わずもがな、低身長でずんぐりむっくりしてて髭と大酒飲みが特徴の鍛冶のプロだ。

ドワーフたちは人間のみならずどんな種にも友好的なため全世界にいて、ドワーフ領なんてのはないそうだ。


そして獣人。


俺はある店の前を通りかかって立ち止まった。


店先には鉄の檻がいくつも積み上がっていて、中には粗末な服を着てぐったりした獣人の姿があった。

「さあさあ!獣人の奴隷はいかがでしょうか~?荷物運びにするもよし!魔法の実験台にするもよし!サンドバッグ代わりにするも捌け口(・・・)にするもよし!色んな見た目のを揃えておりますよ~!」

店頭に立って奴隷商人はニコニコしながら呼び込みをしていた。

檻の前には物珍しさか何人か覗き込む人もいて、クスクス笑っていた。


そう、この世界ではラノベでよくある、獣人は奴隷なのだ。


獣人はここから西の西大陸にのみいて、西大陸の南に獣人領があるそうだ。

だがこの獣人領は人間たちからは国として認められてない。

獣人たちが勝手に国だと言い張っているとして、西大陸では人間と獣人の戦争が起こっているそうだ。

そしてここに獣人がいるのは、彼らは拐われて奴隷として売られて東大陸に来たということだ。

檻に入っている獣人は人間の見た目に近く、人間に獣の耳と尻尾をつけただけのようにしか俺にはみえないのだが、道行く人は「気持ち悪い」と嘲笑ったり侮蔑の目を向けていた。



・・・まあ、俺が立ち止まったのは獣人が可哀想ということでも逆に可愛らしいという訳ではない。

檻の中の彼らの目を見たらゾクゾクしたのだ。


憎しみ、悲しみ、苦しみ、惨め、後悔、諦め・・・。

そう、俺の大好きな絶望の表情を皆していたから立ち止まったのだ。

いい表情をしてるねえ・・・ふふふ。

もっと間近で見て、どういった心境か聞きたいなあ。

だが今は残念ながら教会に行かなければならない。


彼らを哀れに思わない訳ではないが、俺の「可哀想」でどうにかなるものではないだろう。

そもそもラノベで読んでいて思っていたことだが、深い事情も知らずに異世界から来た部外者が「人種はみな平等」という考えをこの世界に押し付けているのように思えてどうなんだろうと思っていた。

それでもどうにかするのであれば、まず人間全員の獣人に対する意識改革をしないといけないが・・・正直俺には今のところそこまでするつもりはない。

だって俺は獣人でもないし獣人と関わるつもりもないから獣人がどうなろうが関係ないもんな。


でもまあ、この獣人たちの絶望の目は面白いから・・・また見に来ようっと。


「フミャー」

俺が絶望を見れてニコニコ機嫌よく散策を再開したら、それを肩の上で見ていたクロ助が呆れたように鳴いた。




機嫌よくしばらく歩くと、前方に教会が見えてきた。

他の建物よりこじんまりしているが花壇にはたくさんの植物が植えられていて掃除が行き届いているようでどこもキレイで、真っ白い壁に青い屋根で屋根の上には「魔法真教」のシンボルマークと思われる六芒星が掲げられている。

ここがリズさんのオススメの教会のようだ。


両開きの扉を開けて中を覗いて見ると俺のいた世界と同様に細長い椅子が並んでいて、奥には祭壇とステンドグラスが見えている。

「すいませーん。」

「はーい。」

俺が声をかけてみたら、すぐにシスターと思われる女性がすぐ横の部屋から出てきた。

40代くらいの整った顔立ちで黒のシスター服を着ていて、俺に気付くと柔らかい笑顔で近づいてきた。

「すいませんお待たせしました。ようこそ教会へ。初めて来られた方かしら?」

「はい。数日前にこの街に来た冒険者です。寄付をしたくてリズさんにこちらの教会を聞いて来ました。」

「リズさんからね。彼女は敬虔な信者でよくここに来て寄付してくれたり、ボランティアにも参加してくださる素晴らしい方なんですよ。」

ふうん、ボランティアとかもやっているのか。


「自己紹介が遅れました。私はこの教会の神父の娘でシスターをしてます、クリナといいます。」

「俺はトリズテン王国から来ましたランクC冒険者のユウジンといいます。こっちはクロ助といいまして俺のペットです。」

「ミャー!」

俺も自己紹介と肩の上のクロ助を指差して紹介すると、クロ助はよろしくねという感じで鳴いた。

「すごい!クロスケちゃんって「神の使い」じゃない!それにとっても可愛らしいわね。」

「魔法真教」の信者であっても金と紫のオッドアイの「神の使い」という縁起ものの言い伝えは信じられているようだ。


「寄付はこちらにどうぞ。」

クリナさんは教会の奥に案内してくれて、祭壇の前に立った。

クリナさんは祭壇の近くの棚から木製のトレイを持ってきて、祭壇に置いた。

「寄付金をこのトレイに置いてくださいね。神に捧げたのちにボランティア活動などに活用させていただきます。」

など(・・)、とはどんなことに使っているんだろうね?

・・・なーんてな。


俺はウエストポーチから出すフリをして、10万インを出してトレイに置いた。

「最近ハイオーク討伐の依頼を毎日受けてまして、余裕ができましたので10万インを寄付します。」

「まあ!?10万!?」

どうやら多めの額だったようで、クリナさんは驚いてそんな声をあげていた。

「よろしいんですか!?お若いからもっと安くても大丈夫なのよ?」

「いえ、持ってても使い道ないですし。」

というか今の俺にとってはあってもなくてもいい額なんだよな。

「そうなの?・・・本当にありがとうございます。きっと神様も喜んでおられますわ。」

「・・・そうだといいですね。」

あの神様は10万あげたくらいで喜ばないと思うけどな。

今度あったら試しにあげてみるか?



その時、シスターが出てきた部屋から男性が出てきた。

「おや、こんにちは。」

男性は黒の神父の服を着ていてこっちを見てニコリ笑った。

60代くらいの茶色の白髪混じりのオールバックに赤目で背の高い痩型の体型だ。

笑顔の感じがどことなくクリナさんの笑顔に似ているな。

笑顔が似てて・・・神父の服・・・。

もしかして?


「あ、お父さん。寄付をしに来て下さったんですって。」

やっぱりクリナさんの父か。

「それはありがとうございます。わたしはこの教会の神父をしておりますヴェリゴといいます。」

ヴェリゴはそう言って俺も自己紹介した。



その時、なんとなくこのヴェリゴという神父になにかを感じた。

ヴェリゴはクリナさんと同じ柔らかい笑顔なんだが、張り付けた笑顔(・・・・・・・)だということを感じ取ったのだ。

張り付けた笑顔なんて、俺の得意技だから他人の張り付けた笑顔がわからないはずがない。

この神父はなにかあると思った。


そして無詠唱で鑑定魔法をかけた俺は張り付けた笑顔の中で歓喜した。


ふはは!ビンゴだ!



名前:ヴェリゴ

種族:人間(魔法使い、魔法真教神父、悪魔教幹部"サード")

年齢:63

レベル:84

HP:2390

MP:3920

攻撃力:261

防御力:345

智力:678

速力:247

精神力:209

運:108


戦闘スキル:上級短剣術

魔法スキル:上級水魔法・初級氷魔法・上級光魔法・上級闇魔法・中級月魔法・初級精神魔法



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